杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

職人たちの共演

2008-01-25 12:56:22 | しずおか地酒研究会

 先日のブログでご紹介したとおり、映像作品『吟醸王国しずおか』の試し撮影を、23日夜から24日夜まで、まる一昼夜、『喜久酔』の蔵元・青島酒造(藤枝市)で行いました。

 

 このプロジェクトを立ち上げるまでには、いろいろな立場の人から賛否両論もらいました。多くは、やれるものならやってみたら? カネやスタッフが集まったら相談にのるよ、というものでした。まあ、社会に必要不可欠、でもなければ、何か二次的に多くの利益が発生するという事業でもありませんし、映像作りの素人が夢物語にうかされていると思われるのも無理からぬことでしょう。

 具体的な事業計画が何も決まっていない段階で、距離を置こうとする人がほとんどだった中、私の言葉や姿勢だけを“担保”に、実際に動いてくれたのが、喜久酔の青島孝さんと、映像カメラマンの成岡正之さん(オフィス・ゾラ静岡社長)でした。私は、この2人がなぜ力を貸そうとしてくれたのかが、実際の撮影現場を通して解ったような気がしました。

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 この写真は早朝6時、杜氏の孝さん(後姿)と蔵人が朝食をとっているところ。深夜2時に麹の切り返し作業をし、仮眠をとって4時50分から仕込み・麹切り返しをし、酒米の蒸し釜に火を入れて蒸気が上がるまでの時間、食事と休憩をとるのです。気温は5℃。これから始まる一日の本格的な作業を前に、すでに疲労困ぱい状態で、とにかく腹に飯を入れておかないと身が持たない、とばかり、無言で箸を動かす彼らにカメラを向けるのは、いきなり出来るものでもありません。

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 これは麹室の中。喜久酔の最高品種『純米大吟醸松下米40』の麹づくりを接写しています。雑菌完全NGの麹室の中は外部の人間をシャットアウトするのが当たり前。マスコミ取材でもなかなか適いません。しかもその蔵の最高級の仕込み期間中となれば、取引先や見学者の訪問さえ断るのがふつうです。青島さんが心の底から、「日本酒の、静岡の酒造りの貴重な技を後世に伝えたい」と願う私の気持ちを汲んでくれなければ実現しません。

 私は昔から青島酒造の酒造りの姿勢を支持し、さまざまなメディアで積極的に紹介してきたので、特別な関係と思われているようですが、この蔵が、マスコミや取引先を特別扱いする蔵ではないことは、蔵元を知っている人ならご存知でしょう。

 日中の休憩時間は昼食時の1時間だけで、夜は2~3時間ごとに起きての作業。まる一日、まったく無駄口をたたかず、指示待ちすることもなく自分の判断で黙々と働く蔵人の若者たちをファインダー越しに見ていた成岡さんは、「これが3ヶ月、一日の休みもなく続くなんて、ただ給料をもらう仕事と思っていたら続くわけがない。何が彼らをそうさせるのか、それが伝わる映像を撮らなければ意味がない…」とうなり続けていました。

 成岡さんにしても、利益になる補償のまったくない私の夢物語に、徹夜でつきあい、ハイビジョンカメラを回し続けました。酒蔵に何回通えば納得がいくのかわからない撮影を、最後までやろうというのです。酒蔵や地酒ファンを相手にひと儲けしようといった下心では、そんな台詞は出てこないでしょう。

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 私の酔狂なプロジェクトを聞き付け、昨日はケーブルテレビVIC TOKAIの足立弥生さんが取材に来てくれました。なぜ地酒の映画を作ろうと思ったんですか?と問われ、青島さんや成岡さんの、ビジネスとは次元の違う思念や共感を伝えたい、と言いたかったのですが、うまくしゃべれませんでした。

 

 「一番緊張する、リスクの高い時期だから、あえて来てもらった。この撮影は、自分を鍛えるためでもあります」という青島さん。

 「テレビの下請制作ばかりでは、自分たちの理想や技を表現し、高める舞台を見失ってしまう。『朝鮮通信使』であれだけの仕事ができたのに、後にまったくつながらない。こういうチャンスを作ってくれた真弓さんに感謝しているんですよ」と成岡さん。そんな、職人たちの真摯な気持ちと地道な努力を伝えたい―これこそが足立さんへの応えだったような気がします。

 甘い、と笑う人を、いつか、すごい、と言わせるように頑張ります!