みちくさ茶屋

いらっしゃいませ。どうぞごゆるりと。

重版出来(じゅうはんしゅったい)!

2014-09-01 | book
「重版出来!」松田奈緒子



おもしろい、本当におもしろい!!
「どおおおおんっ」という感動が何度も押し寄せてくるコミック。

図書館でなにげなく3冊借りて、1巻を読み終わったところですが、
1巻だけで3回くらい泣かされてしまった。

ジャンルとしてはお仕事モノ。
大手出版社における漫画業界が舞台です。

ヒロインである新人編集者の心ちゃんはもちろん、脇をかためるキャラがすごくいい。




編集長の和田さんにまずツボる。


中盤は社長さんのサイドストーリー。
うんうん、これは日本人が大好きそうなおはなし。
ひとつだけ、当選した宝くじの処理の仕方が腑に落ちなかったけど。


後半、物語がまた心ちゃんからそれて、今度は営業部の小泉くんにフォーカス。
この子、最初はぜんぜんやる気なくて、こんなふうにサエない感じなんだけど↓、




心ちゃんや、他のスタッフと一緒に仕事するうちに
めきめきと音を立てて急成長し、



70ページ後にはこんなにカッコよく!!

はああーー、「漫画のリアル」っていうやつだね(*´▽`*)
目の大きさ変わっちゃってるもんね。
なぜか髪型も急にイケメン風に…

2巻以降はまだ読んでないのでわからないけど、
1巻は全体を通して「どんなふうにヒット漫画を生み出すか」という「制作面」よりも
「どんなふうに漫画をヒットさせるか」という「セールス面」に重点を置いていて
そこがすごくおもしろかった。
それも、「ビジネス戦略のノウハウ」ではなく、
ひとつの作品にかかわるスタッフ全員の「愛情」が満ち溢れていて…
そして誇り高い。本当にすばらしい。


心ちゃんは、お仕事系あるあるの主人公だと思うし、
実際にこんな編集者がいたら出版社もさぞかし心強いだろうけど、
みんながみんな心ちゃんだったらいいのかといったら、それは違う気がする。
いろんな人がいて、いろんな想いがあって、いろんな作品が世に出ていくんだよな。

そして私が一番泣いたのがこのコマ。



信頼している編集さんといっしょに嬉し泣きする。
作家が一生のうち、そう何度も体験できない、
極上の幸福のひとつだと思う。

この「重版出来!」、現在は3巻まで。
今月4巻が出るそうです。




コミック3点

2014-08-17 | book

最近読んでおもしろかったコミック、3点。


「真壁俊の事情」池野恋

「理想の男性は真壁俊!」というりぼんっ子は全国にいて、そのまま大人になって、40歳過ぎてもみんなまだそう思っている傾向にある。
それはとてもピュアですてきなことだと思う。
「真壁君、カッコイイ」って思う瞬間、何歳だろうが、自分も江藤蘭世になれるのだ。そういう能力を女は持っている。
真壁君サイドは何があってどう思ってたの?という、種明かしみたいな感じかな。
りぼんっ子だった私も、今はすっかり真壁君のお母さんに感情移入して「息子萌え」しましたが。
あんな息子がいたら大変よねぇ… 毎日ドキドキしちゃって。



「式の前日」穂積

短編集。ほろりとします。
絵もストーリーも、すごく好き。
表題作も良かったけど、夏だけ会えるお父さんの話や、カラスと小説家の話など、ちょっと不思議で心にささる。



「青沼さん、BL漫画家をこっそりめざす。」青沼貴子

私はすごーくおもしろくて、笑い泣きしながら読んだのだが、ネットで一部読者にかなり叩かれててびっくりした。
私が単純に楽しめたのは、BLモノに関する知識が皆無だったせいなのかも。
プロの漫画家であることを隠してBL漫画を出版社に持ち込みしたら、酷評されて「漫画スクールに出します?」とか言われたり、30年のキャリアがあるのに20代の編集者にダメ出しされて地団太踏んだりのトホホ感、もちろんデフォルメはされているだろうけど「がんばれ! 青沼さん、がんばれ!」と手に汗にぎって読んだ。
何をするにも、最初の一歩というのはハードルの高いものですね。


