風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

香港の早められた死

2020-07-03 23:42:48 | 時事放談
 前回ブログで、日本が呑み込まれないように・・・と書いたのは香港を意識してのことだった。香港が英国から中国に返還される前、中国共産党は香港市民に対して、「井戸の水は河の水を犯さず、河の水は井戸の水を犯さず」となだめたという。返還から50年間、水が交わることはないから安心しろ、ということらしい(以上、産経電子版)が、50年の半分ももたなかった。ある年配の香港人は、1997年7月1日に香港は「死」を迎える予定だったが、一国二制度によって、50年の「延命」を与えられた、だが2020年7月1日、ついに「死」を迎えた、これまでは法律による支配の時代だったが、これからは恐怖による支配の時代になるだろう、と語ったという(近藤大介氏による)、その怒りともつかない諦めの表情が目に浮かぶ。
 香港の国家安全維持法は予想以上に苛烈なものだ。全6章66条からなり、国家分裂、政権転覆、テロ活動、海外勢力と結託して国家安全に危害を加える罪の4類型を示し、最高で無期懲役を科すと定めた。日経は、報道機関やインターネットへの監督が強化されるため、外資系企業の間では「通信の秘密」が脅かされ、ネット規制にもつながるとの懸念が強まっていると書き、香港住民でない者が香港以外で、本法が規定する犯罪を行った場合も本法を適用するとあるので、日本人が国内で「香港独立」などの横断幕を掲げた場合も、同法が適用されるリスクを排除できないと書く。産経によれば、ある立法会議員は「中国の政策を批判した外国人ビジネスマンが香港に入った後、検挙される事態もあり得る」と指摘したらしい。法律の域外適用は現代の帝国・アメリカの専売特許かと苦々しく思ってきたが、脅しとは言え中国も対抗し始めたか・・・さらに産経は、中国共産党は既に昨年10月、香港への「愛国教育の推進」方針を決定しているし、香港を自らの「本土」と主張する香港本土派らは、ミッションスクールで学んだキリスト教信者が多く、キリスト教への締め付けが始まる恐れもある、と書く。
 それでも、香港メディアによると、翌7月1日の返還23周年の記念式典に1万人以上が参加し、違法集会などの容疑で約370人が逮捕されたほか、早速、同法が適用されて、少なくとも10人が逮捕されたという。「香港独立」の旗を掲げたり所持したりしているだけで逮捕のキッカケになり得る。2014年の雨傘運動の主要メンバーらが中心になって2016年に結成された政治団体「香港衆志」(デモシスト)も、もはやこれまで、日本でも馴染みの黄之鋒氏や周庭さんらが脱退し、運営継続は困難として解散することが発表された。羅冠聡氏は香港を離れたとツイートした。
 中国共産党にとって、昨年の逃亡犯条例改正案に対する反対運動は、よほどこたえたのだろう。本土への波及を恐れたと解説する人がいるが、本土の大部分の人はそもそも自由社会を知らないので、報道を統制すればよい。問題はむしろ台湾に波及したことで、総統選での蔡英文女史の再選に追い風となったのは、習近平国家主席にとって痛手だったに違いない。9月に予定される香港の立法会選挙では同じ轍を踏まない決意だったと思わせる。しかし、元々、台湾統合のために用意された一国二制度が破棄されたからには、強権発動以外に台湾を統合することなど出来ないだろう。なんとも物騒なことだ。
 何を焦っているのだろうとも思わせるが、そこは統治に根本的な脆弱さを抱える中国共産党のことだ。国際社会、とりわけ西側諸国を敵に回して、ここまでやるか!?という感じだが、西側諸国の対中批判も一枚岩ではないと見切っているだろうし、何よりも中国は、自信を持ち始めていると思われる。新型コロナウイルスのパンデミックからいち早く抜け出し、世界の医療用品や医薬品の多くを中国が生産するという、グローバル・サプライチェーンにおける中国の存在感をいやと言うほど見せつけ、香港に一国二制度の政治的自由がなくても、巨大モンスターの如く成長した中国の国家資本主義経済の磁場に誰もが引き寄せられるだろうと確信しているに違いない。癪な話だが、巨大モンスターに育ててしまったのは、西側諸国の責任である。
 「学民の女神」周庭さんは、「生きてさえいれば、希望があります」と日本語でもツイートした。香港民族党は、30日に解散を表明したが、今後は台湾とイギリスに置かれた海外支部が活動を引き継ぐと説明した。学生動源も同様に台湾、アメリカ、オーストラリアに支部を立ち上げ、今後も活動を続ける意向を示した。在香港・英国総領事館の元職員サイモン・ チェン(鄭文傑)氏は亡命議会の創設を検討しているとロイターに明らかにした。香港の長く苦しい戦いは続く。巨大モンスターが周辺地域を呑み込むただのステップに過ぎないのか、それとも蟻の一穴となり得るのか。自由と民主主義を奉じる日本は、中国に忖度することなく是々非々で声をあげ続けたい。
コメント
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