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三崎亜記『鼓笛隊の襲来』

2008-05-16 17:08:01 | ノンジャンル
 三崎亜記さんの新刊、9編の短編集「鼓笛隊の襲来」を読みました。
 第一話「鼓笛隊の襲来」は、台風のように鼓笛隊が日本列島を襲来し、その音楽に飲み込まれてしまうと鼓笛隊と一緒に力つきるまで行進させられてしまうという話。
 第二話「彼女の痕跡後」は、ふとギャラリーの「彼女の痕跡後」という展示に入ると、自分がかつて愛していて手許からなくなっていたものが展示してあり、主催者は姿は見せず、電話だけで、かつて自分の彼女だった人のものを展示していて、彼女がどんな人だったか思い出せなくなっているから、と言われる話。
 第三話「覆面社員」は、覆面をして出社することが法律で認められ、覆面をすると別人格になる覆面依存症が広がり、自分も自分が覆面をしているのをすっかり忘れて生活していた、という話。
 第四話「象さんのすべり台のある街」は、すべり台に本物の象が連れて来られ、昔はよくあったことだったのが、現在ではなかなか理解されず、火事の消火活動にその象が活躍し、マスコミが殺到して街を騒がしたおお詫びとして、住民相手に昔習得芸を見せて拍手喝采を浴び、死を感じた象はひっそりを姿を消す話。
 第五話「突起型選択装置(ボタン)」は、昔からいた背中にボタンを持つ女性が、最近は住民の要望により当局の監視下におかれ、そんな彼女と幾日かを暮らした男が彼女の行く末を案じる話。
 第六話「『欠陥』住宅」は、大学時代の友人が結婚して家を建てたのだが、日々、階段の段数が変わり、かってに子供部屋ができて、子供の成長にしたがって部屋に置いてあるものがどんどん変わり、窓から見える景色も変わり、友人がいた部屋は友人ごと消えてしまう、という話。
 第七話「遠距離・恋愛」は、浮遊都市で働く恋人と、その都市が降りて来る数カ月に一回しか会えない私がその距離を乗り越えて結婚する話。
 第八話「校庭」は、小学生の娘の授業参観日に久しぶりに母校を訪ねると、校庭の真ん中に一軒家があり、教室の中にも自分の時にもいた独りぼっちの女の子がいて、夜にまた一軒家に訪ねると、例の女の子とその両親がいて、音をたてて自分が彼らに見つかってしまい、帰り道、女の子から「きづかなきゃよかったのにね」と言われ、翌朝目がさめると、自分たちの家族が校庭の真ん中の家に住んでいた、という話。
 第九話「同じ夜空を見上げて」は、列車とともに消えてしまった昔の恋人と会いに、毎年その事件が起きた時間に反対の列車に乗り、走ってるはずのない事故車のすれ違うのに立ち会って来た女性が、彼から「もう僕のことを忘れて、未来に生きてくれ」というメッセージをもらうという話。

 9編すべての小説が現実にはありえない設定の小説ばかりです。記憶をテーマにしたものが多く、9編ともSF小説といっていいのかもしれません。しかし、どういう意図でその小説を書いたのかが分からないものが多く、とまどいます。心にひびいてきたのは「象さんすべり台のある街」の象さんの哀しさと、唯一の書き下ろし「同じ夜空を見上げて」の消えた彼氏が彼女に未来に生きるよう元気づけるシーンでしょうか? しかし三崎亜記さんだけあって、どの小説も細部の描写がしっかりしていて、無駄がなく、すらすら読めるものでした。新作の長編に期待したいと思います。
 なお、詳しいあらすじは「Favorite Novels」の「三崎亜記」のコーナーにアップしてありますので、興味のある方は、ぜひご覧ください。