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上橋菜穂子『月の森に、カミよ眠れ』

2008-05-13 18:39:38 | ノンジャンル
 上橋菜穂子さんが「精霊の木」に次いで'91年に書いた小説「月の森に、カミよ眠れ」を読みました。
 大和朝廷が地方にその権力を広げていた時代。山に囲まれ、狩猟と採取によって貧しくも平和に暮らしていたムラにも朝廷の力が及ぶようになり、働き手の男たちが6年間、朝貢として都に連れていかれてしまいます。そして戻って来た彼らは完全に朝廷に洗脳されており、自分たちのムラでも米を作ろうと言い出し、それまでカミの怒りにふれるというムラの掟として手をふれてはならないものだった〈かなめの沼〉に稲田を作ろうとし始めますが、当然カミの怒りに触れ、沼に入った者は毒蛇に噛まれ、皆死んでしまいます。そこで男たちはカミを殺そうということになり、都からカミと人の間に生まれた、魔物退治を仕事とするナガタチを連れて来ます。ムラの聖地、月の森のカミの血をひいたタヤタという青年とその母ホウズキノヒメに、森に迷った時に救われたキシメという娘がおり、キシメは愛しているタヤタをムラのために殺そうとしますが、ナガタチはキシメに愛する男を殺すなどということをさせたくないという思いから自分が犠牲になろうとタヤタとの決闘に臨みます。そして二人が戦っているところへ、ムラの男が乱入し、カミには毒である鉄でできた剣をタヤタの首に突き刺します。瀕死のタヤタをナガタチが癒しの水のあるところまでキシメとともに運びますが、タヤタは亡くなり、ムラの掟は破られ、稲田が作られる事になります。数十年後、ムラは朝廷の収奪が激しく、貧しいままでした。キシメはタヤタとの子供と森の中で暮らしながら、遠くからムラの愛おし気に眺めるのでした。

 多くの登場人物が交錯する前半は、話が非常に分かりにくく、キシメとホウズキノヒメがごっちゃになり、理解するのを途中で諦めました。後半は、キシメとタヤタの愛、そこへ邪魔者として入るナガタチとムラの男たちという分かりやすい構図で、楽しめました。実際、朝廷が勢力を伸ばして行った時、稲作りの強制という問題があったんでしょうか? またそのために稲田を作る際に、やはり地元のカミのタブーに触れるようなこともあったのでしょうか? 非常に興味引かれることです。日本は単民族国家などと言われることもありますが、そもそもが多民族国家だった可能性は非常に高いように思いました。地方自治という概念の大切さも思い出される、そんな小説でした。決して読みやすい小説ではありませんが、オススメです。
 なお、詳しいあらすじを「Favorite Novels」の「上橋菜穂子」のコーナーにアップしておきましたので、興味のある方はぜひご覧ください。