友だちが3冊の本を貸してくれた(写真)。出版された年月を見ると、『荻窪風土記』『黒い雨』『青梅』の順だった。制作者名が「瀬戸内逍遥」とあるから、瀬戸内寂聴さんのファンか坪内逍遥さんに憧れる人なのだろう。
本は3冊とも写真集で、モノクロの、どちらか言えば黒が目立っていた。どうやらスマホの時代に逆らって、フィルムで写し現像している。写真集だからか文章が載っていないので、場所の説明も無ければ意図も分からない。
絵画や彫刻の作品に、文章が無いのといっしょだ。見て、感じてくれればいい、表現された作品は受け取る側に託されている。鑑賞者が作者の思いを超えて、何かを感じてくれるなら、作者冥利に尽きるのだ。
しかし、本を見ていたら『黒い雨』に、作品の意図が書かれていた。1945年8月6日、広島に原子爆弾が投下された。被爆当日とその後の生活を井伏鱒二氏は、被爆者の日記を元に『黒い雨』で描いた。
写真集『黒い雨』は2023年8月6日に、井伏鱒二氏の小説を再現するように広島の街を歩き、カメラを向けた。広島の地図が無いと分かりづらいが、制作者は「本を手に入れた人がこの写真集を持って、主人公の足跡を辿るかもしれないと、持ち歩きやすい新書サイズにしました」と書いている。
「知人から引き延ばし機など暗室用具一式を譲り受けたこともあり、荻窪の町を撮り始めました」。それが『荻窪風土記』で、「そうなると次は、『黒い雨』を撮らざるを得ないことになります」と説明している。
写真集を見ていて、以前に友だちから頂いた版画(写真)と写真は、共通するところがあることに気が付いた。モノクロの思い切った構図がいい。生活のことを気にせずに、写真を撮ったり、版画を掘ったり、そう出来るようにと祈りたい。
奇しくも今日の朝日新聞『天声人語』は、被爆直後の惨状を記録した中国新聞社の重松義人さんを取り上げていた。写真は現在を記録できるが、過去も未来も写せない。今を大切に生きていきたい。
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