杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

福岡出張その1~新産業創出全国フォーラム

2009-11-01 12:26:50 | NPO

 10月29日~30日と福岡で開催された『新産業創出全国フォーラムIN福岡(日本ニュービジネス協議会連合会全国会員大会)』に参加しました。

 富士山静岡空港を利用するのは3度目。取材を含めると開港5ヶ月で5回も来ています。しかもJALが静岡空港撤退を知事あてに文書で通達してきた日に、搭乗率保証問題でガタガタしていた福岡便に搭乗です。行きは9割、帰りはほぼ満席状態。しかも着陸後は客室乗務員から「弊社は皆様にご心配をおかけしておりますが、従業員一同再生に向かって努力しておりますので、今後ともよろしくお願いいたします」のアナウンスつき。…なんとも皮肉なフライトでした。

 

 福岡は、子どもの頃の家族旅行や修学旅行を含めると6~7回来ていますが、今回は静岡の自宅を7時に出て、博多の中心天神には11時に着きましたから、劇的に「近くなった~!」と実感です。昼前にフォーラム会場のソラリア西鉄ホテルに着いて、静岡から参加の㈱エスジー鈴木荘大社長、ニュービジImgp1569 ネス協議会の末永和代事務局長、事務員の渡邊さんと、静岡県の紹介ブースを作り、午後12時45分から始まったフォーラムを取材しました。

 

 

 ニッポン新事業創出大賞の表彰式では、起業支援部門でNPO法人SOHO・アット・しずおかの坂本光司理事長が経産大臣賞を受賞されました。

 私は同法人には直接かかわりはなく、詳しくはわかりませんが、学生と企業をつないでインターン経験をさせたり起業教育をする活動をしているようです。以前、同法人から「取材や編集の仕事をしたい学生がいるから弟子入りさせて」と頼まれ、自分はそんな身分じゃないからと知り合いのエディターを紹介したことがありました。自分が学生の頃は、大学の先生がこんなに親身に就職のことを心配してくれたり、外部にこういう支援団体があるなんて想像もできませんでしたが、こういう支援活動が大臣賞に値するということは、それだけ今の学生たちの職業選択や就職活動の難しさを証明しているわけですね。

 

 

 続いて特別講演会はトヨタ自動車㈱張富士夫会長の登場です。

 この10年間、年に40~50万台増という右肩上がりの時代が続いたものの、「内心、早く踊り場が来ないかなと心配だった」という張会長。売れてるときって量のプレッシャーに追われるので、「カイゼン」を考える時間がもてないからだそうです。1年前のリーマンショック以降、3~3.5割ほどストンと落ち、今年4月ぐらいまで低迷が続き、「大変だけど、とんでもなく右肩上がりが続いたので、改善する余地がたっぷりあって、今は社内で“大掃除”している」状態。「問題が生じたらラインを止める」「元に戻って設備と品質の改善点を考える」「ラインを止めて問題点を洗い出した後は、10人で100個出来る部品を、8人で100個出来るように知恵を絞る」のがトヨタの生産方式であり、自分が部下にそれを厳命できるのは、自分もかつて上司からそう鍛えられてきたからと語ります。

 

 

 米国ケンタッキーにトヨタが100%自前の生産工場を初めて作った時、現場を任された張会長は、日米の習慣の違いに戸惑いました。米国自動車メーカーの組み立て工場ではパーツごとに担当が分かれて、Aの部品担当者が早く終わっても、Bの担当を手伝うことはできない。一方、トヨタは製造工と保全工の2種類しか分けず、一人の工員にかかる責任が大きい。それでも最初に採用した3000人のアメリカ人は、「Aさんが60秒で5つ組み立てたものをBさんが50秒で出来たら、Bさんの給料が上がるのは当たり前」という合理的な説明に納得し、カムリを扱うディーラーから「アメリカ人が作ったカムリじゃ売れない、日本製じゃなきゃ」と言われたのに発奮し、1年後にはケンタッキー工場が全米ナンバーワンの優良工場になったそうです。

 

 

