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神社本庁『目には見えないけれど大切なもの 自然を想う日本のこころ』その1

2019-05-26 01:17:00 | ノンジャンル
 いよいよ今日は日本ダービーの日です。サトゥールナーリアという、読むと舌を噛みそうな名前の馬が、ダイアン・レーンという若手の名手の騎手が乗ることと、4戦4勝でまだ無敗だということで単勝1.5倍の圧倒的な人気を集めています。私は2番人気のダノンキングリーを応援しようと思っていますが、果たして勝つ馬は? 今からレースが楽しみです。(ちなみに出走時間は午後3時40分です。)

 さて、先日、新潮講座の真貝康之先生による「スリバチ散歩」で訪れた、町田の菅原神社にて無料で置いてあった『目には見えないけれど大切なもの 自然を想う日本のこころ』という小冊子を読みました。その全文をこちらに転載させていただきたいと思います。

「神話」
 天地の初めのとき、高天原に天の神さまが現れました。この神さまは生命を生み育てて行く力を持っていました。続いて多くの神さまが現れ、男女の神・イザナギノミコトとイザナミノミコトが現れました。
天の神さまは二神に向かい、国土を作り固めるように命じます。イザナギノミコトとイザナミノミコトは結婚し、本州をはじめとする八つの島々を生みました。
やがて二神は海、川、山や木の神、野の神たちを生んでいきます。
(こうして誕生した日本の国土は、男女の神さまの結婚により生まれた神聖な国土です。

日本神話は、国土も自然も神々も、そして神々の子孫として語られる人間も、すべて「神が生んだ子どもたち」であると伝えており、このことからも日本人が国土だけでなく、あらゆる自然も二神から生まれた「同胞=はらから」とみなしてきたことがわかります。)

「はじめに」
 日本は四方を海に囲まれ、国土の約7割を山地が占める島国です。
 天から降った雨水は山に蓄えられ、やがて川となってさまざまな地形を形成し、大地を潤しながら海に注いでいきます。そして豊穣な大地は私たちに大いなる実りを与えてくれます。
 そうして、私たち日本人は四季折々の豊かな自然から何かを感じ、恵みに感謝し、あらゆるものに神さまが宿るとして敬い、尊んできたのです。

「山」
 山には、人間が住む里にはない神秘的な力が宿っていると考えられてきました。
 古代の人々は、岩や石、木々や草の葉までが言葉を話していたと感じていたようです。これは草木にもいのちが宿っているという日本人の感性に由来するものです。
 樹木には神さまが宿ると信じられ、神さまの宿る木々をきることは固く戒められていました。そうした祖先のこころが樹木を育て守り、やがてうっそうとした森となりました。
 その昔、私たちの祖先は山に入ってシカやイノシシ、木の実や山菜などを取って暮らしていました。山には多くの神々が宿り、「山の幸」といわれる神々のめぐみをいただいていたのです。
 ですから山に入るときは、山の神さまにお供えをし、お許しをいただくことを忘れませんでした。
(「神さまから生まれた木」
 樹木は神さまのからだから生まれたと伝えられています。スサノオノミコトの髭(ひげ)がスギに、胸の毛がヒノキに、尻の毛がマキに、眉毛がクスノキになりました。やがてスサノオノミコトの子どもたちは、木の種を日本全国にまいていき、森を育てていったのです。
 樹木の神はククノチ。草の神はカヤノヒメ…。日本人は一本の木、一本の草にも神さまのめぐみを感じ、大切にしてきたのです。)
(「門松でお出迎え」
 祖先の霊は山に鎮まるという考えがあります。祖霊はお正月には山をおり年神さまとして、子孫を訪れます。
 山に生えている松や竹を里に持ち帰り、松飾りをつくり門口に飾ることで、年神さまの訪れを祈る…。私たちはお正月に門松を飾るのには、そんな大切な思いが込められています。)

「川」
 水がなければ生き物は生きていけません。しかも飲み水がなければ人間は生きていけません。日本はおいしい水にめぐまれています。
 山は私たちにさまざまなめぐみを与えてくれ、天から降った雨水を蓄えます。山の木々の豊かさが水を清らかにし、多くの栄養素を与えて美しい川の流れをつくります。
 浄化された水は、山を出ると急な斜面を滝となって流れ落ち、やがて川幅を広げゆったりとした流れとなって里をうるおします。
 里に暮らす私たちは、川から水を引いて田んぼや畑を作り、そこから得られためぐみは人々を養い、さまざまな動植物が生きてゆける環境を保ってきました。
 河口近くになると川幅はより広くなり、海へと流れ込みます。山で育まれた美しい川の流れは、海を豊かにしてくれます。山と海は、川によって一つに結ばれます。

