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杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

しずおか地酒サロン「松崎晴雄さんの日本酒トレンド解説2013」報告2

2013-04-06 13:59:20 | しずおか地酒研究会

。第41回しずおか地酒サロン『松崎晴雄さんの日本酒トレンド解説~2013静岡県清酒鑑評会を振り返って』 その2

(文責/鈴木真弓)

 

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□日時 2013年4月2日(火) 19時~20時30分

□会場 静岡労政会館5階会議室 

 

 

□全国のみならず注目の地方鑑評会

 全国新酒鑑評会は今から100年余り前に始まった、国をあげての大きなコンテストです。明治の中期、酒造技術の向上のため、国が中心になって始めた公的なものですね。明治30年代の富国強兵時代、日清・日露という大きな戦争を経験し、国の財源確保が急務でした。酒税は税収全体の3割を占めており、科学技術が今ほど発達していない当時、いかに酒を安定的に造り、安定収入を得るかが課題だったという背景もあります。

 

 ほぼ1世紀にわたって国が主導して行うコンテストとして権威も相応にありましたので、各蔵元も入賞を目指して大いに努力しました。

 

 

 その一方で、全国新酒鑑評会のみならず、地方の国税局単位、あるいは県単位でも鑑評会が行われています。

 行政単位だけでなく、南部杜氏や能登杜氏といった職人集団ごとに行う自醸会というコンテストもあります。能登杜氏組合自醸会も100年以上続いていますし、南部杜氏自醸会も90年はゆうに超えています。南部杜氏は北は北海道、南は四国まで派遣されており、地元岩手に戻れば幼馴染みや顔見知りが多い。確か南部杜氏自醸会では順位が公表されますので、あいつが何位だった、自分は何位だったと判ると、当然、プレッシャーややりがいにつながるでしょう。その意味では、全国だけでなく、地域での鑑評会も非常にシビアで挑戦しがいのある高いハードルの技術醸成の場である、といえるでしょう。

 

□初めて飲んだ静岡酒の衝撃

 吟醸酒というのは、この、鑑評会出品用に生まれた技術研鑽のための酒です。本来は門外不出のもので、鑑評会に出品することでひとつの使命は終わり、残った酒は他の酒と混ぜてしまうか、一般にはほとんど知られていない「吟醸酒」ですから、「超特選」というラベルで売るなどしていました。

 

 地方の銘酒が注目され始めたのは、ここ30~40年ぐらいのことです。古くは、吟醸酒造りの発祥の地広島とか、もっとさかのぼれば加賀の「菊酒」や河内の「天野酒」など地方の伝承酒が都に伝わって評判になったという例もありますが、今の地酒ブームは40年ぐらい前、昭和50年前後が黎明期とされています。当時、私は中学生でしたので、日本酒とはまったく縁のない暮らしをしておりましたが、大学生になってから日本酒に目覚め、酒質を追いかけてみると、静岡県の吟醸酒が世に出て注目されるようになったのも、大きなひとつの流れの必然だったような気がしています。

 

 

 

 昭和48年は、地酒が注目される大きな転機でした。この年、日本酒の出荷量がピークを迎えたのです。昭和のはじめ、戦時中や終戦間もない頃は米が統制されて、蔵元が思うように酒を造れない時代もありましたが、高度経済成長期になると自由に造れるようになり、大手メーカーは地方から桶買いをしてまで積極的に売るようになりました。

 

 ピークを過ぎると、大量生産の時代の、三倍醸造はじめ、糖類や醸造アルコールの大量添加による量産水増し体制に批判が向けられるようになり、アルコール添加量を低く抑えた本醸造酒や、添加物をなくした純米酒に注目が集まるようになります。もっとも当時は純米酒という言い方ではなく「無添加酒」と言っていたようですが、そういう一部の酒を通して、量から質へと酒に対する価値観が変化していったのですね。

 

 

 ちょうどそのころ、国鉄がディスカバージャパンのキャンペーンを始めるなど“地方の時代”がキーワードになりました。東京一極集中ではなく、地方にこそ日本の真の豊かさがあり、本来の日本の良さを発掘しようという動きですね。日本酒も、この動きに呼応するように地酒が注目され始めました。

