みちくさ茶屋

いらっしゃいませ。どうぞごゆるりと。

読書記録

2012-07-22 | book
よく図書館にリクエストして読みたい本を取り寄せてもらうのですが、引き取りに行ったときに、あっ、これも読みたい、これも、これも、となってしまい、そんなつもりじゃなかったのにたくさん本を抱えて帰ることがあります。

貸出期間2週間で読み切れるかなー?と思ったのですが、なんだか狂ったように2日で読んでしまいました。
食べるのが好きなひとがストレスでつい食べ過ぎてしまうような感じで、現実逃避したくてつい一気に読みすぎた。胃もたれみたいに、脳もたれしてしまったので、ちょっとここで消化。
あんまりいい読み方じゃありませんね。気を付けます。


1.「三面記事小説」角田光代
おもしろかった! ある意味ホラー。ぞくぞくします。
実際の事件をもとに紡ぎ出された角田ワールド。
6つの短編から成り立っているのですが、それぞれの扉にベースとなった事件の新聞記事が90度角度を変えて薄く載っており、1話目は新聞記事を読んでから小説に入ったのですが、それだとオチがわかってしまってつまらないので次からは最後に読むようにしていました。
犯罪者たちのそれぞれの事情や心情、状況…… 
角田さんは本当にうまい。
登場人物の狂気の中で、「本当に悪いのは誰なんだろう?」と考えさせられました。


2.「七十歳死亡法案、可決」垣谷美雨
3月に図書館にリクエストして、やっと番がまわってきました。
近未来、政府が「日本国籍を持つ者は全員70歳になったら安楽死させる」という法案を出し、それが2年後にせまっている…というところから物語は始まります。
テーマはずいぶんとブラックなのですが、内容というか、テンポがかなり軽くて登場人物の言動に首をかしげることが多く、「これはどうなの?」と疑問出しの附箋をぺたぺた貼りたいような箇所がところどころにありました。
ネットでの書評を読むと「読後感はさわやか」という意見がよく見られますが、私は、「えーっ、そんなぁ」ってドッチラケでした。あの法案にふりまわされた人々の不幸を思うとやりきれません。破産した人も自殺した人もいるはず。主人公家族それぞれの行く末も、「そんなにうまくいきまっかいな」と鼻白んでしまった。
期待値が高かっただけに、ちょっと残念な作品でした。


3.「きよしこ」重松清
吃音症の先生が主人公の「青い鳥」という小説が良かったよ、と友達に勧められてリクエスト中なので、その前にこちらを読みました。
本文もしみじみとしたけれど、プロローグとエピローグの「君」に宛てた手紙がとてもいいです。
重松さんご自身が吃音症で、「かきくけこ」が言いづらく、子供のころ自分の名前「きよし」を発音するのも苦労されていたそうです。
吃音症の息子を持つ母親から「吃音症なんかに負けるなと手紙を書いてやってほしい」という、返信用封筒入りの手紙をもらったときの、重松さんの心のうちが胸にささりました。
「吃音症なんか」の「なんか」が悲しかった、と。
息子を愛すればこその母親の気持ちと、重松さんが背負った痛み。どちらにも、いろんなことを感じました。


4.「ヘヴン」川上未映子
いじめについての小説だとは知らずに手にとってしまい、残酷なシーンが現れたときに思わず本を閉じそうになりました。でも川上さんの文章はやっぱり魅力的で、もしかしたら最後に晴れ晴れするような展開が待っているのかもしれないと思い、つらい場面はななめ読みしながら完走。
うう、すっごく重かった。大好きな川上さんの小説でしたが、読んだことをちょっと後悔しているくらいです。
途中、いじめにあっている主人公が、いじめサイドの百瀬という少年と1対1で会話する、けっこう長いシーンがあり、ここだけは何度も読み返してしまいました。
いじめられている人間のいいぶんを書いたお話はたくさんあるけれど、いじめる側からの理路整然とした意見(?)をここまで披露しているのはあまりないと思う。
目をそむけながら読んだ小説でしたが、川上さんが、真正面からいじめを「きちんと」描いているのが伝わってきて、作品としては素晴らしいと思います。
でも、ほんとつらい気持ちになるから、読まないで(泣)。


5.「いつから、中年?」酒井順子
「ヘヴン」で相当しんどい思いをしたあとだったので、このコラム集にはずいぶんほっとさせてもらいました。
「おふくろからオカンへ」と「聖子ちゃんという職業」が特におもしろかったです。
ユーモアのある人は、常に冷静な観察眼を持っているんだなぁ。酒井さんに脱帽です。



