杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

福岡出張その1~新産業創出全国フォーラム

2009-11-01 12:26:50 | NPO

 10月29日~30日と福岡で開催された『新産業創出全国フォーラムIN福岡(日本ニュービジネス協議会連合会全国会員大会)』に参加しました。

 富士山静岡空港を利用するのは3度目。取材を含めると開港5ヶ月で5回も来ています。しかもJALが静岡空港撤退を知事あてに文書で通達してきた日に、搭乗率保証問題でガタガタしていた福岡便に搭乗です。行きは9割、帰りはほぼ満席状態。しかも着陸後は客室乗務員から「弊社は皆様にご心配をおかけしておりますが、従業員一同再生に向かって努力しておりますので、今後ともよろしくお願いいたします」のアナウンスつき。…なんとも皮肉なフライトでした。

 

 福岡は、子どもの頃の家族旅行や修学旅行を含めると6~7回来ていますが、今回は静岡の自宅を7時に出て、博多の中心天神には11時に着きましたから、劇的に「近くなった~!」と実感です。昼前にフォーラム会場のソラリア西鉄ホテルに着いて、静岡から参加の㈱エスジー鈴木荘大社長、ニュービジImgp1569 ネス協議会の末永和代事務局長、事務員の渡邊さんと、静岡県の紹介ブースを作り、午後12時45分から始まったフォーラムを取材しました。

 

 

 ニッポン新事業創出大賞の表彰式では、起業支援部門でNPO法人SOHO・アット・しずおかの坂本光司理事長が経産大臣賞を受賞されました。

 私は同法人には直接かかわりはなく、詳しくはわかりませんが、学生と企業をつないでインターン経験をさせたり起業教育をする活動をしているようです。以前、同法人から「取材や編集の仕事をしたい学生がいるから弟子入りさせて」と頼まれ、自分はそんな身分じゃないからと知り合いのエディターを紹介したことがありました。自分が学生の頃は、大学の先生がこんなに親身に就職のことを心配してくれたり、外部にこういう支援団体があるなんて想像もできませんでしたが、こういう支援活動が大臣賞に値するということは、それだけ今の学生たちの職業選択や就職活動の難しさを証明しているわけですね。

 

 

 続いて特別講演会はトヨタ自動車㈱張富士夫会長の登場です。

 この10年間、年に40~50万台増という右肩上がりの時代が続いたものの、「内心、早く踊り場が来ないかなと心配だった」という張会長。売れてるときって量のプレッシャーに追われるので、「カイゼン」を考える時間がもてないからだそうです。1年前のリーマンショック以降、3~3.5割ほどストンと落ち、今年4月ぐらいまで低迷が続き、「大変だけど、とんでもなく右肩上がりが続いたので、改善する余地がたっぷりあって、今は社内で“大掃除”している」状態。「問題が生じたらラインを止める」「元に戻って設備と品質の改善点を考える」「ラインを止めて問題点を洗い出した後は、10人で100個出来る部品を、8人で100個出来るように知恵を絞る」のがトヨタの生産方式であり、自分が部下にそれを厳命できるのは、自分もかつて上司からそう鍛えられてきたからと語ります。

 

 

 米国ケンタッキーにトヨタが100%自前の生産工場を初めて作った時、現場を任された張会長は、日米の習慣の違いに戸惑いました。米国自動車メーカーの組み立て工場ではパーツごとに担当が分かれて、Aの部品担当者が早く終わっても、Bの担当を手伝うことはできない。一方、トヨタは製造工と保全工の2種類しか分けず、一人の工員にかかる責任が大きい。それでも最初に採用した3000人のアメリカ人は、「Aさんが60秒で5つ組み立てたものをBさんが50秒で出来たら、Bさんの給料が上がるのは当たり前」という合理的な説明に納得し、カムリを扱うディーラーから「アメリカ人が作ったカムリじゃ売れない、日本製じゃなきゃ」と言われたのに発奮し、1年後にはケンタッキー工場が全米ナンバーワンの優良工場になったそうです。