 

 もっとも、当時は、酒造りがどのように行われ、蔵元がどんなこだわりを持っているかという突っ込んだレベルまではいかず、地酒の中にも糖類やアルコール添加量の多いものや、米も普通の飯米で造られたものが多かったようです。

 酒の知識云々よりも、たとえば「越乃寒梅」が幻の酒として名声を得たり、樽酒の「樽平」、にごり酒の「月の桂」など変り種の酒が話題になった。これらブームのきっかけは、酒屋さんが一生懸命仕掛けて売ったというよりも、文人墨客といいますか、有名な作家や文化人が雑誌・小説で取り上げて人気に火がついたものですね。その内容も「この県にはこういう銘柄がある」「あの観光地では○○○という地酒が人気だ」といったレベルでした。

 

 私はこの頃、大学生でしたので、1升瓶で1200円ぐらいの2級酒しか飲めませんでしたが、とにかくいろいろな2級酒を飲んではラベルを剥がして収集したりして、愉しんでいました。

 

 ちょうど、伊豆の宇佐美でゼミの合宿があったとき、御殿場の「富士自慢」という酒を飲みました。初めて飲んだ静岡の酒です。

 そのころ飲んでいた2級酒は糖類添加で精米も低い、甘くゴツゴツした酒がほとんどでしたが、「富士自慢」は同じような値段帯にもかかわらず、口当たりの良いすっきりとした味わいで、たちまち5合ぐらい飲んでしまいました。おそらく当時、すでに実用化されていた静岡酵母のスタンダードSY103と富士山湧水によって醸された軽やかで、ほのかに吟醸香のようないい香りがしたのですね。お煎餅だけかじって5合スイスイ飲んでしまい、翌日二日酔いをしたことをよく覚えています(苦笑)。それが昭和54~55年頃でした。

 

 

 

□量から質へ

 やがて日本名門酒会のような全国組織の酒販店グループが各地の地酒の流通に力を入れ始め、「一ノ蔵」や「司牡丹」のような人気銘柄が生まれました。それら地方から発掘された地酒は、大手メーカーの酒よりも酒精米歩合が数パーセント高く、醸造アルコール添加量も少なく、飲めばあきらかに違いが判ります。

 当時はまだ級別制度によって酒の良し悪しが判断されていた時代でしたが、級別というのは、たとえば、特級で(プレミア感を出して)売りたければ国税局で特級の鑑査を受ける、いわば自主申告制でした。鑑査を受けない酒はすべて2級酒扱いです。「一ノ蔵」は、それを逆手に「無鑑査」をウリにしたのです。級別よりも、本醸造酒や純米酒など製法や酒質の違いに価値を置く、そういう時代に変わってきた証拠です。

 吟醸酒が注目され始めたのは昭和60年頃だと思います。地酒の中の、本醸造や純米酒の価値はそこそこ浸透してきた中で、精米歩合が異様に高く、口当たりがなめらかで、他の酒にはない華やかな香りがする・・・日本酒を初めて飲む人も、長く飲み続けてきた人にも、一口で、質の違いを認知できたと思います。

 

 ときはちょうどバブル経済の入り口でした。私は社会人2年目で、郊外の百貨店の酒売り場にいたのですが、吟醸酒を名指しで買いに来る人が、週に2~3人ぐらいいたでしょうか。その人たちは、当然、吟醸酒がなんたるかを知っていて、新しい銘柄が入るたびに試し買いする。吟醸酒は、新しい酒質と新しい価値観を日本酒の世界に吹き込んだのだと現場で実感しました。

 

 

□興奮を隠せなかった静岡県の大量入賞

 その吟醸酒ブームの始まりの頃、昭和61年(1986)の全国新酒鑑評会で静岡県が10銘柄が金賞を獲得しました。この年、金賞を授与された酒は全国で100銘柄ちょっとでしたので、静岡県が金賞の1割を占めたというのは異例の出来事でした。

