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平山夢明『メルキオールの惨劇』

2010-06-25 13:48:00 | ノンジャンル
 平山夢明さんの'00年作品『メルキオールの惨劇』を読みました。
 45年の間、保険外診療医をした後、奇病で首より下が麻痺したオギーの注文で、惨劇の関係物品を買い付ける仕事をしている俺は、オギーの新たな注文で、末の息子を殺した美和の話を聞くために彼女を元を訪れます。彼女は白痴で巨大な体躯を持つ長男の朔太郎と、聡明な次男の礫(さざれ)と一緒に暮らしていましたが、やがて末っ子の澪を6才の時に殺したのは美和ではなく礫だったことが明らかになります。落雷に打たれた朔太郎は、元の人格である聡明なメルキオールを取り戻し、俺は彼の話から、この一家で天才として生まれた男子は年を取ると白痴化することを知ります。礫はそれを防ぐために脳細胞の増殖実験を行い、美和を胎児製造機械として使い、朔太郎を増殖容器として使用しようとします。一方、メルキオールは父を自殺に追い込み、澪を殺した礫に復讐するため、彼を壁に塗り込める「黒猫作戦」を行おうとして、俺の協力を得ますが、いざという時にメルキオールが朔太郎の人格に戻ってしまい、その試みに失敗します。礫は朔太郎の体の自由を奪うために注射を打つことに成功しますが、人工皮膚をかぶっていた朔太郎は逆に礫を絞殺し、俺と一緒に彼の死体を埋めます。俺らと美和は願いを叶えるという猿の手を拾い、美和と朔太郎は礫の帰還を願うと、土まみれの礫が警官とともに戻ってきて、礫が惨殺した少女を俺と朔太郎が殺したと主張し、その死体検分に向かいます。ところが、現場で礫は突然白痴化し、しかも美和らの家が全焼してしまい、事件は迷宮化し、俺は彼らの元を去ります。そして再び彼らの元を訪れ、行方不明だった澪の頭部がランプのシェードになっているのを発見し、白痴となった兄弟を残して今度は永久に彼らの元を去るのでした。
 平山さんの『異常快楽殺人』における実在の異常犯罪を参考に書かれていることは明らかで、登場人物の異常さとともに、生き生きとした会話が魅力でした。少女を生きながらにして惨殺する場面など、阿鼻叫喚のシーンをお求めの方にはオススメです。

石井輝男監督『温泉あんま芸者』

2010-06-24 18:13:00 | ノンジャンル
 石井輝男監督・共同脚本の'68年作品『温泉あんま芸者』をスカパーの東映チャンネルで見ました。
 淡路の温泉町。大座敷で接待するあんま芸者たちに、そこへ乗り込んできた芸者たちが難癖をつけ、ケンカになりますが、客の声に応じて野球拳で勝負をし始め、旅館中から客が見にやってきます。課長の黒島(芦屋雁之助)は取引先の品川部長(金子信雄)にあんま芸者で肉体接待し、大きい契約を取ろうとしますが、品川は身が堅いと評判の千代(橘ますみ)に目をつけます。若くてハンサムだが目の鋭く無口な吉岡医師(吉田輝雄)に処女膜を再生してもらう女たち。千代は処女であることを吉岡に見てもらい、それを奪ってくれるように頼みますが、吉岡は断ります。あんま芸者たちのリーダー・富田(三原葉子)は、家族を捨てて家出してきた恩師に迫られ慰めていると恩師は心臓マヒで急死してしまいます。恩師の娘を慰める富田。大浴場で出会わせて、今度は乳首も露に大乱闘を演じるあんま芸者と芸者たち。それを盗撮していた男・竹が見つかり、その女ゆきえは妊娠していて、金を一時稼がせてほしいとその場で富田に頼んでいたゆきえでしたが、すべってころびそこで子供を産みます。やがて赤ん坊を置いたまま二人は女たちの金品を根こそぎ盗んで失踪します。黒島は富田を愛人にして小料理屋を持たせてやる代わりに、品川に千代を世話してくれるよう頼み、吉岡に東京に婚約者がいるという話を聞いた千代はその話を承知します。やがて赤ん坊も盗まれ、竹らの手紙が見つかり、親への仕送りなどから止むに止まれずしたことで、無断で持って行った金品は必ず将来返すと書いてありました。そんな中、女の一人の愛人だった坊主が寺を秘宝館にして観光化し、また愛人を持っていたことで僧侶仲間から処分されます。そこにやってきた女たちは隠れていた竹らを見つけ、暴力的に返済を迫りますが、駆けつけた吉岡が手紙を見せると、許す気になります。しかし竹は警察にその場で手錠をかけられ、竹は許してくれた女たちへのお礼に自分の得意な焼芋の売り声を聞かせながら連行されていきます。また商売に励む女たち。品川との夜を控えた千代は酒に酔い、気が進まないなら止めればという富田の言葉を振り切りますが、結局無理矢理品川に犯されてしまいます。赤い噴水の前にしゃがみ込む千代。吉岡の元に行き、自分の堕落した体を見てもらおうとする千代に、吉岡は堕落などせず精一杯生きていると思うと言い、自分は沖縄の無医村に行くことになったことを告げ、前向きに生きる大切さを説くのでした。泣く千代。波止場で追放された坊主とその女は、仲間たちに励まされて戦う決意をし、汚職で逮捕された品川と黒島が連行されていく中、富田と千代も島から旅立とうとしています。しかし沖縄に向かう吉岡と同じ船と知った千代は、吉岡と一緒だとダメになるので前向きに生きるために島に残ると言い出し、吉岡はその言葉を笑顔で受けます。船で遠ざかる富田に手を振る女たちと、吉岡に手を振る千代。前向きにがむしゃらに頑張ると叫ぶ千代の姿で映画は終わります
 パヤパヤという能天気な歌と、猥雑で(裸の大乱闘など)えげつないイメージ(千代の初体験後の赤いシャワーなど)。冒頭で布団に横たわる女が男を蹴ると襖の向こうへ吹っ飛ぶという突出したイメージもありましたが、全体的に大人しい画面に収まっていたように思います。吉田輝雄と橘ますみの魅力が、この作品をシリーズ化する大きな原動力になったのでしょう。金子信雄らにとどまらず、上田吉二郎、大泉滉、小島慶四郎、茶川一郎、田中小実昌といった曲者(?)俳優も彩りを添えていました。橘ますみの出世作としてオススメです。

