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ポール・オースター『インヴィジブル』その9

2019-05-20 00:10:00 | ノンジャンル
 また昨日の続きです。
済んだことは水に流して、また友だちづき合いができたらと思ってたんだがな。私の未来の妻の娘に君を引きあわせたらとも思っていたんだ。(中略)遠慮します、とウォーカーはテーブルから立ち上がりながら言う。(中略)ま、気が変わったら電話してくれ。(中略)ボルンは(中略)名刺を取り出す。(中略)その日一日、そして夜遅くまでウォーカーはこの件について考え、やがてある案を思いつく。それは悪魔的な案、あまりに残忍で卑劣でそんなものを自分が想像できてしまうことに呆然とさせられる案だ。(中略)翌朝彼はカフェ・コンティに出かけ、公衆電話にまた一枚専用コインを入れて、計画を始動させる。(中略)アダム・ウォーカーか、とボルンは驚愕を極力隠そうとしながら言う。(中略)済んだことは水に流そうと決めました。(中略)あなたのフィアンセとそのお嬢さんに合わせていただけるという話が出ましたよね。そこから始められたら素敵かなと。(中略)引き受けた。手はずを整え次第、君のホテルに伝言を届ける。
 夕食は翌日の晩、サンジェルマン大通りにある、世紀末から続いているブラスリー〈ヴァジュナンド〉で、と決まる。(中略)もし、セドリック・ウィリアムズ殺害をめぐる話を彼女たちに納得してもらえたら、チャンスはある。(中略)結婚式は中止され、ボルンは花嫁に見捨てられるのだ。ウォーカーの目標はこれだけである。(中略)だがとにかく、今晩やろうとしたことは突如一気に達成された。ジュアン母娘と、今後も接触できるのだ━━ボルンのいないところで。
 (中略)(翌朝、マルゴが訪ねてくる。)昨日の晩、友だちとサンジェルマン大通りを歩いていたのよ。(中略)で、レストランの前を通ったのよ、(中略)で、誰が見えたと思う? ええ、言わなくていいですよ。(中略)どういうつもりよ、アダム? 今度はいったいどんな変態ごっこ始めたのよ?(中略)話したいんです、とウォーカーはやっとのことで言う。あなたにすべてを話したいんです。(中略)ウォーカーはこの数日の出来事を物語る。ボルンとの偶然の出会い(中略)、セドリック・ウィリアムズ殺害をめぐるボルンの偽りの否認、エレーヌとセシルに会わせるという誘い、ウォーカーが破きかけた名刺、ボルンの結婚を阻止する計画の思いつき、計画を始動させるためのしおらしい電話。ヴァジュナンドでのディナー、今日四時にセシルと会う約束。(中略)やめておきなさい、アダム。絶対上手く行かないわよ。あの人に八つ裂きにされるだけよ。もう手遅れです、とウォーカーは言う。もう始めてしまったんだ、最後までやり通すしかありません。(中略)
 マルゴの狭いベッドで彼らは二時間を過ごし、ようやく立ち去るときウォーカーはセシル・ジュアンとの約束に遅刻しかけている。これは全面的に彼の落ち度である。(中略)
 〈ラ・パレット〉にウォーカーは四時二十五分に入っていく。ほぼ半時間の遅刻だ。セシルがもう帰ってしまったとしても(中略)彼は驚くまい。だが違う、彼女はまだそこにいる。(中略)
 こうしてウォーカーとセシル・ジュアンの交友が始まる。多くの面で、セシルがどうしようもない人間であることをウォーカーは知る。(中略)明日の夜うちに夕食に来ないかって母親が言ってるんだけど、とセシルが言う。(中略)聞けばボルンは家族の用事(家族の用事?)でいまロンドンに行っていて、エレーヌ、セシル、ウォーカーの三人きりだという。喜んで伺うよ、と彼は答える。(中略)少しして、ちょっと失礼とセシルが言って席を外して廊下を歩いていき、(中略)この晩初めてウォーカーは母親と二人きりになる。(中略)問題はあの子があなたに恋してしまったということです。(中略)見ればわかります。(中略)どうか気をつけてください。お願いですから。
 懸念が事実になった。(中略)元々そうではないかと思ってはいたが、その疑念が確証されたいま、ここは新しい戦略を考え出さねばならない。まず第一に、毎日セシルと街を歩くのはもうやめにしないといけない。(中略)ウォーカーは翌朝マルゴに電話する。彼女と一緒に過ごして、このややこしい、不安な状況から気を紛らわせればと願っているが、むろんそれもマルゴの気分次第、時間が空いているかどうか次第だ。(中略)あなたに会いたくてたまらない。そうできるといいんだけど、駄目なのよ。(中略)私、一週間出かけるのよ、(中略)ロンドンに。ロンドン? どうして私の言うことをくり返すの? すみません。でもロンドンにはほかにも誰かいるから。(中略)ボルンです。(中略)ボルンに会うんじゃないですよね。馬鹿なこと言わないでよ。(中略)(また明日へ続きます……)