 「一人の工員をじっくり育てる日本的な人材育成文化は高く評価されましたが、不況の時に人員調整しにくいのが難点。昨年秋以降は仕事のない社員を万人も抱えてしまったが、強引なリストラはせず、社員には割増退職金付きの自主退職か、残るならワークシェアリングを、とお願いした」と張会長。海外に進出するというのは、その土地に2階建ての家を建てるようなもので、地面は人間として万国共通の価値観、1階はその国の文化や風習、2階に自社の企業風土やビジネス習慣を備え付ける。2階部分は「変えようと思えば変えられる。それがトヨタの生産方式であり人材育成です」と明快に語ります。

 …特別、スゴい話ではなく、企業経営者としての経験を淡々と語る張会長ですが、トヨタの会長さんが「当たり前のことを粛々とやっている」ことにスゴさがあるんですね、きっと。

 

 

Imgp1587  続いてのシンポジウム「農商工連携による新事業創出への挑戦」では、地域限定の焼酎や生キャラメルの企画販売で地域資源の付加価値を高める㈱ルネサンス・プロジェクトの中村哲哉さん、呼子のイカを東京銀座まで活きたまま直送するシステムを考案して話題になった玄海活魚㈱の古賀和裕さん、大学との産学連携で新種トルコキキョウの開発育成も手掛ける有機肥料メーカー日本有機㈱の野口愛子さんがそれぞれの事業のポイントを解説。どれも興味深いお話でしたが、実際に映画『朝鮮通信使』のロケで訪ねたこともある唐津市呼子のイカにそそられていた私は、古賀さんのお話に聞き入りました。

 

 イカを活け造りで味わうには獲ってから2時間以内といわれ、活け造りで食べられるのは漁獲量の25%。呼子のイカのブランド力を高めるには活け造りのおいしさをなんとか大消費地―東京に知らしめたい。しかも東京の市場ではなくお客さんの口に入るまでいかにおいしく、活きたまま輸送できるかを考え、1杯ずつパック詰めで送る方法を採用。東京着後も2日間活きたまま保存が可能になりました。

 パック詰めなのでバイク便でも配送できるし、水槽のないお店にも納品できる。参加者から「他の漁業地や水産業者に真似されませんか?」と聞かれ、「呼子の漁師さんは100キロ獲れるときも80キロに抑え、漁港に戻るときも船のスピードを半減するなどイカを大事に扱う。イカの活け造りはスピードが大事で、包丁さばきにもテクニックが要る。輸送技術は真似できても、そういうヒューマンパワーはどこにも負けないし、呼子で獲れるケンサキイカは漁期も漁場も限られるから独自性が保てる」と応えました。

 

 異分野との連携やマーケティングに際し、ルネサンスプロジェクトの中村さんも「いいものはていねいに売っていく。この商品はどう売るべきかを長期的視野を持ち、自分の事業に哲学を持って取り組むべき」と力を込めます。哲学を持てば、同じレベルの哲学や志を持つ異業種の仲間が広がるわけです。

 

 

 

 夜は呼子のイカをはじめ、鹿児島や沖縄の黒豚、宮崎地鶏、熊本馬刺し、福岡や宮崎のブランド牛に玄界灘の海鮮類、大分の炭焼き椎茸など九州全土の旨いものが集結した贅沢な交流会。ビジネス関連の交流会でこんなにぜいたくな立食パーティーは初めて!と思えるぐらいで、食べることに無我夢中になってしまいました。おかげで食べ過ぎてしまって胃がシクシクと痛くなり、夜の屋台めぐりはギブアップ(苦笑)。

 

 宿をとったビジネスホテルの目の前に運よく天然温泉施設があったので、温泉にじっくりつかって隣のコンビニで缶ビールを買って、部屋で飲んでおとなしく寝ました。・・・せっかくの博多の夜、なんだかもったいない気もしましたが、シンポジウムのお話や夜のパーティーメニューのおかげで、九州の食の豊かさは、改めて、まざまざと実感できたのでした。

 

 