「はぶらし」近藤史恵

2014-06-12 | book


「はぶらし」 近藤史恵・著


主人公鈴音は36歳独身、脚本家。
ある夜、鈴音のところに、10年ぶりに突然旧友の水絵が電話をかけてくる。
水絵はDV夫と離婚し、職も失い、7歳の息子を連れていた。
鈴音は水絵に「一週間でいいから泊めてほしい」と懇願され…


♪「あなたな~らどうする~?」♪
というところですが、この小説、
「独身で都会のキャリアウーマン」と「離婚したてで子持ちの家なし無職」という
2人の女を対比させながら、いろいろなことを投げかけていると思う。
「他人との距離」というのがたぶんメインテーマなんだけど、
鈴音が水絵親子を通してシングルマザーの子育て事情に気づいていくさまも
興味深かった。

ネットでレビューを拝見すると、「水絵にイライラした」という声がものすごく多くて、
水絵が圧倒的にワルモノになっていたんだけど、うーん、
私は水絵に対してそんなに不快感は覚えなかった。
ただ、彼女はめぐりあわせが悪かったんだなあ、と。
そして、常識のピントがちょっとばかりズレてしまっているんだなあ、と。

タイトルにもなっている「はぶらし」がそれを象徴している。
水絵親子が最初に泊まった夜、鈴音は買い置きの歯ブラシを2本、水絵に渡す。
水絵は後日、新しい歯ブラシを買ってくるのだが、
一回使った歯ブラシを「これ、ありがとう」と鈴音に返すのだ。

えっ、ふつう、新しいほうの歯ブラシ返すでしょ?
というのが一般常識で、鈴音もそこにひっかかるのだが、
しょせん歯ブラシ2本のことなのでスルーしちゃうんですね。

でもこういう「ちょっとしたズレ」こそ、同じ家の中で過ごしていくとなると
ものすごくストレスフルなのだ。
他にも「お風呂のお湯」のエピソードがあって、私はこっちのほうが気になったので
「はぶらし」というタイトルなのに装丁の絵が浴槽なのも「うまい!」と思ってしまった。
水回りってね~、他人と共有するの大変よね~。

歯ブラシにせよ風呂にせよ、そういう小道具がもたらす「ウェット感」の表現が
絶妙だなあとすごく面白く読んだのだが、
読み終わったあとに「え? これで終わり??」と最後数ページ読み返してしまった。
ここまできたら最後までもっとウェットにドロドロしてほしかったなあ。
なんだかサラっとしていて「結局、アレとコレとソレはどうなったんだ?」という疑問が
残ったのが残念。そのへんはご自由にお考えください、ってことなのかしら。

帯や宣伝文句に「ミステリー」とか「サスペンス」という文字が踊っているけど、
女を生きている人にとってはそんなふうに感じられないと思う。
「友達の友達の話なんだけど」と誰かに聞かせてもらうような、
わりとありそうな日常テーマだと思うんだけど、近藤さんご本人の意図はいかに?


よちよち文藝部

2014-05-31 | book
「よちよち文藝部」
久世番子・著




コミックエッセイ。すごく面白かったです。
文豪たちのキャラや背景、作品について、詳しく楽しく解説されています。
ためになったり爆笑したり。
こき下ろしているようにもとれますが、愛ゆえなのね。
愛情と敬意がなかったらこんなの描けませんよ。
大作家センセイたちの人間くささに親近感を覚え、微笑みがこぼれる一冊。

帯に「読んでなくても大丈夫」とありますが、
当然、ここに出てくる作品を読んでたらなお面白いです。
これをきっかけに読みたいなと思ったりして、そういう意味でもお勧めです。



妻が椎茸だったころ

2014-04-20 | book

「妻が椎茸だったころ」
中島京子



ほんとうに久しぶりに、人に勧めたくなった小説。
5編から成る短編集です。


どれもそれぞれ良かったけれど、やっぱり、
表題作の「妻が椎茸だったころ」がいちばん好き。

タイトル見て、コメディなのかな?と思ったけど
ハートウォーミングなしみじみといい話でした。

あとの4作は、ちょっとゾクっとするような
いろんな意味でこわい雰囲気もあるんだけど、
そこも含めてまたおもしろかった。

「ハクビシン」が次点で好き。
これは、一度さらっと読み流したんだけど
ラストを読んでまた頭からじっくり読み直しました。
んー、なんか、うっとりした。
感想として合ってるのかわかんないけど。

