みちくさ茶屋

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読書記録「建てて、いい?」中島たい子

2008-06-20 | book

久々に読書記録。
ずいぶん前の小説ですが。

「建てて、いい?」中島たい子

中島さんはうまい。
「上手い」のではなく、「巧い」。
こういう作家さんって、
案外いないんじゃないかと思う。
個人的な思い入れやセンチメンタリズムで
書いているのではなくて、
明らかに、エンターテイナーとしての
仕掛けに徹底しているのを感じる。
プロだなあ、と感心する。

彼女はもともと脚本家さんなので、
場面展開やセリフまわしがすごくスムーズ。
ほどよくこじゃれていて、嫌味がなくて、
なおかつ、ちょっとコメディタッチだ。
ごてごてと飾りつけない、シンプルな魅力。
お菓子にたとえるならチーズケーキのような、
上品で奥深いルックスと味わいがある。

前作「漢方小説」「そろそろくる」が
女性の身体がテーマだったので、
てっきり「この人は女のメンタルとフィジカルについて
書き続ける人なんだな」と思っていたのだが、
その次に「この人と結婚するかも」でカラダから離れ、
結婚の次は「家」ときたか!
次は出産とか育児なのかなあ。

ストーリーを簡単に言うと、
30代の独身女性が一軒屋を建てるまでの
あれこれがつづられているんだけど、
思い悩むさまや、現実の壁をどう乗り越えていくか、
読みながらまるで、仲のいい女友達の話を
聞いているような気持ちになった。
「建てて、いいよ!」と背中を押したくなるような。

まあ、現実は彼女のようにはいかないだろう。
なにかと話がウマすぎるし、
設計士さんが結局ゲイではなかったというオチには
正直興ざめした。そんな設定、必要あったのか?
だけど、それでも納得させられてしまう面白さが
この本にはあって、それは中島さんのウデなんだろうと思う。

「彼の宅急便」という短編も収録されているんだけど、
好みで言うならこっちのほうがスキ。
別れた恋人からの荷物が届くまで、待っている間の
主人公の葛藤や行動に、目が離せなかった。
そしてラスト、思わずクスリと笑いながら、
人生って、じたばたしながら(させられながら?)
日々過ぎていくけど、
でも案外こんなもんだよね、
おかしいよね、笑っちゃうね、っていう
気持ちいい脱力感が得られた。

中島さんは私のひとつ年上で、
同年代の親近感みたいのがわきます。

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