活き生き薬膳弁当

2009-10-28 20:15:34 | NPO

 私が広報のお手伝いをしているNPO法人活き生きネットワークで、薬膳弁当の販売を始めました。県立静岡高校のすぐ近くにある活き生きネットワークの活動拠点・喜楽庭(きらくてい)に、中医師国際薬膳師という資格を持つ石部晃子さんがスタッフとして加わり、障がいを持つ利用者の自立支援も兼ねて、弁当の製造販売を新事業としてスタートさせたのです。 

 

 

 理事長の杉本彰子さんから誘われ、先日、試食におじゃまして、薬膳から揚げ弁当・薬膳飛龍頭風ハンバーグ弁当・薬膳カレー弁当の3種類を事務所の皆さんと一緒にいただきました。

2009101612070001  

 から揚げは、肉や脂の毒素を消す薬膳ダレに漬け込んだ鶏肉をハトムギ粉でカラッと揚げたもの。抹茶塩やカボスでいただきます。飛龍頭風ハンバーグは、10種類の季節野菜・豆腐オカラ・鶏胸肉で作る低カロリーのハンバーグに野菜あんかけをのせていただきます。

 から揚げ弁当とハンバーグ弁当には雑穀米ブレンドご飯に昆布・ひじき・にんじん・ゴマ・ごぼう・枝豆を加えて炒めた和風ピラフと手作りしば漬けが付きます。和2009101612150000 風ピラフもしば漬けも肝臓をケアする薬膳効果があるそうです。

 

 

 最近、自然食やオーガニック料理を看板にするカフェやお弁当を街中でも頻繁に見かけますが、こんなに本格派で、しかも味はマイルドで食べやすく、なおかつワンコイン(500円)という安さにビックリでした。

 

2009101612080000  薬膳カレーはアジアのスパイス、和漢の野草など香りで氣の流れをよくし、旬の地元野菜果実をたっぷり加えてちょっぴり甘めのピューレに。隠し味に昆布・しいたけ・カツオぶしなど海の出汁を加えます。使う食材は41種類にもなるそうです。今月開館した静岡市番町市民活動センターのオープニングイベント(10月4日)のとき、薬膳カレーを試し販売してみたところ、大変な人気だったとか。薬膳食ってなんとなく風変わりな味がしそうなイメージですが、野菜やフルーツがほどよく溶け合った甘めのルーは、子どもからお年寄りまで誰にでも受け入れられたようです。

 

 

 カレー弁当は冷え性やむくみやすい人、気力の落ちている人に。から揚げ弁当は体力を消耗している人に。ハンバーグ弁当は胃や肝臓が疲れている人やデスクワークの人におススメだそうです。こ~んなに手の込んだ薬膳弁当がヘルシーもずくスープ&にんじんケーキ付で、どれもワンコインなんです。

 活き生きネットワークの利用者さんや介護スタッフの間では「もっと安く」という声もあるそうですが、私は一般的な市場感覚で、「あんまり安くすると、この弁当の価値が伝わらないですよ、500円でも安くぐらいです」と言ってしまいました。

 

 彰子さんたちは、弁当販売で儲けようというつもりはなく、この弁当づくりを、健康な人も障がいのある人も、体にいいものを気軽に摂取できて、ついでに作る喜びや働きがいが持てるように…という趣旨で取り組んでいるので、付加価値を価格に乗せて売るという発想がそもそもないんですね。

 

 私の考えはあくまでも傍観者的かもしれませんが、誰がどんな目的で作ろうと、この弁当に価値を見出して、500円以上の値段でも買う人がいるなら、自信を持ってその値段で売ればいいのでは?と思うんです。

 

 せっかく質の高いものが出来るのに、授産施設の商品だからってわざわざ安く売らなきゃならない理由はない。身内の利用者さんに手ごろな価格で、というなら、社内と社外で価格を別にすればいいだけ。ぜひ自信を持って、活き生きの名物商品に育ててほしいし、障がいを持つスタッフのみなさんがこの弁当作りに誇りややりがいを持てるようになってほしい!と思います。・・・みなさんはどう思いますか?

