BTSの「原爆Tシャツ」騒動が起きても、韓流ブームが打撃を受けない理由
2018/11/13 09:01
「日本のファンを愛してます」とか言いながら、やっぱり裏ではそういうことかと怒りに震える方も少なくないのではないか。
韓国の人気グループ、バンタンこと防弾少年団(BTS)のメンバーが昨年、原爆のキノコ雲をデザインしたTシャツを着用していた件である。
この画像がSNSで話題になったことを受け、『ミュージックステーション』(テレビ朝日)がBTSの出演を前日に急きょ中止したが、いわゆる「ネトウヨ」の皆さんの怒りは収まらず、過去にユニセフ協会に飛行船をあしらった看板を持って表敬訪問した画像などを用いて、「原爆の看板を持っていた」というデマまで流される事態に発展しているのだ。
一方、Tシャツをつくったブランド側は、「反日的な意図はない」なんて調子で釈明をしているが、14万人の命を奪い、今も後遺症に苦しむ人たちがいる原爆の写真と、民衆がバンザイをしている写真を組み合わせている以上、どういう理屈をつけても原爆投下をポジティブに表現しているのは明白だ。また、BTSファンは、ファッションとして1回着用しただけで大騒ぎしすぎだと擁護しているが、他のメンバーが原爆をあしらったブルゾンを着用していた画像も出回ったり、ナチス風のステージ衣装が問題視されたりと、次々と新たな「不謹慎」が指摘されている。
このようになんともしっくりこない「火消し」のせいもあって、ネトウヨの皆さんの怒りはさらにヒートアップ。近年の韓流ブームもこれで失速する、と見立てているメディアも出てきた。
ただ、個人的には、これからどんなにBTSが日本の歌番組から追い出され、紅白歌合戦から締め出されたところで、韓流ブームにそこまで大きなダメージはないと思っている。
「ブサヨク発見! こいつの過去の反日発言を洗い出して徹底的に攻撃しろ!」と鼻息が荒くなってしまうかもしれないが、そういうイデオロギーな話ではない。
むしろ個人的には、あんなふざけたTシャツを着たグループなど二度と日本に来てくれなくていいとくらい思う。が、いくらその怒りをぶちまけたところで、それでBTSや韓流を支持する人たちの気持ちになんの揺らぎもないという「現実」がある、と申し上げたいのだ。
●自分たちの愛するものと、歴史は「別」
今年1月、『なぜ女子中高生は「韓国カルチャー」にハマったのか』という記事の中で詳しく述べたが、今の韓流ブームの下支えをしているのは、ヨン様や韓流ドラマにハマったシニアや奥様世代ではなく、女子中高生などの若い女性たちである。
彼女たちは、タッカルビなどのグルメ、「Kビューティ」の名のもとで売られる「エチュードハウス」などの韓国コスメ、そしてTwiceやBTSというK-POPスターたちの、インスタやYouTubeをフル活用するプロモーションにハートをガッチリわしづかみにされている。
この世代の最大の特徴は、自分たちの愛するものと、日本と韓国の間に横たわる歴史問題を全く切り離している点にある。
それを象徴するのが、昨年10月に政府が行った「外交に関する世論調査」だ。ここで韓国に対して「親しみを感じる」と回答したのは、男性が32.2%だったのに対して、女性は42.3%と多いのだが、さらに断トツで多いのが、18~29歳。50.6%と半数以上が「親しみを感じる」と回答しているのだ。
一時期よりも落ち着いたとはいえ、ニュースで韓国の「反日」や「従軍慰安婦」問題が取り上げられれば、「国交断絶!」「韓国人は来るな!」という怒りの声が溢れている。幼いころからスマホやネットでそのような情報に触れている世代にもかかわらず、だ。
これこそが、今回の「原爆バンザイTシャツ」で韓流ブームが失速しないとみる理由の一つだ。BTSを支持して、今の韓流ブームを牽引している若い女性たちは、基本的に「愛国」と「韓国カルチャー」を完全に切り分けている傾向が強い。
このような女性たちにどんなに「あいつらは反日だぞ」「こんな連中を応援するなんて非国民だ!」と迫ったところで、「あんなチャラそうな男と付き合うことは許さん!」と娘の彼氏を否定するお父さんのように、「うざい」の一言で片付けられてしまうだけなのだ。
韓流ブームは打撃を受けるのか(写真提供:ゲッティイメージズ)© ITmedia ビジネスオンライン 韓流ブームは打撃を受けるのか(写真提供:ゲッティイメージズ)
●「あれはあれで、しょうがないじゃん」という見方
その分かりやすい例がつい最近、SNSで話題になっているあるBTSファンの方だ。「国よりもK-POPのほうが大事」と明言するこのファンは以下のようなツィートをした。
「日本の戦国時代にいっぱい人が死んだって言われたって昔すぎてどうでもいいじゃん? 原爆も同じだよ まだ戦国時代よりは新しいから少しむごく感じるだけ そのうち原爆無双とかいってイケメンのゲームになるよ 人間なんてそんなもん そんなことより今のバンタンを楽しむよ」
個人的には、罪のない市民が犠牲になった「戦争犯罪」を戦国時代と一緒にするのは全く同意できない。広島の惨劇を思えば正直、「怒り」もこみ上げる。だが、その一方でかばうわけではないが、このファンの方が、このようなものの言い方をする背景もなんとなく理解ができるのだ。
今回の騒動で、多くの日本人が「いくら日本を恨んでいても原爆のような大量虐殺兵器を正当化するなんて絶対に許せない」と怒りの声を上げているが、その一方でこのファンの方のように、「原爆」というものを終わったことで、「あれはあれで、しょうがないじゃん」と割り切ったものの見方ができる人が増えているのだ。
