みちくさ茶屋

いらっしゃいませ。どうぞごゆるりと。

「はぶらし」近藤史恵

2014-06-12 | book


「はぶらし」 近藤史恵・著


主人公鈴音は36歳独身、脚本家。
ある夜、鈴音のところに、10年ぶりに突然旧友の水絵が電話をかけてくる。
水絵はDV夫と離婚し、職も失い、7歳の息子を連れていた。
鈴音は水絵に「一週間でいいから泊めてほしい」と懇願され…


♪「あなたな~らどうする~?」♪
というところですが、この小説、
「独身で都会のキャリアウーマン」と「離婚したてで子持ちの家なし無職」という
2人の女を対比させながら、いろいろなことを投げかけていると思う。
「他人との距離」というのがたぶんメインテーマなんだけど、
鈴音が水絵親子を通してシングルマザーの子育て事情に気づいていくさまも
興味深かった。

ネットでレビューを拝見すると、「水絵にイライラした」という声がものすごく多くて、
水絵が圧倒的にワルモノになっていたんだけど、うーん、
私は水絵に対してそんなに不快感は覚えなかった。
ただ、彼女はめぐりあわせが悪かったんだなあ、と。
そして、常識のピントがちょっとばかりズレてしまっているんだなあ、と。

タイトルにもなっている「はぶらし」がそれを象徴している。
水絵親子が最初に泊まった夜、鈴音は買い置きの歯ブラシを2本、水絵に渡す。
水絵は後日、新しい歯ブラシを買ってくるのだが、
一回使った歯ブラシを「これ、ありがとう」と鈴音に返すのだ。

えっ、ふつう、新しいほうの歯ブラシ返すでしょ?
というのが一般常識で、鈴音もそこにひっかかるのだが、
しょせん歯ブラシ2本のことなのでスルーしちゃうんですね。

でもこういう「ちょっとしたズレ」こそ、同じ家の中で過ごしていくとなると
ものすごくストレスフルなのだ。
他にも「お風呂のお湯」のエピソードがあって、私はこっちのほうが気になったので
「はぶらし」というタイトルなのに装丁の絵が浴槽なのも「うまい!」と思ってしまった。
水回りってね~、他人と共有するの大変よね~。

歯ブラシにせよ風呂にせよ、そういう小道具がもたらす「ウェット感」の表現が
絶妙だなあとすごく面白く読んだのだが、
読み終わったあとに「え? これで終わり??」と最後数ページ読み返してしまった。
ここまできたら最後までもっとウェットにドロドロしてほしかったなあ。
なんだかサラっとしていて「結局、アレとコレとソレはどうなったんだ?」という疑問が
残ったのが残念。そのへんはご自由にお考えください、ってことなのかしら。

帯や宣伝文句に「ミステリー」とか「サスペンス」という文字が踊っているけど、
女を生きている人にとってはそんなふうに感じられないと思う。
「友達の友達の話なんだけど」と誰かに聞かせてもらうような、
わりとありそうな日常テーマだと思うんだけど、近藤さんご本人の意図はいかに?


しゃがんでみて

2014-06-08 | kid
リビングに立っていたこうたろうが、ふと
「お母さん、ちょっとしゃがんでみて」
と言う。

言われるままこうたろうの前でしゃがんでみせると、
こうたろうが私を見下ろす恰好になった。


「僕、こんなに小さかったんだね。
お母さんがしゃがむと同じ位置に顔があったもんね」


そう言ってこうたろうは、なぜか私の頭をなでなでしてくれたので、
母ちゃんはどういうわけだかベソかきそうになっちゃいましたとさ。