徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

レビュー:藤田麻貴作、『楽園のトリル(エデンのトリル)』全8巻(プリンセス・コミックス)

2019年05月08日 | マンガレビュー

『楽園のトリル(エデンのトリル)』は題名から想像できる通り音楽関係の学園ものです。主人公の律は自他ともに認める不幸体質で、普通科と音楽家のある高校の普通科の方に通っていましたが、家庭でのストレスのために胃潰瘍となり、ストレス軽減のために寮に入ることになります。その不幸体質ゆえに学園の敷地内で昼寝をしていた金持ちでピアノと作曲の天才児で、現在札付きの問題児である映里を踏んずけてしまうというドジをやらかします。この寝ているところを踏んずけてしまう出会いは少女漫画にありがちで、ほとんど古典的と言ってもいいですね。まあ、この出会いによって目をつけられてしまった律は希望していた女子寮ではなく特別な寮「天宮館」に入ることになり、この俺様の篁と寮で「ペア」を組まされて同室になり(寝室は2つある2LDKっぽい)、なおかつ理事長判断で音楽科へ転科する羽目になるという怒涛の如く変化がおとずれるので、ちょっとくどい感じがしないでもないです。

話が進行していく中でこの律の生い立ちや音楽との関りとトラウマみたいなものが明らかになっていき、また天才俺様の篁の方もなんでワルになったのかその経緯が明かされて行きます。篁は通常は他人を全く視界に入れないのですが、律だけはなぜか顔が気に入ったらしく最初から視界に入ってて…という設定で、お互いにかなりいろいろ衝突していますが、いい影響を与え合って二人とも音楽の世界に復帰し、互いに必要とする恋人同士になっていく展開です。もちろん恋のライバルっぽい人も登場しますし、いろんなトラブルも起こります。

最初の設定がちょっとくどいことを除けば、どっかで読んだような話と思えるようなありがちな少女漫画的展開で、そこそこ読めるけど、いまいちオリジナリティーに掛けるような気がしますね。


レビュー:藤田麻貴作、『バロック騎士団(ナイツ)』全8巻(プリンセス・コミックス)


レビュー:藤田麻貴作、『バロック騎士団(ナイツ)』全8巻(プリンセス・コミックス)

2019年05月07日 | マンガレビュー

『バロック騎士団(ナイツ)』は2010年~2013年の作品でちょっと古いんですが、かつて絵柄が気に入ってまとめ買いし、ちょっと気が向いて読み返しちゃうくらいには面白い謎な学園ものです。斎華王学園という全寮制の学校は紳士淑女の通うエリート校で一度入ったら卒業するまで敷地から出られない謎な学校。敷地が広く、小さな町みたいになっており、なんでも揃っているのでさほど不便はないらしいのですが、主人公の筑波都はそのことを知らずにそこの高等部に編入します。初日に同じく編入生である立花上総は都と同室の野宮千沙子といとこ同士であるため、運悪く都の着替え中に部屋を開けてしまい、彼女に強烈な蹴りを食らってしまいます。以来彼は都の「犬」に。都は口が悪く暴力的ですが、まっすぐで不器用な優しさを持つ女の子で、上総は元やくざの跡取り息子だったため、彼女がまっすぐに彼に体当たりしてくれるところにちょっと惹かれたのかも知れませんね。あんまりにも猪突猛進でほっとけないというのもあるかもしれません。とにかく特別寮に入れば外出許可をもらえるという話を聞いて、まず特別寮はなんなのか探り出そうとする都に忠実なわんことして従い続けます。上総を「ぼん」と呼ぶ舎弟または世話役(?)の宇治と都といる上総(「カズ君」)が楽しそうだと喜ぶ千沙子(のちに「ちいちい」)の4人でとある事件をきっかけに学園の理事長判断で特別寮に移動になります。特別寮で待ち受けていたのはいわゆるエリートだけではなく、特殊能力を持つ危ない人たちも多く居て、彼らを監視・管理するのが特別寮・執行部。執行部の総長である葛城理央はかなり謎な人物で、なぜか都をいたく気に入っていて、暴走気味の彼女を保護・監視する意味もあって彼女をわんこ付きで執行部付の役員に迎えます。

