杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

映画ならではの斬新な表現

2013-02-16 10:13:37 | 映画

 このところ、幸か不幸かバイト先のお寺さんからお呼びがなく、時間に余裕が出来たので、読書や映画鑑賞に勤しんでいます。昨年末に購入したKindleを、ようやく活用できるようになり、『光圀伝』『利休にたずねよ』の電子版を立て続けに読みました。本なら結構のブ厚さになるので、携帯がホント、楽です。昨日からは横山秀夫の『64』を読み始めました。「読み終わるまで9時間15分」ってわざわざ表示してくれるんですよ(苦笑)。

 

 

 昨日(15日)は午前中、グランドハイアット東京で行われた『インターナショナル・サケ・チャレンジ』『ジャパン・ワイン・チャレンジ』の授賞式をのぞきに行き、午後は東京ビッグサイトに『スーパーマーケットトレードショー2013』を視察。夕方は、銀座テアトルシネマで上映中の『塀の中のジュリアス・シーザー』を観ました(公式サイトはこちら)。

 

 

 ローマ郊外の刑務所で実際に行われている演劇実習が舞台で、囚人がシェイクスピアの「ジュリアス・シーザー」を演じるまでのドキュメンタリータッチのドラマ・・・という触れ込み。演技が素人の囚人たちが、実習を通して成長・団結をしていく舞台裏を追ったもの、とばかり思っていましたが、想像をはるかに越えた、今まで観たこともないスタイルの映画でした。

 

 

 囚人たちはすべて実名出演で、刑務所内は自由に撮影OK、という日本ではあり得ないシチュエーション。ホントに素人?実はプロの役者が演じてるんじゃないの?と見紛うほど、みんなうまいし、“役者顔”をしています。「ジュリアス・シーザー」自体が裏切り・扇動・反乱といったテーマだけに、主人公のブルータス役やシーザー役の囚人は、演技と現実が混乱してくる。その混乱ぶりも、あまり度が過ぎず、映像的も変に凝らず、一貫して刑務所の中と上演会のシーンだけを淡々とつなぎます。囚人たちの、素なのか、演技実習なのか、観ているこちらの混乱するようなすさまじい存在感。最近、ゲキシネとかいって舞台演劇をそのまま映す映画が増えていますが、それともまったく違う。・・・なんというのか、映画でしかできない、まったく新しい表現方法だと思いました。

 

 監督は、新進気鋭の若手かと思ったら、御年80歳を越えた超ベテランのタヴィアーニ兄弟。カンヌのパルムドール作品『父/パードレ・パドローネ』、グランプリ作品『サン・ロレンツォの夜』等の巨匠。本作ではベルリン国際映画祭金熊賞(グランプリ)を受賞しています。今日(16日)から静岡のシネギャラリーでも上映が始まりますので、ぜひご覧ください!

 

 

 

 

 今週はもう1本、レンタルDVDで観た『ロック・アウト』という邦画が印象に残りました。高橋康進さんという若手映像作家の長編初作品で、2009年ニューヨーク国際インディペンデント映画祭で最優秀監督賞・最優秀スリラー賞を受賞しています。公式サイトが見つからなかったので、こちらを参照してください。

 

物語は失業して希望を失った若者があてのないドライブ中に出会った少年と、ある種の心の交流を通して自己再生していくという、シンプルなロードムービーなんですが、これがNYでスリラー賞を取ったというところがミソ。主人公がいつブチきれるのか、終始、どきどきザワザワ、落ち着かなくて、少年にも何かトラウマがあるんじゃないかとか、失業した会社にも裏があるんじゃないかとか、観ているほうの妄想を駆り立てる。そして、意外なほど、爽快なオチ。巨匠のタヴィアーニ兄弟作品と比べて何ですが、この映画も、ある意味、映画でしかできない面白い表現アプローチという点で共通項を感じました。

 

 特典映像で、高橋監督や主演俳優さんが手弁当で海外の映画祭に参加し、懸命に売り込み努力をしているところが、また、グッときました。映画は言葉や文化の壁をいともかんたんに超えて、受信能力のある人にはちゃんと伝わる・・・映画作りの醍醐味を、あらためて教えられた気がしました。

 

 

 これは、午前中の『インターナショナル・サケ・チャレンジ』の授賞式でも、同じように感じました。日本酒は、いまや、本当にグローバルな食文化になりつつあります。受信感度の高い、よき理解者、支援者、同志をみつけること・・・酒造りも映画作りも課題は同じなんですね。

 

 

 

 昨日(15日)は日刊いーしず連載中の『杯は眠らない』第3回がUPされましたので、こちらもよろしくお願いします!