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『方丈記』は何を伝えようとしたのか

2009年10月24日 21時50分10秒 | Weblog
 「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しく留まりたるためしなし」。鴨長明の『方丈記』の冒頭である。今日の大和塾は高校の国語教師による講演である。高校生に戻った気分で拝聴したが、こんな風に授業を聞いていたのなら、もう少しよい成績が取れたのではないかと思っても後の祭りでしかない。

 講師は高校生の時に教科書の『方丈記』を学習し、「人生の無常を説く文章として有名だ、本当にそのように長明は、人生を達観して書いたのか」と、疑問に思ったそうだ。それで、大学で長明を研究したと言う。私は知らなかったけれど、『方丈記』の後の方の文章では「方丈の庵を作り、琵琶や琴を持ち込んで、いかにも人生は楽しいと言わんばかりに描いています」と今日教えてもらった。そして最後のところに「汝、姿は聖人にて、心は濁りにしめり」とあると言う。

 講師は長明の履歴から「“いじめられっ子”なるが故の切ない叫び」が底にあり、「“無常”とは“すべてのものがいずれは消滅する”ことだというとらえ方につながる」と話す。それは「かつ消え、かつ結び」というように「滅びるものが先に挙げられている」からと言う。そして、「長明は“末法”の世界を説くために、天変地異を掲げ、“無常”を説きつつ、一方でまた俗人として、生きたひとでした」とまとめられた。

 「無常を説きつつ、一方で俗人として生きた」のはなぜなのだろう。講師は長明が出世という点で報われなかったこと、そして度重なる天変地異から無常に行き着いたと説明する。丁度世は末法思想が蔓延していた。しかし、「一方で」となると平行していて直線ではない。私は、無常であるが故に長明は積極的に琵琶や琴を奏で、今を楽しんだのだと思う。だから「汝、姿は聖人にて、心は濁りにしめり」と自嘲できたのではないだろうか。

 講演の最初の部分で、無常とは「万物は流転する」と説明されたけれど、これにはオヤッと思った。「万物は流転する」と言ったのは古代ギリシャの哲学者(多分、当時はそんな言葉はないのではないかと思う)ヘラクレイトスだった。「万物は流転する」はいかにも無常を言い表しているようだが、ヘラクレイトスは変化こそが宇宙の根本と考えた。物事は変化していくということと、すべてのものは消滅していくとは大違いである。

 「万物は流転する」から「Aは、Aであると同時にAでない」とするヘーゲルの弁証法へとつながっていく。ヘラクレイトスの言葉にはこんなものもある。「生と死、覚醒と睡眠、若年と老年、いずれも同一のものとしてわれわれのうちにある」。長明の「朝に死に、夕べに生まるる」とか「露落ちて花残れり」と共通するような“対”をなしている。対立する言葉を並べて、惹きつける手法だ。それは同時に言葉のリズムとしても心地よい響きがある。

 変化であろうと無常であろうと、現実の世界はきわめて多種多様だ。一見すると似ているようで似ていない、似ていないようで似ている世界だ。愛するも恋するも同じようなものなのに、言葉の響きは違う。何が本物なのかは感動があるか否かだと今日の講演を聞いていてそう思った。

 さて、明日は三重県で「無党派市民派・自治体議員と市民のネットワーク」の合宿をするので、お休みします。
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1 コメント

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凄い分析力ですね。 (アリス)
2019-03-21 12:04:12
私は無学で全く文学には知識がありません。
なので、いたって簡単にしか考えません。

こういった事は、信長と同様に、敦盛の一説と同じだと解釈します。人間、僅か~~です。

世の中には、良い人、悪い人、普通の人、色々と生臭く生きている。しかし、人間の寿命と死亡率は100%です。

ちっぽけな一人の人間として、いつかは黄泉に旅立つ。永遠という物語は時間と共に過ごしてい行くが、いつも置き去りになるのがこの人間の宿命です。

時は永遠に静かに流れるが、この世の生物は必ず死に直面する。これが非常に悲しいことであるが自然の摂理だと諦める必要があると説いている気がします。

時は無常であって、それを乗り越えようとする愚かな人間の一生は単なる夢幻の世界ではないかと愚考します。

失礼しました。
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