息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

汚れた檻

2014-09-18 10:53:58 | 著者名 た行
高田侑 著

怖い。なんていうか、「黒い家」に近い感じ。むしろグロさとか後味の悪さとかは上を行くかも。

現状に満足できない、この先どうなっていくのか不安でたまらない。
今の世の中、誰しも抱くであろう想いをきっかけに、人をだましだまされて
罠に落ちていく主人公。
もともとは優秀とは程遠いけれど、気のいいごく普通の男性であり、
恋人や結婚相手はいないまでも、家族には恵まれている。
何十年か前なら、こんな感じでもどこかに職を得て、それなりに安定した暮らしが
できたであろうし、結婚相手を世話してくれる人もあって、豊かではなくても
ごく普通の家庭がもてたのではないか。
現に主人公の父親も、きちんとレールの上をまっすぐ走れるタイプではないが、
長年家庭を維持してきている。

しかし、いま、一度はまってしまった状況は逃れることを許さないのだ。
ちょっとした儲け話のつもり、割のいい話にのったつもりが、
いつの間にか犯罪に巻き込まれてしまう。
その先にあったのは地獄。

寝る前に読んだら悪夢確実。
救いのなさが怖さに拍車をかける。

ギフト

2014-07-11 10:49:29 | 著者名 た行
日明恩(たちもり めぐみ)著

重い過去を抱え、レンタル店の夜勤をする須賀原は、
何に対しても心を動かすまいと決意していた。
しかし、ある日、ホラー映画の棚の前で涙を流す少年に出会う。

毎日店に来ては涙を流す少年・明生は死者が見えるのだといった。

死んだ時のままの姿で、なんとか話を聞いてもらおうとする死者。
明生が“見える”ことに気づくと、彼らはどこまでもつきまとうという。
その能力は両親を含む周囲の人を困惑させ、苦しめた。
明生は息を潜めてどうにか生きてきたのだ。

お互いを見つけたとき、須賀原と明生は協力し合い、
死者たちに手を貸そうとする。
死の記憶は途切れていたり、曖昧だったり、伝える術がなかったりする。
自分だけの思い込みに閉じこもっていることもある。
どうして欲しいのか、それを理解するのも難しい。
何人もの死者に出会い、その旅立ちを見送っていくうちに、
ふたりは自分自身が抱える問題にも向き合うことになる。

須賀原は刑事だった。仕事熱心で真面目に働いていたことが
あるとき仇となり、中学生を死なせてしまった。
彼は警察官の息子であり、「息子の死を忘れるな」という
父親の言葉が須賀原を縛り付けた。

明生の手を借り、中学生・正義とコミュニケーションをとる須賀原。
彼は迷い、父への思いから自分の死の場面を延々と繰り返していた。
正義と両親の心が通いあったとき、須賀原の心も開放される。
そしてそれと時を同じくして、明生も自分の道を進む決意をしていた。

だれも悪人などいないのに、苦しむ姿が切ない。
こんなふうに誰かが解きほぐしてくれればどんなにいいかと思う。
しかし、その役割はあまりに重く、明生はずっとあえいでいたのだ。

人の心の描写は素晴らしいと思う。とくに自分自身を認められない圭子の
心理は、人間の心の虚しさというかバカバカしさをうまく表現している。

それでも「好きなものだけ」食べさせますか?

2014-07-01 10:52:31 | 著者名 た行
田中葉子 ほか 著

「食育」が言われて久しいが、平均的に見ると食事に関する問題は
年々大きくなっているのではないかと思う。

どんなに努力しても体はひとつしかないから、働く親は家にいる親より
食に注ぎ込む時間が少なくなるし、昔のようにゴミを庭や畑に埋めたり、
燃やしたりできず、住居のスペースも限られている以上、まるごとの魚や
野菜が避けられるのは仕方がない。
そして、何よりもすぐに食べられるものはとても簡単に手に入るのだ。
口当たりがよく、わかりやすい美味しさで、価格も手頃。
この誘惑に屈せず、食を守るのは教育と意識の高さしかないのだ。

