息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

食堂かたつむり

2011-01-20 12:48:32 | 著者名 あ行
小川糸 著

アルバイトから帰ったら、家財もろとも恋人が消えてしまった……
ショックのあまり声を失った主人公は小銭を握りしめて、15歳のとき離れた故郷へ向かう。

そこで始めたのは一日一組限定の小さな「食堂かたつむり」。
あの店の料理を食べると恋が実る、願いがかなうと、少しずつ評判になっていく。

なによりも料理の描写がいい。
こころを込めて一から作る、というものばかり。
そして、その日のたった一組のお客様に合わせたものばかり。
料理の楽しさや、食べたものがからだを作るという基本的なことをしっかり思い出させる。
鳩の始末や豚の解体など、話だけならショッキングという場面もあるが、
命をもらうなら粗末にはしない、という心意気がとても納得できた。

主人公は母との葛藤や生き方の違い、閉塞的な地域に疲れて家を出ていたのだが、
母の死とその前後に行われた宴の料理を通じて、自分の生きる道を見出す。

読みやすくかろやかな文章。ただ、せっかくの登場人物を生かしきれてない。
熊さんなんて、とてもいいキャラクターなのに、ただの外国人嫁にだまされた哀れな男だし。
食材探しも、こんなお店なら重要なことだから、もっとエピソードがあればと思った。
読書慣れしてない人には、入門編としてはいいのかも。

番外編の「チョコムーン」はわりと好き。
一つずつの料理にこんな物語があったのだなあ、と思えた。