あと、本の装丁がすばらしい。
ホントに椎茸を煮詰めたみたいな色合いで、
本自体がおいしそう。

「食感」ならぬ「触感」の伝わる本で、
作り手の愛情をとても感じました。


「勝間さん、努力で幸せになれますか」勝間和代、香山リカ

2013-05-21 | book
「勝間さん、努力で幸せになれますか」
勝間和代、香山リカ

香山リカさんと勝間和代さんの対談本。
私は対談本は好きではないのでほとんど読まないのだが、これは思わず手にとった。

図書館でこの本を見つけたとき、ちょっとした違和感を覚えた。
なんだろう?と思いながら貸出カウンターに持って行ったのだが、最初の勝間さんのまえがきみたいなのを読んでその違和感の正体がすぐわかった。
そうだった、勝間さんは、「努力して幸せになった人」ではなく「努力することが幸せな人」なのだった。なのでこのタイトルは、ちょっぴり的外れと言える。あえて狙ったのかもしれないけど。

香山リカさんの「しがみつかない生き方」が出版されたのが2009年7月。私は精神的に低迷期まっただなかだったので、この本は発売後すぐに読んだ。その最終章に「“勝間和代”を目指さない」という章立てがあって、私は大笑いしてしまった。その後、その章立ては話題に話題を呼び、そこばかりが大きく取り上げられ、書店ではおふたりの本が同じスペースに並んで「勝間VS香山」みたいなポップが掲げられるようになった。そうなると私はちょっと鼻白んだ。香山さんはべつに戦いを挑んだわけじゃないのになあ、と。「しがみつかない生き方」の中で、香山さんは「勝間和代」を否定しているわけではなく、「“勝間和代”」とちょんちょんをつけているのである。つまり、勝間さんご本人ではなく、もっとシンボリックな意味だったのではないかと思う。

しかし! この本で香山さんはかなり戦いを挑んでいる。ちょっと驚き(笑)。企画元のアエラがけしかけたのか、香山さん自身があえて「一般人目線」まで降りたのか。
勝間さんは全体的にひょうひょうとしていて、香山さんはかみつくかみつく。
これってたぶん、女性同士ならではの会話なんだと思うけど、勝間さんが「今日もお友達と集まりがあって、16個5000円のマカロンを買ったんですけど」とか言っちゃうもんだから、即座に香山さんが「そりゃ高くねーか」と食いつく。(注:高くねーかとは言っていない)その後、勝間さんが「私はコンビニで150円のワッフルを食べても幸せ」と言うんだけど、それに対して「150円のワッフルで幸せなら、月収18万円で十分じゃないですか」と、コンビニスイーツを買ってもやっぱり食いつく。

自分でもびっくりだが、私は勝間さんの本はほぼ読んでいる。最初は仕事で必要で、取引先から「読んでおいて」と言われたので読んだ。某著で「インディ(勝間的に自立した女性)になる条件は、年収600万以上稼いで、いいパートナーがいることで、そのパートナーは年収1000万円以上余裕をもって稼げる男」というのを読んで「なんじゃああああ、これは!!!」と驚愕した。頭にきたので、気に入らない箇所に赤線を引いて赤い付箋を貼った。しかし読んでいるうちに、なるほどためになると思う部分も出てくるのだ。そこには黄色い付箋を貼った。1冊読み終えてみると、赤い付箋と黄色い付箋は同じくらいの数だった。取引先の人にそれを見せたら「これ、ちょうだい!!」と切望されて奪われたが、その後仕事につながることはなく、私と勝間さんはご縁がなかった。「なんじゃこりゃ」と「なるほどためになる」を両方味わいながら、若干「カツマー」になりかけていた自分もいる。しかし、なにかの雑誌で「勝間さんの1日のタイムスケジュール」という表を見て、「ムリ!」と瞬時で判断し、はやばやとあきらめてしまった。私と勝間さんは、1時間のあいだにこなせる作業量が圧倒的に違うと悟った。