都は子どもの頃から「見える」人で、執行部で活動している間に徐々に彼女の能力が顕現化しますが、かなり後になるまで、彼女の能力の本質は謎のままです。

どこらへんが「バロック」で「騎士団」なのか作中では明言されていません。学園の雰囲気や作中に使われている飾り文字などのイメージはバロックというよりゴシックですね。「騎士団」はそう名乗ってはいませんが、執行部の皆さんのようです。それぞれ自分の異常能力のせいで悩み苦しみ、あるいは力を持て余したり、普通の高校生の悩みとは違うところで悩んでますが、大まかに言えば「人と違う悩み」と言えるので、特殊能力のない人でも共感できるのでしょう。

「ラブ」の要素は薄いですが、都と上総の「女王様と番犬」の関係は実にユーモラスで面白いです。時々予知夢を見る大人しめのちいちいは癒し要因で、メカ系に強い宇治は便利屋さん。理央さんは最初は謎な近寄りがたい特別な存在ですが、都の影響でだんだん丸くなっていきます。他にも都の影響を受けてしまう人たちがいて、彼女はいわば台風の目みたいな感じです。

都と上総と理央さんのその後が知りたいなーと思うような終わり方でした。

藤田麻貴の現在の絵柄と比べるとまだ若干固いですが、こういうの好みです。


書評:デイビッド・セイン著、『ネイティブはこう使う! マンガでわかる動詞』(西東社)

2019年05月07日 | 書評ー言語

期間限定で激安だったのでシリーズでそろえたうちの1冊『ネイティブはこう使う! マンガでわかる動詞』は、日常的によく使われる「動詞」の使い分けについてをマンガで楽しく解説します。愉快な登場人物たちが繰り広げるドタバタを読みながら、ネイティブが動詞をどう使うのかを無理なく理解できるという構想ですが、身につけて自分で使うにはやはり実践あるのみですよね。使わなければやはりあっという間に忘れてしまいます( ´∀` )

動詞のコアイメージを表すためのイメージ図解には少々無理があるものもあり、必ずしも役に立つわけではないです。やはりマンガで描写されているシーンでイメージを掴むのが適当なようです。

目次

Part 1 基本動詞

Part 2 身近な動詞(初級)

Part 3 身近な動詞(上級)

Part 4 助動詞


書評:デイビッド・セイン著、『ネイティブはこう使う!マンガでわかる時制・仮定法』(西東社)

書評:デイビッド・セイン著、『ネイティブはこう使う!マンガでわかる前置詞』(西東社)

書評:デイビッド・セイン著、『ネイティブはこう使う! マンガでわかる形容詞・副詞』(西東社)

書評:デイビッド・セイン著、『NGフレーズでわかる! 正しく伝わるビジネス英語450』(西東社)



レビュー:滝口琳々作、『新☆再生縁-明王朝宮廷物語-』全11巻(プリンセス・コミックス)

2019年05月06日 | マンガレビュー

『新☆再生縁-明王朝宮廷物語-』は9年間の連載を経て昨年12月に最終巻が出て完結した男装少女マンガですが、史実に少々の脚色を加え、架空の人物は4人しか居ないというほど歴史的骨格がしっかりしており、1巻で無実の罪で投獄された父の敵の手に落ちそうになった孟麗君が追っ手を逃れて川に飛び込み、溺れ死にそうになったところをたまたまお忍びで舟遊びをしていた皇太子に助けられるという運命の出会い(その時は互いに名乗らず別れる)を果たしたのち、父を救うため、男装し酈君玉(り くんぎょく)として科挙を受けて状元及第して宮廷に飛び込み、っそこで皇太子に再会し、臣下として彼に仕えることになってしまい正体がばれないか冷や冷やする一方、皇太子が生まれた時から萬(ばん)貴妃という皇后でもないのに後宮の実権を握り、皇帝を言いなりにさせている女から命を狙われ、近頃は皇帝からも冷遇されているということを知り、また彼の賢君ぶりや優しい人柄に惹かれて心から忠誠を誓い、皇太子を工程の座に着けるために臣下として並々ならぬ努力をする物語です。

麗君(君玉)と皇太子の間の恋愛関係、麗君の親同士が決めた許嫁・蝗埔小華(こうほ しょうか)との関係、君玉の同期で榜眼及第した劉奎璧(りゅう けいへき)との緊張関係など緊迫した人間関係が盛りだくさんでかなりハラハラさせるストーリー展開。1巻を読むともう先が気になって止まらなくなるほど魅力のあるマンガです。


