みちくさ茶屋

いらっしゃいませ。どうぞごゆるりと。

映画「君の名は。」感想【ネタバレ満載】

2016-09-23 | movie

息子とふたりで「君の名は。」観てきました。
すごく良かったので、久しぶりに映画の感想など。

※ネタバレ満載です。
まだ知りたくないよという方はご注意ください。




さて。


いきなり本題ですが、
この映画で何がいちばん良かったかって、
ふたりがちゃんと会えた
ってことに尽きると思います。

「片割れ時」に対面を果たしたふたりが、三葉が名前を書こうとした瞬間にまた離れてしまう…
このとき私、「やっぱり運命って変えられないってことなのかな」と悲しくなったのでした。
主題歌が「前前前世」というからには、来世でまためぐりあってお互い気づくってオチなのかなーと。
でもちゃんと会えてよかったーー(゚ーÅ)

起承転結の「転」あたりでようやく、瀧と三葉には3年の時間軸のズレがあることがわかるんだけど、「なんで入れ替わっているときにスマホ画面やカレンダーで気が付かなかったのか?」という疑問は湧きますね。
でもたぶんこれって、入れ替わってるときは「夢(夜見るやつ)」みたいな状態だからなのかなと。
夢見てるときって、辻褄が合わなくてもけっこう受け入れちゃうし、時代とか自分の年齢さえもよくわかないというか気にならないし。

そして、そういうことも含めて

人は忘れてしまう

というのがこの映画の大きなテーマだったんじゃないかと思うのです。

夢ってすごく、あいまいで、一生懸命覚えていようと思っても、朝起きて「この世界のリアルな自分」の活動が始まったとたんに、消えてしまう。
人に「こんな夢を見たよ」って話そうとしても、うまく伝わらなかったり。

現実世界でもわりとそういうところがあって、人の記憶なんて本当に危ういものです。
最後のほうで奥寺先輩が言った「瀧くんと一緒に岐阜に行ったときのことをあんまり覚えてない」というようなセリフが効いてるなと思いました。

それでも、それでも……

DNAに沁み込んだ記憶は、ふとしたときに出現する
とも、思うのです。


自分(の脳?)では忘れたと思っていることも、どこか奥底では完全に消去はされてなくて。
「初めて会うのに、なんだかずっと知ってる人みたい」とか、「初めて来たのに、なんだかなつかしい場所」とかって、それこそ「前世」の遠い記憶なのかも。
自分でもわからないけどどうしてこんなに気になるんだろう?っていうのは、きっと理屈じゃないところで求めていることなんだから、素直に従っていいんだなと……映画を観終わってあらためてそう思いました。


まあ、私がちょっと足をバタバタさせちゃったところを言えば、
手に名前書こうって言ったのに、なんで「すきだ」って書くんだよ~~! しかもひらがなで~!
それじゃあ、「スキダ君」じゃないかー、ちゃんと「好きだ 瀧より」まで書きなさいよ。
そして三葉も、なんで瀧がそれ書いてるときに見ないんだよー。あっ、黄昏時で暗かったのかしら。

あと、「スマホの日記でやりとりする」のは、アナログなおばちゃんには心配で心配で。
スマホ日記はそれはそれでいいとして、ちゃんと「交換日記」のノート作らないとさー。
スマホなんて、人間の記憶より危うくてモロいものよ。電池切れるだけで使えないんだから。
案の定、彗星が落ちたあと、三葉の日記は消えちゃうし……って、このへんは、ノートでも文字がどんどん消えていっちゃったりするのか。

でもそういう細かいところはどうでもいいんですよ、だってファンタジーだから。
「ご都合主義」って意見もいくつか目にしたけど、都合よくいくのがファンタジーだから。
ご都合主義ばんざい、ハッピーエンドでよかった!
終わってシアターを出たとき、入口で次の回を見るために並んで待ってる人たちに「良かったよ! いやほんと、良かったよ!」って言ってまわりたいくらいでした。


組紐とへその緒のリンクも素晴らしかったし、中学生だった瀧が三葉とそんなに背が変わらないところ(片割れ時に対面したときは、瀧のほうが背が高い)など、ひとつひとつがていねいに描かれていて、一秒も目が離せなかったです。
なんといっても映像が美しすぎてため息が出る。
電車やふすまなど、扉が開くときのスライドが何度もアップになって、すごい躍動感だった。
畳の目の細かさ、網戸のリアルさ、雨の日のアスファルト、目を奪われるような紅葉……数えきれないくらい「もう一回観たい!」と思う風景がたくさんあります。
テッシーが三葉(中身は瀧)と作戦会議している部室(?)も、あふれかえる小道具や壁の張り紙など、一時停止してじっくり見たい。
余談だけど、この「美しい映像(動画)を一時停止してじっくり見たい」という欲望は、ジャニヲタ癖かもしれないなぁ…


映画は基本的にひとりで見るのが好きなのですが、たまに誰かと一緒に行くと、終わってから話をするのがまた楽しいですね。
ロッテリアに寄ってお茶しながら、映画について息子と少し語りました。
息子が「三葉が3歳年上ってことだよね」と言っていたのが面白かった(笑)
そうだね、それってなんかちょっと、いいよね(*^^*)