そんな私であるが、香山さんが「勝間さんが150円のワッフルで幸せだなんて意外。カツマーはそんなこと思いもしない」と言っているのを読んで、「そっかなー?」と思った。私は勝間さんがコンビニで150円のワッフルを買うところも、家で「おいしいわぁ」と食べているところも、見えるように想像できる。彼女はぜんぜん、「高級品が好き、ビンボー臭いものが嫌い」という嗜好ではないと思う。(というか、コンビニのスイーツはビンボー臭くない。150円のワッフルを安いとは私は思わない)勝間さんは「ここを改良したらこのワッフルもっと売れるんじゃないかしら」とか考えて楽しんでしまう人だ。彼女が注目しているのは「自分が購買する商品の値段」ではなく、「自分が働いて手に入れる報酬」のほうだ。蛇足だが、「150円のワッフルで幸せなら、月収18万円でじゅうぶん」というのも違うと思う。人はワッフルがあれば生きていけるわけではない。

勝間さんが冒頭で「私も<勝間和代>のコピーを目指すのは危険だと思う、人のコピーを目指すところに決して幸せはない。勝間和代の生き方ではなく、技術をまねてほしい」と書かれていて、それには「なるほどためになる」に一票だったのだが、そのあとすぐに、赤い付箋の出番がきてしまった。

「私は社会全体が一人の人間だと考えています。自分は社会という一人の人間の小さなパーツです。自分はたまたま右手で、右手で上手にものをつかめるようになると、社会である一人の人間がより上手に作業をできるようになる、そのことが幸せなのです」

って、勝間さんのこういうのを読むと「あーあ」と思ってしまう。右手なんて、人間の体の中で花形中の花形である。勝間さんは自他ともに認める右手でいらっしゃるだろうけど、「いいよな、右手は。俺なんか鼻毛だぜ」とか、「鼻毛ならまだ鼻の役に立ってるじゃん。僕なんて、盲腸でさ…役に立たないどころか、ちょっと暴れるとすぐ切られちゃうんだよ…」なんていう、多種多様なパーツで構成されてるんですよ、体=社会というのは。

香山さんは、そういう私のような卑屈な意見を見事にぶつけている。ここは演技かなあ、と時々思わせられるが、「あ、そうそう、そこのへん、もっと勝間さんに聞いてみて」と香山さんの背中からつぶやきたくなるような箇所がいくつもあった。正直、香山さんがこんなに「フツーの人」だとは思わなかった。なんというか、若い。勝間さんより8歳も年上なのにそう感じさせない。(でも、「マジ焦った」とかいう言葉づかいはちょっとやめたほうがいいと思う…)
ただ、香山さんが自分のことを「怠惰で努力が嫌い」「勉強が好きなんて信じられない」「仕事はただの義務で、喜びなんてない」とかいうのを呪文のように繰り返すのを読んでいくと、これまた「そっかなー?」と思ってしまうのである。
努力嫌いの怠惰な人が、あんなにばんばん著作物を出版できるだろうか? そもそも、医者になんかなれるだろうか? メディアに出続けることができるだろうか? 喜びはないっていうお仕事も、患者さんが「ありがとう」って言ってくれたときうれしかった、って告白(?)しちゃって勝間さんの思うツボだし、本が売れたらやっぱりそこに喜びはあるよね?

一貫して、勝間さんの考え方の構造はものすごくシンプルだ。
「がんばる→成功する」という図式を疑わない。余計なものをくっつけない。
一方、香山さんは、「がんばる→」の、→の先に、さまざまなものを想定する。アクシデントが起きたら? 病気になったら? 自分のことだけじゃなくて他者が原因となって物事が進まなくなったら?
そもそも、「がんばれなかったら?」
勝間さんとしては、「がんばらなかったら成功しないんだから自業自得でしょ」と言いたいんだと思う。勝間さんが冷酷な人なのではない。私は、どちらかというと勝間さんは愛の人だと思う。そうではなくて、勝間さんにはたぶん、「がんばりたくてもがんばれない人」というのが理解できないんだと思う。意味がわからないんだと思う。がんばりたいならがんばればいいんじゃないの?って不思議に思うところだろう。それは勝間さんが悪いのではない。右手は耳漏孔の存在すら知らないかもしれない。物知りの左手さんが「胎児のときのエラの名残でね、意味はないんだけど、時々臭い液体が出ることがあるんだ」と説明してあげても、絶対にぴんとこないはずだ。