書評:窪美澄著、『晴天の迷いクジラ』(新潮文庫)~第3回山田風太郎賞受賞作

2019年05月06日 | 書評ー小説:作者カ行

窪美澄の作品を読むのはこれが初めてです。誰かが読んでて、FBに投稿していたのを見かけたのでふと読んでみる気になり、しばらく前に買っておいて、今晩漸く読むに至りました。第3回山田風太郎賞受賞作とのことですが、そんな賞のことは知りませんでしたし、山田風太郎自体読んだことありませんけど(笑)

『晴天の迷いクジラ』(2012)の商品説明は「デザイン会社に勤める由人は、失恋と激務でうつを発症した。社長の野乃花は、潰れゆく会社とともに人生を終わらせる決意をした。死を選ぶ前にと、湾に迷い込んだクジラを見に南の半島へ向かった二人は、道中、女子高生の正子を拾う。母との関係で心を壊した彼女もまた、生きることを止めようとしていた――。苛烈な生と、その果ての希望を鮮やかに描き出す長編。山田風太郎賞受賞作。」となっており、その説明の通り、三者三様の苦しい人生が1章ごとに丁寧に描かれ、第4章でようやく三人が迷いクジラのいる湾に向かい、そこでお世話になった家のおばあさんや長男の雅晴の肉親を失った心の傷や迷いクジラの悲哀に触れて、とにかく生きて行こうとよろよろと立ち上がる過程が心に迫ります。たかだか数日クジラ見たからって彼らを取り巻く環境が変わるわけでも、彼らの心の傷が癒されるわけでもないのですが、ほんの少しの休息の後「もうひと頑張りしてみようか」というだけの力を得た感じですね。これで大丈夫というわけじゃなくて、きっとこれからも薬飲んだり、どこかで泣いたり、拒食症になったりとかしながらふらふらと先を生きていくであろう未来が目に浮かんでくるようです。きっとそういうところが現在の疲れ切った人たちの共感を呼ぶんだろうなと思わずにはいられません。

第1章の由人のエピソード「ソラナックスルボックス」と第2章の野乃花のエピソード「表現型の可塑性」『yom yom』のVol.22、23で発表されたもので、第3章の正子のエピソード「ソーダアイスの夏休み」と第4章の「迷いクジラのいる夕景」は書下ろしとのことで、4章からなる1つの作品とも関連のある4編の短編集ともとれます。構成からすると短編集の方が近いかも知れませんね。

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書評:島田荘司著、『御手洗潔の追憶』(新潮文庫)+【ぐるり】の用法

2019年05月05日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

『御手洗潔の追憶』(2016)は御手洗潔シリーズの30冊目にあたり、熱烈な御手洗潔ファンまたは石岡和己ファンでなければ面白くないようなインタビューや近況報告などの寄せ集めで、物語として面白いのは戦前外務省の官僚だった御手洗潔の父・直俊の日米開戦阻止のための哀しい努力と広島での被曝を描いた中編の『天使の名前』と御手洗潔のウプサラ大での同僚たちのたまり場であるシアルヴィ館(仲間内では「ミタライ・カフェ」)の北欧神話がらみのエピソード「シアルヴィ」だけです。

シアルヴィ館で御手洗潔が仲間に請われて自分が関わった事件の概要を語るエピソードは、シリーズ17冊目にあたる『セント・ニコラスのダイヤモンドの靴』に「シアルヴィ館のクリスマス」として収録されています。これを知らないと短編『シアルヴィ』の背景というか、なぜそこに御手洗がいるのかということが分かりません。私も思い出すまでにちょっと時間がかかりました。最後の短編「ミタライ・カフェ」はハインリッヒがウプサラに移住する以前にウプサラの御手洗を訪ねた時のエピソードで、「ミタライ・カフェ」は言及されるだけにとどまります。

収録作品:

  • 御手洗潔、その時代の幻(「御手洗潔攻略本」、原書房、2000年11月)
  • 天使の名前(「島田荘司読本」、講談社文庫、2000年7月)
  • 石岡先生の執筆メモから。(「INPOCKET」、1999年10月号)
  • 石岡氏への手紙(「島田荘司読本」、講談社文庫、2000年7月)
  • 石岡先生、ロング・ロング・インタヴュー(「石岡和己攻略本」、原書房、2001年5月)
  • シアルヴィ(「ミタライ・カフェ」、原書房、2002年3月)
  • ミタライ・カフェ(「ミタライ・カフェ」、原書房、2002年3月)
 
