息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
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と、なんだかだらだら日常のことなども

『晩夏に捧ぐ』~成風堂書店事件メモ(出張編)

2011-04-06 20:11:27 | 著者名 あ行
大崎梢 著

おっとり不器用、なのに頭は切れる。そんな書店アルバイトの女の子が登場する本格ミステリ。
『配達あかずきん』でおなじみのシリーズ。
今回はなんと出張編。

かつて書店「成風堂」で働き、いまは地元の通称「まるう堂」で働いている美保から、
主人公の杏子と、名探偵女子大生バイト多絵に誘いがくる。

それは、まるう堂に出る幽霊の謎を解き明かしてもらいたいとの依頼。
27年前に弟子によって殺された地元在住の作家に関係があるのか?

そんなこんなの謎解きも面白いのだが、やはり書店の描写は秀逸。
私は何度もいうように書店は大好きで、何時間でも飽きない。
でも、ここに登場する人たちは別格。もう本の置き方並べ方から、書棚の配置まで
こだわり、見とれ、そのうえでお気に入りの書店があるのだから。

でも、本当にわかるのだ。町の小さな書店って、普通の本はなかなか売れず、
実績がないものだから、売れ筋の本の入荷は少ない。
マンガや雑誌を並べて何とか生き延びようとしても、万引きに苦しみ、
本当に本を買いたい人の足は遠のいてしまう。
利益が上がらず、返本の手間ばかりが増え、店主の体力の限界がきたとき、
「長い間……」というあいさつ文とともに閉店に追い込まれる。
私が生まれ育った町の本屋さんはそんな感じだったし、今はもっとそうらしい。

いま、大学がある町で暮らし、普通の本屋さんもそこそこ大きくて、新刊もすぐ手に入り、
文庫の棚も充実し、芸術のコーナーだってしっかり独立している、という幸せな
環境にある。
この喜びをかみしめながら本書を読むと、幽霊だ、謎だという前に、「まるう堂」が
「まるう堂」であってほしい、と考える地元のお客様の想いがにじみ出てくるのだ。

多絵の活躍で無事謎は解決し、まるう堂も存続するわけだが、こんなにのんびりした田舎で
かつこれだけの本屋がやっていける文化度の高さは、もはや夢物語かも、と思ってしまった。
そういう意味でもこの本は重要。
書店ならではの面白み、役割をアピールしつつ、シリーズの存続を熱望する!