池上彰の行動経済学❶
❶序章 経済は「人の心」で動いている!~行動経済学の基本~❶なぜ行動経済学は生まれたのか!
『働く君に伝えたい「本物の教養」池上彰の行動経済学入門』池上彰監修 Gakken「行動経済学の基礎のき」「どうすれば経済が理解できるのか?」基礎のきから池上解説Ⓒ池上彰(監修)Ⓒ学研
なぜ行動経済学は生まれたのか?
❶行動を変え、自分をも変えることができる!
2008年のリーマンショックが起きたとき、金融市場では「ブラックスワンが現れた」と表現しました。
スワン(白鳥)は普通は白い。だが、このときは黒い白鳥(黒鳥)が現れた、と「珍しいもの(金融恐慌)が現れた」と表現したわけです。また、「人々の心理的不安が大きくふくれあがると、経済理論や金融工学が予期しえない現象が起こる」とも明らかになったのです。めったに見られないブラックスワンに対して、アフリカの草原などに生息している灰色のサイは、ブラックスワンほど希少ではありません。ところが、おとなしいサイは、いったん暴走を始めると手がつけられない。新型コロナウイルスがまさにこれです。「灰色のサイ」とは軽視しがちな潜在リスクのことです。
経済は「感情」で動いている! しばしば非合理的なことやムダなことをするのが私たち人間です。
心の動き方というものを重視して、経済の動きを読み解こうとするのが行動経済学です。
人間の感情もまた経済と言う生き物を動かしているものなのです。
お金に関する「心の動き」がわかる!
お金や経済活動に関しての「心の動き」の意思決定のプロセスを解き明かそうとするのが行動経済学の主眼のひとつです。
意志決定で経済活動を分析することからも、行動経済学が注目を集めています。
売れる仕組みを追求するマーケティングは行動経済学の実践です。
また、商品の企画も行動経済学を追求するものです。
経済学の考え方は、ダイエットしている太めの人が「ケーキは食べない」とするのが「自制的」
同じ値段なら「量が少ないのより、量が多いほうを選ぶ」のが「合理的」
ゴールテープを切るのは「相手を押しのけてでも自分が切る」というのが「利己的」
しかし、行動経済学の考え方は、ダイエットしている太めの人が「今日だけはOK」とケーキを食べるのが「ほどよく自制的」
同じ値段なら「量が多いより、少ない方を選ぶ。こちらの方が品質がいいのでは?」というのが「ほどよく合理的」
ゴールテープを切るのは「相手の手を取って、仲良く一緒にゴール」というのが「ほどよく利己的」
さまざまな揺れ動き、たえず矛盾した動きをみせるのが「人間の心」です。
これまでの経済学では人間を「ホモ・エコノミクス(経済人)」と定義してきました。自制的に、動く人間だとしたのです。
ですが、人間はしばしば非合理的で、利己的であるが利他的でもあり、矛盾した行動をとる、というのを前提にしたのが行動経済学です。
次回『序章 経済はひとの「心」で動いている。❷経済学と行動経済学の違いは何か?人間は実際にはどう動くのか注目する』
2023年6月25日 長尾景虎 臥竜