【ぐるり】の用法
この本で、最新刊の『鳥居の密室』(2018)と文庫化・電子書籍かされていない『摩天楼の怪人』(2005)を除いて御手洗潔シリーズを制覇しました。これを機に、前々から気になっていた島田氏の【ぐるり】の用法について書きたいと思います。
この『御手洗潔の追憶』では『天使の名前』に一度だけ【ぐるり】(「大テーブルのぐるりに着席した」)が登場します。『星籠の海』の上巻でも「ぐるりは海。」とあります。辞書を紐解けば確かに「ぐるり」は名詞としての用法があり、「まわり。周囲。あたり。」という意味だと解説されているのですが、私自身は「ぐるりと(回る)」のような副詞的用法しか知らず、島田荘司の作品以外で「ぐるり」の名詞的用法を読んだ覚えがありません。このため初めて見た時は大変な違和感を持ち、島田作品を大分読んだ後でも未だに変な感じがします。
「大テーブルのぐるりに着席した」というのも私の感覚では通常「大テーブルを囲んで着席した」と言うと思うのです。「ぐるり」を「まわり」で代用して「大テーブルのまわりに着席した」とするとそれはそれで奇妙な感じがしてしまい、どうして変なのか考えてみたのですが、「テーブルのまわり」とすると、ぴったりとテーブルについて着席してないような、テーブルから少し離れているようなイメージが浮かんでしまうのは私だけでしょうか?
島田氏は広島出身とのことなので、「ぐるり」の名詞的用法は広島とかの方言なのかと思いましたが、調べると、大阪出身の川端康成も『雪国』の中で「家のぐるりを蟇(がま)が鳴いて廻った」と書いているらしいので、関西以西の用法なのでしょうかね。近代日本文学に暗い東京生まれの私には分かりませんけど。
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書評:島田荘司著、『火刑都市』(講談社文庫)

書評:島田荘司著、『占星術殺人事件 改訂完全版』(講談社文庫)

書評:島田荘司著、『斜め屋敷の犯罪 改訂完全版』(講談社文庫)

書評:島田荘司著、『御手洗潔の挨拶』(講談社文庫)

書評:島田荘司著、『異邦の騎士 改訂完全版』(講談社文庫)

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書評:島田荘司著、『水晶のピラミッド』(講談社文庫)

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書評:島田荘司著、『最後のディナー』(文春文庫)

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書評:島田荘司著、『魔神の遊戯』(文春文庫)

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書評:島田荘司著、『星籠の海 上・下』(講談社文庫)

書評:島田荘司著、『屋上』(講談社ノベルズ)

書評:島田荘司著、『リベルタスの寓話』(講談社文庫)


書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 5 天花恢恢疎にして漏らさず』 (ビーズログ文庫)

2019年05月05日 | 書評ー小説:作者ア行

前巻で予告された通り、赤奏国の「研修」から白楼国の首都に報告に戻ってきた茉莉花は、州牧の不正と州牧補佐の自殺について御史台が調査に入るという州に州牧補佐として派遣され、到着早々、翔景(しょうけい)と大虎(たいこ)という二人の男と出会います。翔景は御史台から監査のために湖州に入った役人ということで正体はすぐに明らかになりますが、大虎のほうは「湖州生まれでつい最近州庁舎で働くようになった胥吏」という身分にはそぐわない言葉遣いが怪しいので茉莉花は警戒します。

州牧補佐の死には謎が多く、事故とも自殺とも他殺とも言い切れるだけの決め手がないため、「自殺」として処理されたらしいのですが、溺死体で顔が潰されており、服装や持ち物で本人確認したということで、ミステリーファンにはすぐに「あ、これは死んでないな」とピンときます。もちろん茉莉花も御史台の翔景もその結論に至るまで結構な時間を要するのですが。また、茉莉花は些細なことから隣国のシル・キタン国が何か仕掛けているのではないかと疑いを持ち調査を始めます。

茉莉花官吏伝は紙書籍で揃えているので、5巻が届いた時まず「薄っぺらいな」と思わずにはいられませんでした。案の定湖州のエピソードの前編らしく、不穏な空気を残したまま「次巻へ続く」になっているので、後編が早く出ることを切に望みます。

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書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 皇帝の恋心、花知らず』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 2~ 百年、玉霞を俟つ 』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 3 月下賢人、堂に垂せず』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 4 良禽、茘枝を択んで棲む』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『十三歳の誕生日、皇后になりました。 』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『おこぼれ姫と円卓の騎士』全17巻(ビーズログ文庫)