私は奥寺先輩と司くんがくっつくのかなーと思ってたけど、そんなに安直じゃなかった。
先輩は誰と結婚したのかなあ。

それと、私が「瀧の声、神木くん合ってたね」と言ったら突然息子が
「始まってすぐに気が付いたんだけど、サヤちんの声優さん(悠木碧さん)、すっごいいっぱいアニメで声やってる人で、ポケモンとか妖怪ウォッチとかまどか☆マギガとか▽▲〇※☆□……!!!」
と止まらなくなってしまい、それも面白かった。
アニメ映画の声って声優じゃなくて俳優や女優になりがちなので、アニヲタの息子には興奮ポイントだったみたいです。

もうひとつ、瀧の友人「高木くん」が、「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」のポッポみたいだったと息子が言っていて、家に帰ってから調べたらキャラクターデザインが同じ方なんですね。納得。


ロッテリアを出たあとは、ふたりでカラオケに行って「前前前世」を熱唱しました。
映画を観たあとにこの歌詞をかみしめると、また味わい深いです。


それにしても、日本のアニメーションは本当に素晴らしい。
こんな作品を13歳で見ることができる息子を少しだけ、うらやましいなと思います。



これ、公式サイトのトップ画面にもなっている絵だけど、本編にこんなシーンはなくて……この階段、大人になってやっと出会えたふたりが言葉を交わす場所だったんだね(^-^)




アナと雪の女王

2014-08-13 | movie
やっとブルーレイで自宅視聴。
とても良かった。
「真実の愛」の力を発揮した関係性が、
恋人ではなく姉妹というところがグッとくるね。


どのキャラクターもよかったけど、オラフのことを考えると涙が出てきてしまう。
アナを助けたのは、事実上オラフではないか。
「真実の愛」がいったいどういうことなのか、
アナに教えたのもオラフではないか。

「アナのためなら溶けてもいいよ」と笑うオラフ、
本当に溶けてしまうんだと思ってぼろ泣きしてしまった。
それって真実の愛じゃん!?
オラフがアナにキスすればいいんじゃないの?


が、その涙をぬぐう間もなく、
たいしたダメージなく元気なオラフを見て安心。
最初から最後まで、何度も相当悲惨な状態になってるのに
あっというまに回復してしまう不死身のオラフ。すてき。

ラストの「専用の雪雲」を作ってもらったのも
すごくよかったな。

声優担当したピエール瀧さん、グッジョブ!



世界一美しい本を作る男

2014-03-02 | movie


「世界一美しい本を作る男」という映画を観た。

ドイツの出版社シュタイデル社を率いる、
ゲルハルト・シュタイデル氏のドキュメンタリー。
彼はクライアントと徹底した打ち合わせを繰り返し、
編集、レイアウト、印刷、製本、すべて一貫して行う。
紙一枚、インクの種類に至るまで、一切の妥協をしない。

興味深いドキュメンタリーだったのだが、
「俺は商品じゃなくて作品を作ってるんだ!」
という言葉に、ちょっとした引っ掛かりというか、
そのまますとんと受け入れられない違和感のようなものをおぼえた。


彼の言うところの商品と作品の違いはなんだろう?
芸術性ということ?
でも「商品」として世の中に受け入れられて売れなければ、出版社は成り立たないし。

と思っていたら
「売れる本も作るよ。そのお金で好きな本を作る」
とも言っていて、うーん、ということは、「売れる本」が彼の「商品」の定義?
「作品」は売れなくてもいいという前提なのかな。

などと考えながらガンコオヤジの職人技を見ていたのだが、
ラストでいろんな刷り上がりのゲラを並べて
「こっちが○○で、こっちが△△のインクを使ってるんだ。
あそこの□□のインクが一番いい匂いがするだろ?」
と言ってるのを聞いて
「あー、そこはわかるよ!」とうなずいてしまった。
そういう本の愛し方って、共感するなぁ。


ところでこの映画、横浜の「ジャック&ベティ」という映画館で見たのだが、
こういうミニシアターってすごくすごく久しぶりだった。
どこか奥のほうにしまいっぱなしだった感覚をちょっと思い出して、
たまにはこういうの、ちゃんと引っ張り出さないとなと思った。

フライヤーコーナー、ちゃんと見てくるの忘れた。残念。


「幸せのちから」

2013-06-13 | movie

「いい映画」というのは、感動するとか画像が美しいとか、いろんな要素があると思うけれど、
「どのタイミングで観たか」ということが実はとても重要な気がする。

昨晩、TBSの水曜プレミアムで「幸せのちから」を観た。
序盤、特に思い入れもなく観ていて、主人公クリスが駐車違反で警察に一泊拘留されるあたりで
「あれっ、私これ観たことある」と気がついた。
つまり、観たことないと思って観始めたのである。