 

2009101612070000  

 この薬膳弁当3種、注文販売になりますが、誰でも予約注文でき、配達もしてくれます。前日までに活き生きネットワークへお電話でお問い合わせしてみてください。

 直通電話 054-209-0700

 ホームページ http://ikiiki.canariya.net/

 ブログ http://npoikiiki.eshizuoka.jp/


「同情」と「共感」の違い

2009-10-24 21:15:20 | NPO

 この週末、静岡ではいろんなイベントが重なって、どれもちょっとずつご縁があるので顔を出さなきゃと思っているのですが身一つではなんとも・・・。できれば開催日、分散してほしかったなぁ。

 

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 まず静岡市駿河区のツインメッセで昨日(23日)から開催中の『しずおか新産業技術フェア2009』。静岡県商工会連合会のブースで、このブログでも紹介した田中造園(浜松市)の竹粉末の土壌改良剤「混ぜる竹(まぜるだけ)」を展 示即売しています。地元の孟宗竹を微粉末化し、乳酸発酵させた自然100%の改良剤。これを使ったおかげで甘みがグ~ンとのったミニトマトやさつまいもの試食も行っています。

    Imgp1544

 同ブースでは、私が過去ネーミングや広報物を手掛けた静岡県産フルーツゼリー『ふじやまさんちのいつかちゃん』、静岡の酒と肴の玉手箱『つまんでごろーじ』も紹介しています。

 

 

 

 また、富士川町の菓子店さんが、清水の手作りみその老舗・木嶋こうじ店の白みそを使った『みそみそプリン』という新商品を展示即売しています。木嶋こうじ店(清水区袖師・旧国道沿い)は、駆け出しライターだったころ、手作りみ そやしょうゆの老舗を取材リサーチしていたとき、祖母の実家(昔、清水区高橋でみそ醸造してました)に紹介してもらって取材して以来、20年来愛用しているみそ屋さん。「木嶋さんのみそでプリン?」とびっImgp1545 くり感激し、おいしく試食させてもらいました。

 

 それから過去ブログでも紹介した、やまと興業さん(浜松市浜北区)のカテキン微粉末茶の紹介や、静岡油化工業さん(静岡市駿河区)の芋焼酎「磯五郎」の注文予約も、会場内で出来ます。しずおか新産業技術フェア2009は明日25日(日)までの開催ですが、お時間の許せる方はぜひ。

 

 

 

 

 今日(24日)は他に、中日新聞全国新聞大会特集で紹介した井川の本山熟成茶お茶壺道中や藤枝地酒まつりにも行きたかったのですが、お天気がイマイチだったこともあり、午後からふじのくにNPO活動センターのセミナーに参加しました。

 

 『NPOプレゼン力アップ講座~“プレゼン力”が会員・寄付金を集める!』という興味をそそられるセミナーで、講師は日本人で初めて非営利経営修士号を取得されたという経営コンサルタント・明治大学公共経営学科兼任講師の坂本文武さん。プレゼンテーション能力ってコピーライティングにも通じるものがあるし、目下、映画制作資金不足の身としては寄付金集めのテクニックがあるなら是が非でも身につけたいところ。クレバーで歯切れのよいImgp1548 坂本さんの解説に聞き入り、3時間の講義があっという間でした。

 

 

 内容的には、企業なら企画社員や営業社員研修などでフツウに教えるイロハだったようですが、改めて相手に自分の意図を理解してもらう、共感してもらう、行動を起こしてもらうために何が必要か、私のように一匹狼のフリーランサーには整理して考える機会がなかったので、とても新鮮でした。

 たとえば、プレゼンの場で相手に伝わりやすい言葉の使い方は、ワンセンテンス7~10秒。「起承転結」ではなく、「結」を最初に持ってくる。・・・うん、これはCMやポスターのキャッチコピーを作る時も無意識にそうしてますね。

