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斎藤寅次郎『日本の喜劇王 斎藤寅次郎自伝』その4

2019-05-04 11:49:00 | ノンジャンル
 また昨日の続きです。

・そんな訳で、たまには寄席へ行って漫才を聞いたり、落語家の話し振りの中から、映画に取り入られるギャグをあさったりして、それが仕事のない時は、殆ど日課みたいなものだった。
 しかし、その内に、僕の撮っている映画が、的確にナンセンス映画━━という名称も附されるようになると、自然と映画の傾向も変わって来た。それは、都会人の哀愁というものを、僕の映画の中に、何時しか織り込んで行ったからだった。

・結局、今度の撮影で感じたことであるがセリフ━━つまり声の芝居を演じている際には、際立ったアクションは却って邪魔になる。また、その反対にアクションに重きを措(お)く時には、セリフはなるべく避けたい。どうも、ナンセンスでは、この二つを同時に駆使しようとすると、両方が相殺されて仕舞って、効果を失い易い。だから、今度の製作に当ってもセリフとアクションはハッキリ分けて使うようにして見たのである。

・卒業、就職、結婚を経て、ある程度社会的地位も出来た、三十代から四十代にかけての働き盛りの人たち。(中略)この人たちが一番“素直に”笑ってくれるようである。

・『東京五人男』これが戦後第一作です。アメリカの方のコンデという検閲官が実にうるさくて、何やかやと一つ一つ文句をつけてくるのです。そのために、翌日撮影する分のコンテを毎日持って行って見て貰うというような事をさせられました。これはアメリカへも輸出されて好評でしたが、グランプリを貰った訳でもなければ、名画でもないが、戦後アメリカへ行った最初の日本映画です。

・(前略)斎藤さん直系の助監督でいうと、僕(大貫正義さん)は六代目のチーフですから。一番古い小田基義さん、その次の毛利正樹さん、志村敏夫さん、皆さんもう亡くなっちゃってますからね。今残ってるのは松林宗恵さんと曲谷守平さんですが、曲谷さんは早くから映画界を引退していますからね。松林さんは喜劇を多く撮っていますが「社長シリーズ」のようにホームドラマタッチの喜劇が多いですよね。また阿部豊監督にも師事されているから文芸作品や戦争大作も多い。そういう意味じゃあ、僕はドタバタ一筋。多くやったCMも含めてね、斎藤おやじ譲りの早撮りでね。

・(斎藤監督の助監督だった大貫正義さんが、斎藤監督の弟子入りを志願して)「それで今言ったようにおやじの家の前に座り込んでガンバってたらね、お手伝いさんに『キャー』って言われたんですよ。変な男がいるってことでね。おやじが寝巻のままの上にガウンを羽織って出て来て『何だ?』って言うから、顔見せてこれこれこうなんですって言ったら『中に入れ』って入れてくれた。おやじさん、ずっとしゃべってくれてね。『大学まで行ってやる仕事じゃないよ。活動屋なんてのは』とか『映画界なんてやめろ』とか散散言われたけど、僕は大船が家から近かったから、しょっちゅう大船の撮影所へ遊びに行ってて映画界ってのはどういうものかは知ってたからね。それと『おやじみたいなああいうドタバタ喜劇をやりたくて、どうしても映画界へ入りたい』って言ったら、『そうか』と言って、暫く雑談してから『よし、明日、俺と一緒に来い!』って言われてね。そのままおやじのとこ泊まって、そいで翌日撮影所へ連れてってくれた。(後略)」

・━━ギャグでいうと、想い出されるのは?
(大貫正義さん)いろいろありすぎてね……。川の中に家が落っこって船みたいに浮いてたりとか、いろんなムチャムチャやりました。比較的よくやってるのが、隣の部屋から壁を破って足が出てくるってやつ。これはよく使う手でしたね。
━━落語の長屋のイメージですかね、もとは。
 部屋と部屋がクルッと回るドンデン返しみたいの、あれもしょっちゅうやってたな(笑)。こっちの部屋からこっちの部屋へって廻ってね、「あれ~」なんて言ってまた元へ戻ったりしてね。

・(大貫さん)ひばりを見つけて来たのは、おやじですからね。横浜のお祭りかイベントで歌っていたのを、プロデューサーの杉原貞雄さんとおやじが見て連れて来たんです。それで暫く毎回自分の作品でひばりを使って、歌だとか踊りだとかの場面を入れてやってたんです。

・━━『誰よりも金を愛す』はにぎやかな作品になったようですね。
 (大貫さん)新東宝最後の記念にということで、おやじと二人で喜劇の連中に歌舞伎でいう顔見世出演をお願いして回ったんです。エノケンさんをはじめね。だから主演は三木のり平で小原庄助さんの十八代目っている話なんだけども、小原家代々の幽霊の役でアチャコさんとかバタヤンとか堺駿二とか大勢出ているんですよ。エノケンさんは大統領、清川虹子さんはマダムの役でね。(後略)
(また明日へ続きます……)