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杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

國酒を愛する人々

2014-04-28 16:05:43 | しずおか地酒研究会

 あわただしい毎日を送っているうちにGWに突入してしまいました。気がつけばブログ、今月は2回しか更新してませんでした。こういう怠け癖が老化につながるんですね、いかんいかん。

 

 前回、あべのハルカスの東大寺展を紹介しましたが、大阪入りの前日4月18日には兵庫、京都もハシゴしてました。兵庫では灘の酒蔵資料館を4ヶ所(白鶴、菊正宗、櫻正宗、浜福Dsc_0357 鶴)を回り、その足で酒の神様・京都松尾大社へお参り。ちょうどヤマブキが見ごろでした。

 

 

 

 

 

 さらに特別公開していた妙心寺塔頭退蔵院の紅しだれ桜を見て、夜はいつもの興聖寺で坐禅。京都に泊まって翌日あべのハルカスの東大寺展記念パネルディスカッション「神も仏も日本のこころ」へ。まさか東大寺展のパネルディスカッションで松尾大社の男神像が話題に出るとは思わず、ビックリ!!。ちゃんと拝んでおけばよかった・・・と後悔しました(苦笑)。

 

 

 松尾大社ではいつも酒造りに携わる人のお守り「醸造守」や、酒を販売する人のお守り「販酒守」、酒の飲む人のお守り「服酒守」を購入し、酒縁のあった方に差し上げているのですが、今回購入した「服酒守」、ひょんなことから意外な人に差し上げることになりました。

 

 

 

 

 4月22日は東京銀座でトマト料理の達人を取材した後、この春から伊豆の国市の安陪均さん(陶芸家兼料理人)が板長を務めることになった月島の『1と8』という店を陣中見舞い。もんじゃ焼き店が軒を連ねる下町の古い長屋をリユースした、カウンターだけの小さな店ながら、安陪さんらしい客筋の良さもあって大人の小粋な穴場って感じ。「静岡の酒を頑張って売ってくよ~」と張り切る安陪さんに、「販酒守」を進呈しました。

 

 

 当初は日帰りのつもりでしたが、数日前、上川陽子さんの事務所から急遽、23日に開かれる自民党の議員連盟「國酒を愛する議員の会」への参加依頼。ビックリしましたがこれも松尾の神様のお導きかもしれんと、22日夜は東京へ泊まり、翌23日、オバマ大統領来日のピリピリムードの永田町自民党本部へ。総務副大臣職で分刻みのスケジュールをこなす陽子さんを補佐するかたちで、「國酒を愛する議員の会第3回総会」というのに参加させてもらいました。会長は自民党総務会長の野田聖子さんです。

 

 

 

 

 総会では国税庁から酒類の輸出動向について説明がありました。平成25年分の酒類全体(清酒・ビール・ウイスキー・リキュール・焼酎その他蒸留酒・その他ボトルワイン等)の輸出金額は過去最高の251億円。増加率も対前年比121.6%と過去10年で最高の伸びだそうです。輸出の中心は105億2,400万円を占める清酒(前年89億4,600万円)。輸出先は①アメリカ、②韓国、③台湾、④香港、⑤中国、⑥シンガポール、⑦フランス、⑧イギリス、⑨ロシア、⑩オーストラリアという順です。

 

 こういった顕著な輸出の伸びを受け、国税庁でも酒造関係者向けの輸出支援や貿易障壁の撤廃・緩和に向けた働きかけを行なっており、在外公館で日本酒セミナーを実施したり、在日外交官対象の酒蔵ツアーなども活発に開かれていますね。私もささやかながら、一昨年、取材で訪れたドイツ大使館にポケットマネーで磯自慢を差し入れたことがあります(こちらを)。

 

 

 一方、国交省からは国際空港における日本酒キャンペーン活動の報告がありました。平成25年10月から26年3月まで国内4空港(成田、羽田、中部、関西)で開かれたキャンペーンでは、延べ428社の蔵元が参加し、約8万人の外国人旅客が3万4千本強を購入したそうです。アンケートでは73%が「試飲で購入を決めた」と答えました。私もささやかながら、5年前に羽田空港内の東急ホテルでフライト関係者対象に喜久醉の試飲会と吟醸王国しずおか試写を行なったことがあります(こちらを)。今だったらいろんな補助金がもらえたかもしれないですね(苦笑)、ちょっと取り組みが早すぎたかなあ・・・。

 

 

 

 

