10月半ばの気持ちよい日曜日のこと。
相方とこうたろうが1時から小学校のグラウンドでサッカー練習。
天気がいいので、私もいっしょに出ることに。
図書館で借りている本が3冊あって、1冊まだ読み終わっていなかったので、
近くの川で読んで、本を返して、買い物して帰ろう、と思っていた。
私はよく川で本を読む。
せせらぎの音を聞きながら読書するのが好きなので、いつもは川っぺりまで降りていくのだが、
この日は陽射しが強かったため、遊歩道になっている桜並木の木陰にあるベンチに座った。
右隣にバッグを置き、本を広げる。しばらくすると、背後でわあっと歓声が上がった。
意図していたわけじゃなかったのだが、そのベンチはちょうど小学校のグラウンドの真向かいで、
後ろを振り返ると子供たちがサッカーをしているのがよく見えた。
私は左後方に顔をそらして、こうたろうを目で追った。うむうむ、がんばっているじゃないの。
時間にして3分ほどだったと思う。
愛する息子の姿を愛で、空は青いし、好きな場所で好きな本を読んで、
ああ、私ってしあわせ……
と、川のほうに向き直って読書を続けようとしたときのことである。
はっ!!!
バッグがない!!!!!
さーーーっと頭が真っ白になる。私は飛び上がってあたりを探し回り、交番に走った。
本を返してスーパーで買い物して帰るだけの予定だったので、小さなトートバッグに
財布と携帯と鍵と本、あとはティッシュが入っているくらいのものだったけど、
なによりも財布は困るのだった。
この財布、結婚して最初のクリスマス・イヴに相方がくれたプレゼントなのだが、
その日彼は、仕事の帰り道、プレゼントを車にのせたまま崖から落ちるという事故に遭った。
相方は傷だらけになりながらも、なんとかプレゼントと携帯だけ持ち出して崖をのぼったのだ。
……という、愛と命と思い出のつまった財布なのである。
お金なんかどうでもいいから、財布は返してください、お願い!
そう思いながらも、まず、交番から電話でクレジットカードとキャッシュカードを止めた。
次に、ドコモショップへ行って、携帯のGPSから場所を特定できないか確認に行った。
が、携帯の電源が切られていてアウト。とりあえず携帯も使用できないように止めてもらう。
私は絶望しながら交番に戻って、被害届けの書類を作成してもらった。
名前や住所などを聞かれ、私の口述をおまわりさんが書きとめていく。
職業をたずねられたとき、私の雇用形態は少し変わっていて説明するのがめんどうくさかったので
「パートです」と答えたら、「パートの場合は無職ね」と言われ、めちゃくちゃ不本意だった。
パートったって立派に仕事してんだろ!
100歩ゆずって仕事とみなされないんだとしても、「主婦」じゃいかんのか!
もし私が事故とか事件にまきこまれても、「無職」って書かれちゃうんだなぁ…と、ちょっと落ち込む。
そして、バッグの大きさや財布の色など、持ち物の形状について聞かれる。
「携帯のストラップはどんなものがついていた?」と聞かれたので
「オフロスキーの…」と答えると、おまわりさんが
「オフロスキー! 知ってるよ、みぃつけたでしょ!!」とうれしそうに言うので、
ちょっと場がなごんだ。
次に、持ち物にそれぞれ値段をつけなくてはならなかった。
おまわりさん「バッグは?」
私「1000円くらいです」
おまわりさん「財布は」
私「財布… 値段なんかつけられないです。一千万円出したって…(涙)」
おまわりさん「あ、あのね、思い出は入れないでね」
書類を作成したあとは、現場検証。
そのあと、グラウンドにいる相方のところへ行き、事情を説明して謝りたおす。
相方は怒らなかった。むしろいたわってくれて、自分だけ練習を切り上げて私に同行してくれた。
とりあえず図書館に行って、置き引きにあって本を2冊返せなくなった旨を伝える。
「お気の毒でしたね」と許してもらえると甘い考えでいたら、
「じゃあ、弁償してください」と、てきぱき手続きが始まったので軽くへこんだ。
しかも、お金ではなく、現物を買って返さなくてはならないのだという。
2冊のうち1冊は、どう考えても絶版になっているであろう古い本だったので
「アマゾンのオークションかなんかで落とさなくちゃいけないのか…」とがっくりきた。
こんな晴れた真昼間、のどかな川沿いの遊歩道で、
ほんの3分後ろを向いているすきに、置き引きにあうなんて。
戸塚にそんな悪い人がいるなんて。
ショックだった。
いい思い出がいっぱいの川を汚された気がした。
人通りの少ない場所では決してない。
私が後ろを向いたわずかな時間と、悪いやつが通りかかったのと、
周りに人がいなかった、そういう条件がたまたまぜんぶ一致してしまったのだ。
守護霊なんていないよ、守ってくれなかったもん。そう思った。
ところが図書館から家に帰って、5分後。
警察から電話があって、財布が出てきたのである!!!
