あたしの前に突然(とつぜん)、恋人(こいびと)を名乗(なの)る男性(だんせい)が現(あらわ)れた。その人(ひと)のこと、あたしはまったく知(し)らないのに、どうしてあたしの恋人だって言えるのよ。ほんと、変(へん)な人…。
その人はあたしにこう言ったの。「一年後(ご)の未来(みらい)から来たんだよ」
それが本当(ほんとう)なら、来年(らいねん)になったら、あたしはこの人と付(つ)き合うことになるの?
あたしは、にわかには信(しん)じることができなかった。そもそも、こんなあたしなんかを好(す)きになる人が現れるなんて…。その人はこうも言ったわ。
「君(きみ)にお願(ねが)いがあるんだ。今年中(ことしじゅう)に、よそへ引(ひ)っ越(こ)してくれないか」
えっ? あたしは訊(き)き返(かえ)しそうになるのをグッとこらえた。なんで…、あたしが引っ越さなきゃいけないのよ。お金(かね)だってかかるんだから…。訳(わけ)を言ってよ。
すると、その人は…。「そうしてくれないと…、来年、君と出会(であ)ってしまうから…」
ええっ? それって、あたしと別(わ)れたいってこと? 最初(さいしょ)から、付き合いたくないからそんなことを…。その人は、何かを誤魔化(ごまか)すように、
「あの、詳(くわ)しくは話せないんだ。これは、とってもデリケートな問題(もんだい)でね。そこは、理解(りかい)してもらいたいんだ」
「そんなこと言われても…。あたしにだって仕事(しごと)の都合(つごう)もあるし、ムリです」
その人はがっかりした様子(ようす)で、「そうだよね。やっぱりダメかぁ。じゃあ、これで失礼(しつれい)するよ。他(ほか)の方法(ほうほう)を考(かんが)えるから…」
<つぶやき>いったい何があったのか。そうまでして別れたいなんて、よほどのことかも。
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