クリスには5歳の息子がいるのだが、
奥さんが出て行ってしまっていて、父子家庭だった。
クリスは警察署から奥さんに電話して息子を明日まで預かってくれと懇願する。
奥さんはクリスに愛想をつかしており、
「俺の子だから俺がひきとるとかえらそうなこと言っといて何よ、知らないわよ」
ってな対応である。
私はそのシーンを初回で観たときに
「親が家にいられないとき幼い子供をどうするかは古今東西たいへんな課題である」
と思った記憶があり、それで印象的だったのだろう。

でもそのシーン以外はまったく覚えていない。
もしかしたら、以前テレビでやっていたときにそこまで見て
「つまらないな」と見るのをやめたのかもしれない。

しかし、昨日はおもしろかった。
内容について細かいことを書くのは控えるけど、
どのシーンもどのセリフもどの登場人物も興味深かった。
私は瞬きも惜しいくらいこの映画に引き込まれた。

クリスはそこそこ実力がある。
しかし、時折、ヌケている。ばかなこともしてしまう。
そして、考えられないくらいのラッキーに遭遇する一方で、
目もあてられないくらい間が悪い。
基本的に人が好いので、いろんな人に広く愛される一方で、
それゆえに、偉ぶってるヤツにこき使われたりする。
断ったり手を抜いたりもできず、
それで損をしたりもする。

ネタバレなしの前提で感想だけ言うと、
ラストで私は号泣した。
「泣いたからいい映画」というわけではないけれど、
私はクリスをほんとうの友達みたいに思って見守っていたので、
「あたしもお金ないけどご馳走するよ! 何が食べたい?」って
抱きつきたい気持ちでいっぱいだった。

私がこの映画でクリスから受け取ったこと。
それは、絶望してはいけないという決意だ。

映画の中でクリスがそう言っているのではない。
私が勝手にそういうふうに、クリスからもらったのだ。
クリスはどんな状況に陥っても決してうなだれなかった。
いや、もちろん何度も落ち込んでいたけど、それでも必ず、何かをしていた。
ふさぎ込んで立ち止まったり、八つ当たりもしなかった。とにかく動いていた。
ガッツとユーモアがいつもあった。そして息子を、心をこめて愛した。
寝る場所もなくなって駅のホームで座り込んでいるとき、
息子と「タイムスリップごっこ」してるシーンも良かったな。

私にとって、この映画は、ちょうど今フィットする作品だったと思う。
このタイミングでの出会いに、感謝したい。



おおかみこどもの雨と雪(ネタばれあり)

2012-10-08 | movie
この映画を見ようと某ビルに入ったら、斉藤由貴さんに遭遇しました。
突然のことで、一瞬目があったときはわからなかったけど、娘さんに「手芸屋さん行ってみる?」と言っている声で確信しました。やっぱり一般人と違ったオーラが出てるなぁと思いつつ、「お母さん」としての斉藤由貴さんを拝見して心温まりました。探し物はなんですか?

で、お母さんを見たあとはお母さんの映画、「おおかみこどもの雨と雪」。
※ネタばれありです。

この映画、評判は良いと聞いていたものの、見るつもりはなかった。
キャラクターの絵がアニメっぽくて。いや、アニメなんだけど、なんて言ったらいいのかなぁ、ちょっと萌え系が強い感じがしたし、私は細田監督の「サマーウォーズ」にはさっぱり入り込めなかったので。
でも、この映画、とにかく映像がすばらしい。
空や草原や川の流れも、雨に濡れるクモの巣も、ガラス瓶などの小物も、時々はっと息をのむほど美しい。
最初に抵抗のあったキャラクターの萌え的な雰囲気も、その背景があまりにも見事ですぐ慣れた。ストーリーを語る前に、ビジュアルだけでも何度も惹きこまれ、うっとりと溜息をつき、映画館の大きなスクリーンで観てよかったと思ったことを特筆したい。

さて、この映画、どの層をターゲットにしているのかなというのが最初の疑問。
公開が夏休みだったし、絵の感じとかファンタジックな設定だけ聞いたら、親が小学生くらいの子供といっしょに観に行っちゃうと思うんだけど、これは完全に大人の映画だと思う。まあ、解釈の問題で、小学生が見てもそれはそれなりに楽しめるからいいんだろうけど、私個人の感覚では子供に見せたくないなという場面がふたつほど。
ちなみに、私の息子(小3)も興味がありそうだったのだが、なりゆきで私ひとりで観た。連れて行かなかったことを怒るので、ないしょである。
主人公花は19歳の大学生。一橋大学をモデルにしているらしい。優秀である。
優秀な大学の中でも、花はさらに勉強家だ。奨学金で大学に通い、まじめに授業に出席している。
花は恋をする。しかし彼(最後まで名前が出てこない)はおおかみおとこだった。
人間の姿をしていたおおかみおとこが変身するシーン、本編の前に「妖怪人間ベム」の予告がやっていたので亀梨くんに見えて仕方なかった。妖怪人間とおおかみおとこ。近しいものがある。
しかし声は大沢たかおなので、通じてたかおを感じた。どうでもいいことだが私は大沢たかおが好きだ。