私は現在、カツマーでもカヤマーでもないのだが、勝間さんの言うように、「努力することが楽しい」というのは身を持って味わうことがあるし、反面、香山さんがフォーカスする「がんばれない自分が苦しい」ということも感じている。矛盾しているようだが、同じ人間の中でじゅうぶん起こりうることだ。
読みたい小説がのきなみ図書館の予約待ちでなかなか来ないので手を伸ばした対談本だったが、とても興味深く読んだ。フィクションばかりでなく、こんな本に触れるとまた違ったドラマを感じる。


読書記録

2012-10-08 | book

「さがしもの」角田光代
「この本が、世界に存在することに」を改題して文庫化されたもの。
読み終えたときに最初に思ったのが「どうして改題してしまったのだろう?」ということ。
9話から成る短編集だが、どの作品も、このタイトルがばっちりとハマる。
表題作の「さがしもの」と、「ミツザワ書店」がとてもよかった。
図書館で借りた本だけど、これはあらためて購入しようかなと思う。
しかし最後にエッセイがついていて、私はどうしてもエッセイの角田さんが
好きになれないと再認識する。
小説はこんなにおもしろいと思うのになんでだろう? 不思議だなあ。


「ドラママチ」角田光代
続いてまた角田光代。
おもしろかった。特に、表題作の「ドラママチ」には
圧倒的なリアル感があって、ラストで思いがけず涙した。(感動して)
まさか泣くような話ではないと思っていたのでびっくりした。
これも私の好きな短編集。
あー、角田さんのこんな小説、ずっと読み続けたい。
たくさん書いてください。


「株式会社家族」山田かおり
ファッションブランド「QFD」のデザイナー、山田かおりさんのブログを集めたものだが、
山田さん、デザイナーなのにこんなに文章がうまくてすごい。
幼いころからの日常、家族について、周囲のおかしな人たちについて
たんたんと、でもどこか鋭い観察眼で描かれている。
思わずぷっと笑ってしまうものが多い中、亀を助けるお母さんの話は泣けた。
イラストレーターをしている妹の山田まきさんのイラストも相乗効果で、
編集サイドの「作り手の愛情」が感じられる。すごくいい本だと思う。


「すべて真夜中の恋人たち」川上未映子
ゆるやかに物語は始まっていき、なんだかちょっとたいくつだな、と思った頃に
深みが帯びて、心をとらわれて、じんわりとしあわせな気持ちになったあと、
がたんとさびしくなった。読み終わってからも、なんだかずっとさびしい。
ラストのラストは、たぶん、ポジティブな終わり方なんだと思うけれど、
うーん、やっぱりさびしい。いろいろ考えたらまたさらにさびしい。
私は川上未映子さんのエッセイが好きで好きで、たぶん本人のことが好きなんだと思う。
でも私、彼女の描く小説はダメかも…。
ダメというのは、「つまらない」ということでは決してなく、悲しくなっちゃうのだ。
川上さんはとても才能のある作家だと思う。
こんな小説が書ける人は現代にはほとんどいないと思う。
でも私はやっぱり、角田さんとは真逆で、エッセイの川上さんが好き。


「アムリタ」吉本ばなな
事情があって20年ぶりに再読。
内容をまったく覚えていなかったことに驚き(笑)。
当時の本好きの女の子たちにとって、吉本ばななは「通過儀礼」だったんだなと思う。
彼女の作品はあるときまでほとんど買って揃えていたが、
「バナタイム」(2002年)を最後に、私は「よしもとばなな」を読まなくなった。
「アムリタ」を読んで、なつかしい先輩に会ったみたいな気持ち。
でも、たぶんもう私がこの本を開くことはないだろう。
再読の機会を与えてくださったKさんに感謝。