西向きの窓

2012-07-12 | monologue
6年前、マンションを買うときに、不動産屋がしきりに南向きリビングの2階、3階あたりを勧めてきた。
リビングが南向きなんですよ、というのは売り言葉のひとつらしかった。


でも私は西向きのリビングが欲しかった。
モデルルームの事務室の壁には、部屋の一覧表が貼ってあり、契約の決まったところから作り物の赤い花がついていた。

見れば、ひとつ、ぽつんと西向きの部屋が残っている。

私は不動産屋の言うことをほぼ無視するようなかたちで、この西向きの5階の部屋はなぜ空いているのですかと尋ねた。
ただ空いてるだけです、と不動産屋は答えた。

5階、というのも、なんだかよかった。
幸いなことに、リビングに面した土地には小さな神社があり、この先、目の前に高い建物が建つことはないらしい。
私は即決で、ここにしましょうと夫に告げた。


私がなぜ西向きリビングが好きなのかというと、
夕方の空がきれいだからだ。
きつい西日が去っていくころから、華麗なるショーが始まる。


もちろん、空が毎日きれいなわけじゃない。
そして、毎日夕方に家にいられるわけじゃない。
本当に美しいと思える空を見ることができるのは、一年のうちにほんの数回かもしれない。

それでも、その数回でも、心が震えるような贅沢な時間を味わうことができる。
そのたびに私は、「この空を買ったのだ」と思う。

炊事の手をとめて、テレビを消して、私は空に魅入る。
同じ空を見ることは絶対にできない。たった一度しか現れない、色と模様。

何度か写真を撮ってみたけれど、息をのむような見事な空を、見たままおさめることができない。まったくできない。
撮るそばから、「こんなもんじゃない、全然ちがう」と思ってしまう。

だからブログやツイッターに載せたことはなかったんだけど、さっき保存してある画像を見てみたら、それなりにきれいだったのでたまには載せてみる。
ベランダから撮った、今年6月20日、19時ごろの空です。

でも、「こんなもんじゃない」です、全然(笑)。



あの世のはなし

2012-07-04 | kid
道を歩いているとき、こうたろうが「地獄」の説明をしていて、空を指差した。

ちょっと違和感があったので「地獄って空にあるの?」と聞くと
「違うの? じゃあ、どこにあるの」と聞き返される。

「地獄に落ちる」というからには、地面より下のイメージだよなぁ。

妹に話したら「地中だよ、私はそう思ってたよ」とな。
うーん、地球の真ん中にはマグマとかがつまってるんじゃなくて
ぽっかり穴があいててそこに地獄があるってこと?


考えたことなかったけど、地獄ってどこにあるんだろう。
天国はわかりやすいよね、空のもっともっと高い上のほう。
そうなると、もはや地球を離れてしまって、宇宙まで飛んで、
限りない世界に行っちゃうから、かなりスピ系に落ち着く。
短絡的でおおざっぱだけど、それでまあ、納得はできる。
でも、地中となると、宇宙全体に比べて地球はあまりにも小さすぎて、
そんな狭いところでは現実的に何もできないんではないかという気がしてしまう。

そもそも、人間は、天国と地獄のどっちかにしか行かないんだろうか。
何十年もある人生の中で、「とても善い人だったとき」と「相当悪いヤツだったとき」というのはおそらく誰しも両方あるし、それは年単位とかじゃなくて、もう時間単位で現れたり引っ込んだりするものじゃないのかな。
その判定は、いったい誰がするの?
判定結果に異議があったら聞いてもらえるの?


臨死体験をした人の話を聞くと、「花畑があって」というのが圧倒的に多い。
これは天国のイメージに近い。
私の知り合いだけで2人もいるから、世界中にはホントにたくさんいるんだと思う。
地獄っぽいケースは、あるのかもしれないけど私は聞いたことがない。
ということは、だいたいの人は天国(っぽいところ)に行くのだろうか。
それとも、死にかけても戻ってこられる人というのはみんな、天国に行くべき善い人なのか。


「じゃあ、どこにあるの?」
こうたろうの問いに、「死んだことがないのでわかりません」と答えた。
「西の魔女が死んだ」のおばあちゃんの受け売りで。
天国も地獄も、あるのかもしれない。ないのかもしれない。
わからないほうがいいのだ。
得体が知れないほうが恐ろしいから。
「善いことをすれば天国に行ける」と褒美を期待するよりも、「悪いことをしたら地獄に落ちる」という訓戒で自重して生きることのほうが、人間には必要なんじゃないかと思う。