徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル2 本陣殺人事件』(角川文庫)

2018年10月15日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

『金田一耕助ファイル2 本陣殺人事件』(1946)はタイトルすら知らなかった作品ですが、密室殺人トリックの登場するなかなか面白い「いかにも」なミステリーです。東西ミステリーベスト100(2012)の10位に入っているのもうなずけます。

事件は昭和12年、岡山県だかの田舎で名家・一柳家の当主の婚姻の晩に起こります。本陣の末裔だという一柳家で起こった事件では、飯屋で一柳家への道を聞いたみすぼらしい風体の三つ指の男が取り沙汰されたり、当主の「生涯の仇敵」なる者が登場したり、分家の者の思惑だとか、何やらいろいろな妖しい事実でミスリードされますが、アメリカ帰りの金田一耕助が謎を解くと「なあんだ」という感じです。ただ、殺人の動機として、根底に凄まじい男尊女卑プラス潔癖症があり、時代と田舎という環境を鑑みれば、それがあり得るのかも知れませんが、現代的男女平等感覚では受け入れがたいものがありますね。ミステリーとしての面白さはそれによって減るわけではありませんが。

この本には他に『車井戸はなぜ斬る』と『黒猫亭事件』の2作品が収録されています。

『車井戸はなぜ斬る』は昭和21年に本位田家という名家で起きた事件で、本位田家の病弱だけど観察眼の鋭い17歳の娘が結核療養所で静養中の兄(次男)に宛てた手紙をベースに語られます。本位田家の先々代・先代当主がやり手で、その昔は並び称されていた3つの名家の中で唯一羽振りのよい家として残り、他の2家は凋落したことによって買った恨みや、先代当主の不倫によって本位田家本家と凋落した秋月家にひと月違いでうり二つの息子が生まれ、それを苦にした病がちな秋月家当主が自殺し、1年後に息子を親戚に預けた後に妻も後追い自殺(両者とも車井戸で)するという不幸な経緯が事件の遠因となっています。戦地から復員した特に目を失って復員した本位田家長男にして現当主が果たして本人なのか、戦地で一緒だったが戦死したという秋月家の息子が入れ替わっているのかといった疑惑の中から生まれた不幸な事件です。

金田一耕助の活躍はなく、ただこの娘さんの書簡やその他の資料を入手したので、探偵小説かである作者に渡しただけ、ということになっています。

これに対して、『黒猫亭事件』は「顔のない死体」というトリック(大抵加害者と被害者が入れ替わる)と「一人二役」という最後までばれてはいけないトリックを組み合わせた「事実は小説より奇なり」という設定のミステリーです。この作品中で何度か「獄門島」事件に言及されますが、時系列的には「獄門島」事件から時を置かず昭和22年に東京で起こった事件とのことです。このトリッキーなミステリーは前置きの通り、顔のない女性の死体が黒猫亭という酒場の裏手(雑木林がうっそうと生い茂る崖に三方を囲まれている)で掘り返されるところから始まります。その死体の身元確認が難航し、黒猫亭を最近売り払って神戸に行ったという夫婦の行方やその夫婦がそれぞれ持っていたらしい不倫の関係などが徐々に明らかになっていくわけですが、隠れた共犯者の供述や行動により捜査が攪乱されます。その絡まった糸を金田一耕助が解くパターンですが、動機は非常に陰惨で残酷無比な上、最後には真犯人自身も自殺するので、何とも後味の悪い作品でした。

横溝正史の本はこれで2冊目ですが、慣れない言葉遣いに結構戸惑っています。時代や出身地の違いもあるかと思いますが、ある意味日本語の勉強にもなります。たとえば「効顕いやちこ」。これは「霊験あらかた」と同じ意味らしいですが、今まで見たことも聞いたこともありませんでした。

次は『黒猫亭事件』で再三言及されていた『獄門島』を読むつもりです。『獄門島』は東西ミステリーベスト100(2012)で1位の作品です。


書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル1 八つ墓村』(角川文庫)


【フェイクニュースに要注意】「ドイツが東京オリンピックボイコットの可能性」はデマ

2018年10月15日 | 社会

しばらく前から「ドイツが東京オリンピックをボイコットするかも」というデマ・フェイクニュースがネットで拡散されています。真に受けないようにご注意ください。

とはいえ、「火のない所に煙は立たぬ」というように、このフェイクニュースの火元はなくはないです。その「火元」と思われるのが、Sayonara Nuke Berlinでも紹介されている、「IPPNWドイツ支部キャンペーン”2020年東京「放射能」オリンピック”」です。

呼び掛け文のドイツ語原文はこちらです。この呼び掛け文を全文読んでいただければお分かりになるかと思いますが、決してオリンピック自体をボイコットしようとするものではなく、オリンピックというマスコミ注目度の高い催し物を利用して、被曝の危険性に関する啓蒙キャンペーンおよび日本政府による「日常生活が戻った」かのような印象操作に対する抗議活動を行うというものです。