(明日へ続きます……)

斎藤美奈子さんのコラム・その38

2019-05-25 00:30:00 | ノンジャンル
 恒例となった、東京新聞の水曜日に掲載されている斎藤美奈子さんのコラム。

 まず、5月1日に掲載された「鯉のぼりの人生」と題された斎藤さんのコラム。全文を転載させていただくと、
「鯉のぼりはいつから集団で行動するようになったのだろう。
 昭和の時代、庭ではためく鯉のぼりは三匹のチームで、イカのお化けみたいな吹き流しを従えていた。大きい真鯉(まごい)はお父さん、小さな緋鯉(ひごい)は子どもたちという歌があっても、緋鯉はお母さんと人間の子どもたちは信じ、そこには核家族のモデルを見ていた。それが今では一戸建て住宅の庭から追い出され、川や公園に結集している。いったい何が起こったのだろうか。
 そういえば五段飾りや七段飾りの雛(ひな)人形も今ではご家族の茶の間を飛び出し、観光地や城下町に『雛人形めぐり』などの形で結集している。
 ま、集団化した理由は簡単。今日の住宅事情と少子化の進行である。子どもたちが独立した後の高齢世帯では鯉のぼりや雛人形は無用の長物で、しかし捨てるには忍びない。かくて彼らは自治体に寄贈され、第二の人生を歩みはじめる。
 平成最初の年(1989年)は合計特殊出生率が過去最低の1.57を記録した、いわば少子化元年だった。鯉のぼりの集団乱舞はそんな時代の光景なのよね。
 まあでも、悲観するには及ばない。家庭での役割を終え、男女別の節句の呪縛からも解放された鯉や人形は意外にも自由を謳歌(おうか)しているのではないか。いずれ廃棄される日が彼らにも来るだろう。それまでは羽ばたけ鯉のぼり。」

 また5月8日に掲載された「ネトウヨ検定」と題されたコラム。
「十連休中、執筆上の必要があって、この二十年ほどの間に出版された歴史修正主義本、ヘイト本をまとめ読みした。
 彼らの主張はだいたいいっしょ。南京大虐殺はなかった(事件の証拠写真は捏造(ねつぞう)である)。慰安婦の強制はなかった(軍の関与を示す資料は存在しない)。日本人の自虐史観はGHQの洗脳によるものである。反日マスコミが歴史を歪(ゆが)めた。沖縄には中国や韓国の工作員が潜伏している。
 最初はアホかと思っても、なにしろ同じことばかりいっているのだ。慣れると麻痺(まひ)し、やがて依存症になるんだろうね。この種の言説の最初の一撃は、小林よしのり『新ゴーマニズム宣言SPECIAL戦争論』(1998年)あたりだったと思うけど、現在ではさらに進化を遂げ、カルト的な「ネトウヨの世界観」が形成されている。
 ミキ・デザキ監督による公開中のドキュメンタリー映画「主戦場」はそんなネトウヨの世界観を知る上で必見の快作だ。ネトウヨ界の重鎮が多数登場、慰安婦問題などを得々と語るのだが、自ら墓穴を掘るわ掘るわ。
 問題は、歴史認識のくるったこの種の世界観を持つ人たちが政財界にも少なくないことだろう。この際、彼らの思想の強度を測る「ネトウヨ検定」を創設したらいいんじゃないか。自民党議員には高得点者続出、安倍首相もきっといい線行くはずだ。」

 また5月15日に掲載された「非現実的です」と題されたコラム。
「北方四島の返還に関連して『戦争しないと、どうしようもなくないですか』と発言、集中砲火を浴びた日本維新の会の丸山穂高衆院議員。
 戦争を肯定するような乱暴さも、日ロ交渉を無視した軽率さも問題だけれど、それ以前に驚くべきはこの発言の非現実性である。え、ロシアと戦争するんですか? いつですか? 勝てると思ってるんですか?
 丸山議員は1984生まれ。戦争で領土を争う戦略ゲームで現実との区別がつかなくなっているのかもしれない。
 とはいえリアルな政治の現場でも、非現実的な事態には事欠かない。
 原子力規制委員会は、電力各社に対し、テロ対策施設が建設できなければ設置期限の延長は認めないとした。ところが各社は難色を示す。一社あたり一兆円近くという試算もある莫大な安全対策費。一度延長しても期限にはとても間に合わない工期。原発に固執する政府の方針自体が、すでに非現実的なのだ。
 同じく政府が固執する辺野古(沖縄県名護市)の新基地建設に関しても非現実的な実態が明らかになりつつある。沖縄県の試算では、軟弱地盤の改良を含めた工期は13年(計画では5年)、工費は約2兆4千億円(当初計画の約十倍)。
 国がデタラメなことをやってるんだもの。若手議員が現実とゲームを混同しても不思議ではないよ」。