 吟醸酒は“デリシャスリンゴのきれいな香り” “味の線は細いが後きれがドライ” “口あたりがなめらか”な酒といわれます。精米歩合は大吟醸で40~50%程度。今では30~40%ぐらいの大吟醸もゴロゴロありますが、精米歩合60~70%程度の本醸造酒や純米酒とはあきらかに違う。日本酒の最高峰に位置する圧倒的な存在感を示しました。その吟醸酒の酒質を競い合う全国新酒鑑評会で、まったくノーマークだった静岡県が一躍、主産地として躍り出たことに、私も当時、興奮を覚えたものです。地酒を扱う酒販店や居酒屋のオーナーたちも、なんだなんだと目を見張りましたね。

 

 

 静岡県のことをいろいろ調べてみたら、河村傳兵衛さんという立派な先生がいて、静岡酵母を開発し、何年もかけて実用化させ、吟醸酒造りを牽引してきたとわかりました。いきなりその年、奇跡的に成功した、というわけではなく、それにいたるまでの助走期間があったのですね。 

 なぜ静岡県の蔵元が吟醸酒に賭けなければならなかったのかという背景もありました。静岡の蔵は規模や小さく、物流が活発で他県から潤沢に入ってくる。その中で地元の蔵が自立するには、普通に造っていたのでは無理で、何か技術的な付加価値が必要だった。それが吟醸酒だったのですね。河村先生はじめ、各蔵元もその意識をもって取り組んだわけです。

 表に出る成果も大切ですが、それにいたるまでの理由やきっかけがあり、静岡県の場合は厳しい環境があったということです。

 

 

□県の戦略によって産地化された好例

 

 静岡県の大量入賞の前、昭和59年(1984)頃だったと思いますが、東京の酒販店が主催する酒の会で、「國香」を飲みました。普通の本醸造でしたが、吟醸香が素晴らしかった。おそらく静岡酵母HD-1を使っていた吟醸規格の酒だったでしょう。その瞬間、学生の頃に出会った「富士自慢」とフッとつながったのです。20代だった私は静岡の酒を「青春の味」と形容しました。酒質そのものも軽やかでほろ苦さがあり、蔵元の、本当にいいものを造りたいという純粋な思いが伝わってくるような酒だったからです。

 静岡の酒の功績は、吟醸酒で名を上げたばかりではありません。県の酵母ですね。今まではある有名な蔵が牽引役となってその地域全体のネームバリューが上がるというパターンが多かった。典型的な例では、新潟が、越乃寒梅によって一気に銘醸地になりましたね。他の地域でも、名だたる人気銘柄があって、酒質の方向性を決め、産地化されていった。

 一方、静岡県の場合は、県としての戦略があって、方向性を明確にし、酒質が統一されていったという特徴があります。新しい銘醸地醸成のパターンですね。そこに静岡酵母が存在し、吟醸酒としてはっきりした特徴を持っていた。このパターンを他県も参考にし、独自の酵母を開発し、戦略を持って産地化に乗り出すという流れが出来ました。静岡県はまさにその先鞭をつけたのです。

 

 

□多様化する鑑評会と吟醸酒への評価

 静岡酵母のあと、長野県のアルプス酵母、秋田県の秋田花酵母など、1990年代前半、各県の酵母開発競争が活況をみせました。バブル経済の後押しもあり、1本1万円の吟醸酒とか、一杯1000円以上で飲ませる吟醸バーのような店も出現しました。

 全国新酒鑑評会も、平成3年ぐらいから金賞の数が200銘柄ぐらいにグッと増えました。それだけ吟醸酒造りが体系化され、それまで吟醸酒を造ったことのない蔵や地域まで造るようになりました。

 各県の酵母開発はエスカレートし、強烈な香りを発する酵母が続々と誕生します。鑑評会の審査は目隠しをして行い、採点するのですが、何十品、何百品ときき酒していけば、どうしても香りの強い酒のほうが印象に残ります。もちろん、審査では、香りだけではなく全体のバランスのよさをみるわけですが、香りがあって、味が濃くて密度がある酒のほうが有利になってしまうのは確かです。

 

 