冬の夜、待ち合わせ場所におおかみおとこは来ない。店が閉店してもなお来ない。小説をちら見したら、彼が現れたのは夜中12時をまわっているので、推定だが6時間は待たされている。しかし花は怒らない。顔をあげて笑っている。ここんとこはちょっとイラッとした。怒れよ!
そしておおかみおとこの告白。自分はニホンオオカミの末裔であり、半獣であると。花はおおかみおとこを受け入れる。「怖いかい?」と尋ねるおおかみおとこに「ううん、あなただから」と身をゆだねる。
「好きになった人に奥さんがいただけよ!」と同じく「好きになった人がおおかみおとこだっただけよ!」という論理である。ちょっとウッフンな場面なので、お子ちゃまにはどう説明したらいいのかしら、他のお母さんたちはどうしてるのかしら。5歳くらいだったら逆にスルーできるところだが、9歳の息子に見せられないシーン、その1。

ふたりは一緒に暮らし始め、花は身ごもる。本来ならばここで「学校はどうする?」「生活費は?」「どこで産んでどうやって育てる?」と危機になるところであるが、ふたりは素直に喜び、つわりに苦しむ花のために、おおかみおとこはキジを狩ってきて(買ってきて、の変換ミスではない。狩ってくるのだ)キジうどん(?)を作ってくれたりするのである。
ええ? キジ? こんな都会にキジが…? なんて言うのは野暮かもしれませんが単純な驚き。

そして花は、「おおかみの姿をした赤ん坊が出てきたらお医者さんが驚くから」と自宅でこっそりと子供を産む。おおかみの姿でもいい、という、これまた受け入れ体制。愛だな。
このあたりかなりはしょられているのだが、ひとりめを出産したあと、年子でもうひとり子供を産む。
これが、娘の雪と息子の雨である。
えーと、だいぶ急展開でしたけど、おふたりはご結婚されたんですか? 

そして下の子が赤ん坊のうちにおおかみおとこが突然死んでしまう。身体にキジの羽がついている。またキジ? けっこう人通りの多い場所だったんだけど、そんなところにキジいるの? しかも、買い物の袋がふたつ、玄関に置かれたあとだ。なぜ部屋に入らないでキジ狩りに行ってしまったのだろう。スーパーの鶏肉じゃだめだったのだろうか。そして、ゴミ収集車に回収される遺体…… むごい。むごすぎる。かなり引きずる。
ここが、私が息子に見せたくないシーンその2である。

こんな過酷なことがあったにもかかわらず、花はその日のうちに悲しい現実を受け入れ、「がんばって子供を育てるからね!」と彼に誓う。ほんとにもう、いったいどれだけ受け入れ体質なんだ。
花はシングルマザーになるのだが、大学を辞めざるを得ない。アルバイトにも行けない。おおかみおとこが残した貯金(っていうか、そんなに貯められるほど稼いでたの?)で食いつないでいる。
もう一度聞きますけど、おふたりはご結婚されたんですか?
「彼」は運転免許証を持っている。「おおかみおとこであることを知らない親戚に育てられた」という説明もある。
「実は半獣」とはいえ、それは誰も知らなかったことで、「本籍」があり、職について賃金を稼いでいた彼は、人間としてのいろいろな権利や身分を持っていたんじゃなかったのかな。
子供たちの出生届を出していたから児童相談所の人も様子を見に来たんだろうし。
だったら生活保護とか、母子家庭が受けられる援助があると思うんだけれど、花はそのあたりはあえて手を出さない。そこは受け入れないのか? オオカミになるのがバレちゃうかもしれないから健診には行けないにしても、手続き上のことはできたはずだ。
でも、育児の大変さはよく描かれていた。時々オオカミになるぶん、さらに手がかかるだろうけど、まあ「にんげんこども」もあんなものだ。毎晩夜泣きするし、家具によじのぼったり、食べ物ぐちゃぐちゃにしたりするし。雪がシリカゲルを飲んでしまったとき、小児科に行くべきか獣医にかかるべきか迷うシーンは、なるほどそうだよね、ってうなずいてしまった。

花とふたりの子供、雪と雨は、人目を忍び、田舎に引っ越して暮らし始める。
しかし、花たちを助けてくれるのはやっぱり「人」である。
がんこものだけど根のやさしい爺さんや、世話好きのおばちゃん、うんちく語るおじさんたち。「田舎」イコール「善良な人々」という、いきなりトトロの世界に放り込まれたようなステレオタイプな設定にちょっと鼻白んだものの、けなげな花を思いやる温かな周囲の目に、やはり救われる。

韮崎の爺さんが「なんで笑ってるんだ、笑ってたって解決しないぞ」というニュアンスのこと(セリフを忘れた)を言うのだが、これがちょっと新鮮だった。そのとおりである。「つらくても笑っていなさい」と父親に教えられた花は、「父親の葬式でも笑っていて、親戚に叱られたの」とまた笑う。それは叱られます。「笑ってたって解決しない」というのは私も爺さんに一票だが、花の場合、やっぱり彼女は笑うことで苦難を乗り越えてきたのだろうし、また、そんな彼女の笑顔に、爺さんみたいに心を動かされて手を貸したくなる人が集まるのだろうと思う。花の父親の教えは、あながち間違いではない。ただし、それは花の愛らしさとキャラクターによるところが大きい。そしてじいさんの声を担当している菅原文太がまたいい。