「舟を編む」ほか読書記録

2012-09-09 | book

「舟を編む」三浦しをん
本屋でリクエストしたのが3月、長い待ち時間を経てやっと手元に。
なので、書評はいろんなところで目にしていまっていて、
「少女マンガのよう」というレビューを見尽くしていたので
(というか、制作側もそれを狙ってるよね)
本当にコミックを読むような感覚で、コマ割りまで見えるようでした。
辞書づくりに人生を捧げる人々というマニア度はおもしろいし、
まじめくんと香具矢さんの恋愛がひとだんらくつくあたりまでは楽しくすいすい読めました。
「でもこれ、いろいろうまくいきすぎだよなー」とうがった見方をしはじめたころ、
チョイ役と思われた西岡くんがクローズアップ。
本を一冊通して、私は西岡くんが一番人間味あっていいキャラだったと思います。
著者のひとりの先生に対する態度には、編集者としてそれはないだろう!と引きましたが。

岸辺みどりの登場後、13年の月日が流れたのだとわかるまでに少しかかりました。
その後はラストまで、なんとなくだるだると読み終えた感じ。
やさしくて愛があって、みんないいひとで、いいお話……なんだけど、
なんだろう? 
「ああ、おもしろかった、読んでよかった」という読後の満足感は得られず。
きれいにまとまりすぎてるのからかな。題材が興味深いだけに拍子ぬけしたというか。
本を読むときに「揺さぶられるような圧倒的な何か」を求めてしまう私が期待しすぎなのか。


「ヘルタースケルター」岡崎京子
「揺さぶられるような圧倒的な何か」があるか、という意味では抜群の手ごたえ。
このブログにはあまり漫画レビューを書かないのですが、これは書き残しておきたい。
「原作を読んでみて、映画を観るかどうか決めよう」と手にとりましたが
結論から言って、はい、映像は遠慮させていただきます…
それにしても、羽田みちこの役がどうして寺島しのぶさんなんでしょうか?
これ、若いふつうの子だから成り立っていたキャラだと思うんですが。
そこは映画観て確認しろってことかー。いや、観ないぞ。

漫画だったからというより、「岡崎京子だったから」没頭して読めた作品。
時々「みなさん」という言葉が出てくるんだけど、それが誰なのかを考えると深い。
このちっぽけな私もきっと、りりこの狂気を動かす「みなさん」のひとりだ。
「欲望だけが変わらずそこを通り過ぎ、名前だけが変わっていく」この世界。
キレイになりたい、モテたい、お金持ちになりたい、
その欲望は代償を払わなければ手に入れられないのだろうか。
そして美容整形(りりこの場合はもはやその枠を超えてるけど)ってどうなんだろうね、
これ読むとビビるよね。私、ヒアルロン酸注入は興味あるんだけど、どれくらい安全?


「馬屋古女王」山岸涼子
おもしろかった!!
「日出処の天子」の続編というか、サイドストーリー。
聖徳太子の子供たちのお話なのですが、聖徳太子の死を迎えた際、
それまで隠されていた末娘の出現により、翻弄されていく人々… 
ああ、これ以上言っちゃうとネタバレになってしまう。
文句なしにおもしろいです。
読み終わりたくないよー、ずっと読んでいたいよーと思える、久しぶりに出会えた傑作。
図書館で借りて読みましたが、もう絶版なので、Amazonの中古出品を買おうか検討中です。


青い鳥 ほか読書記録

2012-08-25 | book

「青い鳥」重松清

本好きの友達から「本を読んでこんなに泣いたのは久しぶり」と言われて図書館予約。
ネットで「青い鳥 重松清」と検索すると、

村内先生は、国語の先生なのに吃音(どもり)でうまくしゃべれない。
でも、先生は、授業よりも大切なことを教えてくれる。
ひとりぼっちの生徒の心に、そっと寄り添ってくれる……

というような紹介文がたくさん見られます。
非常勤講師である村内先生と、心に傷を持った生徒との、8つの物語で構成されており、
最初の「ハンカチ」を読んでまず大泣き。
これ、あと7つずっとこの調子で泣きっぱなしかぁ、大丈夫か私?と思いつつ読み進め、
途中から「こ、この先生は……(@_@;)」と、畏怖の念が生まれて涙も乾きました。
ただ「あまりしゃべれなくて、ただ寄り添ってくれる不器用な先生」っていうんじゃなくて、
生徒の気持ちや状況を「すべてお見通し」なんだもの! もう、神の域。人間離れしてます。

