杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

今こそ茶カテキン!

2020-04-10 16:36:49 | 農業

 静岡県はもうすぐ新茶の初取引を迎えます。県内ニュースの天気予報に「霜注意報」が出るくらい、お茶は、この時期の静岡のニュースに欠かせないネタ。ちょうど1年前にはJA経済連情報誌スマイルの取材で各地の茶産地や研究拠点を回り、大きな曲がり角にある静岡県の茶産業の未来にさまざまな思いを巡らせていたものでした。

 昨年3月からは静岡県茶業会議所会頭を務める上川陽子さんからのお声かけで、『茶と人フロンティア静岡会議』の設立準備会に加わり、消費者目線でさまざまな静岡茶振興策を考える機会をいただきました。

 今年2月22日にホテルセンチュリー静岡で開かれた『茶と人フロンティア静岡会議』設立シンポジウムの席では、静岡茶のヒトモノコト起こしのプラットホーム創出について、11人プラス常葉大の学生さんたちと練り上げた事業案のスピーカーも務めさせていただきました。この会場で22年前『地酒をもう一杯』の出版記念パーティーを開いて頂いた時、地酒イベントでは初めて日本茶インストラクターの方にブース出展をお願いした事を思い出し、改めて、静岡の宴会では飲酒NGの人のため、ウーロン茶じゃなくて静岡茶を!と呼びかけました。

 2月末の時点では、新型コロナウィルスの感染拡大がここまで深刻化するとは想像できず、4~5月の新茶シーズン、フロンティア静岡会議で提案された事業案がいくつ着手できるだろうとワクワクしていたのですが、今、増加の一途をたどる新型コロナウィルスの感染者数に戦慄し、緊急事態宣言という状況に身動きが取れず、外での取材も打ち合わせも行事も中止となり、なすすべもない日々を過ごしています。

 SNSでは茶カテキンが新型コロナウィルスに効果があるという論文が発表された云々という記事を見かけました。この手の不確かな情報を拡散すべきではないと思いますが、この機会に、茶の機能性についてもう一度おさらいしてみようと専門書をいくつか洗ってみました。素人レベルで理解できる確かな情報を紹介したいと思います。

 乾燥茶葉に含まれる主な成分は渋味のカテキン(10~18%)、苦味のカフェイン(2~4%)、うま味のテアニン(0,6~2%)といわれます。その効果や効能は次の通り。

 

◆カテキン/抗酸化作用、抗がん作用、コレステロール上昇抑制作用、血圧上昇抑制作用、抗動脈硬化作用、血糖上昇抑制作用、血漿板凝集抑制作用、抗菌・抗ウイルス作用、腸内フローラ改善作用、抗炎症・抗アレルギー作用、免疫機能改善作用

◆カフェイン/中枢神経興奮作用、眠気防止、強心、利尿作用、代謝促進

◆テアニン/脳・自律神経調節作用、認知障害予防作用、リラックス効果

 

 こうしてみると、カテキンってやっぱりスゴイですね。しかも煎茶が一番多く、ウーロン茶や紅茶には少ない。煎茶の中でも一番茶に一番多く含まれ、二番茶、三番茶とだんだん減っていきます。新茶は値が張るけど、初物の珍しさや新茶独特の香りや味だけではなく、カテキンの多さ=機能性の高さを付加価値にしてもいいんじゃないかと思います。

 茶カテキンが大きく注目されたのは30年ぐらい前。茶どころ川根の町民の胃ガン死亡率が低いことに着目し、統計データを解析し、お茶をよく飲む習慣がガンのリスクを低減させていることが判りました。その後、さまざまな生活習慣病予防効果も明らかとなり、1991年、静岡で初めて開催された国際茶研究シンポジウムでカテキンの機能性についての先進的な研究成果が発表されるなど、お茶の機能性が広く知られる機会が増えました。

 私はこの頃、酒の取材が縁で知り合った山本万里さん(農業技術研究機構野菜茶業研究所主任研究官)に、カテキンの一種・EGCG(エピガロカテキンガレート)がメチルエーテル化したものに抗アレルギー作用があるという話を直接聞く幸運に恵まれました。万里さんの研究で、台湾の凍頂ウーロン茶に多く含まれ、やがて「べにふうき」という紅茶用の品種にも多く含まれることが判明。ご承知の通り、べにふうきはその後、花粉症に効くお茶として一大ブームに。私自身は、紅茶用のべにふうきを緑茶として飲むのは苦すぎるので、緑茶の風味に近くて飲みやすい凍頂ウーロン茶を、横浜中華街の専門店まで買いに行って常飲したものです。