夏樹静子『裁判百年史ものがたり』

2010-06-23 14:12:00 | ノンジャンル
 朝日新聞で紹介されていた夏樹静子さんの'10年作品『裁判百年史ものがたり』を読みました。大日本帝国憲法制定から現在まででエポック的な12の裁判を描いた作品です。
 取り上げられている裁判は、明治時代のロシア皇太子襲撃の大津事件、大逆事件、昭和における陪審裁判、翼賛選挙を無効とした裁判、帝銀事件、松川事件、チャタレイ裁判、状況証拠だけで死刑求刑を3回行った八海事件、実父に犯され続け5人の子供を産まされた結果、その父を殺してしまい尊属殺人に問われた娘の事件をきっかけとして尊属殺人の刑罰規定が違憲とされた事件、永山則夫の事件、離婚責任のある側からも離婚請求ができると認められた事件、犯罪被害者を救済するきっかけとなった事件です。驚いたのは、大日本帝国事件直後に起こり、行政の干渉が激しかったにもかかわらず、司法の独立を守った大津事件の裁判官の勇気、同じく翼賛選挙の無効を決めた裁判官の勇気、数々の免罪事件での警察・検察の横暴、そして前近代的な裁判官の横暴などなどでした。ただし、最後に著者と元最高裁判所長官・島田仁郎氏との対談が掲載されているなど、自画自賛といった風もあり、どこまで中立的に事件を述べているのかには若干の疑問も残りました。
 しかし、明治憲法以来、多くの道のりを経て、現在の裁判の形になったことを知る一助にはなると思います。裁判制度に興味のある方にはオススメです。

ポヤルさんのバン、バン、バーン!

2010-06-22 13:04:00 | ノンジャンル
 DVD『ポヤルさんのバン、バン、バーン!』を見ました。チェコのアニメーション作家ブチェシスラフ・ポヤルの短編5つを収めたものです。
 '59年の『名声』は、ミシェル・ルグランの音楽に酷似した軽快で明るい音楽に乗り、芸術家のオリジナリティが次々に消費され古びたものになっていく様子を、'79年の『なぜ人は犬を飼うのか』は、題名通りの内容が実写による犬のかわいさとともに、同じく'79年の『バン、バン、バーン!』は、人類における戦争、特に核戦争について、'81年の『もしも‥‥』は、月の不思議な光で兵器が無害な物に変わって‥‥、'87年の『はじめの一歩から』は、乗り物の発明と進歩が、それぞれ素朴なアニメーションで寓話的に語られます。
 このDVDを見たのは、山田宏一さんが本『教育主義!』の中で、映画史ベスト50に入れたい映画としてポヤルの'53年作品『飲み過ぎた一杯』を挙げられていたからでしたが、今回のDVDは外れでした。一番面白かったのはやはり音楽の点でも、これらの中では一番早い時期に作られた'59年の『名声』でしょう。『飲み過ぎた一杯』に少し期待させてくれるDVDだったかもしれません。

伏見憲明『団地の女学生』

2010-06-21 18:09:00 | ノンジャンル
 朝日新聞で紹介されていた、伏見憲明さんの'10年作品『団地の女学生』を読みました。2編の中編からなる本です。
 『爪を噛む女』は、38才で介護ヘルパーをやっている私が、学生時代にバンドを組み音楽的才能を開花させてあげたと思っている、峠を過ぎたソロアーティストの幼馴染みと久しぶりに会い、再び彼女になくてはならない存在になって自尊心を満足させるとともに、親しい介護利用者を失うなどの喪失感を感じるという話。
 『団地の女学生』は、84才で団地に独居している瑛子が、近所に住む中年独身男性のミノちゃんを付き添いに故郷に戻り、ミノちゃんが同性愛者でありながら明るく生きているのを知り、また昔の恋人に出会い、再び生きる勇気を取り戻すという話、です。
 『爪を噛む女』を半分ほど読んだ辺りから先は、飛ばし読みしてしまいました。理由は「私小説」的なつまらなさが横溢していたことではないでしょうか? 『団地の女学生』もリアリティをあまり感じることができず、胸に迫ってくることはありませんでした。老人を主題にした小説をお求めの方にはオススメかも。