風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

国際機関の行く末

2020-07-11 10:46:17 | 時事放談
 日本の大手メディアは報じていないが、ネット・メディアのAxiosによると、第44回 国連人権理事会で、香港の国家安全維持法への支持を表明した国が53ヶ国に達し、中国・外務省と国営メディアは勝利宣言したらしい。その大部分は、フリーダム・ハウスが「部分的に自由」か「自由がない」と分類する国々だったというが、まあそうなのだろう。地図で見ると、一帯一路で縁結びしている国々に重なり、新・植民地主義とも揶揄される中国式外交の成果といえる。他方、反対を表明したのは西欧を中心に日・豪・加など27ヶ国にとどまり、全てフリーダム・ハウスが「自由」と見做す国々だったという。ポイントは、日本がこちらにしっかり名を連ねていることだ(大手メディアは何故、伝えてくれないのだろう)。これだけ差が開いて中国に有利に働いているのは、アメリカがこの理事会から2018年に脱退して存在感がないからだと、同理事会の元アメリカ代表は解説する。そういう重心がない心許なさはありそうだ。インドは非同盟の国らしく、反対に与せず、よりマイルドに懸念を表明するにとどめた。韓国は、(韓国の記事によれば自国記者からの質問に対して)一国二制度のもとで高度な自治が重要だという点を明らかにしている、などと答えにならない言い訳をして、賛成にも(中国に忖度して)反対にも回らなかった(だから日・米からも北朝鮮からも信用されない)。件の記事に戻れば、ヒューマン・ライツ・ウォッチの中国担当ダイレクターは、中国は人権問題への批判を封じ込めるだけでなく、こうした国際機関の規範や手続きを変えて説明責任を問われないようにしようと画策していると厳しい目を向ける。
 国際機関の有効性については、かねて議論があるところだ。日本人はどうしても幻想を抱きがちだが、権力政治を超越した美しい世界ではなく、むしろヘドリー・ブル先生が半世紀近く前の書籍タイトルで言われたように国際場裏はアナーキーなのだ(溜息)。それが言い過ぎなら、国際機関だって国益が衝突し権力政治が跋扈する生々しい世界で、その点では国内政治と変わらないか、それ以上かもしれない。合従連衡の駆け引きの裏には利権が絡むし腐敗もある。だいたい中国やロシアが入って来ると、纏まるものも纏まらなくなる・・・なんて見て来たようなことを言うようだが(笑)、知り合いの高級官僚がぼやいていた。そんな中でアメリカは最近、予告通りにWHO(世界保健機関)脱退を通告したし、既にユネスコからは脱退しているし、WTO(世界貿易機関)上級委員会では欠員補充に反対して機能不全に陥らせている(中国がいまだに途上国のステータスで優遇されているのは理不尽で、不信感をもつのは分からなくはないが)。そしてアメリカが抜けた空白を埋めるかのように、また国際機関における一国一票の原則を利用してアフリカや中南米の国々を抱き込んで、中国が存在感を増しつつある。
 3月のWIPO(世界知的所有権機関)事務局長選挙では、中国人候補が有力と言われていたが、アメリカが強烈な外交攻勢を仕掛けて阻止したことが記憶に新しい。サイバー攻撃やヒューミントによって知的財産を窃取し放題の中国がこの機関の代表を務めるとすれば、冗談にもならない(笑)。それでも現在、15ある国連の専門機関のうち、4機関で中国人がトップを務めている。その一つであるICAO(国際民間航空機関)トップにつくと、WHO同様、総会などに台湾の参加を認めなくなった。ITU(国際電気通信連合)では中国の一帯一路との連携を主張している。途上国の産業開発を支援するUNIDO(国連工業開発機関)トップも中国人で、さぞ公私混同が甚だしいことだろうと想像する(笑)。2019年6月に行われたFAO(国連食糧農業機関)の事務局長選で圧勝した中国は、立候補を降りたカメルーンに対して債務帳消しのアメを与え、中南米数ヶ国に対して中国を支持しなければ輸出を停止すると脅迫したらしい。
 リーマンショックあたりが一つの転機だったのだろう。中国が4兆元の財政投資をして世界を救ったと自負するようになり、同じ頃に世界第二の経済大国に躍り出た(これは名実ともに日本を抑えてアジアのトップになったことを意味する)。そして習近平氏が国家主席として登場し、内外で権威主義を露骨に推進するようになった。こうした過去10年の混乱の経緯を見ていると、歴史は必ずしも一本調子で進歩するものではないことに溜息をつきたくなる。中国が多くの発展途上国を引き連れ、歴史の歯車を逆回転させているかのようで、この傾向は暫くは止まないだろう。国際機関の行く末が大いに案じられるところだが、日本はどうすべきだろうか。兼原信克さんはある会合で、中国はいずれアメリカに追いつくかも知れないが、日・米に追いつくのは難しいし、日・米・欧に追いつくことはあり得ない、と言われていた。日本は地理的に極東に位置するが、世界地図の見ようによっては、ヨーロッパの並びのアメリカのそのまた先に、太平洋を挟んで極西にあるとも言える。ヨーロッパは、経済的には相対的に地盤沈下が進むが(その点では日本も同じだが)、長らく歴史を牽引して来た良識あるルール・メーカーとして隠然たる存在感をもち、今も、アメリカの強硬な制裁外交とは一線を画す。月並みな結論だが、日本は価値観を同じくするヨーロッパと協力し、日米同盟の相方でありながら孤立主義に傾きがちなアメリカを巻き込んで、西側としてのコンセンサスを得つつ、中国を包摂し、リベラルな世界秩序を守って行く重要な使命を帯びているのだと思いたい。
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