 相手に自分のメッセージを伝えるには、相手に好かれようとする恋愛トークと同じで、共通の話題を(無理してでも)見つけるとか、自分の土俵を相手に近づけることが肝要。試しにセミナー参加者(初対面)同士で、全員の共通項を挙げるというゲームをしたのですが、坂本さんから「6人のグループなら20ぐらいは共通項が挙がるはず」とプレッシャーをかけられました。

 

 

 

 プレゼンのときって、ついつい自分の思いを伝えたいあまり「オレオレトーク」に陥りがちなんですが、坂本さんは「相手が聞きたい話をしなきゃだめ。そのためには相手を具体的に想像し、慮り、絞り込む。マーケティングでいえば消費者を擬人化(ペルソナ)する。そうしないと相手との接点を見つけにくい」と言います。

 Imgp1551  最高の「接点」=「共通項」とは、わかりやすくいえば「目標」。でもNPOの場合、「子どもが生き生きと育つ社会づくり」とか「高齢者が生きがいを持つ社会」とか、私なんかでいえば「静岡に酒文化が育つように」というように、表現が“定性的”なんですね。これを定量化することが大事。坂本さんが挙げた例では、職場で社員がどことなく覇気がない。そこで社員を元気にさせよう!という定性目標を立てた。で、具体的に何をしたかといえば、「会社の玄関にスピードガンを、社内に騒音計測器を置いた」。社員が出勤するとき、重い足取りか、軽快な足取りかを数値化する。あるいは社内がシーンと静まりかえっているか、会話が活発に交わされているかを数値化して示す、というわけです。

 現実離れした例かもしれませんが、誰が、何を、いつ、どのレベルまで達成するか、政治でいうマニフェストを作るというのは、事を進展させる上で大事な原動力になるなと思いました。

 

 

 「同情」と「共感」はきちんと分けて考えなければいけません。自分のことでいえば、「酒造りのドキュメンタリー映画を自主制作したい」と言い出したとき、“特定のスポンサーや後ろ盾なしで、映画作りですって”“マユミさんもそういう目立つことを次々とやっていかないとタイヘンなのねぇ”と、冷やかし&同情半分の人もいたと思います。なんやかんやで20年以上酒の世界に関わってきたので、おつきあいで、と寄付してくれた人が大半だったと思います。

 それはそれで、目標資金の半分強は集まったのですが、「同情」や「つきあい」はこれが限度なんですね。・・・この先は、このプロジェクトに真の意味で「共感」してくれる人を発掘していかなければ。

 

 

 坂本さんによると「同情なら1000円、共感した人は1200円寄付する」そうです。事実、吟醸王国しずおか映像制作委員会にも、最初は普通会員一口で、しばらくして「少し飲み代を貯えたから」と本醸造会員、吟醸会員に、と寄付金をUPしてくれた人がいます。その人は静岡の酒造りの映像化に深く共感してくださったのだと思い、そんな人が一人でもいるなら、やる価値はあるんだと強く励まされました。

 真に共感し、目標を認識して行動を起こしてくれる人を、一人でも増やしていく・・・そのためにも定量化目標をきっちり立てることが必要だと自分に言い聞かせました。

 

 とても実のある3時間のセミナー。しかも無料!。次回は12月5日(土)13時30分~16時30分、同じく坂本文武さんが「NPOリーダーの条件」について解説してくれます。直接NPO活動はしていなくても、何らかの組織やグループで運営上の悩みを持つ人はとてもタメになると思います。

 お問い合わせはふじのくにNPO活動センターまでどうぞ!

 電話054-274-2996 

 メールwebmaster@fuji-npo.jp


浜名湖の中心で地モノ愛を叫ぶ

2009-09-07 12:01:08 | NPO

Dsc_0068   5日(土)は真昼間に浜名湖のど真ん中で潮風を満喫しました。浜名湖漁業体験学習講座「海の恵み探検隊~伝統漁法・袋網魚」の取材です。

 