 日本酒造組合中央会からは、平成26年4月から継続スタートした「ニッポンを飲もう!日本の酒キャンペーン」の概要説明、輸出する酒類に原産国が日本酒であることを示す統一マークの使用推奨、福島県酒造組合が発売する日本酒「衆議院」の紹介、酒造用原料米に関する新たな米政策の説明がありました。「衆議院」ってインパクトある酒銘ですよね(笑)、復興支Imgp0171 援で企画された酒で、国会議事堂、衆議院第一議員会館、第二議員会館の3ヶ所限定発売だそうです。

 

 

 

 

 新たな米政策。日本酒の需要がひところの右肩下がりから平成22年度以降横ばいに転じ、近年は特定名称酒の出荷量が増加していることから、26年度からは山田錦などの酒造好適米の生産を、主食用米の需給調整の対象枠から外し、柔軟に運用できるようになったようです。

 

 

 

 

 枠内分の生産についても、29年度産まで10アールあたり7500円の助成金がもらえるように。さらに酒造用という戦略的作物に対する助成(2万円/10アール)、複数年契約による追加助成(1,2万円/10アール)、産地交付金(都道府県等が決定)など酒米生産の環境が少しずつ整ってきたもよう。酒造家出身の議員さんや米どころ酒どころ選出の議員さんが次々と発言する中、陽子さんもすかさず挙手し、「静岡県でもぜひとも富士山世界遺産登録の好機を活かし、各施策が「誉富士」の生産増量の追い風になってほしい」と発言してくれました。

 

 

 

 

 

Imgp0173  総会の後のきき酒会では、全国の酒造組合から提供された銘柄がズラリそろいました。気になる静岡県からは、「正雪」「開運」「花の舞」が出品されており、開運を自慢げに試飲している元磐田市議の宮澤博行代議士と思わず乾杯しました。

 

 宏池会パーティー出席のため早々に退室した陽子さんから、野田聖子会長に、当日初取引だった静岡の新茶を渡すよう依頼されていた私は、関係者から次々と挨拶を受ける野田会長への声掛けタイミングに必死。ようやく挨拶ができ、カバンの中にあった松尾大社の「服酒守」を、新茶に添えて進呈しました。

 

 

 

Imgp0176  ・・・購入したときは、まさかこういう方の手に渡ろうとは想像もしなかった松尾さまのお守りですが、松尾の男神が「國酒を愛する議員の会」の女性会長のもとに自ら進んで行かれた、と思えば、なんとなくスッキリした気分(笑)。このあと、東京プリンスホテルでの宏池会パーティーに私も加えていただき、会場に【地酒コーナー】があるのを目ざとくみつけ、「滝上」「臥龍梅」「金明」と3つも静岡県産があるのに大満足しました。

 

 

 私が東京プリンスでハシゴ酒していた頃、安部さんとオバマさんは「すきやばし次郎」で日本酒に舌鼓を打っていたわけですが、静岡県出身の小野二郎さん、どんな地酒をチョイスしたのかな・・・。 


しずおか地酒サロン「酒造り職人レジェンドvsフロンティア」

2014-04-09 12:51:43 | しずおか地酒研究会

 毎春、松崎晴雄さんを迎えてのしずおか地酒サロンを、今年も4月4日に開催しました。今回は「杜氏の流派と継承」がテーマ。私が敬愛する磯自慢の杜氏・多田信男さん、喜久醉の蔵元杜氏・青島孝さん、若竹の杜氏・日比野哲さんという現役レジェンド&フロンティアの杜氏さんたちも来てくれました。

 まずは松崎さんのお話をじっくりお読みくださいませ。

 

 

 

 

 しずおか地酒サロン 「松崎晴雄さんの日本酒トレンド解説~酒造り職人レジェンドVSフロンティア~杜氏の流派を見つめ直して」

 

みなさまこんばんは。例年、この時期は静岡県清酒鑑評会の審査に呼ばれておりましたが、今年はスペインとドイツで商談会があり、審査会はパスさせていただきました。新旧代表する名杜氏さんを前に私なんぞがお話しするのはおこがましいのですが、酒の仕事に携わって30年ほどとなり、見てきた杜氏さんの姿や最近の造り手の変化、酒造り全体の最近の動向などをお話できればと思っています。 

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そもそもこの話を鈴木さんからうかがったのは、静岡県が、杜氏の流派が多い県だったという理由もあります。

