杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

塚本こなみさんの「感動分岐点」

2013-02-24 10:59:25 | ニュービジネス協議会

 22日(金)夜、浜松アクトコングレスセンター会議室で開かれた(社)静岡県ニュービジネス協議会西部部会のトップセミナーに参加し、久しぶりに、敬愛する樹木医塚本こなみ先生の講演を拝聴しました。

 こなみさんは4月から浜松フラワーパーク理事長に就任し、赤字経営にImgp1212苦しむ市立植物園の建て直しに大鉈を振るわれることになりました。

 

 

 

 

 

 浜松フラワーパーク、どんな経営状態かというと、今から10年前の2003年の入場者数は51万人。浜名湖花博があった翌2004年はなんと半減。そして2011年は25万6千人、12年も25万5千人と、“半減”状態から戻れずにいます。ちなみにこなみさんが園長を務めるあしかがフラワーパークは、年間100万人余を集める日本一の民間植物園です。

 

 

 

 2009年に浜松フラワーパークでモザイカルチャー博覧会があったときに両親を連れていき、なかなか見応えがあって悪くないと思ったのですが(こちらを)、やっぱり目玉となるイベントや他では観られない花や庭園がなければ、入園料800円を払ってまでリピーターにはならないだろうなあという印象・・・。こなみさんは入園者数低迷の原因を、

 

 

 

○入園者数減→売り上げ減→魅力的な園づくりの予算が確保できない悪循環

 

 

○浜松市行革審の意向でさらに予算削減。つねにヒト・カネ不足の状態。

 

 

○職員の意識が萎縮しており、サービス業としての自覚にも乏しい。

 

 

○坂道が多く、車椅子の人は階段を避けようと思ったらとんでもない遠回り。トイレも9割が昔ながらの和式。ユニバーサルデザインが大いに欠如している。

 

 

○浜名湖花博跡地を利用した浜名湖ガーデンパーク(入園無料)との差別化が難しい。

 

 

 

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と冷静に分析されました。これら原因は素人の私でも、うすうす感じたことなので、たぶん、ガーデン設計者や経営コンサルタントだったら楽勝だったでしょう。でも、だったら、どう解決していくのか―そこが、タダの設計家やコンサルタントとは違う、あしかがフラワーパークを再生させた“実績”を持つこなみさんのスゴさです。

 

 こなみさんが提案した対策案の詳細は、市議会の承認が通らなければ公にできないため、ここでは2点だけ紹介すると、

 

 

 

 

 

①「日本一」を銘打つ

 

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 あしかがフラワーパークの経営改革に着手したとき、関東一円のフジを目玉にした植物園を徹底的にリサーチ。春日部市に“日本一”といわれるフジの樹があり、江東区亀戸天神も名所として歴史がある。“新規参入”しづらいと思いがちですが、こなみさんは、「関東一円にフジの名所が点在し、フジを愛でるお客さんがいる。つまり“市場”がちゃんとあるということ。ならば、既存ブランドを超えた魅力を打ち出し、客足を向けさせればよいこと」とポジティブに考え、思い切って“世界一のフジガーデン”をキャッチコピーにしました。もちろん看板に偽りがないことは一目瞭然。チラシを東武・JR両毛線沿線に一気にうって、フジの花見客の足をしっかり確保し、フジの時期だけで年間入園者数の8割を獲得したのです。

 

 

 浜松フラワーパークでも、他の植物園とは違う魅力を打ち出し、客の眼をひく“しかけ”が必要です。こなみさんは技術アドバイザーとして数年前からチューリップやフジの植樹を提言していて、予算減の中、なかなか思うようなボリュームが確保できないでいましたが、理事長就任を機に、桜とチューリップが同時期に咲くことを”ウリ”にした、「日本一美しい桜とチューリップの庭園」を全面的に打ち出していかれるそうです。

 

 

 

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 とりあえず理事長デビューのこの春は、1300本の桜と30万球のチューリップを“競演”させ、チューリップの株数を徐々に増やしていく予定。「浜松フラワーパークは、日本の(チューリップの名所として名高いオランダの)キューヘンホーフガーデンになれると思う」と明言されました。桜&チューリップの後、4月下旬から、こなみさんの本領発揮となるフジが咲き揃えば、まさに鬼に金棒!フジが育つ数年後が楽しみです。

