20XX年。この時代(じだい)、男性の数が極端(きょくたん)に減(へ)ってしまっていた。男性が産(う)まれにくくなってしまったようで、その原因(げんいん)は今だに解明(かいめい)されていない。
彼女の周(まわ)りでも、結婚相手(けっこんあいて)がなかなか見つからず、四十以上も年上(としうえ)の男性と結(むす)ばれた娘(こ)も出てきている。誰(だれ)もが手当(てあ)たり次第(しだい)に男性を求(もと)めていた。もう高学歴(こうがくれき)とか高収入(こうしゅうにゅう)、顔(かお)の善(よ)し悪(あ)しなんて言ってられなくなっているのだ。
彼女の勤(つと)めている会社(かいしゃ)である噂(うわさ)が流(なが)れた。この春に入社(にゅうしゃ)する新入社員(しんにゅうしゃいん)の中に、男性がいると…。独身(どくしん)の女性たちは色めき立った。私服(しふく)選(えら)びや、お化粧(けしょう)に余念(よねん)がない。でも、彼女は普段(ふだん)と変わらずに落ち着いていた。今さらあせっても仕方(しかた)がないと思っているのだ。
他の娘(こ)たちは忘(わす)れているようだ。新入社員が配属(はいぞく)される前には研修(けんしゅう)があるということを…。もうその時点(じてん)で、同期(どうき)で入社する女性たちの物色(ぶっしょく)が始まっている。普通(ふつう)に考えれば、若(わか)い男性が選ぶのは若い女性に決まっている。だって、選(よ)り好(ごの)み仕放題(しほうだい)なんだから…。
彼女は密(ひそ)かに新入社員たちの情報(じょうほう)を集(あつ)めていた。これはもはや犯罪(はんざい)ぎりぎりの行動(こうどう)だった。なぜこんなことをしているのかというと、それはもちろん弱味(よわみ)を握(にぎ)るためだ。人は何かしら秘密(ひみつ)をもっているものだ。彼女はそれを利用(りよう)して、弱肉強食(じゃくにくきょうしょく)の世界(せかい)でマウントを取ろうとしているのだ。今年こそ、確実(かくじつ)に男性を手に入れなくてはならない。そうしないと、両親(りょうしん)が見つけてきた超不細工(ちょうぶさいく)な男と一緒(いっしょ)にならなくてはいけないから…。
<つぶやき>やっぱりこれは必死(ひっし)になっちゃいますよね。愛(あい)せる人と結ばれたいじゃない。
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「俺(おれ)、そんなに…君(きみ)にひどいことをしたのか?」
「まだ分からないの? あたしが、どれだけ傷(きず)ついてるか…」
「悪(わる)かったよ。でも、俺の何がいけなかったのか…教えてくれないか?」
「はぁ? それを、あたしが言うの? イヤよ。あたしの口からはとても言えないわ」
「それじゃ分かんないよ。どうして俺たち、別(わか)れなくちゃいけないんだ?」
「………」
「俺……、やり直(なお)したい。別れたくないんだ。もう一度、チャンスをくれないか?」
「もうムリよ。あたしのことはもう……。それより、あなたには立ち直って欲(ほ)しいわ」
「えっ? どういう…」
「だから、あたしと別れて、落ち込むのは分かるわよ。でもね、いつまでも…」
「ちょっと待ってよ。俺、別に落ち込んではいないけど…」
「そんなはずないわ。だって、あたしと別れるのよ。ああ、そうか…。今は、あたしがここにいるから、そんな風(ふう)に思えないのかもね。でも、あたしがいなくなったら…。ねっ」
「いや…、そうかなぁ。そこまでは…いかないと思うけど…」
「すぐに分かるわ。あたしがどれだけ大切(たいせつ)だったのか…」
「ごめん。俺、これから友だちと会う約束(やくそく)があって…。また、連絡(れんらく)するよ。じゃ」
<つぶやき>むむむ…。これは女と会うのか? こいつらは、いったいどうなってるんだ?