 出品酒の多くは原酒で、アルコール度数18度ぐらい。もともとが香りが高く濃厚な酒です。いちいち飲み込んでいたら審査になりませんので、一口含んで、一瞬でバランスのよさや欠点がないかを判断する。今、全体のレベルが上がっていますので、欠点のある酒はさほどありませんが、全国新酒鑑評会できき酒してみて実感するのは、はっきり言って量を飲む酒ではないということ。自動車でいえばF1レースの世界です。技術の粋を込めたレース用のマシンは、乗り心地や燃費等は考慮されません。それと同じです。

 1990年代の吟醸酒ブームでは、そういう酒が全盛になりました。確かに吟醸酒は酒造りの技術の粋を結集した最高峰の酒であることに違いはありませんが、元来、持っていた郷土性は失われていったという疑問の声も聞かれるようになりました。郷土性というか技術格差がなくなったということですね。吟醸酒を造ったことのない地方の小さな蔵でも造るようになった一方で、日本酒自体が低迷する中、最高峰を目指すばかりではなく、もう少し、消費者のほうに目を向けるべきではないか、ということでしょうか。

 

 地方の鑑評会でも、吟醸酒というひとつの雛型に押し込めるよりも、むしろ、従来ある市販酒の中で、個性を判断するとか、飲み方として冷酒ではなく燗酒でうまい酒というものを評価する動きがみられます。燗酒部門を設けた県、純米酒に限定あるいは使用する酒米を地元産に限定する県もあるくらいです。

 そのように鑑評会の方向性そのものもどんどん変わりつつあります。吟醸酒に対する評価も変わってきました。酒販店の中には「ああいう香水みたいな酒を高く売るから日本酒はダメになった」と言う人もいますが、吟醸酒は、酒を造るプロセスの中で、いろいろなドラマを生む、夢のある酒に相違ありません。もう少し多角的なものさしで、吟醸酒というものをみてほしいと思いますね。

 静岡県のようなレベルの高い県の鑑評会で審査する者にとって、あるいは当然のことながら蔵元さんや杜氏さんにとって、吟醸酒というのは、自らを高めてくれる素晴らしい酒です。酒の販売を経験した身で言えば、自分が仕入れた吟醸酒が初めて売れたときはとても感動しました。無名の酒で、吟醸酒という言葉も浸透していない時代でしたが、そういう経験は吟醸酒あってのことだと思います。

 

 

 

 静岡県は、知られざる吟醸酒の実力を世に知らしめ、今では「静岡吟醸」という言葉が生まれたほどの産地です。最初に言いましたように、今年は米が硬く、静岡の酒も若干、線が細いという印象を受けましたが、他県の新酒に比べるとブレがない。それは「静岡吟醸」のスタイルが確立しており、造り手にもしっかり継承されている証拠だと思います。そのことをお伝えできれば幸いです。(了)

 

 

 


しずおか地酒サロン「松崎晴雄さんの日本酒トレンド解説2013」報告1

2013-04-04 10:08:40 | しずおか地酒研究会

 お待たせしました。4月2日に開催した第41回しずおか地酒サロン『松崎晴雄さんの日本酒トレンド解説~2013静岡県清酒鑑評会を振り返って』、急ぎ書き起こしました。ライターが主宰する地酒の会の唯一の強みは、こうしてすぐに内容を活字化できるぐらいなので(苦笑)。

 

 会の開催にあたり、ご協力をいただいたみなさま、当日ご参加のみなさま、本当にありがとうございました。体調不良等でやむなくキャンセルされた方々、都合がつかずに参加できなかった方々にも、少しでも松崎さんの“静岡酒愛”“吟醸酒愛”をお届けできれば幸いです。

 

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第41回しずおか地酒サロン『松崎晴雄さんの日本酒トレンド解説~2013静岡県清酒鑑評会を振り返って』 その1
(文責/鈴木真弓)

 

□日時 2013年4月2日(火) 19時~20時30分

□会場 静岡労政会館5階会議室 

 

 

 

 

 毎年この時期、静岡へ来てお話させていただいております。ありがとうございます。今日は吟醸酒の歴史をふまえて鑑評会のことについてお話しようと思います。

 

 まずは今年の静岡県清酒鑑評会について、最初に今期の酒造り全般の傾向からお話しようと思います。

 

