『九十歳。何がめでたい』は佐藤愛子さんの話題の作品を、そのまま朗読劇仕立てにしたものだった。朗読だけだと眠くなりそうな気がしたが、そこはよく考えられていて、佐藤愛子さん役の三田佳子さんを中心に、脇役に井上順さんや石野真子さんらが登場して、面白さに溢れた演出になっていた。
私はこのエッセイを読んでいないが、どんなことが書かれているかがよく分かったし、90歳を迎えるまでの佐藤さんの波乱の人生を知ることも出来た。生きている限り、人生は「谷あり、山あり」である。「90歳にもなったのだから、ここらでのんびりしたら」と人から言われ、自分もそう思った佐藤さんは、のんびりした途端に生きる気力を無くしたと言う。
それは実感する。好きな女性がいて、「そのために、どのようにしてどこで逢うか、そしてどこへ行こうかと、考えていた時は充実した毎日だったのに、それが終わってしまったら、生きている気がしなくなった」と先輩が話していた。その時は単なる自慢話のように思ったが、明日の予定がないことほど寂しいものはない。忙しいことを充実と勘違いするが、実はその方が人間にはよいのだ。
佐藤愛子さんがどんな作家なのか、作品を読んだことがないので知らないが、舞台から察するとなかなか肝の太い女性のようだ。カミさんは「三田さんは上品過ぎて、役に合わない」と言うが、私はよかったと思った。佐藤愛子さん以上に熱演だったのではないか。「やってしまったことは仕方がない。やった人が責任を取るしかない」と言う時、息子への吐露のようにも思えた。
ああでもない、こうでもない。そんなことはどうでもいい。好きなものを食べ、好きに行動すればいい。結果はついて回るが、それは仕方のないこと。悪ければ次に取り返せばいい。人生は一度しかない。佐藤愛子さんの言葉を聞いていると、なんだか元気になる。締め切り日に宝くじを買ってよかった。当たらなくても、買わなかったことを悔やむよりもいい。そう思った。
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