産婦人科(さんふじんか)の病院(びょういん)。待合室(まちあいしつ)にいるのは女性ばかりで、付き添(そ)いの男性は数人程度(ていど)。これはいつもの光景(こうけい)だ。でも、今日は場違(ばちが)いな男性が…。彼は、誰(だれ)かの付き添いというわけでもないようだ。一人でぽつんと座っていた。看護師(かんごし)に呼(よ)ばれた彼は診察室(しんさつしつ)へ入って行った。
――診察を終えた医師(いし)は彼に言った。「おめでとうございます。四ヶ月ですね」
彼は訊(き)き返した。「えっ、四ヶ月? でも、僕(ぼく)は、お、おとこですよ。妊娠(にんしん)なんて…」
「最近(さいきん)、増(ふ)えてるんですよ。そういう方が…。でも、心配(しんぱい)いりませんよ。大丈夫(だいじょうぶ)です」
「ちょ、ちょっと待って下さい。このお腹(なか)は、ただ太(ふと)ってるだけで…。そんな…」
「でも良かったです。早く来ていただいて。産(う)み月(づき)になるまで気づかない方もいますから」
「そ、そんなバカな…。男が妊娠なんて…。会社(かいしゃ)には何て説明(せつめい)すれば…」
「ああ、それは診断書(しんだんしょ)を書きますので。でも、よく気づかれましたねぇ」
「いや、あの、妻(つま)が、そうじゃないかなって…。このお腹を見て…」
「奥(おく)さんは、出産(しゅっさん)されたことあるんですか?」
「娘(むすめ)がいます。今日は、PTAの集まりがありまして。一緒(いっしょ)に来るはずだったんですが…」
「そうですか。初めてだと何かと不安(ふあん)になりますが、奥さんがいれば安心(あんしん)できますね」
「あの…、これからどうしたらいいんでしょうか? 出産なんて想像(そうぞう)したことも…」
「大丈夫ですよ。一般的(いっぱんてき)に男性の方が安産(あんざん)みたいですから」
<つぶやき>男女同権(どうけん)なんていいますが、もしこんな世界(せかい)になったら…。どうしますか?
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