 

 

 

 

 

 

 

②入園料収入UP案

 

 あしかがフラワーパークの事例では、3月から6月までは入園料を日替わり変動制にしています。目玉である大フジの見ごろ(4月末~5月上旬)、昨年はピーク価格で1700円と設定しました。逆に花が少ない7月から9月まではなんと入園料無料。10月から2月までは500円ですが、代わりに、園内で使える500円クーポン券を進呈しました。

 

 この入園料変動制度を経営トップに提言したとき、もちろん猛反対されたそうですが、フタを開けてみれば、最高額1700円を払ったお客さんからは、クレームどころか、「今日が最高に見ごろなのね!」と喜ばれたのです。世界一の大フジを観ようと足利まで足を運んだお客さんにとっては、1700円は十分適正価格だったというわけです。

 

 逆に夏場の花の少ない時期、一気に無料にする、といわれ、経営トップは「民間施設なんだから100円でも200円でもとるのが常識だ」と“抵抗”したそうですが、こなみさんが断行し、フタを開けてみると、園内のギフトショップやレストランの売り上げが5割増しに。・・・お客さんの立場で考えれば至極自然のことですね。

 

 この変動方式を浜松でも導入してはどうか、とこなみさん。花の見ごろも、花が少ない時期も、まったく同じ800円をとるというのは、客目線で考えれば確かに理不尽なことです。しかも、何度も来たくなる様な目玉や変化が、現状の浜松フラワーパークには乏しい。それで年間かわらず800円とって何とも感じない職員は、思考停止しているんじゃないかと言いたくなります。

 もちろん現場の職員だけが悪いわけではないと思いますが、日本一の動物園になった旭山動物園も、職員の中から湧き上がった、自分たちで改革していこうという強い意識が原動力になったんですよね。この、現場の意識改革ってものすごく大きいと思います。こなみさんはアドバイザー時代からそのことを呼びかけ、「みなさんにも変われる力がある」「この園は必ず魅力的になれるんだよ」と励まし続けました。

 

 昨年、市が理事長の公募をしたとき、日本国中を飛び回るこなみさんは、周りから推されても多忙を理由に固辞し続けたそうですが、中の現場の職員から「こなみ先生、ぜひ立候補してください」と強い希望が寄せられたんだそうです。これで心が決まったんだろうな・・・と思います。着任時から、このような思い切った改革案が実施できるというのは、現場でのコンセンサスがちゃんと出来上がっていた証拠でしょう。

 

 

 

 

 こなみさんは「経営力をつけるには損益分岐点をしっかり見極めなければなりません。と、同時に、私たちは、“感動分岐点”というものを意識しています。この分岐点を超えたら、1700円でもお客さんは来てくれる。リピーターになってくれるのです」と語ります。・・・もう一度観たい、今度は家族を連れて来よう、来年は職場の仲間と一緒に来よう・・・そう思わせる力とは、「この花を観られて幸せだ」と感動させる力なんですね。感動は共感を呼び、共有させたくなるもの。おいしいものを食べた、面白い映画を観た・・・そのつど、フェイスブックやツイッターで誰かに伝えたくなる、その気持ちと同じです。

 

 

 

 

 早急に対策が求められる園のユニバーサルデザイン化については、予算がとれるまでは、“人力作戦”として、近隣の大学に呼びかけ、学生ボランティアを集めて『車椅子押します隊』を結成するそうです。実にナイスアイディアですね!

 

 

 

 

 私は、はからずも、ある日本酒のしおりに、「人を感動させる酒は、感動を知っている者が醸した酒」というコピーを書いたことがあります。現場の杜氏さんや酒米農家の真摯な姿を見て、自然に浮かんだ言葉でしたが、こなみさんがおっしゃった感動分岐点も、そういうことなのかなと思いました。

 

 

・・・感動分岐点を超える仕事が出来る人もまた、幸せです。こなみさんが改革する浜松フラワーパーク、ぜひご期待ください!