子供たちはすくすくと育つ。
雨の細い身体や、お母さんの膝であまえてるところとか、うちの息子みたいだなぁと思ってみていたのだが、小学3年生に上がったあたりで私が熱愛している(デスノートの)エルみたいになってきて、「あら!」と喜んでいたらだんだん顔つきがりりしくなり、5年生になったら声まで変わってすっかり私好みの男の子に育っていた。「萌え系だから見ない」とか言っておきながら萌えた。不覚。

やがて、子供たちはそれぞれの道を選びはじめる。
つまり、「おおかみとして生きるか、人間として生きるか」という選択である。
本能のままに生きていた雪が、恋(めいたもの)を知り、人間を選ぶのと対照的に、「おおかみなんかいやだ」と泣いていた雨が、自ら山の主になるべく人間の姿を捨てるのは見ごたえがあった。
でも、10歳の雨がおおかみとして巣立ってしまうのはやっぱりせつないなあ。
成長していく雨に、花は少なからず、恋人だったおおかみおとこの面影を見ていたはずだし。
雨の幼少時代に我が息子を重ねあわせていたので、ここは花の「いかないで」という気持ちに共鳴した。優等生だった花の中の、いじらしいわがまま、女心母心が見えて、ここは非常に良かった。
でも、後ろ髪をひかれつつも雨は去ってしまう。花は涙をこぼす。
……が、やっぱり、数分で受け入れちゃう! すごいね、花!
崖の上から聞こえてくる雨の雄叫びが、花の願いどおり雨が「しっかり生きて」いる証なのでしょう。

全体を通しておもしろかったので、ラストは期待しすぎたかな。意外にあっさり終わってしまった。
6年生の雪があまりにも大人っぽいのも、ちょっと残念。草平はとてもいいキャラだったけど、彼のお母さんが「赤ちゃんができたらもう草太のことはいらない」というあたり、もうちょっと状況描写がほしかった。それは草平の被害妄想では?という気もするし、そうであってほしい。

雨は山へ行き、雪は全寮制の中学に進学した。
花は広い古民家でひとり暮らす。
19歳で子供を産み、大学を辞め、都会から離れた花が、これから本当にやりたかったこと……おそらく、育児に追われて中断してしまった何かを、やり遂げてくれたらいいと思う。
映画の中では、花が何の勉強をしていて何になりたかったのかが描かれていなかったけど、彼女にはきっと何か志があったはずだ。
乱暴な言い方になってしまうかもしれないが、女は男によって、そして妊娠出産によって、時として進んでいた方向を転換したり立ち止まったりを強いられる。それがいい、悪いということではない。そういう必要性が生まれることがあるという話だ。
子育てがひとだんらくした、これからの花の人生が、実りゆたかであることを祈りたい。
……でも実際、にんげんこどもが巣立つのは、もっともっと時間がかかるよなぁ(笑)。



BIG FISH(ティム・バートン)

2012-02-08 | movie
友人から、「映画つき年賀状」をもらった。
サイトにアクセスして、コードを入力すると
映画を1本観られるというもの。
なかなか時間がとれなかったのだが、期限ぎりぎりになんとか
視聴できた。

30タイトルもある映画のうち、私が選んだのは
ティム・バートンが監督した「BIG FISH」。

ネタバレはしませんが、
前半、「あ、選択まちがったかな」と思った。
でも違う映画に変えることはできないので、
まあせっかくだしと思いながら観ていた。
時折現れる美しい景色や、インパクトのある登場人物に
魅入られながらも、しかし内容は退屈で、
中盤にさしかかったころには、流し観しながら
ブログとか書いてました、ごめんなさい。


ところがー!!!
ラスト20分、いや、15分か。
私は物語に夢中で入り込み、
泣いて泣いて泣きまくった。
もう、感動の嵐。涙、涙ですよ。
こんなに感動して泣ける映画、久しぶりに見た。


すべてがラストにぎゅううううっと凝縮された映画でした。
もしテレビでやってたら途中でチャンネルを変えてしまったろうし、
ツタヤでわざわざレンタルはしないタイトルだったと思う。
「映画つき年賀状」だったからこそ、最後まで鑑賞して
こんなにいい涙を流させてもらいました。
友人に感謝です。

映画つき年賀状、すてきな贈り物だなぁ。
私も映画好きの友人にはこれで出すことにしようかなと思います。


神様のカルテ 感想

2011-10-14 | movie
「神様のカルテ」観てきました。
ざっくり感想を。(ネタバレありです)

原作は読まず、予備知識なしで鑑賞しました。
まず印象的だったのが、気になっていた櫻井翔くんのおばさんパーマが、意外にしっくりきてたこと。テレビで予告を見ていたこうたろうが「翔君、頭どうしたの?」と聞いていたくらいだったのですが(笑)。
「櫻井翔」ではなく「栗原一止」として映画に入り込んでみると、あの野暮ったさがむしろなじんでいるように思えました。一止を演じるには、アイドルのオーラはオフにしないといけないもんね。