 今回も読みごたえのある文章ばかりでした。

ポール・オースター『インヴィジブル』その13

2019-05-24 09:27:00 | ノンジャンル
 また昨日の続きです。

6/26 二日のあいだ何も書かなかった。書くなんてずっと不可能、一瞬の安らぎを見出すことも不可能だった。(中略)始まりは(中略)私が屋敷に着いたあとの朝だった。食事室で朝食を摂っていたRBが(中略)結婚してほしいと言ったのだ。(中略)よしてよ、ルドルフ。問題外よ。(中略)万事うまく行っていたんだ。(中略)そこへあのアメリカの若造がのこのこパリにやって来て、何もかも台無しにしてしまったんだ。(中略)あなたがアダムをアメリカにお追い返したのよ。(中略)君のお母さんの墓に誓って言うよ、セシル。私は何の関係もなかったんだ。
 どう考えたらいいかわからなかった。(中略)君の見解を、現時点での君の見解を受けて、ひとつの実験を申し出たい。ビジネスの提案という形の実験だ。私が手紙で触れた本のことは覚えているかね? 回想録を書く気でメモを取っていると言っていたわね。(中略)仕事を辞めてくれと言っていない。研究休暇を取ってくれればいい。(中略)あなたは政治と国際情勢が専門の元大学教授。それもある、たしかに。でも政治については教えただけじゃない。政府のために仕事もしたんだ。(中略)あらゆる形を取った陰謀行為だよ。
 私はもはやRBの言葉を一言も信じていなかった。(中略)私は相手に合わせるふりをして、ビジネスの提案という形をとった実験を本気にしているみたいにふるまった。(中略)いくつかの発言は本当に卑劣で醜悪で、白い肌のヨーロッパ人以外のすべての人間に対する━━つきつめればルドルフ・ボルンその人でないすべての人間に対する━━狂暴な憎悪に満ちていた。(中略)
 翌朝(昨日)彼は朝食に現われなかった。(中略)だが真実を語るためには、それを虚構にしないといけない。(中略)じゃあ、小説ね。(中略)そう、我々は真実を語れる。でもそれに加えて、いろんなことを捏造する自由も手に入るんだ。何でそんなことしたいの? 話をもっと面白くするためさ。(中略)何の話なの、ルドルフ? 何でもないさ。作り話を語っているだけだよX氏がどうやってY氏を殺すか。それ私の父さんの話でしょう? まさか。何でそんなこと思うのかね?(中略)ねえ、君。落着きたまえ。(中略)ルドルフ、私ここを出ていく。(中略)
 そのとき私はすでに立ち上がり、すでに部屋の向こう側に行きかけ、すでに涙が出ていた。(中略)目の前には不毛な地面が広がっていた。不毛で埃っぽい地面のそこらじゅう、いろんな形や大きさの灰色の石が転がっていて、それら石のあいだに五十人か六十人の男女が散らばり、おのおの片手にハンマーを、もう一方の手に鑿(のみ)を持って、石を叩いて二つに割り、割れて小さくなった石をさらに二つに割り、それもまた二つに割って、と小石が砂利になるまでくり返していた。(中略)この音はこれからもずっと私とともにあるだろう。一生ずっと、どこにいて、何をしていようと、ずっと私とともにあるだろう。(了)

 一気に読み終えることができる、面白い小説でした。

ポール・オースター『インヴィジブル』その12

2019-05-23 05:06:00 | ノンジャンル
 また昨日の続きです。
我々は短い手紙を二度やりとりした。まず僕は、ウォーカーの友人だと自己紹介し、アダムが最近亡くなったことを知らせ、近日中にパリに行くのでよかったらお会いできないだろうかと訊ねた。(中略)返事はすぐに届いた。(中略)

 アダムが亡くなったと聞いて愕然としています。何年も前、まだ私が若かったころにパリでつかのま知っていただけですが、あの人のことはずっと忘れていません。(中略)あなたが来月パリへいらっしゃるときに喜んでお会いしたいと思います。(中略)

