風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

台湾総統選

2020-01-12 21:48:17 | 時事放談
 11日の総統選では、下馬評通り現職の民進党・蔡英文総統が再選を果たした。台湾では出口調査が禁じられているため詳細は不明だが、74.9%という高い投票率のもと、過去最多の817万票を獲得したらしい。苦戦が予想され所謂「ねじれ国会」が懸念された立法委員選でも、民進党は過半数を維持して、ほぼ完勝と言ってもよいだろう。香港問題が後押ししたのは間違いないが、もう一つ、米中摩擦の文脈でコメントしたい。
 米中摩擦について、トランプ大統領ご本人は貿易赤字の改善にしか興味がないかも知れないが(笑)、技術覇権(ひいては軍事覇権)を巡る争いが本質であることはもはや明らかである。たとえば、アメリカの国防権限法2019(一昨年8月に成立)に併せて成立した輸出管理改革法では、Emerging and Foundational Technologiesの管理を強化して行くことが謳われた。Emerging Technologiesは、例えばAIや機械学習、IoT、量子コンピューティング、3Dプリンティングなど、お馴染みの先端技術について、商品化以前の研究開発段階の技術を規制するもので、これまで目の前にあって取引対象となる商品(技術を含む)を規制して来た輸出管理の枠組みを超えるものだ。またFoundational Technologiesは、既にある製品や技術の中で、軍事に関連する製造技術を新たに規制対象にすると噂されており、台湾は、この分野に大いに関連する半導体製造技術の基盤を持つ。
 トランプ氏自身が大統領に当選したとき、蔡英文総統と電話会談して、習近平国家主席の神経を逆なでし、米高官の台湾訪問や定期的な武器売却を求める「アジア再保証イニシアチブ法」を成立させて、中国政府の反発を買うなど、これまでのアメリカの伝統的な外交・安全保障政策をひっくり返して、関係国・関係者を慌てさせているように見えるが、単にオバマ前政権のレガシーに反対するのではなく、極めて戦略的に動いているように見える。
 台湾は、中国が太平洋に進出する出入口となり得る要衝の地にあり、軍事・安全保障面ばかりが強調されるが、中国への依存を深める経済、とりわけ先端技術について、アメリカは懸念しているように思うのだ。既に中国は、高度な半導体人材を抱える台湾からの引き抜きを加速し、「対象は世界大手の台湾積体電路製造(TSMC)の経営幹部から現場技術者まで幅広く、2015年に半導体強化を打ち出してから特に動きが加速し、これまでに累計で3000人超を取り込んだ」(日経新聞電子版12月2日付)という。技術の国産化を進めるべく、華々しく立ち上げた「中国製造2025」の達成が危ぶまれていることから、中国は台湾のほか日米欧先進国に向かって、企業買収や高給での人材リクルートや技術窃取など、なりふり構わず仕掛けているところだ。アメリカが、台湾が切望していたF16V戦闘機66機の売却を正式決定したほか、7月にはM1A2Tエイブラムス戦車108両や、携帯型地対空ミサイル「スティンガー」250発の売却まで決めたのは、半導体製造技術の宝庫・台湾を中国に渡すわけにはいかないという覚悟からだろう。戦闘機をはじめこれら防衛装備品は、メンテナンスされながら今後30年は大事に使われる類いの技術である。アメリカはそこまでコミットしているということだ。
 今回の選挙戦で、中国は莫大な人と金を投入し、蔡英文総統の再選を阻止しようとしたと伝えられるが、効果をあげられなかった。一つには、そんな中国からの資金流入などを阻止するために、米国はさまざまな形で台湾の捜査当局に協力したと伝えられる。
 蔡英文さんが総統になってから、台湾が国交を結ぶ国は22から15にまで減ってしまった。中国にじわりじわりと追い詰められる台湾だが、香港ともども、中国の覇権主義の防波堤となっており、今日も、日米の駐台代表と相次いで会談し、今後とも日米など「価値観の近い国々」との連携を強化していく意向を示したという。大事にして行きたい相手である。
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