「ハンカチ」を読んだとき、
「この本、中学校の入学式で全生徒に配布すればいいのに」って思ったけど、
読んでいくうちに、この本を読むべきなのは子供じゃなくて先生や親なんだなと。
中学生の本音があまりにもリアルで。
重松清さんってオッサンなのに、どうして10代の女の子の気持ちが
こんなによくわかるんだろう……。
娘さんがいらっしゃるのは知ってるけど「娘がいるからわかる」んだとしたら
なおさらすごいと思う。思春期の娘の心がこんなに理解できるお父さんなんて。

でも、こんな先生、ファンタジーだなとも思うんですよ。
村内先生の魅力というか実力というか、短期間で彼のすごさに気づく生徒は希少だと思うし、
先生や保護者から「実はすごい先生」と高く評価されてるっぽい文面がたまに見受けられるんだけど、
現実世界では、村内先生みたいな人って社会でなかなか認めてもらいにくいんじゃないかと思う。
あと、村内先生がカウンセラーではなく「国語の先生」というところもネック。
「進路は北へ」というお話で、成績のいい女子生徒が
「村内先生の授業は何を言ってるかわからなくて困る。受験にもひびく」というような抗議をして
それがとっても「イヤな女の子」みたいに描かれてるんだけど、実際困るよなぁ。
「授業よりも大切なこと」って、そりゃあるけど、受験生にとってはまず授業が一番大切なんだし。

ラストの「カッコウの卵」は、現役中学生ではなく、昔村内先生にお世話になった生徒の物語で、
最初から「こうなるんだろうな」って予想できた展開そのままそうなったのに、
やっぱり感動して泣いてしまいました。重松節にやられた!
でも、村内先生は、教え子に連絡先を明かさないのね。それが悲しかった。
だって、恩師には、この先も、自分がこんなに成長したよっていうのを見てもらいたいじゃん?
それが絶たれてしまうのはさびしいなあ。
村内先生に年賀状を書く女の子の話もあったので在籍中は教えてくれるみたいだけど
非常勤講師でいろんな町を渡り歩いてるっぽい感じなので、そのたびに引っ越してるんでしょうか? 
村内先生のプライベートはおそろしく謎なので、そのへんもやっぱり人間離れしてるなー。

なんだかんだ書きましたが、とてもいい本だと思います。
出会えてよかった。



「ミッキーマウスの憂鬱」松岡圭祐

ディズニーランドに行った4日後、書店で立ち読み。
プロローグが面白くて、おおっ、これはTDLの余韻が残っているうちに読みたい!
と、図書館で予約せずに珍しく購入しました。

が、読んでがっくり……
プロローグではスーパーバイザーの早瀬実が主人公のように描かれていて
彼の人物像にはとても興味がわいたし、こういう立場からみたTDLも知りたかったのに、
本編が始まったら突然、新人の後藤大輔が主人公になってしまった。
うわー、なんか騙されたよ。

この後藤大輔というのが、まあ、読んでも読んでも好きになれないキャラ。
他の設定も、新人に対して職場があまりにも不親切だったり、
大げさな試験やるわりには研修はないわけ?っていうのがすごく気になった。
途中から「事件」が起こるわけなんだけど、その展開もオチも、ううーん。
最初のまま、早瀬実をメインにした話にすればよかったのに。

買ってしまったのでもったいないから最後まで読んだけど、損したなぁって気分。
やっぱり、待っても図書館予約にしよ。



「なみのひとなみのいとなみ」宮田珠己

…ってことがあったのに、また衝動買いしてしまった。学習しない私。
この本はエッセイ集なんだけど、本屋でタイトルにひかれてぱらっと立ち読みした
「おつかいナプキン」という章が、おもしろくておもしろくて、
「こ、こんなに面白い人を今まで知らなかったなんて!!」とそのままレジに直行。
44編のエッセイがつまっていて、残り43章にすっごく期待しちゃったんだが、
結論として「おつかいナプキン」が飛びぬけて面白かったわけなのでした。
でも、他の章も楽しかったし、これは買ってよかった。
ファンの間では、宮田さんのことを「タマキング」、ファンのことを「タマキンガー」というそうで、
私もタマキンガーの一員になりました。



読書記録

2012-07-22 | book
よく図書館にリクエストして読みたい本を取り寄せてもらうのですが、引き取りに行ったときに、あっ、これも読みたい、これも、これも、となってしまい、そんなつもりじゃなかったのにたくさん本を抱えて帰ることがあります。