2015年、NHKが全国で「原爆意識調査」を行なったところ、広島に原爆が投下された日を知っている人が30%しかいないことが話題になった。厳しい言い方だが、多くの日本人にとって原爆はもはや忘れても構わない「過去」となっているのだ。
実際、今年の8月6日もテレビでは原爆慰霊式典より、ボクシング協会のトラブルメーカー「男・山根」をうれしそうに取り上げていた。
細かい日にちとかは忘れても、日本人の中にはちゃんと原爆は許されないことだという思いは受け継がれているさ、と反論をする人たちもいるが、現実には「許されないこと」という概念さえ揺らぎつつある。その「悲劇」という概念も揺らいできた。
同じNHKの調査では、「アメリカが原爆を投下したことをどう考えていますか?」という質問をしたところ、「やむを得なかった」と答えた人が10年に39%、5年後にはこれが増えて41%となっている。この傾向は広島市の方が顕著で、15年の「やむを得なかった」は44%、「今でも許せない」(43%)を初めて上回った。
どこかの国のようにいつまでもネチネチと被害者ぶっていてもしょうがない、日本人は未来志向だと言えば聞こえはいい。
だが、先ほども述べたように、原爆は非戦闘民を大量虐殺した明確な戦争犯罪だ。ナチスのホロコーストをユダヤ人の皆さんが決して「やむを得なかった」などと言わないように、いわゆる南京事件を、中国の方たちが「あれはしょうがない」などと口が裂けても言わないように、日本人も断じて原爆を「容認」などしてはいけないはずだ。
●日本と米国の間で「真逆の結果」
戦後70年を経て、日本人は「あれで戦争が終わった」「戦争を始めた日本にも責任がある」と驚くべき「もの分かりの良さ」によって「しょうがない」と受け入れているのだ。
これはかなり異常なことだ。なぜかというと、加害者側でさえ、70年も経過をすれば原爆の非人道的な側面に気付き、罪悪感に苛(さいな)まれているからだ。
67回目の「原爆の日」に、原爆の投下を命じたトールマン元大統領の孫が初めて平和式典に参列して、14万人という尊い命を一瞬で消し去った史上最悪の「大量殺戮兵器」を、祖父が使ったことについて、いったいどう考えているのかと読売新聞が尋ねたら、「私は米国の教育を受け、原爆投下は早期終戦のためと教わった」と答えたことからも分かるように、かの国では原爆はアメリカンジャスティスの象徴だった。
実際、調査会社ギャラップが戦後50年に実施した調査では59%が、戦後60年の調査では57%が原爆投下を支持していた。
だが、これが変わってきた。近年のネット調査の結果では、18~29歳の若年層では45%が「間違っていた」と回答して、「正しかった」と回答した41%を上回った。
なぜ被害者である日本の若者の間では「しょうがない」が増えているのに、加害者である米国の若者が「間違っていた」と真逆の結果が出てきたのか。
いろいろな理由があるが、個人的には「議論」が大きいと思っている。
●モヤモヤした結論
先日、『ワイドナショー』(フジテレビ)にメンタリストのDAIGOの弟で現役東大生の松丸亮吾さんが出演して、今の大学生は政治的な話をすると、何か危ないこと、いけないことをしているような気がして、そういう話をする人は敬遠されると言っていたが、実はここに尽きる。
よく言われるが、米国では、学校教育の中に当たり前のようにディスカッションが取り入れられている。原爆投下についても、米国は「核大国」である以上、「核は戦争を終わらせるものであるやむなし」というのが前提にあるが、本当にあれがいい判断なのかどうだったのかなんて当たり前のように議論をするのだ。
ところが、日本は小学校から大学まで、当たり障りのない意見を出し合う「話し合い」しかされない。歴史の教科書にも戦争はいまだに、被害や年号など事実のみが記載され、データとして学ぶだけで「評価」はスルーされる。あの戦争がなんだったんのか、原爆を落とされたことは、我々が悪いのか、米国が悪いのかという深い議論はしない。
「戦争が悪い」とか「あの悲劇は繰り返さないように」というモヤモヤした結論で片付けられる。
70年以上、建前的な議論しかしてこなかったのだから、原爆が落とされた日が忘れられるのも、「あれはしょうがない」という容認派が増えていくのも、ある意味当然と言えば当然の話なのだ。
●今後も韓流ブームは続く
このようにある意味、「おおらかな国」である日本の中でも、輪をかけておおらかになってきているのが、韓流ブームを牽引している若い女性たちだ。
彼女たちからすれば、従軍慰安婦問題も徴用工問題も、そして原爆でさえも「昔はいろいろあったけど、今ごちゃごちゃ言ってもしょうがないじゃん」という位置付けなのだ。
そんな韓流好きの皆さんに、「韓流スターは陰で日本の悪口を言っているぞ」「あいつらは原爆を喜んでいるぞ」とどんなにしつこく説き伏せたところで、彼女たちの「韓国カルチャー」に対するロイヤリティーを崩すことができるわけがない。むしろ、「ネトウヨが昔のことを根にもって、いつまでもゴチャゴチャ言うからよその国と仲良くなれないんじゃない」と先鋭的な韓流ファンになって「分断」が進む可能性のほうが高い。
ネトウヨの皆さんからすれば怒り心頭だろうが、残念ながらまだしばらく韓流ブームは続くのではないか。
(窪田順生)