11月17~18日と掛川で『第66回全国お茶まつり』が開催されました。私は17日の大会式典と研究報告・パネルディスカッション・鼎談の取材に行きました。あいにくの悪天候で他の会場の催事をはしごする時間もなく、式典会場の掛川市生涯学習センターにまる一日缶詰状態でしたが、単独品目で66回も全国大会が開かれる「お茶」という農産物の大きさをあらためて実感しました。数ある農産物の中で、生産者の全国組織があるのは20数品目しかないそのうちのひとつで、戦後の昭和22年から全国大会が始まって、ちゃんと続いているというのは「お茶」だけなんですね。
午前中の大会式典のハイライトは、全国茶品評会の褒章授与式です。茶産地21都府県から833点が出品され、20名の審査員が8月27~31日に静岡茶市場にて審査を行いました。
すでに結果は報道されていますが、個人的には、品評会審査のひと月ほど前に、県広報誌ふじのくに(電子版はこちらを)で取材した掛川城南茶業組合が、深蒸し煎茶の部で農林水産大臣賞(最高賞)を受賞されたことがひときわ感動的でした。日本酒と同様、お茶もコンテストに出品するためには特別仕様で手間と労力がかかるんですね。産地としては規模の小さい城南茶業組合は、以前は流通業者さんが言うがままのお茶づくりだったところ、品質を上げ、ブランド力をつけようと、産地一丸となって出品茶づくりに挑戦しました。それは、静岡酵母で酒質向上に努めた静岡酒の歴史を聞いているようでした。
以下、『ふじのくに』用に書いた拙文を再掲します。
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健康情報番組で火が付いた深蒸し茶ブーム<o:p></o:p>
2011年1月にNHKの情報番組で「人口10万人以上の市町でがん死亡率が全国一低い」「医療費が全国平均の4分の3」「その理由はお茶を良く飲むこと」と紹介された掛川市。地元で作られる深蒸し茶が俄然注目を集め、緑茶の持つ優れた効能にも改めてスポットがあたった。
深蒸し茶は、製茶工程において、茶葉の蒸し時間が通常よりも2~3倍長くする。長く蒸すことによって生茶葉のエキスが多く抽出され、濃厚な香りや甘味、深く鮮やかな緑色が楽しめる。カテキン等の有効成分もより豊富に取り込めるというわけだ。この深蒸し製法は明治期に牧之原で手揉み製法の一環として生まれ、昭和30年代に牧之原台地とその周辺一帯に広まり、掛川でもさかんに作られている。
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小さな産地の大きな挑戦<o:p></o:p>
掛川市南部の上内田地区。なめらかな丘陵地に広がる茶畑で、12名の農家が質の良い深蒸し茶づくりに励んでいる。小さな産地の生き残りをかけ、1990年、農事組合法人掛川城南茶業組合を結成し、共同製茶工場を設立。2003年には県知事より環境保全型農業=エコファーマーの認定を受けた。代表理事の鈴木勇さんは「エコ栽培は生産量が落ちるが、消費者への信頼に応えることができる。産地としての姿勢を示したい」と組合員全員の取得を実現させた。
2009年には初めて組合として茶の品評会に出品。いきなり関東ブロック茶の共進会で農林水産大臣賞、静岡県茶品評会で県知事賞を受賞した。翌2010年には関東ブロック茶の共進会で2年連続大臣賞受賞に加え、奈良県の平城遷都1300年祭会場で行われた全国茶品評会でも見事、農林水産大臣賞を受賞した。 2011年には産地化に向けた取り組みや運営が高く評価され、農林水産祭の蚕糸・地域特産部門で内閣総理大臣賞に輝く。品評会に出品を始めてわずか3年での快挙に、関係者は大いに沸いた。
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品評会受賞で証明された茶づくりの技<o:p></o:p>
すべて手摘みで製茶工程にも気を抜けない出品茶づくりは、人手の少ないこの地区の農家には負担が大きい。「茶商からも“出品茶づくりに労力をかけるより、その分出荷に回してほしい”と言われ、品評会とは無縁の茶づくりを続けてきた」と振り返る鈴木さん。掛川地区は新茶の出荷時期が県内他地域よりも若干速く、その分、値崩れも早いため、新茶の時期は出荷に全力投球せざるをえないという地域の特性もあった。