 今期は寒さが厳しく、酒造りにとっては好条件で、環境的には恵まれていました。一方、原料である米はというと、ブドウの出来具合によって品質が左右されるワイン等に比べると、日本酒の場合はさほど影響はないといわれますが、今春、全国の酒蔵や鑑評会を巡って当事者の声を聞く限り、一様に「今期は米がよくなかった、米に苦労した」という反応でした。

 

 

 昨年はとくに凶作でもなければ大きな自然災害もなかったのですが、ひとつは、猛暑による高温障害の問題ですね。実っているけれど中身がよくない。酒を仕込むとき、米が硬くて融けていかないのですね。酒造りとは、米のデンプンを麹によって糖化させ、酵母が栄養にして発酵させるというメカニズムです。米が溶けていかないと結果として味がのらない・・・そんな苦労があったと聞きました。

 

 実際に、各地の新酒鑑評会で出品酒を唎いても、そんな傾向が見受けられました。元来、新酒というのは若い状態の酒が多いのですが、例年に比べるとさらに味が軽い。気候的には寒すぎるくらい寒く、低温発酵できれいに仕上がったという面もあろうかと思いますが、結果として、全国的に味の軽い酒が多かったという印象でした。

 

 

 日本酒にとって最高の米といわれる山田錦を、北海道から九州までほとんどの酒蔵が最高級の大吟醸=鑑評会出品用に使うわけですが、山田錦で仕込んだ酒らしい、味のふくらみや伸びやかさというものが、今期はどうも感じられませんでした。

 

 山田錦以外の米はどうかといえば、代表的な酒造好適米の五百万石、静岡県でいえば誉富士、東北の方ではササニシキのような飯米も使いますし、銘柄米ではない一般米も酒造りに活用されていますが、どの米も共通してあまりよくない出来だったようです。

 先ほども触れたように米によって酒の出来が決定してしまうわけではありませんが、出来たての新酒というのは、米の素性や性質が出やすいものですので、その点から見ても軽い酒が多いという印象ですね。一昨年、大震災があった年も同じような傾向でした。冬が寒く、その前年の夏が非常に暑く、結果として酒が軽かった。新酒のこの時期、新酒特有の荒さや強さがなく、サラッとしていました。

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では静岡の酒はどうだったかというと、本来、静岡県の酒造りは、あまり米を溶かさず、硬めに仕込み、きれいに仕上げます。麹造りも長期低温ですので、今期特有のハンディはあまり感じず、逆に言えば、静岡流の酒は今年のような米の不出来な年にも影響を受けず、静岡らしさを保っている、と言えるでしょう。

 

 静岡県清酒鑑評会には吟醸の部と純米の部の2部門あります。純米の部は純米らしく味が濃く、太めになる傾向がありますが、全体的にバランス感のよい酒が多かったですね。

 

 一方、吟醸の部の出品酒は、純米よりも精米歩合が5%ほど高く、醸造アルコールも添加しますので、元来、純米よりも繊細で軽いのですが、これに加え、ほとんどの出品酒が兵庫県産山田錦を使用しますので、今期の山田錦の特徴が影響し、若干、例年よりも硬さや細さを感じました。それでも他県に比べると、静岡県の酒は米の影響をあまり受けていないと思われます。静岡県の吟醸酒のスタイルがしっかり確立されているからでしょう。

 

 

 毎度のことながら、県の鑑評会はトップの県知事賞を決めるわけですが、1次審査、2次審査をやって、結審(最終審査)に残った中で最も静岡県らしい酒、というのを私は選ばせてもらいました。

 他の審査員の先生方も静岡の酒のスタイルをよく熟知された方々です。静岡スタイルというのを言葉で表現するのはなかなか難しいのですが、少なくとも審査員の先生方の中では共通のコンセンサスがとれていたと思います。結果としてそのイメージがぶれることなく、結審まで一貫していた。県知事賞は結審では1品、満場一致で決まったようです。審査会としてのレベルも年々向上していると思います。

 

 