物語の最大のテーマは医療と生死だと思うのですが、重くなりすぎなかったのはやはりのどかな長野が舞台だったからでしょうか。
キーパーソンとなるがん患者の安曇さんを見ていて、こんなふうに、最期に信頼できる医師のもとで、好きな風景の見える場所で逝くことができるのは幸せだなと思いました。
安曇さんが危篤状態に陥ったとき、延命はしないでほしいという彼女の願いを聞き届けた一止。本音を言えば、延命したかったよね… 医者として、人間として、なんとかこちらの世界にとどめさせたいと思うよね。でもそこをこらえて、安曇さんが天に召されるのを見守ったのは、結果としてやっぱり正解だと思う。きっと安曇さんも感謝していることでしょう。

御獄荘の建物や住人は、きっと原作ではとても魅力的に描かれているんだろうなぁ…と思いながら観ました。原作を読んでいない者としては、ちょっと説明不足というか、「えっ、旅館?」「えっ、誰?」と最初に不思議に思うことばかりで、理解するのに時間がかかりました。あとから原作を読みましたが、うーん、この素敵な設定とキャラクターを、医療ネタとあわせて2時間でまとめるのはやっぱり難しかったかも。連ドラでやってくれたらもっとしっかり背景がわかって、登場人物にも感情移入ができて、ものすごく感動しただろうな。映画だけ見ると学士の旅立ちは唐突だったし。

あと、映画では、医局長がなぜそんなに一止に入れ込んでいるのかがよくわかりませんでした。内視鏡の検査してるのを一度見ただけなのに、一止の医師としての技量や人間性まであんなに高く評価するのは不自然。
ラストの妊娠オチも、「花男Fかよ!」とややしらけました。原作にはないオリジナルエピソードですが、あれはいらなかった気が。
「死んでいく命があって、生まれてくる命がある」ってことが言いたかったのかな。「ちゅらさん」もそんなエンディングでしたね。ベタだなぁ。

なんだかケチつけるようなことばかり書いてしまいましたが、私の最大の感動ポイントは、一止が若い看護師に「私にはできない役割を君は果たしている」と諭すところ。実際に患者を診断したり手術を施したりするのは医師だけれど、それをサポートする看護師のこともちゃんと見ていて、敬意すらはらっている一止の人となりを感じたし、上司にこんなふうに言ってもらえたらうれしいよなあって、その看護師の立場になって泣いてしまいました。

それから、「夫婦っていいものだな」とも思いました。恋人とはちょっとちがう、「家族」というパートナーに、お互いがどれだけ癒され助けられているかが伝わってきて。
原作ではもう、一止がハルのことをかわいくてかわいくてたまらないというようなことばっかり書いてあって、幸せなふたりだなあとほのぼのしました。

音楽もすばらしかったです。
へたに嵐の歌を主題歌にしなかったところが二重丸。(「大奥」はそのへんがちょっと気になった)ピアノの旋律の美しさが、この映画をとても上品なものにしていたと思います。

個人的には、柄本明さんがいい味だしてて好きでした。
タイゾーもすっかり役者だねぇ。

ということで、久々に映画館での鑑賞。いい時間でした。


映画「ノルウェイの森」感想

2010-12-17 | movie
「ノルウェイの森」を観て来ました。
(ネタばれありです)

以下、ざっくりした感想。

・糸井重里が出てきたのでびっくりしてたら、細野晴臣も出てきてまたびっくり。
・直子役に菊池凛子は、生命力が強すぎ。儚げな感じが欲しかった。
・水原希子(緑)は可愛い。原作のイメージではもっと髪が短いほうがしっくりきたと思う。
・直子と緑のキャスティングが逆でも良かったかも?
・突撃隊がハマり役! すばらしい! なのにあっけなくいなくなってさびしかった。
・レイコさんが歩きタバコとポイ捨てをしていたのがショック。
・マツケンの真っ白なブリーフがまぶしすぎる件。
・ハツミさんがよかった。男2人に問い詰めるシーンも迫力があった。
・体張ったな~、マツケン!
・やっぱり小説の映像化ってむずかしいのね……と思った次第。


あれだけ長くて濃い小説を、2時間の映像でおさめるというのが
そもそも無理な話なんだと思うけど、
状況説明もなしに場面がぽんぽん飛ぶので、
原作を知らない人には「???」な映画だと思う。
原作ファンとしては、監督の解釈に首をひねるところが多々あった。
原作にまったく忠実にしろとは言わないまでも、
「そのオリジナル場面、どうなの?」ってところがたくさんあったし。
「深く愛すること、強く生きること」というのがこの映画の
テーマらしいけど、全体を観た感想として、この映画の言わんとするのは
「愛と生」ではなくて「性と死」であったように思う。


