徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル4 悪魔が来りて笛を吹く』(角川文庫)

2018年10月19日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

『金田一耕助ファイル4 悪魔が来りて笛を吹く』は題名からしておどろおどろしいホラー色が出てますが、そういう不気味な舞台設定や、呪いやたたりや幽霊などの何か非現実的なまたは非科学的な背景を暗示しつつ、あくまでも現実の人間が起こした事件を事実追求の積み重ねで解いて行くのが横溝作品の特徴なのかなと4冊読んで思っているところです。

『悪魔が来りて笛を吹く』はフルートを嗜む椿子爵が行方不明になり、その死体が発見された後、椿邸に親族が集まっている際に彼の作曲・演奏した『悪魔が来りて笛を吹く』のレコードが電気蓄音機で勝手にかかったり、椿子爵に似た人(本人?)が目撃されたりして、残された家族・親族が恐怖する中、彼の妻の伯父である玉虫伯爵が密室状況で殺害され、さらに妻の兄である新宮利彦が殺害され、最後に恐怖でノイローゼとなった妻が屋敷から逃げ出した鎌倉の別邸に逃げ延びたところで常用薬に混入されていた青酸カリで毒殺されるという陰惨な連続殺人事件の物語です。しかし陰惨なのは殺人事件ばかりでなく、殺人被害者側の過去の関係も相当ドロドロしています。

またこの殺人事件は、同じ年(昭和22年)に起きて世間を震撼させた「天銀堂事件」と呼ばれる宝石商強盗殺人事件との関係も暗示され、実際にどう関係しているのかを解くのが重要な事件解決のキーとなっています。

上述の椿家の3人以外に口封じに一人殺され、犯人も最後に自殺を遂げるため、前置きで「後味が悪い」と宣言されている通りに後味の悪いストーリーですね。

殺されて当然と思うわけではありませんが、被害者の側にあまり同情できない非道さがあり、容赦なく殺人を行った犯人の境遇と動機に同情したくなってしまう事情があるところにまたやるせなさを感じます。

それにしても青酸カリって本当にそんなに入手しやすいものだったのでしょうか。重要な工業用薬品の1つであるため、あるところにはあって入手しやすいというのは事実らしいですが、昭和22年という戦後の混乱期だからこそ管理もルーズだったというような時代背景もあるのでしょうか。


書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル1 八つ墓村』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル2 本陣殺人事件』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル3 獄門島』(角川文庫)