ちょうど25年ぐらい前、全国新酒鑑評会で静岡県が一躍脚光を浴びたとき、5流派ぐらいが技を競い合っていたと思います。これは全国的にも非常に珍しいことで、確か南部、越後、能登、志太、広島の5流派。「花の舞」「士魂」が確か広島でしたね。静岡県が地理的にも東西の交差点という位置だったのが大きかったと思います。

 

ちょうど吟醸酒がブームになっていた頃で、吟醸酒を造って金賞を獲れる杜氏という職人の存在が注目を集めました。今では当たり前の蔵元杜氏や地元採用の社員杜氏というのは稀な例で、平均年齢60歳半ばの伝統的な杜氏集団が活躍しており、後継者不足の問題も少しずつ持ち上がってきていました。

 

 

大手の月桂冠などは6つの蔵を持っており、それぞれ別々の流派の杜氏を雇用していました。南部、秋田、越前、丹波、但馬、広島と各地から杜氏を招聘し、技術を競い合わせていたのです。当時、全国には25流派ほどあり、杜氏組合活動も活発でした。中には組合員数名という小さな流派もありましたが、ちゃんとした組合活動を行っていました。その頃、全国には2000以上の酒蔵があり、酒造りに従事する職人は、杜氏・蔵人も含め、全国で総勢70008000名いたと思われます。

 

伝統的な杜氏は、地元でチームを編成して酒蔵に雇用されます。大手ですと1チーム10人以上、小さいところでも4~5名で造りに来るというのが一般的です。そして彼ら使命は、蔵の意向に沿って酒を造るということでした。野球にたとえると、フロントのオーナー(蔵元)から現場を任される監督が杜氏で、実際に現場でチームを指揮するわけです。蔵にはさまざまな事情があり、蔵が求める酒質があります。これをいかに汲み取っていい酒を造るかが杜氏の使命だったと言えます。

 

 

さらに昔の江戸や明治の時代、杜氏に求められたのは高いアルコールをちゃんと出すということでした。昔の造りでは、途中で酒にならずに腐ってしまうケースも少なくなかったため、健全に発酵させ、1718度ぐらいのアルコールを出す、腐敗しないタフな酒に仕上げるというのが第一義でした。この、しっかりとしたアルコールの酒を造るという使命は、明治~大正~戦前~戦後まで連綿と続きました。

 

今、杜氏が置かれた状況を見ますと、日本酒が多品種化し、吟醸酒や純米酒ほか、もともと地元の趣向性に合った酒など多様化するアイテムにどう適応していくかが、杜氏に求められているように思われます。

愛飲家が集まる酒の会などでは、よく「杜氏は自分の造りたい酒を造っているんじゃないか」という声をききます。当然、杜氏さんご自身の中には、自分が理想とする酒、得意とする造り方があると思いますが、まずは、蔵の意向に沿って、自分の技術を活かすか。毎年、米の状態も違いますし、蔵が変われば新しい環境に慣れなければならない。対応力や応用力が求められるのも杜氏の技量です。

 

 

今、実際に酒造りの流派というのは見えづらくなっています。30年ほど前ですと、流派の違いというのはかなり鮮明でした。

たとえば米の蒸し方、麹の造り方、酒母のたて方・・・いわゆる原料処理の工程(発酵過程の前段階)で、かなり杜氏の流派に特徴がありました。

もちろん今でも南部流や能登流でポイントになる部分があろうかと思いますが、ここ1020年ぐらいで、どちらかというと、酵母の違いや、全国に普及した山田錦中心の吟醸造りマニュアル等が、杜氏の流派を超えてスタンダードになりつつある。新しい酵母や酒米を使った技術の共有化が、地域や杜氏組合の中で研究されることによって、昔ながらの本来の流派というものが、あまり表に出てこなくなってきたように思います。突き詰めて言えば、どんな米を使い、どんな酒を造るかが、新たな杜氏の流派になったのです。

 

 

 

(日本最大の杜氏集団である)南部流が生まれた東北は、飯米の産地で、酒造好適米はあまり入ってこない地域でした。トヨニシキ、ササニシキといった一般米を酒造りに活かすというのが南部杜氏の使命で、この土台のもとでに各蔵の特徴を活かした酒造りが発達したのです。

 

 毎年、南部杜氏自醸酒鑑評会が、全国鑑評会の前に行われ、毎年300点ぐらいが出品されます。会場では酒蔵別に全国北から順番に並んでおり、順に試飲していくと、同じ南部杜氏の酒でも地域ごとの特徴というのをまず感じます。東北には東北らしさ、北陸には北陸、関西なら関西、静岡なら静岡酵母の特徴を感じるような酒になっている。造りの原料処理の違いが主流だった杜氏の流派の特徴が、今の酒造りの動向やマニュアル化によって変化し、昔ほど差を感じなくなったというのが正直なところです。