私がいちばん納得いかなかったのが、最後のレイコさんとワタナベのシーン。
レイコさんに「魅力的なしわ」がないことは残念だけど、
まあ、しわのある女優さんを探すのは難しかっただろうからそこはのむ。
原作では、2人だけで直子の「淋しくないお葬式」をするんだけど、
映画ではそこがばっさりカット。いきなり訪ねてきたレイコさんが泣いてるだけ。
そして、その淋しくないお葬式のあと、レイコさんが
「ねえ、ワタナベくん、私とあれやろうよ」ともちかけ、
ワタナベが「僕も同じことを考えていたんです」と同意しての性交渉が原作で、
私はこの場面はすごく大切なところだと思うのに、
映画ではレイコさんが一方的に「お願いがあるの。私を抱いて」と懇願。
ワタナベはそう言われて「ホントにやるんですか?」と乗り気じゃないし。
あれじゃあ、レイコさんがあんまりにもかわいそうな扱い。
シャワーのシーンもいらなかったと思う。
このセックスはふたりにとって「再出発」の通過儀礼だったと思うし、
だからこそ、レイコさんが最後に言った「幸せになりなさい」という言葉が
生きてくると思うんだけど。


あと、これも解釈の違いだと思うけど、
ラストで緑が「今どこにいるの?」と言うシーン。
「僕はどこにいるのだ?」とワタナベが自問自答する重要な場面。
ここで緑が、満足気に笑ってるのが「え?」と思った。
笑うとこだっけ? なにかこう、もっと、うかがうような心境じゃないのかな。


それから、直子の自殺シーンはちょっといただけない。
宙に浮いた足、というえぐさは置いておいても、足が汚なすぎ。
あれをやりたいなら、もっときれいに足を撮ってほしかった。
そうか、私は、直子が美しく撮られていないことが気に入らないのかも。


時間的に仕方ないのかもしれないけど、
緑がお父さんの看病でどれだけ力を使っていたか、
それがほとんど描かれていなくてあっさりしすぎなのと、
緑の突飛な感じがあまり出ていないので、
彼女の魅力も半減してたかなと思う。
なんだか、普通に可愛い女の子って感じだった。


全体のトーン、世界観は好きだった。
ビートルズの「ノルウェイの森」もぴったりマッチしていてよかったと思う。
トラン・アン・ユン監督の作品は、私は「シクロ」しか観ていないけど、
やはり「邦画」というより「アジア映画」っていう感じだった。
(それはそれで良かった。)


それにしても!
映画を観るにあたって、本を読み返してみたんですが、
これを最初に読んだのって二十歳くらいの時だったんです。
あれからさらに20年が経っている……ということに愕然としました。
人がひとり、成人するだけの年月なんだなぁと。
当時つきあっていた彼と夢中で読んで感想を言い合ったりしていたので、
その人のこともすごく思い出しました。
彼もきっと、この映画を観るだろうなと思います。
私のことも、少しは思い出してくれるかなぁと、
ちょっとあまずっぱい気持ちになったりも。
そして、20年たってもぜんぜん古臭くなく、面白く読ませてくれる村上春樹って
やっぱりすごい!とあらためて思いました。


おくりびと

2009-04-01 | movie

やっと観ました。
あんまりネタバレ見ないようにしてなるべく情報ナシで視聴。
※でもこの記事はネタバレ満載です。

もっくんはすっごくよかった、ホントによかった、広末涼子もかわいかったし、余貴美子さんもいろっぽかったし、銭湯のおかみさんも常連のおじさんも、杉本哲太もみんなよかった、よかった、と思うんだけど、あの映画でピカイチにいいのって、私、やっぱり山崎努だと思うのよ!!
あのぞんざいな感じ。それでいて、ものすごく信頼できる感じ。

全体の感想を先に言うと、すごく「見やすい映画」でした。
一度も退屈しなかったし、どのシーンもいろんな角度で楽しめました。なぜ見やすいのか? それは、テーマの重さに比べて、からり、さらりとしているからかも。
そして、山形の美しい日本風景やあったかい方言で、田舎の良さを見せつつも、ディティールはかなりハイセンスで都会的。もっくんと広末が住んでいる家(元は親がお店をやっていたところ)なんて、吉祥寺とかのバーでありそうなくらい。
このオシャレ感、さらっと感が、この映画の場合すごく成功していると思います。

通してびっくりだったのが、広末涼子演じる美香。
彼女はウェブデザイナーで(フリーなのかな?)、夫である大悟が「チェロのローンがあって……」と口ごもっているのを聞いて「100万円? それくらいなら、私がウェブデザイナーの仕事でなんとかするわよ!」と明るく即答。ひええ。言ってみたい、そんなこと。しかしそのローンが100万円ではなく1800万円と知り、さすがに眉をひそめますが、リストラに遭った大悟が「あ~あ、イナカ(山形)に帰ろうかなあ」などとぼやいているのを聞いて今度は「賛成。お義母さんの遺してくれた家なら家賃もいらないし」と享受。ええええっ、東京暮らしにも仕事にも未練はないの!? そして山形暮らしがスタートするわけですが、ここでも彼女、実にいきいきとお料理したりお花に水あげたり銭湯行ったりして、なんちゅうええ嫁や!(TロT) あんた、幸せもんだよ、大悟!