 (中略)セシル・ジュアンは翌日の午後四時に現われた。(中略)二時間に及んだ会話のあいだに、彼女が十五年間(二十歳から三十五歳まで)精神分析を受けていたこと、結婚して離婚し二十歳年上の男と再婚したこと(夫は1999年に他界)、子どもはいないことを僕は知った。(中略)最初の二、三十分は主にアダムの話をした。自分がアダムとの接触を失って以来、彼の人生で何が起きたか、僕に話せることを彼女はすべて聞きたがった。(中略)あなたは私のことをよく知っていて、私はあなたのことをほとんど知らない。十八歳だったあなたのことだけです。ほかはすべて空白です。(中略)ほかはみんな死んだからよ。え。そうなんですか。何ともお気の毒です……とりわけあなたのお母さんは。(中略)ボルンは? 去年。だと思う。はっきりしたことはわからないの。まだどこかで生きている可能性もほんの少しある。ボルンとあなたのお母さんは、お母さんが亡くなるまで結婚していたんですか? 結婚? 結婚なんかしなかったわ。結婚しなかった? だって二人は━━しばらくそういう話も出ていたけど結局実現しなかったのよ。アダムが言ったことが原因だったんですか? それも一因だったかもしれないけど、それだけじゃないわ。(中略)そしてボルンはロンドンに移った。それ以後、会いましたか? 一度だけ、母さんが死んで八か月くらいあとに。で? ごめんなさい。そのことは話せそうにないの。(中略)私から話すことはできないけれど、興味があるならあなたがそれについて読むことはできるわよ。(中略)そのあなたの謎の文書はどこに? 私のアパルトマンに。十二のときから日記をつけていて、ルドルフの屋敷に訪ねていったときのことも何ページか書いてある。(中略)よかったらその箇所をコピーして明日ここにお届けに上がります。(中略)ありがとう。(中略)一刻も早く読みたいです。(中略)
 翌日の午後、妻の妹との長い昼食を済ませて、妻と二人でホテルに帰ると、小包が待っていた。

 セシル・ジュアンの日記

4/27 ルドルフ・ボルンから手紙。母さんの死から六か月経ったいま、ようやく知ったとのこと。(中略)仕事はすでに引退している。七十一歳、結婚はしておらず、健康状態は良好。六年前からキリアという場所に住んでいる。(中略)小さな島で、大西洋とカリブ海の接合点、赤道のすぐ北にあるという。(中略)

4/29 RBに返事を書く。意図していたよりずっと率直に。(中略)証拠はないのだから、私はRBの言葉を信じるほかない。

5/11 RBから返事。海を見下ろす大きな石造りの屋敷で隠遁生活を送っているとのこと。(中略)君の手紙を読んで懐かしい思いが胸にあふれた、と彼は書いている。(中略)君の顔をもう一度見て、何十年かぶりでまた一緒に過ごせたら、私としてもとても嬉しい。興味を持ってくれたときのために、電話番号を書いておく。(中略)

5/12 キリアについての情報は乏しい。(中略)

5/14 辛い一日。今日の午後、最後に生理があってからこれでちょうど四か月だと気づいた。ついに来た、ということだろうか?(中略)かりに妊娠したいと望んでももう手遅れだ。(中略)

5/17 たったいまRBと話した。(中略)あなたの招待に応じることにしたと言ったら、電話口でわめき出した。素晴らしい! 素晴らしい! 何たる朗報!(中略)

6/23 長い間かけて大西洋を越えた末に、いま私はバルバドス空港の乗継ぎラウンジで単発の小型プロペラ機を待っている。(中略)空から見た島は小さな点でしかない。(中略)だがその周囲の海は青い。そう、天国のこちら側のどこよりも青い海。(中略)精一杯つくろったにもかかわらず、一時間後に居間に入ってきた私を見て、RBの目に失望が浮かぶのが私には見えた。(中略)昔の若い娘が、いまや中年後期の、むさくるしい、およそ魅力的とは言えない、閉経後の女になったのだという哀しい認識。あいにく(中略)失望はおたがいさまだった。(中略)(また明日へ続きます……)

