みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0707「話さないで」

2019-11-06 18:20:36 | ブログ短編

 夏美(なつみ)は息(いき)を切らしながら自分(じぶん)のアパートに飛(と)び込んだ。血(ち)の気(け)のない顔をして、身体(からだ)ががたがた震(ふる)えている。夏美は慌(あわ)ててドアに鍵(かぎ)をかけると、靴(くつ)を脱(ぬ)ぎ捨(す)てて部屋の中へ転(ころ)がるように入って行った。そしてベッドの前で小さな子供(こども)のようにうずくまった。
 しばらくそのままでいた夏美は、何か思いついたのか握(にぎ)りしめていたスマホで友だちに電話をかけた。呼(よ)び出し音が鳴(な)っている間(あいだ)、彼女は部屋の中を怯(おび)えながら見回した。相手(あいて)が出ると、慌てた口調(くちょう)で彼女はしゃべりだした。
「ど、どうしよう…。あたし、あたし――」
 その先(さき)は、涙(なみだ)があふれてきて声にならなかった。それでも何とか気を取り直(なお)して、
「あたし、見ちゃったの。女の人が、殺(ころ)されるところ。――もしもし、もしもし…。どうしたの? 貴志(たかし)? 貴志! 何とか言ってよ!」
 突然(とつぜん)、相手(あいて)の声が聞こえなくなった。夏美は不安(ふあん)になって、何度も何度も相手の名前を呼んでみた。でも、何の反応(はんのう)もない。――その時、玄関(げんかん)の扉(とびら)を叩(たた)く音がした。夏美は恐(おそ)る恐る玄関に近づいて、聞き耳(みみ)をたてた。すると、扉の外からか細(ぼそ)い女の声が聞こえた。
「誰(だれ)にも話さないでって言ったのに。あなたが約束(やくそく)を破(やぶ)るから、こうなるのよ」
 夏美はその場(ば)にへたり込んだ。身体中に悪寒(おかん)が走った。今度は後ろの方から声がした。
「でも、心配(しんぱい)しなくてもいいわよ。あなたもすぐに向こうへ連(つ)れて行ってあげるから…」
<つぶやき>ギャーッ! 何なのこれ。もう怖(こわ)いよ。トイレに行けなくなっちゃうでしょ。
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