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老科学者(ろうかがくしゃ)が亡(な)くなった。葬儀(そうぎ)も済(す)み、ひ孫(まご)が遺品整理(いひんせいり)にやって来た。この家を訪(おとづ)れたのは赤(あか)ちゃんのとき以来(いらい)なので、彼女には何の思い出もなかった。ただ、彼女も科学者を目指(めざ)している学生(がくせい)なので、曾祖父(そうそふ)が科学者だったと聞いて興味(きょうみ)を持ったのだ。
いくつかの部屋(へや)を覗(のぞ)いてみて、彼女は奥(おく)まったところに扉(とびら)を見つけた。その扉を開(あ)けて、彼女は目を丸(まる)くした。ここは、まるで研究室(けんきゅうしつ)のようだった。いろんな機材(きざい)が並(なら)び、書籍(しょせき)やファイルが書棚(しょだな)を埋(う)め尽(つ)くしていた。彼女は書棚をまじまじと見つめた。普通(ふつう)の学生なら難(むずか)しそうな本ばかりなので、そんな風(ふう)にはならなかっただろう。
彼女は大きな机(つくえ)の引き出しを開けてみた。そこに一冊(さつ)の古(ふる)い研究ノートを見つけた。彼女は何気(なにげ)なくパラパラとめくってみた。すごく癖(くせ)のある文字(もじ)でどのページもびっしりと書かれてあった。どうやらこれは日記(にっき)のようだ、と彼女は思った。ところどころ読(よ)めない文字もあるのだが、何とか彼女は読み進(すす)めていった。
何ページがめくったところで彼女は手を止めた。そして思わず呟(つぶや)いた。「ウソでしょ?」
そこには、エイリアンと接触(せっしょく)したと書かれてあった。しかも、そのエイリアンから地球侵略(ちきゅうしんりゃく)について聞かされたと…。彼女は書かれた日付(ひづけ)を確認(かくにん)してみた。すると、七十年以上(いじょう)前の日付になっていた。まだ曾祖父が学生だった頃(ころ)なのか…。
彼女は頭をかきむしって、「どういうことよ。こんなことって…あるはずが…」
<つぶやき>これは事実(じじつ)なのかな。この部屋には、他にも何か重大(じゅうだい)なものがあるのかも…。
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薄暗(うすぐら)い部屋(へや)に男がひとり…。パソコンに向かっていた。何かのゲームでもしているのか、キーボードの音(おと)をカチャカチャとさせている。そして、何やらぶつぶつと言っているようだ。耳(みみ)を澄(す)まさなければ聞き取れないほどの声である。
「…くそ…くそ…バカにしやがって…。いまに見てろ。俺(おれ)だって…。絶対(ぜったい)にやってやるんだ。あいつをけちょんけちょんにして、俺の前にひざまずかせてやる」
男は不気味(ぶきみ)な笑(え)みを浮(う)かべた。そして、また何かを打ち込みながら心の声が漏(も)れだした。
「俺の計画(けいかく)は完璧(かんぺき)なんだ。思い知るがいい。俺の復讐(ふくしゅう)は生易(なまやさ)しいもんじゃないぞ。おまえを縛(しば)り上げて、一枚一枚、服(ふく)を切り裂(さ)いて…。おまえが泣(な)いて懇願(こんがん)しても、俺は絶対に許(ゆる)さない。おまえがこれまで俺にしてきたことを思えば、これくらいなんでもないさ」
男は笑(わら)い声を押(お)し殺(ころ)しているようだ。そして、大きく息(いき)をして気持(きも)ちを落(お)ち着かせると、満足(まんぞく)したように小さく頷(うなず)いた。そのとき、襖(ふすま)の向こうから女の声がした。
「あなた、何してるの? ちょっと来てよ。お願(ねが)いがあるの…」
男は一瞬(いっしゅん)、ビクッとしたが、すぐにとても優(やさ)しい声で返事(へんじ)を返(かえ)した。
「はい。ちょっと待(ま)ってて…。すぐに行くから。すぐだよ。もうすぐだから…」
男はロープを手にすると、あの不気味な笑みを浮かべた。そして、ロープを後ろに隠(かく)して襖を開けた。楽(たの)しげな女の声が聞こえてきた。
<つぶやき>これはやばいやつだよ。いったい何があったの? 闇(やみ)に落(お)ちちゃったのかな。
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この世界(せかい)は秘密(ひみつ)に満(み)ちている。偉(えら)い人も金持(かねも)ちも、隣(となり)のおじさんもそれなりに秘密をかかえて生きている。そして、その秘密を知りたがる者たちも存在(そんざい)するようだ。
ここに秘密結社(けっしゃ)が誕生(たんじょう)した。彼らは、お互(たが)いどんな素姓(すじょう)なのか、どんな主義主張(しゅぎしゅちょう)があるのか明(あ)かさないルールだ。彼らの目的(もくてき)はただひとつ。他人(たにん)の秘密を知ること。でも、それでお金を脅(おど)し取るとか、秘密を暴露(ばくろ)するとかは絶対(ぜったい)にしない。ただ、その人に秘密を知っていることを伝(つた)えて、その人がどんな顔をするのか見届(みとど)ける。それが彼らの報酬(ほうしゅう)なのだ。
そんなことをして恨(うら)まれるんじゃないのかって? まぁ、そんなこと思う人もいるかもね。でも、彼らが誰(だれ)なのか突(つ)き止めることはできないし、コンタクトを取るのは一回だけだからね。よほどの悪人(あくにん)でもない限(かぎ)り、見つけてやろうなんて思わないでしょ。
ある日、彼らはとんでもない秘密を見つけてしまった。それは、超(ちょう)がつくほどのやばいやつだ。彼らは急遽(きゅうきょ)、集(あつ)まることに…。そして、どうすればいいのか話し合いを始めた。だが、話し合いは紛糾(ふんきゅう)した。中には過激(かげき)な発言(はつげん)をする者もいたりして…。
そんな中、彼らのスマホが一斉(いっせい)に鳴(な)り出した。そして、スマホを確認(かくにん)した彼らは愕然(がくぜん)とした。そこには、同じ文面(ぶんめん)が送(おく)られていたのだ。
<あたしは秘密を知っています。あなたが何をしているのか…>
彼らは互いに顔を見交(みか)わした。そして口々(くちぐち)に誰の仕業(しわざ)だと叫(わめ)きだした。
<つぶやき>上には上がいるんですね。秘密を暴(あば)こうなんて悪趣味(あくしゅみ)はやめといた方が…。
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