 

 

現状では、全国に1300ほどある酒蔵で、冬の間だけ酒造りに入る従来の杜氏さんから、蔵元自身が兼任したり社員が造るようになり、その割合は半々ぐらいになっていると思われます。杜氏が来ている蔵でも、昔のように杜氏が地元でチームを編成して来るのではなく、杜氏だけ来て、後は地元の社員がカバーするというスタイル。純粋に杜氏の流派だけで造っている酒蔵は、正確なところはわかりませんが、おそらく3分の14分の1ぐらいでしょうか。東北など杜氏出身地に近いところには、かろうじて残っていますが、都市部ではかなり自社杜氏化が進んでいるようです。

 

では従来型の杜氏と、今の若い杜氏との大きな違いは何でしょうか。私はやはり、造りの根本といいますか、生活の根本の違いにあるように思います。

従来の杜氏さんというのは、専業農家の方が多く、冬の間、農業が出来ない時期に酒造りに入るというスタイル。夏場は米を作り、冬は酒を造る。一年中なんらかの形で米にたずさわっており、米に対する愛着といいますか、米の知識や米を大切にする思いが大きい。農業は自然相手の生業ですから、酒に対しても、予期せぬ状況に対応する能力があります。意識しているか否か別にし、経験や勘、センスといったものがベースにあると思います。 

 

一方、今の若手は大学で醸造学を学んだり研究機関で研修を受けた理論派が多く、蔵元杜氏では経営者らしく、酒の販売や企画力といった営業的なセンスを持ち合わせている人も多い。酒に対するベースがやはり違います。どちらがいい・わるいではなく、そういうベースの違いが酒質に表現されてくるように思います。

 ここ1020年で増えてきたそういう若手は、どちらかといえば自己実現といいますか、自分のスタイルやメッセージ性を酒に投影し、同世代の人たちに飲んでもらおうというモチベーションを持っている。昔ながらの、蔵の意向に沿って、地域性や経験智をベースに造るという杜氏とは違う取り組み方です。

 

 

 

最近、華やかでインパクトのある酒が増えてきたというのは、新型酵母や新型好適米が増えただけでなく、新しい造り手たちが、自分たちで新しい酒を発信するんだという意識がベースにあるように思います。その意味では根本の違いが非常に大きい。蔵元杜氏の酒は、ときにハッとさせられる酒もあれば、うん?という酒もありますが、若い造り手の酒は総じて、山廃にしても吟醸にしても、そつなく、器用に造る平均点以上の酒が多いと思います。

 

今後、若い造り手たちがどのように経験を積んでいくのか。(喜久醉の)青島さんのように米作りから取り組む蔵元杜氏もいますし、あと1020年して今の若手がどんな酒を造るようになるのか、楽しみではあります。

 

 

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最後に、私自身が今まで出会った印象的な杜氏さんをご紹介したいと思います。

大学在学中、東京八王子の「桑乃都」という小さな酒蔵の直営居酒屋でアルバイトをしており、体験的に酒造りに行かせてもらったことがあります。

「桑乃都」では越後杜氏と蔵人総勢56人で造っていました。蔵の中で印象的だったのは、そこが、杜氏さんたちの生活の場であるということ。代々続く蔵元の歴史や伝統とは別に、働く人々の生活感というものを醸し出していました。杜氏さんたちが休憩中、コタツに入ってテレビを見ながら談笑している姿は、たとえば一般的な製造業の現場ではあまり見られなかったものでした。

 

忘れ得ぬ杜氏さんといえば、広島の「賀茂泉」の故・増田幸夫さんです。20数年前にお会いしたのですが、静岡酒とは対照的に、非常に濃醇な純米酒を造る人です。いろいろな話をうかがう中、「なんといっても健全に三段仕込みをするんだ」という言葉が印象的でした。要は、3回に分けて仕込む基本をしっかり守るということ。発酵の中で豊かな旨味を出す純米酒、というものを大切にしておられました。

賀茂泉は吟醸酒、普通酒、低アルコール酒など多品種に造っており、それぞれに個性がありますが、それもこの杜氏さんの功績だろうと思います。

 

