息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

ねむりねずみ

2013-02-25 10:01:28 | 著者名 か行
近藤史恵 著

梨園を舞台に展開する三幕構成の推理。
時が止まったような独特の世界の中で、芸に賭ける執念が燃えあがり、暴走する。

父の壮大な計画のもと芸事を身に付け、梨園に嫁いだ一子。
その美しい夫・優=銀弥は深見屋を継ぐべき期待を背負った役者だった。
あるとき、彼は言葉を失い始める。
ごくごく普通の言葉が頭の中から消え、口から出てこなくなった。

大阪の劇場で歌舞伎役者の婚約者である料亭の女将・川島栄が殺された。
謎に謎が重なる中、大部屋俳優・小菊とその友人である探偵・今泉が調査を始めた。

わかりづらい歌舞伎の世界の裏側が垣間見えるところは興味深い。
そして若いファンはこうやって楽しんでいるんだなあということを知ることができたのも
収穫だった。

伝統芸能だけに、良い家柄に生まれたひとが主役となることは決まっている。
歌舞伎が好きで好きで、成長してから自らの意思で研修生となり学んだ人は
脇役やその他大勢として舞台に立てれば御の字。
仕方がないこととはいえ切ない現実だ。
それでも年に一度の勉強会でよい役を経験することだけを支えに精進する。

そんな人たちが支えているだけに、名家に生まれたものとて楽ではない。
常に才能と努力を評価され続ける日々だ。

普通の幸せを求める人が、この世界では異形なのかもしれない。
そこまで思いつめてしまうほどの厳しい世界だったということか。

愛情を試してみる、自分への思いを問いかけてみる。
ささやかな誰にもあることが、大きな事件を産んでしまう、なんとも切ない物語だ。