もうひとつ別の意味でびっくりだったのが、東京にいるとき、ご近所さんにいただいた蛸が生きていて「きゃ~、生きてるぅ~(>.<)どうしよう、大ちゃん!」って半べそだった美香が、山形で「お隣さんにいいただいたの~。今日つぶしたばっかりだからおいしいわよ~」と、にわとりを鍋の具に用意していたこと。あれ、トサカついてましたよね……生きてる蛸よりこっちのほうが「キャー」だと思うんだけどなぁ。山形暮らしで強くなったんだろうか?

あと、本木雅弘ってホントにかっこいいんだな、男前なんだな、って思いました。まだまだ好青年って感じで。
映画内、もっくんのヌードシーンが何度か。もっくんの裸って、昔からよく披露されていた気がするけど(「シコふんじゃった」とか。紅白でもたしかお尻出してた)肉体美!っていうんじゃなくて、きちんときれいに年を重ねてきてる体だなぁって。もちろん、年齢を考えるとすごく若々しいです。
大悟の仕事(納棺師)について知ってしまった美香が、ケンカ腰に「私は今まで何も文句言わなかったわよね。東京を離れ、仕事も辞め、あなたについてきたのは、あなたを好きだからよ」という内容のセリフがあるのですが、大悟をもっくんが演じていることによりそれもすごく説得力がありました。

チェロのメロディも、本当に素敵でした。久石譲さんって、いったいどういう人なんだろう……彼がこの世に残している功績って計り知れないものがあります。もっくんが奏でるのが、子供用の小さなチェロっていうのもまたじんわりくるものがありました。やっぱり、楽器のある人生っていいな。今まで100回くらいそう思って、そのたびギターを取り出してはみるのですが(笑)

顔にいっぱいキスマークをつけて旅立つおじいちゃん。
ここが一番好きだったな。
「あはははは!」なんて笑われながら、「パパ、ありがとう」って泣かれながら。
女たちの唇の跡は、たくさん愛された証。なんて美しくて幸せな死化粧だろうと思いました。

次はたぶん、あのヒーローものを観ます。
ぽちっとな。


西の魔女が死んだ(映画の感想)

2008-08-12 | movie

 映画を観て来ました。梨木香歩さんのロングセラーであるこの小説、2年前に読んでものすごく感動したおはなし。あえて再読せずに視聴に臨みました。
(ネタバレは極力なし……のつもりです)

 美しい風景、すてきなおばあちゃん、主人公まいのナイーブさ、どれをとってもイメージぴったりで、根強い原作ファンもこれなら納得だろう、という感じでした。おばあちゃんの住む家の中にあるデティールひとつひとつのセンスが良かったし、洗濯したシーツをラベンダーの上に広げて干したり、ワイルドストロベリーのジャムを作ったりするシーンは、ここが日本であること、現代であることを忘れてしまうような、憧憬を覚えさせる映像でした。
 ……なのですが、どういうわけか、原作で得られたのとはまったく違う感情がわきあがる仕上がりになっていたように思います。私だけかな?
 原作では、ほとんど「まい」の目線なので、おばあちゃんの存在があまりにも圧倒的であり、力強くて「安心」でしたが、映像となるとどうしても俯瞰で映ってしまうせいか、ちょっとしたときに見えてしまうおばあちゃんの弱さ、寂しさが伝わってきて、なんだかとても悲しい気持ちになってしまいました。
 学校という場になじめない、デリケートな中学生のまいが、山で大好きなおばあちゃんにいろんなことを教えてもらいながら成長していく……というのが物語の主旨ですが、映画では、「山でひとり暮らすおばあちゃんが、孫娘に会えてとてもうれしくて、いつまでも一緒にいてほしくて、でもそれがかなわなくて……」というおばあちゃんサイドの心情を強く受け取れてしまった気がします。(私がトシを取ったということなのかもしれませんが。)
 映画を観終わってからもう一度原作を読んでみたのですが、セリフ回しなどがびっくりするくらい忠実なのに、終盤でまいがおばあちゃんとちょっと仲違いするシーンが、少し違うものになっていました。うーん、ココが肝心なところだと思うんだけどな。
 まいは、少女ゆえの純粋な残酷さで、おばあちゃんにキツイことを言ってしまうのですが、原作でおばあちゃんがそれをおおらかに受け止めているのに対し、映画ではものすごく気まずいことになっていて胸が痛かったです。また、ラストでおばあちゃんがまいに残したサプライズも、原作では素直に「おばあちゃん、スゴイ!」と感動したのですが、映画では「もしかしてこれは、おばあちゃんがゲンジさんに頼んだのかも」というウラ読みをしたくなってしまいました。
 ここまで書いておいてナンですが、原作と映画のどちらが良い、悪いということではなく、メッセージの相違なのだと思います。どちらも、大事なことが描かれていて、観る人それぞれにそれぞれのことを感じさせる傑作でした。
 余談ですが、観終わったあとにトーストが食べたくなる映画でした~!!