書評:島田荘司著、『星籠の海 上・下』(講談社文庫)

2019年05月02日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

『星籠(せいろ)の海』(2013)は、1993年の瀬戸内海を舞台にした大掛かりな国際的犯罪者の追跡と幕末の老中首座にあった阿部正弘による対黒船戦略に考案されていたらしい「星籠」の謎の追跡を主題とした推理小説で、御手洗潔と石岡和己コンビが一緒にあちこち飛び回った最後の事件という設定です。瀬戸内の小島に、死体が次々と流れ着くという相談が持ち掛けられるところからスタートし、御手洗潔は事件の鍵が古から栄えた港町・鞆(とも)にあることを突き止めます。そこでは一見関係のない事件が同時進行で発生していて、前編はそれらのパズルがバラバラに提示され、後編でそれらのピースが大きな絵にはめ込まれていくのですが、若干欲張り過ぎのきらいがあります。特に日東第一教会によって母親を殺され天涯孤独の身になってしまった宇野智弘という少年が南相馬で生まれ育ったという背景のためかどうか、急性白血病で亡くなってしまうくだりはなくてもいいのではないかと思いました。

それ以外は村上水軍や忽那水軍など、瀬戸内海の歴史がふんだんに盛り込まれていて非常に面白かったです。

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書評:島田荘司著、『火刑都市』(講談社文庫)

書評:島田荘司著、『占星術殺人事件 改訂完全版』(講談社文庫)

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書評:島田荘司著、『リベルタスの寓話』(講談社文庫)


書評:島田荘司著、『リベルタスの寓話』(講談社文庫)

2019年05月01日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

『リベルタスの寓話』(2007)には表題作の前後編に挟まるように中編『クロアチア人の手』が挿入されています。どちらの作品もクロアチア・セルビア・モスレムの民族紛争を背景としており、作中時期も同じ2006年。『クロアチア人の手』は2月で、『リベルタスの寓話』は5月ということになっています。

『リベルタスの寓話』では、ボスニア・ヘルツェゴヴィナで、酸鼻を極める切り裂き事件が起き、心臓以外のすべての臓器が取り出され、電球や飯盒の蓋などが詰め込まれていたという奇怪な事件を解決するためにNATOからウプサラ大学にいる御手洗潔に依頼が行き、彼の代わりにハインリッヒが現地へ飛び、御手洗は電話で応対します。殺人動機は先のセルビア人による民族浄化に対する個人的復讐の他もう1つ個人的要素が含まれており、また被害者たちの裏家業に関連することで発見により、殺人者が思い付きで行動したので事件がより複雑に絡まる羽目になりました。民族対立による内戦の傷跡の根深さが、中世において差別のない自由都市として栄えたクロアチアの平等精神と強烈な対比をなし、良き伝統が現代まで受け継がれなかったことが悲しみを深くします。「リベルタスの寓話」として紹介されているクロアチアの総督選挙に使われたブリキ人形の伝説は作者の創作とのことですが。非常に興味深い寓話ですが、待ちを囲んだトルコ兵が神父一人の死によって「災厄が去った」として撤退するくだりはやはりあり得ないという印象を受けざるを得ません。

『クロアチア人の手』の舞台は東京・深川の芭蕉記念館近辺で、俳句国際コンクールの表彰のため、2人のクロアチア人が来日し、夜に泥酔して記念館に帰った翌朝に1人(イヴァン)は記念館内貴賓室の密室で死亡し、もう1人(ドラガン)は館外で交通事故に遭って死亡するという事件で、しかもイヴァンは自室ではなく、ドラガンの部屋でピラニアに右腕と顔を半ば喰われていて、そのピラニアはホールの水槽から貴賓室の水槽へ移されたもので、酔っ払いの不可解な行動として片づけていいものか謎。自室ではない密室という不可解さも含めて奇妙な事件で、警察が御手洗のアドバイスを期待して石岡に連絡するわけですが、ここでも御手洗は忙しさを理由に電話で途切れ途切れにヒントを出すだけです。こちらの事件も先の内戦の確執を引きずった事件で、表面上仲良くしていてもふとした拍子に殺したくなるほどの憎しみが噴出するという心の傷の深さを象徴するような気の毒な話です。ドラガンがセルビア人との混血であることが災いして要らぬ誤解を招いて、謂れの無い恨みを買ってしまったというのが悲劇的です。


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書評:島田荘司著、『火刑都市』(講談社文庫)

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