徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル10 幽霊男』(角川文庫)

2018年10月28日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

『幽霊男』(1954)は神保町の裏通りにあるヌードモデル仲介業「共栄美術倶楽部」のモデルたちが次々に「佐川幽霊男(ゆれお)」こと「佐川由良男」(どちらも偽名)によって猟奇的に殺されて、死体が展示物のように見世物にされていく事件で、犯人の動きや独白が描写されている比較的珍しい作品。犯行は劇場型とでも言うべきもので、テープレコーダーを使って犯行予告を行います。共栄美術倶楽部の内部事情に詳しく、また共犯者が居るらしく、金田一耕助と等々力警部は何度も目と鼻の先で出し抜かれて悔しがることになります。

犯人と目された外科医で共栄美術倶楽部常連の加納博士が逮捕されそうになった時に謎の「マダムX」なる人物が現れて可能を連れ去ったり、幽霊男の注文で蝋人形を作った人形師もこのマダムXに連れ去られるなど、捜査とも犯人の動きとも別の動きがあることがストーリー展開に緊張感を持たせて面白くしています。

一見、狂気の芸術家による犯罪のようですが、実はそこに復讐の動機もあり、残忍にして卑劣、稀に見る醜悪な犯人です。「自白して自殺」するような覚悟など全くなく、現行犯で逮捕されながらなお言い逃れしようとする醜態をさらすという珍しいパターンの結末です。

とってもイヤーな読後感です。


書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル1 八つ墓村』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル2 本陣殺人事件』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル3 獄門島』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル4 悪魔が来りて笛を吹く』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル5 犬神家の一族』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル6 人面瘡』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル7 夜歩く』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル8 迷路荘の惨劇』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル9 女王蜂』(角川文庫)



書評:ルーク・タニクリフ著、『「カジュアル系」英語のトリセツ 文字でも会話する今どきの英会話』(アルク)

2018年10月28日 | 書評ー言語

『「カジュアル系」英語のトリセツ 文字でも会話する今どきの英会話』は、『「とりあえず」は英語でなんと言う?』と『「さすが!」は英語でなんと言う?』の著者であるルーク・タニクリフの著書で、前2書とは逆に英語、特にネットやチャット、SNSなどで使われる今時の英語を起点に日本語で解説しています。覚えて使いこなせるかどうかというのは別として、非常に読みやすく、解説も分かりやすいです。

ただ、税込み価格1620円は若干割高に感じられます。1000~1200円くらいが適正価格のような気がしますね。

目次

Chapter 1 友だちへのメッセージ

Chapter 2 友だちとの会話

Chapter 3 仲間内のおしゃべり

Chapter 4 家族・パートナーとのやりとり

Chapter 5 オフィスでのコミュニケーション

Chapter 6 投稿・コメント

Chapter 7 レビュー

Chapter 8 チャットルームにて

APPENDIX

巻末に例文付きの略語リストがあり、参考になります。


書評:ルーク・タニクリフ著、『「とりあえず」は英語でなんと言う?』(だいわ文庫)

書評:ルーク・タニクリフ著、『「さすが!」は英語でなんと言う?』(だいわ文庫 Eigo with Luke)


書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル9 女王蜂』(角川文庫)

2018年10月28日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

『女王蜂』(1952)は伊豆半島の南方にある月琴島に源頼朝の後裔と称する大道寺家に起こった悲劇を描いた物語です。中心人物である絶世の美女である大道寺智子は、母・琴絵と島に旅行に来ていた日下部達哉(偽名)の間にできた娘ですが、実父が彼女が生まれる前の19年前(昭和7年)に事故か他殺か解明されないまま亡くなったため、私生児誕生を防ぐために実父の友人である速水励造が琴絵と結婚します。琴絵と励造は形ばかりの夫婦で、母子は島に残っており、励造は東京で仕事をし、女中の蔦代との間に文彦という息子があります。琴絵は智子が幼い頃に既に亡くなり、島の大道寺家を支えてきたのは祖母の槇と琴絵の家庭教師として住み込んでいた神尾秀子でした。琴絵の遺言により、智子は満18歳になるのを機に義父の励造の下に引き取られ、縁談が進められることになっていました。ところが、智子の上京が間近になった頃に、「月琴島からあの娘をよびよせることをやめよ」「19年前の惨劇を回想せよ。あれは果たして過失であったか。何人(なんびと)かによって殺されたのではなかったか。」という警告の手紙を読んだ欣造と、もう1人同じ警告の手紙が届けられた「覆面の依頼者」(名を明かせないという意味)から相談を受けた加納弁護士は、金田一に智子の護衛を依頼します。そうして智子一行が修善寺の松籟荘に到着し、励造・文彦父子と蔦代、さらに智子の夫候補たちの3人と、謎の人物の依頼を受けて智子を待っていた多門廉太郎(こと日比野謙太郎)が松籟荘に集結すると、警告の通り第一の殺人が起こり、夫候補の一人が亡くなります。こうして連続殺人が始まり、最終的に4人殺され、犯人と影の共犯者が自殺し(心中のようでもある)、祖母の槇が疲労やショックで衰弱死し、計7人が亡くなる一大悲劇に発展します。

迷路荘の惨劇』同様、過去の殺人事件と現在の殺人事件が絡み合う複雑な人間関係があり、また脅迫・殺人を行う謎の犯人の他に、渦中の人・大道寺智子に多門廉太郎なる人物を娶せようと画策する謎の人物、金田一耕助に上京する智子の付き添いと過去の事件の解明を依頼する謎の人物、そして役者がそろった修善寺の松籟荘に現れた謎の変装老人など謎めいた勢力があることでドラマ性が格段に高くなっています。『迷路荘の惨劇』でウロチョロする謎の「片腕の男」よりもずっと面白い設定だと思います。美女を巡るまたは美女が関わる殺人事件ではありますが、悪女が登場しないところもポイントが高いです。殺人の動機が恋情・劣情のみというピュアさも読後感の良さに貢献していると言えます。また、一家の悲劇を生き延びたお姫様・智子が幸せになれそうなところで物語が締めくくられるのがいいですね。「救いのある」悲劇。


書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル1 八つ墓村』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル2 本陣殺人事件』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル3 獄門島』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル4 悪魔が来りて笛を吹く』(角川文庫)

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書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル6 人面瘡』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル7 夜歩く』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル8 迷路荘の惨劇』(角川文庫)