 県水産振興室が企画し、NPO法人はまなこ里海の会が運営委託した親子連れを対象とした体験教室。取材のつもりが、参加親子たちと一緒に船に乗り、童心に還って大はしゃぎしてしまいました。…だって目の前の網から、トラフグ、セイゴ(スズキ)、クロダイ、カマス、ゴマサDsc_0064 バ、ヒラメ、アジ、イワシ、コノシロなんかが次々とお出ましになるんですもの、「うわぁ、一杯やりたいよぉ」と喉をごっくんごっくんやっていたら、案内役のはまなこ里海の会事務局長の窪田茂樹さんから、「今日は県がスポンサーの親子対象の講座ですから、アルコールはご法度ですよ」とたしなめられてしまいました(苦笑)。

 朝5時起きで車を飛ばして来た身ですから、真昼間から酒が入ったら運転はもちろん、取材も出来なくなるので、もちろんこの場で飲むつもりはありませんでしたが、あまりの豪華お魚ラインナップを目の当たりにし、「伝統漁法を体験した後、獲れたての魚で地酒を味わうなんて企画だったら、私の周りの酒呑み連中は涙モノで喜ぶはず…!」と妄想せずにいられませんでした(笑)。

 

Dsc_0058  

 昔、たきや漁という、夜、灯りをともして銛で突いてエビや小魚を獲る伝統漁法は経験したことがありますが、今はなかば観光イベント化してしまったそうで、今回の袋網漁はちゃんとした定置網漁法のひとつで、垣根状の網を張り巡らせ、魚群を網の中に導き入れて獲るもの。地元では網の張り方から「角建網」とも呼ばれています。浜名湖の湖面を眺めると、ポールが一定間隔で立っているのが見えますが、その下に網が張ってあるんです。

 知らない一般の釣り人が、「魚が獲れそうなポイントかも」と目を付けて侵入したり、プレジャーボートが網を破ってしまったりと、ちょくちょく“人的被害”を被ることもあるそうですが、網を張る場所はもちろん、網目の大きさから張る面積まで条例で厳しく決められ、浜名湖の漁師さんたちは互いにルールを守りながら、浜名湖の恵みを共有・保存しています。

 

 

 袋網漁はボラ漁から始まり、浜名湖では明治中期頃からさかんになって、網元制度のもとで発展し、今に至っています。漁期は3月末から1月末まで。ただし浜名湖では漁獲量も漁獲金額も圧倒的に多いのは採貝(アサリ漁)で、袋網漁は漁獲金額では15%未満。漁師さんはアサリ漁で生計をたてながら、伝統漁法の維持継承に努めているようです。

 

 

Dsc_0093  漁から戻った後は、浜名漁協鷲津支所の婦人部の皆さんが、ゆで海老やセイゴのから揚げやあじのマリネを作ってくれて、アサリの味噌汁と一緒にふるまってくれました。本場のアサリの味噌汁は、どんな形容詞も陳腐に聞こえるほど吹っ飛びの美味しさ!3杯もおかわりしてしまいました。「こういうつまみを目にすると、呑みたくなる気持ちもわかるよ」と窪田さん。県の事業では無理でも、NPO同士の交流企画ならやれるというので、ぜひ地酒とコラボしましょうと提案しておきました。

 

 最初のきっかけは、単なるお遊び感覚でいいのです。「すごい楽しかった!」という経験が、浜名湖の漁業や環境に関心を持つきっかけになることも。酒も同じですね。あまり小難しい講釈でなく、ストレートに美味しい!楽しい!と思える感動経験をどう仕掛けるか・・・です。

 漁師さんは、ふだんの自分たちの仕事ぶDsc_0123りや食べているものが、特別価値あるものとは思っていないので、感動の伝え方を知らない。今回の体験教室は4年目だそうですが、最初は「こんな当たり前のことをわざわざ見せても意味あるの?」と面倒臭がっていた漁師さんたちも、参加した市民や子どもたちが、自分たちがやっていることに目を輝かせ、純粋に喜ぶ姿にふれるうちに変わってきて、今では窪田さんたちNPOが気を遣わなくても、漁師さん自身、積極的に参加者をもてなすようになったとか。・・・いいですね、そういう変化って。

 

