杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

ポートランド紀行(その3)ファーマーズマーケット&ワイナリー

2016-06-26 13:10:59 | 旅行記

 ポートランド紀行のつづきです。

 6月10日は、妹夫婦が住むビーバートンの朝市ファーマーズマーケットでモーニングを楽しみました。ビーバートンは、静岡をポートランドにたとえたら藤枝ぐらいのイメージかな。NIKEの本社があることで有名です。妹の家の近くにあるNIKE Campusは広大な社屋&森を有し、市街地のかなりの面積を占める森には入口にガードがあってNIKE社員しか入れないそう。ここで自前のシューズやらスポーツウエアの履き心地&着心地を試しているんだろうかと想像しました。

 

 ビーバートンのファーマーズマーケットは、中心部の図書館&公園の一角で毎週2回開かれ、規模はさほどではありませんでしたが、朝早くから個人経営の生産者や職人さんたちが軒を並べ、ジャズバンドの演奏やウイスキーの試飲コーナーも。今が旬のベリー類をお好みで詰め合わせできるブースには行列が出来ていました。

 この街では、いわゆる八百屋さんとか果物屋さんを個人で営業する店や商店街らしきものを見かけず、大型ショッピングモールがほとんど。個人はこのようなファーマーズマーケットに出店するようです。ポートランド市街では個人のグロッサリーショップもたくさんあるみたいですが、そういう店も必ずファーマーズマーケットに出店し、生産地ツアーなんかもさかんに行っているようです。生産者と都市生活者が直接つながるムーブメントって世界的な潮流なんだと実感しました。

 

 

 

 個人が自分の名前をかけ、こだわり抜いて生産したものを、真剣に商売する。流通業者が介在しない「作って売る」原始的なスタイルに相違ありませんが、その真剣さが、どこか新しい、と感じました。ふだん生産者の顔がみえない巨大な商品売り場に慣れ過ぎているんでしょうか。生産者名や顔写真等をパッケージに入れた商品はたしかに増えているけれど、中間で介在する流通業者が売りやすい&買われやすいように手を加えているのは間違いない。私も、カット済みとか洗わず食べられる野菜を便利でお得だと思ったりする。・・・こういう原始的な市場の売り方が新鮮に思った自分に驚き、ちょっぴり反省しました。

 原始的といっても、野菜や果物のディスプレイはとてもオシャレで、色の配置やデザインをきちんと考えているように見えます。静岡市内で開催中の朝市&フリマも、既存のスーパーマーケットではできない、素材の魅力をドーンと魅せるオシャレで大胆な売り場づくりに挑戦してほしいと思います。

 

 

 この日はワイナリーを2か所訪ねました。最初に訪ねたLEFT COAST CELLARS(サイトはこちら)は、ビーバートンから南西へ車で40分ほどのウィラメットバレーにあります。丘陵地に一見茶畑にも見える広大なワイン畑が広がり、野生のシカが顔を出すほど。

 

 私自身はワインはド素人で、ウィラメットバレーという産地も初めて耳にしたのですが、改めて調べてみると―冷涼で高湿な気候の特徴からピノ・ノワール(赤ワインの代表的なぶどう品種)の名産地として有名。湿度が高い地域でぶどうを成熟させるのは難しいそうですが、醸造家は手間ひまをかけ、クリーンな酸味と完熟果実の芳香で滑らかな口当たりに仕上げる。総じて優しく上品な味わいが特徴。ワイナリーやぶどう園は大小合わせて200軒以上あり、オレゴン州全体の66%を占めています。全米におけるワインの生産量は第3位―だそうです。

 

 

 次いで訪ねたKEELER ESTATE VINEYARD(サイトはこちら)は、ドイツ人のガブリエル・キーラーさんとご主人クレイグ・キーラーさんが1989年に創業したアットホームなワイナリー。テイスティングルームもキーラ―さんちのリビングって感じでゆったりくつろげました。妹夫婦はオレゴン州の地ワインを定期購入するサークルの会員で、ここのワインのヘビーユーザーだとか。日本酒党にとってはピノ・ブラン(白)がすっきりさわやかに飲めたかな。ショーンが平野さんに熱心にピノ・ノワールのテイスティング方法を伝授していました。

 

 この日、朝は肌寒い曇り空で、途中、何度か通り雨があり、ワイナリー滞在中は爽快な青空。でも途中で急に薄暗くなってパラパラまとまった雨。一日のうちで天気がコロコロ変わるのも不思議じゃないそうです。ちなみに夜は9時を過ぎないと暗くなりません。

 

 ウィラメットバレーの解説文によると、この一帯は年間を通して大きな温度差がなく、春季後半から秋季前半には少雨で乾燥しがちだが温暖で柔らかい日照が長く続く。秋季後半から春季前半には雨が多いが氷点下まで冷え込むことはほとんどない。年間では全体的に冷涼で高湿度という環境だそうです。土壌は、PHが高く低酸のジョリー土壌(赤土)と、PHが低く排水性が高いウィラケンジー土壌(灰土)、位置や標高で保水性やPHが異なるローレルウッド土壌(茶土)とさまざま。素人ながら、これだけ多種多様な土壌で日照時間が長く温暖で高湿度ならば、どんな農作物でも育つだろうと想像しました。

 

 妹がファーマーズマーケットで購入した旬のいちごは、びっくりするぐらい美味でした。最近の日本の果物は、どうも糖度に走り過ぎているきらいがするのだけど、こちらの農作物は酸味をバランスよく生かしており、それが本来の、気候や土壌由来の自然の優しい味わいだと思える。ワインを通してそのことを実感しました。

 



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