恐らくタイトルしか読まないネットリテラシーの低い方が「放射能オリンピック」という刺激語を見て「オリンピックボイコット」を連想し、それを拡散したということではないかと思われます。ほんの少し中身を確認すればそういう早とちりはしなくて済むものです。脊髄反射的に刺激的な内容の拡散をする人が多いのには呆れるばかりです。クリック数を稼ぐための意図的なフェイクニュース拡散なら、なおたちが悪いと思います。そのようなものに踊らされないように情報を吟味していただきたいものです。

ちなみに現在、ドイツのホットな話題が東京オリンピックでないことは明々白々です。オリンピックの「オ」の字すら話題になっていません。今、最もホットな話題は「ポスト・メルケル」でしょう。昨日(2018/10/14)CDUの姉妹党であるCSUがバイエルン州議会選挙で史上2番目に悪い結果を出して、CSU党首・現職バイエルン首相の今後の動向やメルケル退陣のタイミング(自らの意思決定の余裕のあるうちに辞任するか、退陣に追い込まれるまで在任し続けるのか)などが一層注目されています。

 

以下はSayonara Nuke Berlinの日本語紹介文の転載です。

IPPNW核戦争防止国際医師会議ドイツ支部のキャンペーンを日本語翻訳で紹介します。


2020年東京「放射能」オリンピック

2018年7月16日付
日本は世界各地からアスリートを招こうとしています。2020年に東京でオリンピックが開催されることになっているからです。私たちは平和でフェアなスポーツ競争を願うものですが、同時に大変懸念もしています。というのは福島県の県庁所在地でもオリンピック競技が開かれる計画だからです。野球とソフトボールの試合が福島市で開催されるということです。ここは原発事故のあった福島第一原発から50キロほどしか離れていません。2011年にはここで複数の原子炉事故が相次いで起き、放射能雲が日本と周辺の海を汚染しました。この災害と唯一比較できるのはチェルノブイリ原発事故だけです。

これによって生態系と社会は深く影響を受け、それらは日本ではまだ消滅していません。故郷を失ってしまったたくさんの家族、住民がこぞって避難して人のいなくなってしまった地域、汚染土を入れた何百万というフレコンバッグ、放射能で汚染された森林、川、湖。「通常な状態」などに日本は戻っていないのです。

事故を起こして破壊した原子炉もまだまだ危険が去ったわけではありません。今も変わらずここから放射能汚染が出続けています。海、空気、土の放射能汚染は日々増えているのです。大量の放射性物質は壊れた原子炉建屋に今もあるだけでなく、原発敷地にも屋外で放射性物質が放置されたままです。この状況では、もし次に大地震があった場合に人間と環境におびただしい危険を及ぼす可能性があります。放射線災害はまだ続いているのです。この警告はそして、当分解除されることがないでしょう。

2020年のオリンピックの日本での開催にあたり、IPPNWドイツ支部では国際キャンペーンを始めることにしました。私たちは、参加するアスリートと競技を見物する観客たちがフクシマ近郊で被ばくするのではないかと懸念しています。特に放射線感受性の高い妊婦や子供たちが心配です。

日本政府は、このオリンピック開催には最終的に120億ユーロかかると予測しています。しかし同時に日本政府は、避難指示解除後、故郷に帰還しようとしない避難者たちには支援金の支払いを止めると脅しています。

国際的に、放射線災害があった場合に住民は、自然放射線を除いて年間で1ミリシーベルトしか放射線を被ばくしてはいけないと規定されています。フクシマの帰還政策により帰還を促された地域では、住民はそれより20倍も高い20ミリシーベルトまでの被ばくは我慢するように求められているのです。すでに村や町が除染された場合でも、森や山は放射線汚染を「貯蔵」する役割を果たすため、風や天気次第ですぐにまた汚染させられる可能性は高いのです。

この国際キャンペーンを通じて私たちはまた、世界中にまだ一つとして放射線廃棄物の最終処分場すらないことも改めて訴えていく次第です。原子力産業が残す猛毒の負の遺産を安全に保管できる場所はないのです。

オリンピックに対しては世界のマスコミが注目します。これを利用して私たちは、日本の脱原発の市民運動を支援し、世界的なエネルギー政策変換を訴えていきたいと思います。化石燃料と核燃料に別れを告げ、再生エネルギーへ向かわなければならないと訴えます。

キャンペーンでは、世界中の政治家がいかに軍産複合体と一緒になって政策を推し進めているか、より明確に指摘していきたいと思います。

IPPNWは放射能に汚染された地域にあたかも「日常生活」が戻ったような印象を世界に与えようとする日本政府に対しはっきり「ノー」を突きつけます。

このキャンペーン趣旨に賛同する個人または団体は、次のメールアドレスを通じてキャンペーンチームに連絡をくださるようお願いします。
olympia2020[at]ippnw.de

(翻訳:Yu Kajikawa von Sayonara Nukes Berlin)

#IPPNWGermany #IPPNWドイツ支部 呼びかけドイツ語 原文:http://www.ippnw.de/atomenergie/artikel/de/tokyo-2020.html