 酒の審査というのは、最終的には人間の官能審査です。人が唎き酒をして選ぶわけですね。そこに審査員の人としての感性が大事なファクターとしてかかわってきます。その中から選ばれた県知事賞は、静岡を代表する、最も静岡らしい酒と言って支障ないでしょう。(審査結果はこちらを)。

 

 温暖化の影響により、毎年暑い夏が続いています。その中で、米の品質をいかに保持していくかは、米に限らず他の作物でも同じ課題だと思います。酒米の作り方や栽培適地などを見直す時期にも来ているように思います。

 

 山田錦は兵庫県の山間部が主産地です。昔は灘の酒が日本酒のトレンドを推し進めて来た代表格でしたが、山田錦というのは、本来なら灘が持っている酒造りの技術、風土に適した技術を背景に生まれてきたものです。この地域の特異性というものが、だんだん変化しているように感じますね。

 

 

 もちろん、日本酒は嗜好品ですから時代に合わせて変えていかなければならないでしょうし、造り手が世代交代している影響もあるでしょう。それでも、日本酒が今、全体に消費低迷する中、本来持っていた地域性や風土に根ざした技術を見直し、よりPhoto、酒質の違いを意識しながら残す努力をしていかなければ、違うジャンルのものに凌駕されてしまうのではないか、と危惧しています。

 

 それは造り手だけが意識し、こだわっていてもダメで、流通業者や消費者にも理解を進める努力が必要です。その点、静岡県は、造り手と売り手と飲み手が一体となって静岡吟醸という形を守っています。静岡の酒は川上から川下まで一体となって守って伝えている。

 

酒自体の出来不出来や技術的にどうこう、というよりも、静岡吟醸がそういう形で守られているというところに、得難い気高さを感じます。(つづく)


しずおか地酒サロン4月2日申込受付について

2013-03-19 19:53:12 | しずおか地酒研究会

 昨日のしずおか地酒サロンご案内、申込メールから送信できないという連絡が何本かありました。申し訳ありませんでした。

 再度ご案内いたしますので、よろしくお願いします。なお定員は19日20時現在、残り10席です。お早めにどうぞ!

 

 

第41回しずおか地酒サロン 松崎晴雄さんの日本酒トレンド解説~静岡県清酒鑑評会2013を振り返って

 

□日時 4月2日(火) 第一部(講座)19時~20時30分、第二部(交流会)21時~22時30分

 

□場所 第一部 静岡労政会館5階会議室(JR静岡駅前・国道1号線を西へ5分)、第二部 居酒屋「薊」(葵区人宿町・労政会館より徒歩10分 *こちらを参照)

 

 

□費用 第一部 1000円、第二部 4000円 *どちらか一方のみでもOK

 

□申込 メールにて。下記アドレスからご連絡ください。

PCアドレス msj@quartz.ocn.ne.jp

携帯アドレス msj1962@softbank.ne.jp


しずおか地酒サロン「松崎晴雄さんの日本酒トレンド解説」お知らせ

2013-03-18 20:31:31 | しずおか地酒研究会

 毎年恒例、松崎晴雄さん(日本酒研究家・静岡県清酒鑑評会審査員)に今年の新酒の出来栄えや日本酒のトレンドについて解説していただく、しずおか地酒研究会定番サロンを、今年も開催できることになりました。

 松崎さんをお招きするのは、会が発足した1996年以来、かれDsc00125
これ17年目。本当に長々ご縁をいただき、ありがたく思っています。

 

 

 

 ご承知の通り、松崎さんは、日本酒について語らせたら右に出る者はいない日本酒論客。

 当会のサロンでは、日本酒のことを一から学びたい、静岡酒の特徴を知りたいという初心者向けのイロハから、昨今の酒質傾向、酒米開発の動向、海外市場についてなど等、酒通には聞き逃せない話題まで、最新の日本酒情報をたっぷりお聞かせいただきます(参考までに昨年の様子はこちらこちら)。

 

 

 

 先日の記事でも紹介したとおり、2013年静岡県清酒鑑評会で吟醸の部・県知事賞を受賞した「喜久酔」蔵元の青島孝さんも、出品酒持参で参加してくださいます平日夜の開催ですが、非会員のかたも、どうぞお気軽にご参加ください!

