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内田樹(たつる)『「おじさん」的思考』

2010-05-14 16:47:00 | ノンジャンル
 内田樹さんの'02年作品『「おじさん」的思考』を読みました。著者が自分のウェブサイトに書いたエッセイや論文22編と晶文社のウェブサイトでの連載原稿だった漱石論からなる本です。
 副題が「La pense mure」(フランス語で「成熟した思考」)となっていることから分かるように、ラカンのいう想像的世界から象徴的世界への移行による成熟、簡単に言えば、一歩引いて考える余裕を持つことの重要さが述べられている本です。具体的には、多様性の賞揚、「~しなければならない」という言説に現れる、均質であることを是とする考え方の醜さ、お互いに差異があることを認め合った上での関係(=エロティックな関係)を結ぶことの重要さ、ラディカルに物事を考える(=物事を根本から考える)ことの意義、人格の多重化のプロセスがパーソナリティの発達であるということなどが語られ、もっと実用的な知識としては、自衛隊の海外派兵に関しては、国の「かっこがつかない」ことより、どこかの国の「怨みを買わない」ことのほうがずっと大事だという主張、兵士を海外に送るということは、人の国に行って、そこで人を殺すことを(言い訳はあったとしても)是認してしまうという指摘、そしてそうなれば同士を殺された国の人からは必ず怨みを買うことになるという論理、日本の国際社会における大義は、国際社会において「蔑み」の対象となっても、「憎しみ」の対象とは決してならないことという主張、日本は軍隊を持ってしまっているのだから、それに戦争をさせないことだけを考えればいい、またそれがGHQの戦略でもあったという指摘、セックスなどにおいてお互いが感じているものは、相手の快感を引き出そうとする欲望であるという真理、エロスという言葉はそもそも知を求めようとする欲求のことを指していたという事実、どんな過酷な労働でも、「フレンドリーなクライアント」「公正な勤務評価のできる上司」「有能な同僚」など人間的ファクターが充実している環境であれば、それを楽しむことができるという指摘、すべて平等な社会というのは限られた社会的資源を「競合」的に奪い合うことになり、過剰にギスギスしたものになるという事実、親の子供に対する仕事とは、どうしても守らなければならない社会的なルールがあることを子供に知らしめることであり、親がそうしたルールを「なめて」かかっていると、その態度は子供にも伝染するという指摘、青春期に世の中の全てを疑ってかかるという態度になるのは、将来的にそこから回帰できることを考えれば無駄な迂回ではなく、そうした中で、自分のいる場所を特定できれば成熟につながるという主張などが語られていました。
 ところどころで(例えご自分のサイトでの書き込みとは言え)断定的、高圧的な物言いが目についたこと、売買春には疑似恋愛という側面があるという「事実」を排除していたことなど、いくつか気になったことはありましたが、漱石論で退屈した以外は、読みごたえがあったと思います。人生に迷っている方には特にオススメです。