広島杜氏でもうお一人挙げたいのは、今でも現役の名杜氏である、香川の「綾菊」の国重弘明さんです。一つの蔵で一人の杜氏が13年連続全国で金賞という、未だに破られていない記録の持ち主ですね。私がお会いしたのは昭和62年で、その前年まで13年連続受賞でした。

 

当時、吟醸を唎かせてもらったとき、「どうです?あまりよくないでしょ?」と聞かれ、確かに少し重くてキレが足りないような気もしましたが、吟醸の出来立てはこんな感じだろうし、なんといっても13年連続金賞の名杜氏ですから、最終的にはきれいに仕上げるだろうと思っていました。そんな初対面の私にいきなり、「よくないでしょ?」と聞いてくるとは、まるですべてを達観した仙人のようで、ゾクッとした覚えがあります。

昔ながらの伝統蔵ながら当時からコンピュータを導入し、蔵の中を案内してくれたときも最新の技術をあれこれ紹介してくれました。口調は穏やかでしたが、目つきは非常に鋭い方でしたね。その後、2~3度お会いし、飲んだときは、穏やかで温かい人柄が解りましたが、一般米「オオセト」で連続金賞受賞するなど、酒造りを自分なりに科学的に研究し、つねに向上しようとする努力家でした。

 

綾菊を訪ねた昭和62年は、4~5日間かけて四国の酒蔵を回りました。綾菊に行く前に立ち寄ったのが、愛媛の「小冨士」という小さな酒蔵でした。当時は珍しい蔵元杜氏の蔵だったのです。甘くて濃い酒が多い四国の中では異色の、淡麗超辛口タイプにこだわっていましたね。

 

 

15年ほど前、能登半島で杜氏サミットというのが開かれました。全国の杜氏組合の組合長ほか多くの酒造関係者が集まり、杜氏の将来性を話し合う中で、当然のごとく杜氏の高齢化という問題が持ち上がり、「杜氏の技術保存は杜氏集団として、また個々の杜氏が努めていくものだが、まずは酒造会社が蔵の技術として残す努力をしてもらいたい」という結論だったと記憶しています。

 

奇しくも今、従来の杜氏が造る酒よりも、蔵元杜氏が造る酒のウエートがどんどん増え、一つの潮流が出来上がっていますが、若い造り手が自己実現として、「自分でこういう酒を造りたい」というのは、蔵の技術保存とは違う意味合いのようにも思います。蔵の持つ本来の酒質や長い間築かれてきた蔵の味というものを踏まえた上で、新しさを発信すべきではないかと。嗜好品ですから「~べきだ」などと表現するのはおかしいかもしれませんが、そんな気もしています。

 

せっかく日本に一千社以上の酒蔵があり、地域性や歴史があるわけですから、もう一度掘り下げながら、今まで日本酒を飲んだことのない人たちに向けて発信していってほしいと思います。なぜ酒を造るのか、飲み手にも感じてもらえるような酒を造ってほしいと思いますね。

 

 

 

海外でも日本酒のミニ・ブルワリーというのが増えています。いろいろな造り手が、日本から酵母を取り寄せたり、あるいは自然酵母や山廃造りなどに果敢に挑戦する蔵もあります。海外の日本酒製造量は微々たるものですが、今後、日本酒の認知度が広がるにつれ、海外でも酒造りを目指す人が増えてきたとき、技術だけではない、造りへの姿勢や考え方が問われる時代になるように思います。

従来の杜氏さんたちが築き上げてきたものが、10~20年後、残っているかどうかわかりませんが、どんな新しい環境の中でも、伝統や歴史を検証していくことは大切ではないかと思っています。

(文責/鈴木真弓)

 

 

 

 


2014年静岡県清酒鑑評会一般公開

2014-03-26 09:56:25 | しずおか地酒研究会

 昨日(3月25日)は恒例の静岡県清酒鑑評会の一般公開がグランディエールブケトーカイで開催されました。13日に行われた鑑評会(審査会)に出品されたすべての酒が無料で試飲できるという地酒ファン垂涎の場です。

 

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 すでに結果発表されていますので(こちらを参照)、一般公開では例年のごとく、最高位(県知事賞)を受賞した酒に人気が殺到。私は入口から順に(吟醸の部から)全出品酒を試飲していったので、出口近くにあった純米の部県知事賞の開運に辿り着いたときは、すでに空瓶・・・。土井社長をつかまえて恨み節を吐露しました(苦笑)。

 

 

 