 酒の世界でいえば、静岡の蔵元さんたちの意識は、ここ数年、着実に変わってきています。とくに若い世代が、自分たちの仕事の価値や継続させる意義を真剣に考え、異分野の人々との交流に積極的になっている。先日のしずおか地酒サロンの「売り手と飲み手の本音トーク」に蔵元が3人も自費参加し、議論にも加わったこともよく解りました。

 漁業と酒造業ではベースが違うかもしれませんが、地のモノの価値を見直し・伝え・守るという意味では共鳴できる部分もあろうかと思います。問題意識を持っている人々と、ぜひ今後とも交流していきたいと強く願いました。

 

 

 浜名湖漁業体験学習講座・海の恵み探検隊は、第2弾トラフグ漁は11月8日、第3弾アオノリ養殖は来年2月27日に開催予定です。詳しくはNPO法人はまなこ里海の会までどうぞ。


ハコものを活かすマンパワー

2009-07-28 22:42:17 | NPO

 じめじめした天気が続きます。先週末は自宅へこもって原稿執筆に専念し、週明けから行政関連の取材や打ち合わせに駆け回っていますが、この時期の行政機関への訪問ってツラいんです・・・。公共施設のオフィスってクールビズが徹底しているのか、蒸し暑くじめじめした外から入って来ても、ちっとも涼しくない(苦笑)。オフィス内にずっといる職員の人はみんな涼しい顔で仕事しているのに、私ひとり、暑い暑いとゆでダコみたいな顔で汗をぬぐっています。だからってクーラーの温度を下げてくれないのが、さすが行政(笑)。「そのうち慣れますよ」ってな顔です。

 

 

 私も、自宅で仕事する時は扇風機しか回さず、我慢できない時は扇風機+クーラーを28℃のドライ設定でかける程度なので、たぶん外から来た人はイラっとするかもしれませんね。ほとんど独りで過ごす部屋ですから、これでも贅沢なぐらいですが、大勢の人が過ごすオフィスの28℃設定って業務に支障はないのかなぁ・・・。

 

 

 

 それはさておき、昨日は静岡県NPO情報誌『ぱれっとコミュニケーション』の取材で、富士市のNPO法人東海道・吉原宿の代表佐野荘一さんにお会いしました。

 多くの地方都市の商店街と同様、シャッター通り化が進展しつつある吉原商店街で、店主たちが中心となって立ち上がった地域活性化組織。空き店舗に吉原商業の高校生たちのチャレンジショップ「吉商本舗」や、就労支援施設やフェアトレード関連のショップを出店させたり、富士市市民活動センターコミュニティfの指定管理者として、センターを情報交流発信基地として機能させるなど、地元商店主による地に足のついた活動が注目され、このほど、経済産業省「新がんばる商店街77選」大臣表彰を受賞。高校生のチャレンジショップは5年も続いていて、一過性の話題で終わりがちなこの手のショップとしては異例の人気だそうです。

 

 

 

Photo_2  佐野さん(写真中央)は吉商本舗の成功を、「あくまでも高校のクラブ活動なので、卒業生と在校生、上級生と下級生の意識の差があるのは仕方ありませんが、5年も続くのはある意味ミラクル。この前の開店5周年は、大売り出しではなく、生徒たちが企画してゴミ拾い大会をやった。大人の商売人の感覚とは違っていて、とても斬新だった」と振り返ります。「大学4年になった吉商本舗1期生が、卒論に地域商店街を取り上げたと聞いて嬉しかった。こういうユニークな店や、地域コミュニティの場が出来たことで、今まで吉原を出店先に考えていなかった外部の商業者が、新規出店エリアとして選んでくれるようになったんですよ」。

 

 

 

 商店街の地域活性化と聞くと、ひところは、イベントや夜店市等が主流で、いっとき、ワーッと盛り上がっても、そのパワーが定着せず、下火になっていったという例をよく聞きます。吉原商店街も、以前、ナイトバザールという夜店市を開催し、かなり話題になって、私も取材したことがあるんですが、やっぱりいっときのお祭りで終わってしまった。失礼な言い方かもしれませんが、商店街をダメにした張本人たちが、何かやろうとしたって、いいアイディアは出てこないでしょう(苦笑)。新しい血を入れ、循環させるしくみを作って、若者やヨソ者の発想やパワーを活用する・・・そんなしなやかさとしたたかさが必要だと気づいたのが、佐野さんたち一部の“はみだし店主”たちだった、というわけです。

