みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1104「加護」

2021-07-30 17:45:47 | ブログ短編

 男は大仏(だいぶつ)を前にして何か考(かんが)えているようだ。それを見ていた老人(ろうじん)が男に訊(き)いた。
「お前さんは、どうして大仏さまに手を合わせないんだね」
 男は答(こた)えた。「ふん、大仏を拝(おが)んで何とかなるなら、いくらでもしてやるよ。俺(おれ)はいま、この大仏を鋳(い)つぶして、何を作ればいいか考えてるんだよ」
 老人は怒(いか)りを露(あら)わにして、「何て罰当(ばちあ)たりなことを言うんだ! 地獄(じごく)に落(お)ちてしまうぞ」
 男は誰(だれ)に言うでもなく、まるで自分に言いきかせるように呟(つぶや)いた。
「神(かみ)も仏(ほとけ)も、何もしちゃくれないさ。お上(かみ)をあてにするなんてバカのすることだ。自分(じぶん)の食(く)い扶持(ぶち)は自分で何とかするしかないんだ。自分から何もしないで、食えないのは世間(せけん)のせいだと叫(わめ)きちらす。いつからこの国は、そんな軟弱(なんじゃく)なものになっちまったんだ?」
 男は大仏に背(せ)を向(む)けて歩き出した。歩きながら、男はブツブツと念仏(ねんぶつ)のように呟いた。
「仕事(しごと)がなけりゃ、自分で仕事を作ればいい。売(う)ってる物が売れなきゃ、売れる物を探(さが)してこい。周(まわ)りを見てりゃ、いま何が必要(ひつよう)とされてるか分かるはずだ。何かを作る技術(ぎじゅつ)があるなら、そいつは大(たい)したもんだ。無(む)から有(ゆう)を生(う)むんだから…」
 男は何かを探すようにぐるりと見回(みまわ)して、「好機(こうき)はどこにでも転(ころ)がってるはずだ。そいつを見つける目があればいいだけのことだ。助(たす)けを待ってる暇(ひま)があるなら、動(うご)き回(まわ)れ。走(はし)り回れ。形振(なりふ)りかまうな。悪(わる)さをするのはいけないが、それ以外(いがい)なら何だってできるはずだ」
<つぶやき>せっぱ詰(つ)まったとき。それは自分の真価(しんか)が問(と)われるときと覚悟(かくご)を決(き)めましょ。
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