 今年も会場で、年に1度、この日にお会いする懐かしい酒友や地酒研発足当時の方々と、互いに健康で酒が飲める喜びを噛み締めました。ついついきき酒に集中してしまうので、ご挨拶しそびれた方も多いと思います。この場をお借りし、お詫び申し上げます。

 

 

 そんな中、会場では今年もいろいろな声を聞きました。

 

 

 

「上位は僅差。違いはほとんどないといってよい」(某蔵元)

 

 

「(吟醸の部県知事賞の)花の舞だけが香りの立ち方が違う。ダントツによかった」(某酒造蔵人)

 

 

 「吟醸の部にも純米で出品し、入賞できた。吟醸造りなら問題ないので」(オール純米製造の蔵元)

 

 

「上位の酒はきれいに濾過して仕上げてある。(製造計画の都合で)濾過が間に合わない蔵、あえて濾過をせず出品した蔵もある」(某蔵元)

 

 

 

「全体的にレベルが上がった。おかしな酒が一つもなかった」(常連客)

 

 

 

「全体的に似たような酒ばかりでつまらなくなった。昔は個性的な酒がいろいろあって面白かった」(常連客)

 

 

 

「私の好きな○○○が、名簿(=入賞蔵のみ記載)に載っていないのはどういうこと!? おかしいじゃない(怒)」(おそらく初参加?の女性客)

 

 

 

 おもしろいですね、同じきき酒をしていても、見方や感じ方がまったく違います。日頃、地酒とどう向き合っているのか、その人の、人となりがみえてくるようです。

 

 

 昔は、審査に疑問を呈する酒造関係者や、知ったかぶりの酒通に、不快感を覚えたこともありました(私自身も第三者からみれば不快な対象だったかも)が、最近では、いろいろな人のいろいろな飲み方や感じ方を多様性として面白く、頼もしく感じるようになりました。

 日本酒が置かれた社会的な環境を、少なからず俯瞰や複眼で見られるようになったからでしょうか。

 

 

 

 ちなみに、私自身はいつも、全銘柄を試飲したあと、よかったと思える銘柄を、再度、今度は吐くのではなくきちんと呑むのですが、今回、印象に残った銘柄は、濾過の有無やアルコール添加or純米にかかわらず、静岡県清酒鑑評会の大事な審査基準である、静岡型の吟醸造りと静岡酵母由来の香りを大事にしている、と確認できました。

 

 ただ、「面白みに欠けた」という声にも一理あり、で、以前は本当にとんがった酒、ひねた酒、かたすぎる酒など、良い意味でも悪い意味でも“個性”があって、日本酒が醸造発酵酒たるゆえんを実感したものでした。本当のファンが持つのは、鑑評会一般公開の試飲結果で、その銘柄の良し悪しをきめてしまうような単純な物差しではないと思うのですが、そうはいかないのが現実・・・。難しいですね、ホント。一般公開に出品する蔵元さんたちの心境が解る気がします。

 

 

 蔵元さんには、できたら同じ仕様の酒を、全国新酒鑑評会に出品していただき、全国の場で正々堂々と勝負してほしいと思います。昨年、『若竹』が、全量、誉富士の純米大吟醸&静岡酵母で全国に出品し、入賞はなりませんでしたが、最も感動を残してくれた、まるでソチ五輪の真央ちゃんみたいな酒だったこと、忘れられません(こちらをぜひご参照ください)。

 

 

 昨日の一般公開にいらした地酒ファンの多くは、たぶん10月1日の静岡県地酒まつりにもいらっしゃると思いますが、気になった銘柄が10月にはどんな酒に化けているのか、楽しみにしましょう。


しずおか地酒サロンIN花博2014のご案内

2014-03-21 10:04:54 | しずおか地酒研究会

 本日(21日)朝8時30分からK-MIXの生放送でコマーシャルさせていただいたとおり、本日開幕の浜名湖花博2014はままつフラワーパーク会場内で、しずおか地酒サロンを開催することになりました。

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 10年前の地酒サロンIN花博では、6ヶ月間の開催中、たくさんの蔵元に交替でご協力いただき、多少なりとも地域の酒文化を発信することができました。今回は2蔵よりご協力をいただき、以下のようなサロンを開催します。

 

 

 

 

 

 

 

しずおか地酒サロン IN 花博2014

第1弾

フラワーパーク de 花見酒 <協力/花の舞酒造株式会社

 

日時 4月5日(土)・6日(日) 14時~21時

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場所 はままつフラワーパーク 花の休憩所・展示プラザ(モザイカルチャーメモリアルガーデン横)

 