しかしながら、茶の消費低迷や産地間競争の激化等茶を取り巻く環境の変化を受け、茶商からも理解と声援を得て、組合として出品する茶を専用に栽培する畑を設け、一丸となって臨んだ品評会。「長年、産地を上げて出品茶づくりに努力する生産者がいる中、中途参入の我々がそう簡単に取れるとは思わなかった」と言う鈴木さんだが、短期間での連続受賞に、この地で長年培ってきた深蒸し茶づくりへのゆるぎない自信を実感した。
組合工場から少し離れた出品茶専用の茶畑で、茶樹の状態を確認する鈴木さん。「実際に出品茶にするのは、この茶畑全体の1割程度。ぜいたくかもしれないが、出品する以上は上位入賞できる茶にしなければ意味がない」と競技者のような目になった。
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小さな産地が自主自立を目指し、エコファーマー認定や出品茶づくりに果敢に挑戦し、期待以上の結果が付いてきた。そして思いがけない“深蒸し茶ブーム”。掛川茶を支えているのは、彼らのようなアグレッシブな生産者集団である。
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◆鈴木勇さん(掛川城南茶業組合理事長)<o:p></o:p>
「よい深蒸し茶にするには、茶芽の数をあえて減らし、茶樹を太くたくましく育てる。葉肉の厚い健康的な茶葉をみるいうちに(注)採って蒸すと、ものすごく美味い茶になります。エコファーマーによる上質の深蒸し茶は、健康飲料としての自信をもっておすすめできます」
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農事組合法人掛川城南茶業組合 静岡県掛川市板沢1147 TEL・FAX 0537‐23‐6227 <o:p></o:p>
(注)みるい=静岡の方言で、若く未熟で柔らかい状態を指す。<o:p></o:p>
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17日は、授賞式が終わった後、昼の休憩時間に鈴木さんたちにお会いできることができ、遅まきながら受賞のお祝いを伝えました。取材のとき、日本酒の話でも盛り上がっていたことを思い出してくださったのか、「お酒の試飲会場(別会場で開催した誉富士の酒試飲会)に行くんじゃないの?」と冷やかされましたが、他の産業を深く知り、比較対象することで、あらためて日本酒の世界の魅力や深さや課題が見えてくるような気がしています。お茶はその意味でとても偉大な“教材”だと思います。
ちなみに、日本茶業中央会会長の榛村純一会長がこの日、紹介された“茶業振興策の5路線”、日本酒はじめほかの農水産物振興にも通じるものがあると思います。
①「和産・和消・和食路線」
私たちは理想の目標として、「お米100キロ、お茶2キロ、お魚60キロ」の和食を呼びかけ、国土や日本人らしさを守りつつ、お茶を2キロ(1日6グラム・茶碗10杯)以上を愛飲する緑茶健康人間を顕著に増やす運動を展開します。
②「機能・効能、長寿路線」
お茶は健康長寿・予防医学効果が大きいので、これをわかりやすく一般消費者に説明徹底できるテキストの最新版『茶の機能』を来春までに出版し、これをすべての茶業者が熟読し、「知らなきゃソンするお茶のこと10のヒミツ」で2キロ以上の茶愛飲家を顕著に増やします。
③「文化・美学、癒し路線」
お茶には文化的・美学的に優れた文物、行事、伝統があり、高級茶をたしなむ人をふやす運動は、人生を価値あるものに高め、日本人をゆとりと癒すの民族にし、もって、やさしい、平和な人柄、国柄を築きます。
④「食育・撫育・徳育路線」
戦後日本の教育は、知育・体育のみで、徳育を言わぬ道徳アレルギーでした。これを正すには、子どものときから喫茶習慣や茶の間・茶器・茶道具を愛撫し大事にする「撫育」を「食育」とともに行い、合わせて徳育を構成し、徳を高めることが効果的です。
⑤「エコ・倫理(エシカル)愛郷路線」
生産面では生態系と有機性を大切に、茶園と風土を美しく守り、お茶を安全安心なエシカル商品に価値アップし、生産技術と愛郷心でふるさと・里山を磨き上げていく運動をすすめます。
ありがとうございます。。