ここで登場する食事のようすは、寒々しいものや驚くものも多いのだが、
それが必ずしも親の怠慢や祖父母の甘やかしというわけではない。
食べないと分かっていてもきちんと子供の食事を用意している家庭も多いし、
そこに並ぶ献立は全部食べるならば、理想的なものもある。
みんながそれを食べていた時代と違うのは、そこに子供が好きなものを
食べる、という選択肢があるということだ。

肥満や栄養失調などの問題は避けては通れない。
そこで、子供自身に知識をもたせること、食べ物が育ち口に入るまでの
過程を経験させることが提案されている。
肥満の子には運動の必要性も自覚させている。

どんどん栄養を必要としている成長期に、偏った食事をしてしまうことは
将来的に長く苦しい問題を抱えてしまうことに繋がる。
また、味覚や生活に刷り込まれた習慣は、普通の人ならなんでもないことを
大きな負担にさせてしまう。
そんな重荷を幼い子に背負わせるのはあまりに過酷だ。

生きることとは切り離せない食について改めて考えさせられた。

素食美人

2014-06-26 10:55:20 | 著者名 た行
張暁梅 著

素食って何? と手に取ったのだが、なかなか面白い。
要するに「穀菜食・ベジタリアン食」アジア版なのだ。
ベジタリアンは世界中にたくさんいる。
それは宗教や思想がもとになっていたり、健康上の理由であったり、
さまざまであるし、芸能界、経済界の有名人がベジタリアンである、
という話は日常的に聞く。
どこまで厳格に行うのか、メインを何にするのか、というのは
それぞれ違うし、こだわりもさまざまだ。

やはり食生活は同じ、もしくは似た文化に育っているほうがわかりやすい。
著者は中国人で、登場する食材にも親しみがあるものが多いので、
とてもすんなり読める。

著者は美容家なので、美しさ、とくに女性の美についてかなり
多くを割いている。
洗い方、調理の仕方、レシピばかりでなく、家族とともに
素食を楽しむための工夫や、長続きの秘訣などもある。

正直、あまりにもこだわりすぎて宗教的になっているベジタリアンには
ちょっと引いてしまうときがある。
肉や乳製品の害を必死で説かれたりすると困ってしまう。
なので、このおだやかさはいい。

野菜は体にいい。それならば素材を生かした控えめの調味料で美味しく
調理してたくさん食べよう。
そのためには、野菜のことも知っておきたい。
それが自分の体の声に耳を傾ける機会になればもっといい。
そんな気持ちで手に取れる一冊。

居場所のない子どもたち―アダルト・チルドレンの魂にふれる

2014-04-23 10:57:00 | 著者名 た行
鳥山敏子 著

著者は宮澤賢治の教えに賛同し、NPO「東京賢治の学校」の代表を務めている。
それだけに教育に対する姿勢は真摯で、よき教師であろうというひたむきな
想いが伝わってくる。

著者は30年にも及ぶ公立小学校教諭生活の中で、子どもたちが抱える
数々の問題と、その裏に潜む親自身の問題を見てきた。
子ども時代をどう過ごしたか、どう育てられたかは、人が人として育ち、
親となっていくにあたり、とても大きな影響を及ぼす。

それは一見問題児という形で子ども自身に現れることもあれば、
虐待や子どもを愛せないという形で親に現れることもある。

子どもは生まれる家も親も選べない。
育てられる環境をただ受け入れ、生き延びるしかない。
疑問をもつというわずかな隙さえ与えられない。

長子だから、女だから。
母と祖母の仲を取り持たなければならないから。
両親のつなぎ役が自分しかいないから。
子どもに無理を強いる原因はあまりにも理不尽なものばかりだ。
しかし、受け止めること以外の選択肢をもたない子どもは
自分には重すぎる荷物を黙って持ち、つぶれるしかない。

著者は問題を抱えたまま成長し、さらなる大きな問題を抱え込む
アダルト・チルドレンたちの心を開放するワークを開催している。
そこで語られる切々とした想いは読むだけで胸が痛くなるほどだ。

社会が変わったから、核家族だから、共働きが増えたから。
原因をひとまとめにするのは簡単だが、子どもの想いはそれだけでは
解決しない。
私自身似たような経験があり、それだけに穏やかな思いでは読めない。
適切な時期に適切な助けの手が伸びますように。
こんなワークのような心を開放する手段が一般的になりますように。
そう願うのみだ。