内容

○花の舞の新酒搾りたて酒粕で作った甘酒の無料配布

○花の舞吟醸酒花ラベル(こちら)、花の舞Dolce(こちら)の試飲販売

○花の舞杜氏土田一仁さん(静岡県杜氏研究会会長・2014静岡県清酒鑑評会県知事賞受賞)による静岡酒解説

 

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 桜の開花に合わせ、フラワーパークから最も近い地酒の雄・花の舞酒造の杜氏で、今年の県鑑評会県知事賞を獲得した土田一仁さんと、私・スズキマユミとで、花見酒の醍醐味をたっぷりご紹介します。 

 

 

 花博期間中、最高の入場者数が予想される4月第1週の土日に、甘酒の無料配布と酒の試飲を行うというのは、イベント運営の経験がある方からみれば、かなりリスキーな計画かもしれませんが、地酒ファンの底辺拡大には、こういう試みも必要だと思います。フラワーパーク側の全面協力と、土田さん自らご出陣くださるということで、百万の味方を得た思いで頑張ります。 

 

 

 

 

 

第2弾

地酒トーク IN フラワーパーク 

『杜氏と樹木医 自然の育ちによりそう力』 <協力/青島酒造株式会社>

 

日時 5月17日(土) 14時~16時

 

会場 はままつフラワーパーク 花みどり館2階セミナールーム

 

内容 

○トークショー~青島傳三郎氏(【喜久醉】蔵元杜氏) × 塚本こなみ氏(はままつフラワーパーク理事長)

○【吟醸王国しずおか】パイロット版(20分)上映

○【喜久醉】の無料試飲(先着順)

 

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 10年前の地酒サロンIN花博でもオープニングレセプションで地酒を提供してくださった【喜久醉】の蔵元杜氏・青島傳三郎さんと、はままつフラワーパーク理事長塚本こなみさんに、酒を醸す、花樹を育てる、人を活かす仕事の醍醐味を語っていただきます。青島さんが出演した【吟醸王国しずおか】パイロット版や、こなみさんご出演の映像上映も。

 

 

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 先月、蔵へお願いにうかがったとき、ちょうど喜久醉純米大吟醸松下米40の仕込みの最中で、タンクのもろみをのぞいたら、こんな写真が撮れました。・・・なにか、タンクの中が無限の宇宙のようで、人智の及ばない世界がここにある、こういう世界を育て、見守っているスゴイ仕事なんだと、あらためて青島さんへのリスペクトを深めたところです。

 

 

 

 

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 私も参加させていただいた昨日(20日)の内覧会はあいにくのお天気でしたが、塚本こなみ理事長は「恵みの雨だわ」と喜んでおられました。今日の晴天で、さぞかし喜び満開!だと思います。 

 

 

 

 

 なお、地酒サロンは参加無料ですが、花博会場に入るには大人800円、小中学生400円の入場料がかかります。また試飲をされる方はご面倒でも電車やバスをご利用ください。JR浜松駅から10~20分ごとにフラワーパーク行きの路線バス(520円・所要約40分)、JR舞阪駅からは10~30分ごとにフラワーパーク行き直通バス(260円・所要約10分)があります。えんてつのHPでご確認ください。

 

 

 

 

 花の舞さんと一緒の花博4月5日の前日、4月4日には、静岡市内で日本酒評論家松崎晴雄さんを招く恒例の地酒サロンを予定しており、おかげさまでこちらは即満席となりました。ありがとうございました。【吟醸王国しずおか】に登場の、あの名杜氏がスペシャル参加してくださいます。お申込みのみなさま、ぜひお楽しみに!

 

 


しずおか地酒サロン2014春「酒造り職人レジェンドvsフロンティア」ご案内

2014-03-02 07:39:32 | しずおか地酒研究会
 2014年も早3月、茶道研究会で教わった二十四節気や五行陰陽によると、3月3日は「上巳(じょうし)の節句」。旧暦3月上旬の巳の日のことで、この日に人形を象って身の穢れを移して川や海に流して不浄を祓ったとか。流し雛も子どもの災いを流して祓うという意味があったんですね。
 
 
 酒徒にとって3月の声を聞くと、酒造りがひと段落し、杜氏さんや蔵人さんの晴れやかな顔が見られる楽しみな季節。しずおか地酒研究会では毎年、静岡県清酒鑑評会審査員を務める日本酒評論家松崎晴雄さんを囲む地酒サロンを開催ています。昨年の様子はこちら
 