ポール・オースター『インヴィジブル』その11

2019-05-22 02:55:00 | ノンジャンル
 また昨日の続きです。
弟に非常によく(中略)似ていたので、いま自分の前を過ぎていく若い女性がウォーカーの姉であることを僕は確信した。(中略)グウィンは美に燃え立っていた。(中略)見た一秒目から彼女を欲し、白昼夢にふける阿呆の熱い強情さとともに彼女を追いかけた。成果はゼロだった。(中略)その後僕は同じ女性と三十年近く一緒に過ごしてきた。(中略)サンフランシスコからニューヨークへ向かうジェットの機上で、(中略)明日の朝一番にグウィンにお悔みの手紙を書かねば、と思いついた。
 帰ってみると、もう彼女の方から連絡してきていた。(中略)翌朝十時に電話した。(中略)彼女の声は変わっていなかった。(中略)いまの彼女は六十一歳であり、突如僕は、彼女に会いたいという気持ちが自分のなかにないことを悟った。会ってもがっかりするだけだ。(中略)僕たちはお決まりの挨拶を交わし、数分間アダムとその死について取りとめもなく喋った。(中略)アダムがeメールを送ってきたのよ、とグウィンは言った。長いeメールを、亡く……終わりの数日前に。美しい手紙だったわ。(中略)それでね、手紙の最後の方で、あの子が何かを書いていたこと、何らかの本を書いていたことに触れていて、もしそれを読みたければあなたに連絡しろと言っていたのよ。ただし、自分が死んでから、と。(中略)それと、原稿を読んだらあたしがひどいショックを受けるかも知れないとも警告していたわ。(中略)あたし、ショックを受けるかしら? たぶん。たぶん? 全部じゃないですけど、ひとつふたつショッキングなところはあるかもしれませんね、ええ。ひとつふたつ。参ったわね。(中略)
 証拠を隠して、本の存在を否定すればどれだけ簡単だっただろう。(中略)話題がいきなり出てきて不意をつかれたせいで、頭が十分回らず、偽の物語を紡ぎ出すこともできなかったのだ。おまけに、本が三章あることもグウィンに言ってしまった。(中略)結局僕はすべてを━━「春」「夏」と、「秋」のメモを━━コピーして、その日の午後ボストンの彼女の住所に宛てて送った。(中略)二日後に電話が来た。(中略)訳がわからないわ、と彼女は言った。大半はすごく正確で、まさしくそのとおりなのに、まるっきりの作り話もある。(中略)たしかにあのアパートで二か月一緒に暮らしたけど、寝室は別々だったし、一度だってセックスなんてしなかった。アダムが書いたことはまったくの絵空事なのよ。(中略)唯一あたしに思いつく答えは、あの何ページかは、死にかけた男のファンタジーだったということ、起きていたらよかったと思うけど起きなかった願望なんだということ。(中略)その夏一緒に暮らしはじめてしばらくした時点で、弟はあたしに、姉さんのせいで僕はほかの女性に興味が持てなくなってしまった、僕が愛せるのはあとにも先にも姉さんだけだ、僕たちがきょうだいでなかったらいますぐ姉さんと結婚するのに、とか言い出したのよ。(中略)で、本はどうなります? 引出しにしまい込んで、忘れることにしますか? そうと決まったわけじゃないわ。(中略)あなたは弟のメモに基づいて、第三章をまっとうな章に仕立て上げる。(中略)それから、ここが一番大事なんだけど、あなたが原稿全部に目を通して、人名を変えるのよ。(中略)どうかなあ。少し考えさせてもらわないと。少し時間を下さい。好きなだけ考えなさいな。急ぐことはないわ。
 好奇心を満たそうと、僕は目下執筆中の小説を一日休んでコロンビアのキャンパスに出かけ、国際情勢研究所の教務係から、ルドルフ・ボルンが1966━67年度に客員教授として雇用されていたことを教わり、バトラー図書館(中略)のマイクロフィルムで、その年五月のある朝に十八歳のセドリック・ウィリアムズの、胸部をはじめ上半身に十以上の刺し傷がある死体がリバーサイドパークで発見されたことを知った。(中略)何か月かが過ぎていき、その間僕はグウィンの提案のことをほとんど考えなかった。(中略)ウォーカーの遺したメモに基づいて、僕が第三章「秋」を文章化したことはすでに述べた。人名についてはグウィンの指示に従って変えたし、したがって読者は、アダム・ウォーカーがアダム・ウォーカーでないと確信してもらっていい。(中略)
 昨2007年の終わり近くに、僕は小説を書き上げた。そのすぐあと妻と僕はパリ旅行を計画しはじめ(中略)、パリの話が出たのがきっかけで僕はふたたびウォーカーのことを考えはじめた。彼があの街で演じた、不首尾に終わった復讐劇の役者たちを探し出せないものか。(中略)ボルン、マルゴ、エレーヌについては運がなかったが、セシル・ジュアンをグーグルで調べてみると、画面上にずらりと情報が現れた。(また明日へ続きます……)