風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

米朝会談の心配ごと

2018-06-11 01:53:02 | 時事放談
 今日、米朝両国首脳が無事シンガポール入りしたようだ。千両役者の揃い踏み、といったところだ(イヤミで言っている訳ではない)。
 正直なところ米朝首脳会談については、会議が行われる環境が整うかどうかという心理的な問題(いわゆる駆引き)の心配のほかに、私個人的には物理的に会議が行われるかどうか、つまり金正恩委員長は果たしてシンガポールに辿り着けるのか?という心配もあったが、自らの専用機ではなく中国国際航空の旅客機を使用し(シンガポール紙ストレーツ・タイムズによる)、なんとか第一関門はクリアしたようだ。もしお父ちゃん(金正日氏)だったら、大の飛行機嫌いなので、夜に昼に列車でも乗り継いで時間をかけて行ったのであろうが、幸い委員長は飛行機好きで、普段から国内移動に専用機を使っており、シンガポールまでの7時間という実績のない初めての長距離フライトに対して、自らの専用機の安全性を信用できるのかどうか?という、ある意味で深刻な問題意識からである。
 韓国メディアによると、今朝、平壌からは三機の航空機が離陸したらしい。一機目は輸送機(IL-76)で、委員長の専用車ベンツや移動式トイレを搭載していた模様だ。因みに、委員長専用トイレは有名だが、排出物から健康状態に関する情報が外部に漏れないようにするためとは、余程健康に自信がないのだろう(まあ、あの体格を見れば不思議はないが・・・貧しい北朝鮮でせめて親方だけは余裕があることを見せたいのか、ストレス太りか?)。昔、高校生の頃に習った古文は今となっては殆ど覚えていないが、唯一、姫に恋い焦がれた男が、恋い焦がれる余り、姫の「おまる」を盗んだところ、その「おまる」には「香」が入っていて雅びな香りがしたという(考えようによってはフェティッシュな危なっかしい話だが)れっきとした文学作品の一話だけは何故か記憶に残っている。委員長にも何とか教えてあげたいものだ。冗談はさておき、続いて、二機目と三機目は中国国際航空の旅客機ボーイング747と委員長の専用機「チャムメ1号」だったという。
 中国国際航空機は、要員の輸送やバックアップ用で、委員長は当然のことながら専用機に乗るものと見られていたので、韓国メディアは委員長の所在を特定できないようにする攪乱目的で飛ばされたのか?との見方を伝えたらしいが、間違いなく安全目的であることを隠すためだろう。なにしろ専用機は、旧ソ連が1963年に初飛行させた「イリューシン62型」で、かつては世界最大だったが、既に1995年に生産を終了しており、老朽化は否めない。国連制裁で航空機を輸入できない北朝鮮は今も後生大事に現役として使っているシロモノなのだ。
 続いて外野としての心配は、委員長が宿泊するホテル代をちゃんと支払うのかどうかという下衆な話題だ。当初希望していたとされるフラトンには、なんと私も一度だけ泊まったことがある。10数年前、海外駐在したマレーシア会社の新体制お披露目パーティーを東南アジア数か国で行った際のシンガポール会場だったのだ。マーライオンと目と鼻の先という絶好のロケーションで、委員長の気持ちも分からないではない。結果としてセントレジスになったとはいえ、北朝鮮は外貨不足のため、シンガポール政府に費用負担の肩代わりを求めているといった話が漏れ伝わって、なんともシケた話だ。今年の平昌五輪では、応援団の派遣費用約260万ドルを韓国に負担させたのは記憶に新しいが、2014年に当時のクラッパー国家情報長官が北朝鮮に拘束されている米国人の解放問題の折衝で訪朝した際、北朝鮮側から12品目に上る豪華な食事を振る舞われたものの、後にその代金を請求されたというから、外交慣例を踏み倒す予測不能ぶりはトランプ大統領以上かも知れない。
 因みにこの米朝首脳会談の開催場所を、南北軍事境界線がある板門店にほぼ決めていたトランプ大統領を翻意させ、シンガポールに変えさせたのは安倍首相らしい(産経新聞電子版による)。しかも米政権内から「首相から大統領に言ってほしい」との要請があったというから、先日のG7と言い、安倍首相が勝ち取ったトランプ大統領の信頼感は大したものである。
 もう一つ、心配(と言うより秘かに期待していた言うべきかも知れない)していたのは、この戦後の東アジア政治にエポック・メイキングな米朝会談というイベントに参加して留守にしている間にクーデターが起こらないか?ということだったが、朝鮮人民軍を統括する三首脳が一気に交代したとの見方が出ており、委員長はその芽を摘んだものと思われる。党の立場から軍を監督する軍総政治局長、国防相に当たる人民武力相、作戦を統括する軍総参謀長の三役で、非核化交渉の障害になりかねない軍強硬派の力を削ぐのが狙いだと分析されているのは、その通りだろうが、クーデターを気にしていなかったとも言えないのではないか。
 さて前置きが長くなったが、肝心の朝鮮半島の非核化に向けて、お互いに同床異夢と想像される中で(何しろ委員長が何を考えているのかよく分からない)、どこまで歩み寄れるか注目されるところだが、その代償となる体制保証となると、本当にうまく行くのか、大いに心配するところだ。そもそも体制保証など、諸外国に頼むものではなく、自ら頑張るものだという正論がある。また権威主義体制のその後については、中国という恰好の先行事例がある。社会主義体制から改革開放に舵を切って、経済成長を果たし、人民の生活水準が向上すると、民主化要求など、中国共産党王朝にとって不都合な動きが出かねないための備えとして、江沢民は愛国主義を、それとは裏腹の反日教育を、徹底したのだ。それでも情報は(グレート・ファイアーウォールがあっても)国境を超えようとするご時勢にあっての厳格な情報統制とジョージ・ウォーエル著「1984」を思わせる管理社会の現出だ。金王朝を生き延びさせるのは簡単ではない。日本への技術やカネの要求も出てくるだろうし、どこぞの国と同様、そんな恩は忘れて、反日というスケープゴートにもされかねない。今から心配しても仕方ないのだが、委員長には、自らの名前に恩の字があることを忘れないで欲しいものだ。
 トランプ大統領が北朝鮮との交渉に応じる後押しともなったのは、CIAで北朝鮮の情報収集・分析をする「朝鮮ミッションセンター」が昨秋まとめた金正恩委員長の思考や性格に関するプロファイリング(人物像推定分析)らしい(朝日新聞電子版による)。「欧米の文化に強い憧れと尊敬の念を抱いている」、「北朝鮮の歴代指導者より交渉しやすい相手」であり、結果として「米国が取りこめる可能性がある」という。果たして、千両役者が揃って、近年稀に見るビッグ・イベントはどういう次第になることやら。
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