 今年は松崎さんがスケジュールの都合で鑑評会の審査員を務められないのですが、毎年、当会の松崎サロンを楽しみにしてくださる会員さんのため、無理をお願いして来ていただくことになりました。
 
 
 
 さらに今年は、浜名湖花博10周年を記念した『浜名湖花博2014』が3月21日~6月15日、浜名湖ガーデンパーク・はままつフラワーパークにて開催されます。
 しずおか地酒研究会では10年前の2004年、樹木医塚本こなみ先生のお力添えで花博パビリオン「庭文化創造館」にて半年間、しずおか地酒サロンin スーパードリームガーデンを開催しました。よければこちらの懐かしい記事をご覧ください。
 このご縁を10年経た今年、ふたたび活かすべく、こなみ先生が理事長を務めるはままつフラワーパークにおいて、4月5~6日、5月17日と地酒サロンを開かせていただくことになりました。現在調整中で、決まり次第、当ブログでもご案内します。
 花博はままつフラワーパーク開会日の3月21日(金)8時30分にはK-MIXに電話出演し、一連の企画をPRさせていただきますので、お聴きできる方はぜひ!
 
 
 
 
 
 
 
しずおか地酒サロン
第42回 松崎晴雄さんの日本酒トレンド解説
「酒造り職人・レジェンドvsフロンティア~杜氏の流派を見つめなおして」
 
 
 ソチ五輪では10代から40代まで幅広い年齢のメダリストが話題になりました。酒造りの世界でも、南部杜氏、能登杜氏など伝統的な酒造技能集団が一時代を築き、今は20代30代の若い造り手が台頭しています。
 
Dscn7097  松崎さんは以前「静岡県は南部(岩手)、能登、越後、丹波、広島など全国各地から杜氏が集まり、地元志太杜氏とともに技術を磨きあった全国でも稀な酒造技術のクロスロード地点」と解説してくださったことがあります。
 静岡酒が酒質向上した理由のうち、静岡が、酒造技術を競い合う土地だったという側面にスポットをあて、伝統産業やモノづくりに共通した課題である〈技能の伝播・継承〉の在り方を一緒に考えたいと思います。
 
 
 
■日時 4月4日(金) 19時~21時
 
 
 
 
■会場 Salon de SAANA (酒井信吾建築設計事務所・永田デザイン一級建築士事務所)
静岡市葵区呉服町2-7-10 育英会ビル3F 
*静岡銀行呉服町支店西向かいのビルです。
TEL:054-263-7277
 
 
 会場は、茶道研究会&変人の会のお仲間である酒井さんと永田さん、建築家コンビの共同オフィス。呉服町の真ん中にあり、立地条件はバツグンです!
 
 
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 実は先日、3階にあるお二人のギャラリー「Salon de SAANA」にて、静岡県舞台芸術センターSPACの俳優奥野晃士さんがリーディングカフェを開催し、私の茶の湯の師匠である望月静雄先生が酒井さんの依頼で盆点前を披露されました。
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 そのお手伝いに急遽、借り出された私、先生がお茶を点てた木製のクラシカルなテーブルが、なんと、満寿一酒造の蔵で使用されていたものと聞いて超ビックリ! 実は永田さんが満寿一酒造の蔵元杜氏、故・増井浩二さんと同級生で、形見分けをしてもらったそうです。
 増井さんはご存知の通り、静岡県が誇る志太杜氏の現役最後の伝承者でした。この机と出会ったことが、今回の地酒サロンのテーマにつながりました。
 
 一見、専門性の高い小難しそうなテーマにみえますが、モノづくりの世界における伝統と革新、職人の世界の世代間ギャップなど普遍的な課題を含んでいます。酒に限らず、モノづくりに関心のある方にも広くご参加いただければ、と思っています。
 
 
 
 
 
■会費 4000円
 
杜氏流派別の地酒、リアルフード@あくつの酒肴料理をご用意します。
 
 
 
■定員 20名
 
定員になり次第締め切ります。鈴木までメールでお申込ください。
 
 
 
 
 なお、はままつフラワーパークでの地酒サロンin花博2014は、
①4月5日(土)~6日(日) 日本一美しい桜とチューリップの庭園で「花の舞」大試飲会!
 
②5月17日(土) 吟醸王国しずおかパイロット版上映とトークショー「杜氏と樹木医・自然の育ちによりそう力(仮題)」
 
 
 
を予定しています。詳細は追ってご案内します。
 
 この春、久しぶりにアクティブな地酒研にご期待ください。