杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

プロフェショナルの生き方

2008-01-11 13:56:53 | 日記・エッセイ・コラム

 今朝、仕事前、録画しておいたNHK『プロフェショナル~仕事の流儀』を観て、82歳の鮨職人・小野二郎さんの手の美しさに見入ってしまいました。プロフェショナルとは何かという最後の問いに「仕事に没Photo頭し、さらに上を目指す人」と応えられたことも印象的でした。

 一昨日、ご一緒した樹木医の塚本こなみさんも、06年5月に『プロフェショナル』に出演された際、同じ質問に「一生究めようと思い続けることのできる人」と応えていました。

  こなみさんの手は、二郎さんとは違った美しさがあります。この写真は7~8年前、友人の写真家に誘われ、冷かし半分に写真家集団の作品展に出品したもので、こなみさんをモデルに撮らせていただいた内の1枚です。

 撮影技術が未熟な上に白黒でわかりにくいかもしれませんが、手のひらを“センサー”に、木の肌に当て、声なき声を聞くこなみさんの仕草は、(女性とは思えない逞しい手ですが)生物への畏敬と慈愛に満ちた美しい姿でした。

 ご存知の方も多いと思いますが、塚本こなみさんは日本初の女性樹木医となり、学者や専門家が不可能と匙を投げた大藤の移植を成功させ、当時、経営難だったあしかがフラワーパークを集客数日本一の観光植物園に甦らせた人です。

Photo_2

 

 私は10数年前、ちょうどこなみさんが大藤の移植に取り組もうとしていた頃、運よく取材でお会いし、「樹木の治療に日本酒や酒粕も使うのよ」とうかがってからのおつきあい。あしかがフラワーパークの藤にも、静岡の酒粕を使っていただいています。

 こなみさんは、学者の机上の理論や樹木医の世界の常識にとらわれず、「もっと樹を活かす方法があるはず」「人間を治療するとしたらどうする?」をつねに模索されます。ひと回り年下の私のつたない酒の話にも熱心に耳を傾け、お勧めする本にきちんと目を通されます。とにかく知識の吸収や実践に対する姿勢は、謙虚かつ能動的で、これでいいと満足し、止めてしまうことをしません。「貴女は回遊魚だ、動きを止めたら窒息死する、と言われたことがあるのよ」とこなみさんは笑います。

 2年前、東京国立博物館で開かれた『仏像~木にこめられた祈り』展を特集するNHK日曜美術館に、樹木医として出演された後、「真弓ちゃんと一緒に観れば勉強になるから」と、収録でさんざん観た館内を、私のために再度一緒に廻ってくれました。私は、こなみさんに声をかけていただくたびに、必死に仏像や歴史の本を読み返したものでした。

 周囲や世間がどんなに評価・賞賛しようとも、何年キャリアを積み上げたとしても、つねに上を目指したいと思い続ける情熱。二郎さんやこなみさんの域に達することの出来る人は、ほんの一握りでしょう。身近にそんな生き方を実践している先達がいるだけで、私は運に恵まれている、その運を無駄にしないようにと、気持ちを引き締めています。

 このブログも、文章が上手くなりたいという一念で、毎日、とにかく、自分の言葉で書く、ということを習慣付けようと始めました。書いている間、眠気も食欲も忘れ、無心になれる自分は、書くことが好きなんだなあと今さらながら感じています。プロフェショナルだと自信を持って語れる域には、まだほど遠いのですが…。


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