 

 茶カテキンはポリフェノールの一種で、昔から「タンニン」と呼ばれたお茶の渋味成分。主に①EC(エピカテキン)②EGC(エピガロカテキン)③ECG(エピカテキンガレート)④EGCG(エピガロカテキンガレート)の4種類あります。すごーく紛らわしい名前ですが(苦笑)このうち最も含量が多いのが④のEGCGで、他のカテキン類に比べて抗酸化作用が高く、茶の機能性成分のトップランナーともいえる存在です。

 1993年、EGCGとTF3(テアフラビンジガレート=カテキン類が酸化重合したもの)が動物実験でインフルエンザA/H1N1とB型ウイルスの感染を阻害することが判りました。2002年にはEGCが感染直後であればウイルスの増殖を効果的に抑制すること、2005年にはEGCGとECGがインフルエンザA/H1N1、A/H3N2、B型ウイルスの感染や赤血球凝集活性、ウイルスRNA合成等を阻害することが判明するなど、EGCGに代表される茶カテキンの抗インフルエンザウイルス活性パワーが続々と解明されました。

 2009年には、パルミチン酸モノエステルという化学修飾を加えたEGCGが、前年にパンデミックを引き起こした新型A/H1N1ウイルスで特効薬タミフルが効かない耐性株、季節性A/H3N2やB型ウイルス、さらに鳥インフルエンザA/H5N2の感染を効果的に阻害することが判りました。

 とりわけ注目するのは、①EGCGパルミチン酸モノエステル②EGCG③タミフル④アマンタジンの各化合物を、鳥インフルエンザA/H5N2に感染したニワトリ発育鶏卵に接種し、胎児の感染致死阻害率を調べた研究。②は7日後に70%致死、③と④は7日後に80~90%致死したのに対し、①は致死0=すべての胎児が生存したのです。

 

 新型インフルエンザウイルスの感染阻害に効果があることを実証したEGCGパルミチン酸モノエステルに続き、今現在、新型コロナウイルスの感染阻害にカテキン類が何らかの効果を発揮するのではないかという研究論文が海外からいくつか発表されているようです。

 現時点で確かなことは言えないにしても、茶カテキンには免疫機能改善作用という頼もしい機能が備わっています。細菌やウイルスなど外から入ってくる病原体の攻撃から体を守る免疫機能。病気にかかりにくい体をつくる上で欠かせないもので、これにはEGCGよりもEGC(エピガロカテキン)のほうが力を発揮するようです。

 一般に煎茶を淹れる湯温が70℃前後またはそれ以上では、ECGCとEGCの比率が1対1だそうですが、70℃より低い温度で淹れるとEGCGが減り、EGCは変わらず。長時間かけて抽出した水出し煎茶と、熱湯で淹れた煎茶をマウスに経口摂取させたところ、水出し煎茶を飲んだマウス群のほうが、免疫系で重要な役割を果たす有効成分(イムノグロブリンA)が多く作られました。EGCの増加が有効成分の上昇に一役買ったのです。

 

 専門書のカテキン解説の中で、抗ウイルスや免疫改善の部分だけを拾い読みしただけですが、カテキン含有量が増える一番茶=新茶シーズンを目前に知っておいてよかった!と思いました。

 カテキンの抗ウイルス効果が期待できる熱めの煎茶なら、お出かけ前や外出先で。免疫調整してくれる、ぬるめのお茶や水出し煎茶は家でくつろいでいる時に。・・・そんな飲み分けも効果的ですね。水出しならばテアニンが増えるので、脳・神経調整作用やリラックス効果が期待できるし、これから暑くなる季節、重宝しそうです。

 

 私たちが目に見えない新型ウイルスとの戦いに振り回されている中、茶畑では新芽が日々刻々と成長しています。自然のチカラに今一度、謙虚な気持ちで、向き合わなければと思う毎日。早くみんなと「喫茶去」し合える時間が来るといいな。

 

参考書/

茶の機能―生体機能の新たな可能性 2002年 学会出版センター刊

新版・茶の機能ーヒト試験から分かった新たな役割 2013年 農山漁村文化協会刊

平成30年度茶学総合研究センター実績報告書 静岡県立大学刊


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