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アメリカのイラク復興援助はどうなっているか?

2005年02月08日 | 国際政治
 アルジャジーラのネット版に掲載されている記事。アメリカの政府当局者によると、1800億円にのぼるイラク復興資金の支出について議会の賛成を得ており、そのうち、1,300億円が配分された。さらにそのうちの1,000億円が引き渡された。しかし、ブリュッセルに置かれているシンクタンク「国際危機グループ」のアナリストであるレーンダースによると、「それは数字のゲームに過ぎない。基本的に問題となることは、どれぐらいが使われたかだ。」イラクでアメリカ政府が支出した額は、1,500億円程度だと言う。この額の40%かそれ以上の金額は、仕事を請け負った外国企業に生命保険と治安対策のために支払われた。この推定によると900億円が実際の復興に使われたことになる。
 国連と世界銀行のイラク復興資金は、約1,000億円であるが、レーンダースによるとこのうち実際に支出されたのは、200億円程度である。イラク政府が自由にできる歳入の95%は、石油に依存しているが、この収入も濫用されている。フセイン大統領の没落からイラク暫定政府の発足までの間に、ブレマー行政官の率いるイラク暫定統治機構(CPA)は、イラクの石油収入を管理していた。しかし、CPAの会計には透明性が欠けていたと批判されている。CPAが権力を握っていた一年間については、CPAがイラクの金で何をしていたかは正確に言うことはできない。
 イラク戦争開始以来、大多数のイラク人にとって、生活は以前より悪くなった。最近の国連の「世界食糧計画」のレポートによると、5才以下の子供の27%が周期的に栄養不良に罹っている。イラク暫定政府によると、イラクの主要都市の90%には下水道施設がなく、イラク人の3分の1は、綺麗な水道水を飲むことができない。去年の6月のアメリカ会計検査院の報告によれば、イラクでは平均1日に数時間しか電気が使えない。アメリカ政府は復興の遅れを治安が不安定なせいにしているが、この記事の筆者によれば、治安の不安定は復興の遅れの言い訳にはならないと言う。イラク人が復興過程から排除されていると感じていることが、治安問題を悪化させているのである。暫定統治機構が管理していたイラクの石油収入を使って支払われた総額1,500億円の契約のわずか20%しかイラクの会社には支払われていない。イラク・プロジェクトと契約局のチャーリー・ヘスは、「いくらかの例外を除いて、アメリカ議会が支出を認めた金額の大部分は、イラクの会社に支払われている」と述べているが、このイラク人の排除こそ、イラク人がアメリカに対して憤激している原因である。イラク人の企業家によれば、「下請け契約は、アメリカ人が自分たちはイラク人に協力しているという口実として使われていて、復興費用はすべてアメリカ企業に独占されている。」外国企業に支払われる費用は水増しされており、一つの高校を建設する費用は、イラクの企業を使えば、二つの高校を建設できるほどの費用である。しかし、契約局のヘスによれば、10万人のイラク人がアメリカ議会が承認した支出で雇用されていると言う。
「開かれた社会研究所」の2004年9月の報告書によると、イラク復興基金で支払われた1,500億円の金額の85%は、アメリカとイギリスの企業が受け取った。そのうち、60%は、ハリバートン社とケロッグ社とブラウン・アンド・ルート社が受け取った。1995年から2000年までハリバートン社の会長を務めたディック・チェイニー副大統領は、ハリバートン社とのコネを否定しているが、彼は今も同社のストックオプションを持っており、給料も受け取っていると言う。「ブレマー行政官の率いる暫定統治機構は、イラク国民とアメリカの納税者のものである金の濫用と浪費とを止めることができなかった」と同報告書は述べている。
 国有会社の私有化は、暫定統治機構によっては完全には行われず、アメリカ政府がイラクでとったリベラルな経済政策は不適切であったと多くの人によって考えられている。イラクからの亡命者でイギリスのエクゼター大学教授であるカミル・マフディは、「自由化が経済問題を扱う効果的な仕方であるとアメリカ政府は主張しているが、それはイデオロギー上の青写真に過ぎず、ソヴィエト崩壊後に適用された結果、ロシア経済にとって壊滅的な結果をもたらした」と述べている。
 イラクのエコノミストであるハジル・アドナンによれば、「失業こそ主要問題であり、(アメリカに対する)反感の源である。この国家の資産(つまり石油資源)は、民族的宗派的集団によって分割される危機に曝されている。それが国家を弱体化し、党派の争いを悪化している。」
「開かれた社会研究所」のカファジも、イラクの今後の姿は、ソヴィエト崩壊後の混乱に類似するだろうと推測している。「私が心配しているのは、スターリン主義対リベラリズムの対立ではなく、エリツィン型のリベラリズムである。イラクがこの道を歩む危険がある。」
 カミル・マフディ教授は、「必要なのは、イラク国民のニーズに応えるような整合的な意思決定構造であり、それはイラクの主権確立とアメリカ軍の完全な撤退を意味している」と述べている。
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