うおおお、守護霊、いた!!!
現金はぬかれていたけど、免許証も保険証もカード類もほとんど入っていた。
駅ビルの近くの交差点に落ちているのをおまわりさんが見つけてくれたらしい。
「よかったね。財布が、財布が、って言ってたもんね。一千万円!って」
おまわりさんが苦笑する中、ありがたく受け取って帰宅。
そして帰宅して2分後、また電話がかかってきて、今度はバッグごと出てきたとな!
おまわりさんの捜索により、携帯も本も、ティッシュ(はどうでもいいけど)も戻ってきた。
ああ、よかった。オフロスキーも帰ってきたし、本もオークションを探さなくてすんだ。
その日のうちに解決したことで、本当に安心した。
今まで警察なんてあてにできないと思っていたけど、ちゃんと動いてくれるんだなあ。
「人を見たらどろぼうと思え」ってことわざがある。
そんなふうには思いたくないけど、こんなこともあるってことは肝に命じなければ。
しかし、私のバッグを盗んだどろぼうめ、あんな悪いやつ、絶対に不幸な目にあうに決まってる。
不幸になれ、不幸になれ!!
とか思っていたのだが、その夜、別件でお姑さんから電話があったので事の顛末を話すと、
「それは大変だったわね。でもね、犯人をうらんではだめよ。そういうことする人っていうのは、
さびしい人なの。だから、その人の幸せを祈ってあげなくてはね」と言われてしまった。
で、できないっス……。
電話を切ったら、相方がお茶碗を洗ってくれていた。
忙しい一日だったけど、マザー・テレサのような母親に育てられた相方のやさしさに感謝した。
相方とこうたろうが1時から小学校のグラウンドでサッカー練習。
天気がいいので、私もいっしょに出ることに。
図書館で借りている本が3冊あって、1冊まだ読み終わっていなかったので、
近くの川で読んで、本を返して、買い物して帰ろう、と思っていた。
私はよく川で本を読む。
せせらぎの音を聞きながら読書するのが好きなので、いつもは川っぺりまで降りていくのだが、
この日は陽射しが強かったため、遊歩道になっている桜並木の木陰にあるベンチに座った。
右隣にバッグを置き、本を広げる。しばらくすると、背後でわあっと歓声が上がった。
意図していたわけじゃなかったのだが、そのベンチはちょうど小学校のグラウンドの真向かいで、
後ろを振り返ると子供たちがサッカーをしているのがよく見えた。
私は左後方に顔をそらして、こうたろうを目で追った。うむうむ、がんばっているじゃないの。
時間にして3分ほどだったと思う。
愛する息子の姿を愛で、空は青いし、好きな場所で好きな本を読んで、
ああ、私ってしあわせ……
と、川のほうに向き直って読書を続けようとしたときのことである。
はっ!!!
バッグがない!!!!!
さーーーっと頭が真っ白になる。私は飛び上がってあたりを探し回り、交番に走った。
本を返してスーパーで買い物して帰るだけの予定だったので、小さなトートバッグに
財布と携帯と鍵と本、あとはティッシュが入っているくらいのものだったけど、
なによりも財布は困るのだった。
この財布、結婚して最初のクリスマス・イヴに相方がくれたプレゼントなのだが、
その日彼は、仕事の帰り道、プレゼントを車にのせたまま崖から落ちるという事故に遭った。
相方は傷だらけになりながらも、なんとかプレゼントと携帯だけ持ち出して崖をのぼったのだ。
……という、愛と命と思い出のつまった財布なのである。
お金なんかどうでもいいから、財布は返してください、お願い!