 

 

 コミュニティfには、コアなフリーペーパー・情報誌・パンフレット類が宝の山のように集まっていて、市民じゃなくても十分“目の保養”になります。富士には、遊び教育のスペシャリスト渡部達也さん、グラパ賞4冠のデザイナー鈴木雄一郎さん、起業お助けマンの小出宗昭さん、福祉有償運送サービスの先駆け・勝亦武司さんなど、子育てから働き世代~高齢者福祉までその道・その世代のトップランナーがそろっていることだし、人の活かし方によっては、人材が「人財」化する豊かな地域になるのでは、と期待しています。

 

 

 

 

 

 次いで、静岡市清水区のNPO法人清水ネットを訪問しました。ここも東海道・吉原塾同様、市で運営する市民活動センターの指定管理者団体として、地域コミュニティの要づくりに尽力する組織です。

 

 

 

 地域コミュニティの場というと身近なところでは公民館を思い浮かべますね。でも公民館を利用できるのは当該地区の自治会メンバーや公民館主催の講座受講生というのが原則。既存の枠に入らない新しい市民団体やグループ、町境を越える活動団体などは、なかなか利用できませんでした。やがて、誰でも自由に利用できるオープンスペースを求める運動が始まり、有志が集まって旧清水市役所別館オフィスを借りて自主運営をスタート。利用者同士が「スペースを借りるだけじゃもったいない、みんなでネットワークを組んで協働事業を始めよう」ということになり、平成18年、NPO法人化をはたし、晴れて市民活動センターの指定管理者となったわけです。

 

 

 

Photo  代表理事の鍋倉伸子さん(写真右端)には、この日初めてお会いしましたが、聞けば、戸田書店のオーナー夫人であり、現在、静岡県教育長を務めておられる、文字通り静岡県を代表する文化人。鍋倉さんが編集発行する『季刊清水』は、静岡県では数少ない地域文化情報誌で、昨年10月発行の41号には、朝鮮通信使研究家の北村欣哉先生が地元清水の廻船問屋の歴史について寄稿されています。先生からいただいて隅から隅まで目を通し、「静岡にもこんな良識的な情報誌があるんだなぁ、こういう雑誌に記名執筆できるようになりたいな~」などと憧れたものでした。

 

 

 

 清水ネットの活動報告書は、鍋倉さんが指揮を執られるだけに、しっかり編集されていて、県内NPO法人の中でも私が知る限りトップレベルの報告書ではないかと思えるほど。毎年1回行う市民フォーラム、毎月定例で行うランチトーク、交流会、懇話会、出前講座や職人まつりといった企画事業について、きめ細かく報告されています。

 この報告書があれば、取材は不要とばかり、同行の杉本彰子さん(NPO法人活き生きネットワーク理事長・ぱれっとコミュニケーション制作責任者)とともに、鍋倉さんや事務局の方々と雑談に終始してしまいました。調子に乗ってついつい、本取材とはまったく関係のない、朝鮮通信使が縁で北村先生にお世話になっていることや、地酒関連の活動の話をしてしまいました。

 ライターが取材者たる本分を忘れて自己アピールするなんてマナー違反にも程がありますね(苦笑)。鍋倉さんが終始笑顔で関心を持ってくださったのに救われました。

 

 

 

 鍋倉さんも、富士の佐野さんも、市民活動センターというハコものの舵取りを任されながらも、地域の価値はハコではなくて、個人のスキルや、人と人がつながることで生まれるパワーを通して高めようと努力しています。お2人とも、写真を撮る時、自分一人ではなく、スタッフみんなで写してくださいと、周囲を立てていました。・・・他者を活かす生き方って素敵だなって改めて思います。