徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル3 獄門島』(角川文庫)

2018年10月16日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

『金田一耕助ファイル3 獄門島』(1947)は戦後間もない瀬戸内海の獄門島で起こった連続殺人事件の話です。「本陣殺人事件」から9年後という設定です。金田一耕助は復員船で亡くなった戦友・鬼頭千万太(きとう ちまた)に「3人の妹が殺されないように」と頼まれて、獄門島へ向かいますが、その甲斐なく、彼が島に着いて間もなく鬼頭本家の娘の一人・花子が梅の古木に逆さ吊りになって殺されてしまいます。次に雪枝が島に戻って来たばかりの寺の釣鐘の中で死んでいるのが発見され、二人の通夜をまとめて執り行って間もなく、島外から侵入したという海賊を捕まえるための山狩りが行われている隙に最後に残った娘・月代が絞殺されてしまいます。

島の状況や人間関係の確執、過去の経緯などが徐々に明らかになっていきますが、なぜ網元の本家鬼頭家の嫡男である千万太が死ぬと、その妹たちが殺されることになるのか、その因果関係は最後の最後でようやく解明されます。奇妙な見立て殺人で、しかも連続殺人であるにもかかわらず実行犯人が一人ではないというところに事件の複雑さがあります。

続々と戻ってくる復員兵たち、待っている家族たち、そして混乱した状況を利用して「戦友」と偽って家族のもとを訪れ、「生きて帰ってくる」と嘘をついて知らせに来た謝礼を騙し取るという詐欺を働く者たち。戦争の混乱で崩壊していく封建的な「家」。この『獄門島』が書かれた時代はそういうことがきっとタイムリーな問題・話題だったのでしょうね。ミステリーとして面白いばかりでなく、その時代の風俗・風潮を知ることのできる興味深い作品でもあります。なるほど、『獄門島』は東西ミステリーベスト100(2012)で1位に輝くだけのことはある、ということでしょうか。


書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル1 八つ墓村』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル2 本陣殺人事件』(角川文庫)