そう思いながらも、まず、交番から電話でクレジットカードとキャッシュカードを止めた。
次に、ドコモショップへ行って、携帯のGPSから場所を特定できないか確認に行った。
が、携帯の電源が切られていてアウト。とりあえず携帯も使用できないように止めてもらう。
私は絶望しながら交番に戻って、被害届けの書類を作成してもらった。
名前や住所などを聞かれ、私の口述をおまわりさんが書きとめていく。
職業をたずねられたとき、私の雇用形態は少し変わっていて説明するのがめんどうくさかったので
「パートです」と答えたら、「パートの場合は無職ね」と言われ、めちゃくちゃ不本意だった。
パートったって立派に仕事してんだろ!
100歩ゆずって仕事とみなされないんだとしても、「主婦」じゃいかんのか!
もし私が事故とか事件にまきこまれても、「無職」って書かれちゃうんだなぁ…と、ちょっと落ち込む。
そして、バッグの大きさや財布の色など、持ち物の形状について聞かれる。
「携帯のストラップはどんなものがついていた?」と聞かれたので
「オフロスキーの…」と答えると、おまわりさんが
「オフロスキー! 知ってるよ、みぃつけたでしょ!!」とうれしそうに言うので、
ちょっと場がなごんだ。
次に、持ち物にそれぞれ値段をつけなくてはならなかった。
おまわりさん「バッグは?」
私「1000円くらいです」
おまわりさん「財布は」
私「財布… 値段なんかつけられないです。一千万円出したって…(涙)」
おまわりさん「あ、あのね、思い出は入れないでね」
書類を作成したあとは、現場検証。
そのあと、グラウンドにいる相方のところへ行き、事情を説明して謝りたおす。
相方は怒らなかった。むしろいたわってくれて、自分だけ練習を切り上げて私に同行してくれた。
とりあえず図書館に行って、置き引きにあって本を2冊返せなくなった旨を伝える。
「お気の毒でしたね」と許してもらえると甘い考えでいたら、
「じゃあ、弁償してください」と、てきぱき手続きが始まったので軽くへこんだ。
しかも、お金ではなく、現物を買って返さなくてはならないのだという。
2冊のうち1冊は、どう考えても絶版になっているであろう古い本だったので
「アマゾンのオークションかなんかで落とさなくちゃいけないのか…」とがっくりきた。
こんな晴れた真昼間、のどかな川沿いの遊歩道で、
ほんの3分後ろを向いているすきに、置き引きにあうなんて。
戸塚にそんな悪い人がいるなんて。
ショックだった。
いい思い出がいっぱいの川を汚された気がした。
人通りの少ない場所では決してない。
私が後ろを向いたわずかな時間と、悪いやつが通りかかったのと、
周りに人がいなかった、そういう条件がたまたまぜんぶ一致してしまったのだ。
守護霊なんていないよ、守ってくれなかったもん。そう思った。
ところが図書館から家に帰って、5分後。
警察から電話があって、財布が出てきたのである!!!
うおおお、守護霊、いた!!!
現金はぬかれていたけど、免許証も保険証もカード類もほとんど入っていた。
駅ビルの近くの交差点に落ちているのをおまわりさんが見つけてくれたらしい。
「よかったね。財布が、財布が、って言ってたもんね。一千万円!って」
おまわりさんが苦笑する中、ありがたく受け取って帰宅。
そして帰宅して2分後、また電話がかかってきて、今度はバッグごと出てきたとな!
おまわりさんの捜索により、携帯も本も、ティッシュ(はどうでもいいけど)も戻ってきた。
ああ、よかった。オフロスキーも帰ってきたし、本もオークションを探さなくてすんだ。
その日のうちに解決したことで、本当に安心した。
今まで警察なんてあてにできないと思っていたけど、ちゃんと動いてくれるんだなあ。
「人を見たらどろぼうと思え」ってことわざがある。
そんなふうには思いたくないけど、こんなこともあるってことは肝に命じなければ。
しかし、私のバッグを盗んだどろぼうめ、あんな悪いやつ、絶対に不幸な目にあうに決まってる。
不幸になれ、不幸になれ!!
とか思っていたのだが、その夜、別件でお姑さんから電話があったので事の顛末を話すと、
「それは大変だったわね。でもね、犯人をうらんではだめよ。そういうことする人っていうのは、
さびしい人なの。だから、その人の幸せを祈ってあげなくてはね」と言われてしまった。
で、できないっス……。
電話を切ったら、相方がお茶碗を洗ってくれていた。
忙しい一日だったけど、マザー・テレサのような母親に育てられた相方のやさしさに感謝した。