娘(むすめ)が五年ぶりに帰ってくる。といっても、本物(ほんもの)ではなくロボットなのだが。本当(ほんとう)の娘は田舎暮(いなかぐ)らしに嫌気(いやけ)がさし、今は都会(とかい)に出て働(はたら)いている。盆(ぼん)や正月(しょうがつ)にも帰ってくることはなかった。たまに電話(でんわ)をしてきても、あれを送れの一言(ひとこと)で切ってしまう。
私たち夫婦(ふうふ)は、これからの老後(ろうご)について考えた。娘をあてにしても仕方(しかた)がない。そんな時、このロボットのことを知ったのだ。人間そっくりのロボットが私たちにも買えるなんて。千項目(せんこうもく)を越えるアンケートに記入(きにゅう)するのは大変(たいへん)だったが、娘の写真(しゃしん)を添(そ)えて購入(こうにゅう)を申し込んだ。そしてついに、今日届(とど)けられることになったのだ。
梱包(こんぽう)を開けて私たちは驚(おどろ)いた。想像(そうぞう)以上のできばえに、本当に娘が帰ってきたと錯覚(さっかく)したくらいだ。私たちはさっそくロボットのスイッチを入れて、こわごわ話しかけてみる。すると、これまた娘とそっくりの声で返事(へんじ)が返ってきた。私たちは思わず微笑(ほほえ)んだ。娘がまだ子供の頃の、あのあどけない姿(すがた)がよみがえってきた。
説明書(せつめいしょ)には、まだ幼児(ようじ)の知能(ちのう)しかないので、いろんなことを教えて下さいとあった。私たちは、何から教えようかと顔を見合わせた。と同時(どうじ)に、不安(ふあん)が私たちの頭をよぎった。育(そだ)て方を間違(まちが)えると、娘の二の舞(まい)になりかねない。ちゃんと私たちのことを大切(たいせつ)にしてくれるように、愛情(あいじょう)をそそいでいかなくてはいけない。この娘(こ)には、私たちの老後がかかっているのだから。
<つぶやき>久しぶりに帰郷(ききょう)したら、自分とそっくりな娘がいた。これはびっくりですね。
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