貸出期間2週間で読み切れるかなー?と思ったのですが、なんだか狂ったように2日で読んでしまいました。
食べるのが好きなひとがストレスでつい食べ過ぎてしまうような感じで、現実逃避したくてつい一気に読みすぎた。胃もたれみたいに、脳もたれしてしまったので、ちょっとここで消化。
あんまりいい読み方じゃありませんね。気を付けます。


1.「三面記事小説」角田光代
おもしろかった! ある意味ホラー。ぞくぞくします。
実際の事件をもとに紡ぎ出された角田ワールド。
6つの短編から成り立っているのですが、それぞれの扉にベースとなった事件の新聞記事が90度角度を変えて薄く載っており、1話目は新聞記事を読んでから小説に入ったのですが、それだとオチがわかってしまってつまらないので次からは最後に読むようにしていました。
犯罪者たちのそれぞれの事情や心情、状況…… 
角田さんは本当にうまい。
登場人物の狂気の中で、「本当に悪いのは誰なんだろう?」と考えさせられました。


2.「七十歳死亡法案、可決」垣谷美雨
3月に図書館にリクエストして、やっと番がまわってきました。
近未来、政府が「日本国籍を持つ者は全員70歳になったら安楽死させる」という法案を出し、それが2年後にせまっている…というところから物語は始まります。
テーマはずいぶんとブラックなのですが、内容というか、テンポがかなり軽くて登場人物の言動に首をかしげることが多く、「これはどうなの?」と疑問出しの附箋をぺたぺた貼りたいような箇所がところどころにありました。
ネットでの書評を読むと「読後感はさわやか」という意見がよく見られますが、私は、「えーっ、そんなぁ」ってドッチラケでした。あの法案にふりまわされた人々の不幸を思うとやりきれません。破産した人も自殺した人もいるはず。主人公家族それぞれの行く末も、「そんなにうまくいきまっかいな」と鼻白んでしまった。
期待値が高かっただけに、ちょっと残念な作品でした。


3.「きよしこ」重松清
吃音症の先生が主人公の「青い鳥」という小説が良かったよ、と友達に勧められてリクエスト中なので、その前にこちらを読みました。
本文もしみじみとしたけれど、プロローグとエピローグの「君」に宛てた手紙がとてもいいです。
重松さんご自身が吃音症で、「かきくけこ」が言いづらく、子供のころ自分の名前「きよし」を発音するのも苦労されていたそうです。
吃音症の息子を持つ母親から「吃音症なんかに負けるなと手紙を書いてやってほしい」という、返信用封筒入りの手紙をもらったときの、重松さんの心のうちが胸にささりました。
「吃音症なんか」の「なんか」が悲しかった、と。
息子を愛すればこその母親の気持ちと、重松さんが背負った痛み。どちらにも、いろんなことを感じました。


4.「ヘヴン」川上未映子
いじめについての小説だとは知らずに手にとってしまい、残酷なシーンが現れたときに思わず本を閉じそうになりました。でも川上さんの文章はやっぱり魅力的で、もしかしたら最後に晴れ晴れするような展開が待っているのかもしれないと思い、つらい場面はななめ読みしながら完走。
うう、すっごく重かった。大好きな川上さんの小説でしたが、読んだことをちょっと後悔しているくらいです。
途中、いじめにあっている主人公が、いじめサイドの百瀬という少年と1対1で会話する、けっこう長いシーンがあり、ここだけは何度も読み返してしまいました。
いじめられている人間のいいぶんを書いたお話はたくさんあるけれど、いじめる側からの理路整然とした意見(?)をここまで披露しているのはあまりないと思う。
目をそむけながら読んだ小説でしたが、川上さんが、真正面からいじめを「きちんと」描いているのが伝わってきて、作品としては素晴らしいと思います。
でも、ほんとつらい気持ちになるから、読まないで(泣)。


5.「いつから、中年?」酒井順子
「ヘヴン」で相当しんどい思いをしたあとだったので、このコラム集にはずいぶんほっとさせてもらいました。
「おふくろからオカンへ」と「聖子ちゃんという職業」が特におもしろかったです。
ユーモアのある人は、常に冷静な観察眼を持っているんだなぁ。酒井さんに脱帽です。