 

 

 「一人の工員をじっくり育てる日本的な人材育成文化は高く評価されましたが、不況の時に人員調整しにくいのが難点。昨年秋以降は仕事のない社員を万人も抱えてしまったが、強引なリストラはせず、社員には割増退職金付きの自主退職か、残るならワークシェアリングを、とお願いした」と張会長。海外に進出するというのは、その土地に2階建ての家を建てるようなもので、地面は人間として万国共通の価値観、1階はその国の文化や風習、2階に自社の企業風土やビジネス習慣を備え付ける。2階部分は「変えようと思えば変えられる。それがトヨタの生産方式であり人材育成です」と明快に語ります。

 …特別、スゴい話ではなく、企業経営者としての経験を淡々と語る張会長ですが、トヨタの会長さんが「当たり前のことを粛々とやっている」ことにスゴさがあるんですね、きっと。

 

 

Imgp1587  続いてのシンポジウム「農商工連携による新事業創出への挑戦」では、地域限定の焼酎や生キャラメルの企画販売で地域資源の付加価値を高める㈱ルネサンス・プロジェクトの中村哲哉さん、呼子のイカを東京銀座まで活きたまま直送するシステムを考案して話題になった玄海活魚㈱の古賀和裕さん、大学との産学連携で新種トルコキキョウの開発育成も手掛ける有機肥料メーカー日本有機㈱の野口愛子さんがそれぞれの事業のポイントを解説。どれも興味深いお話でしたが、実際に映画『朝鮮通信使』のロケで訪ねたこともある唐津市呼子のイカにそそられていた私は、古賀さんのお話に聞き入りました。

 

 イカを活け造りで味わうには獲ってから2時間以内といわれ、活け造りで食べられるのは漁獲量の25%。呼子のイカのブランド力を高めるには活け造りのおいしさをなんとか大消費地―東京に知らしめたい。しかも東京の市場ではなくお客さんの口に入るまでいかにおいしく、活きたまま輸送できるかを考え、1杯ずつパック詰めで送る方法を採用。東京着後も2日間活きたまま保存が可能になりました。

 パック詰めなのでバイク便でも配送できるし、水槽のないお店にも納品できる。参加者から「他の漁業地や水産業者に真似されませんか?」と聞かれ、「呼子の漁師さんは100キロ獲れるときも80キロに抑え、漁港に戻るときも船のスピードを半減するなどイカを大事に扱う。イカの活け造りはスピードが大事で、包丁さばきにもテクニックが要る。輸送技術は真似できても、そういうヒューマンパワーはどこにも負けないし、呼子で獲れるケンサキイカは漁期も漁場も限られるから独自性が保てる」と応えました。

 

 異分野との連携やマーケティングに際し、ルネサンスプロジェクトの中村さんも「いいものはていねいに売っていく。この商品はどう売るべきかを長期的視野を持ち、自分の事業に哲学を持って取り組むべき」と力を込めます。哲学を持てば、同じレベルの哲学や志を持つ異業種の仲間が広がるわけです。

 

 

 

 夜は呼子のイカをはじめ、鹿児島や沖縄の黒豚、宮崎地鶏、熊本馬刺し、福岡や宮崎のブランド牛に玄界灘の海鮮類、大分の炭焼き椎茸など九州全土の旨いものが集結した贅沢な交流会。ビジネス関連の交流会でこんなにぜいたくな立食パーティーは初めて!と思えるぐらいで、食べることに無我夢中になってしまいました。おかげで食べ過ぎてしまって胃がシクシクと痛くなり、夜の屋台めぐりはギブアップ(苦笑)。

 

 宿をとったビジネスホテルの目の前に運よく天然温泉施設があったので、温泉にじっくりつかって隣のコンビニで缶ビールを買って、部屋で飲んでおとなしく寝ました。・・・せっかくの博多の夜、なんだかもったいない気もしましたが、シンポジウムのお話や夜のパーティーメニューのおかげで、九州の食の豊かさは、改めて、まざまざと実感できたのでした。

 

 


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