 

 

 

 

 


41回しずおか地酒サロン 

松崎晴雄さんの日本酒トレンド解説~静岡県清酒鑑評会2013を振り返って

 

 

■日 時 4月2日(火)

  (第1部・講座)19時~20時30分 (第2部・試飲会)21時~2230

 

 

 

■場 所 (第1部) 静岡労政会館5階会議室 * JR静岡駅前国道1号線を西へ徒歩5分

 

(第2部) 居酒屋「薊(あざみ)」 *葵区人宿町 労政会館より徒歩10分 (こちらを参照)

 

 

 

 

 

■講 師 松崎晴雄氏(日本酒研究家・日本酒輸出協会理事長・静岡県清酒鑑評会審査員)

 

 

■会 費 (第1部)1000円

(第2部)4000円 *酒肴・酒代込み 秘蔵酒のご提供大歓迎!

 

 

     *第1部のみ・第2部のみ参加もOKです。

 

 

 

■締 切 定員(25名)になり次第、締め切ります。

 

■申 込 しずおか地酒研究会(鈴木真弓)

               msj@quartz.ocn.ne.jp
 
 
なお、「喜久酔」蔵元・青島孝さんよりお知らせです。恒例の人気イベント「志太平野美酒物語(志太地域6蔵の大試飲会)2013」は、6月7日(金)19時~20時30分 グランディエールブケトーカイにて開催決定。チケット(6500円)を、3月25日(月)12時~14時の「静岡県清酒鑑評会一般公開」会場(グランディエールブケトーカイ4階)にて発売開始
 今年は青島さんが実行委員長です。応援してあげてくださいね!
 

2013年静岡県清酒鑑評会「喜久醉」県知事賞

2013-03-14 11:09:33 | しずおか地酒研究会

 今朝(3月14日)の新聞朝刊でも報道のとおり、昨日、静岡県清酒鑑評会が県沼津工業技術支援センターで開催され、『喜久醉』が吟醸の部首位賞(県知事賞)に選ばれました。またImgp1266
純米の部首位賞は『富士錦』が選ばれました。両蔵のみなさま、本当におめでとうございます! 結果は県酒造組合のこちらのページを。

 

 

 

 先日、喜久醉の出品酒搾りをみた時、久しぶりだったせいもあって、本当に感動したのと同時に、素人ながら、搾った段階でかなりの完成度だとわかって、思わず杜氏の青島孝さんに「守・破・離」の「守」は完全に超えたね!と言ってしまいました。

 

 品質管理に厳しい青島さんは、搾りの後の処理工程や、出荷までの熟成度合を考慮して、搾った直後はかなりひきしまった、素人目には(香味的に)物足りないくらいの状態にするのが常でした。ところが、このところ業績絶好調の喜久醉は、熟成期間を置かずに出荷せざるをえなくなったようで、私も正直に「まだ飲み頃じゃないじゃん!」と文句をつけちゃったりすることもありました。造った当人も、そのことはよく解っているので、熟成のピークをいつ持っていくか、そのためにどういう造りをすべきかを熟考したわけです。

 

 この計算って、ものすごく高度で難しいと思う。・・・熟成変化する酒を1~2年先まで市場でどう動くか予想しながら、さかのぼって在庫管理→貯蔵管理→さらにさかのぼって品質管理→仕込み管理→原料米の仕入れ&従業員の勤務管理までしなければならないわけです。市場の変動が激しい時代、マニュアルどおりにやろうと思ったら、どこかで目をつむらなければならない。青島さんにしてみれば、ファンドマネージャー時代に鍛え上げたリスク管理のノウハウを、今こそ応用すべきなんでしょう。

 

 

 それはさておき、3月のこの時期での出品・審査は、蔵元にとっては大いに神経を遣います。「出品のため」とわりきって、この時期にピークを持っていく蔵もあれば、「あくまで市販酒で勝負する」という蔵もある。出品酒は最高級のプレミア酒=大吟醸・純米大吟醸です。蔵の規模によって、タンク何本も仕込めるところもあれば、1本ずつしか仕込めない、というところもあります。当然、何本も仕込める蔵は、そのうちの1本を「特別仕様」にできる。有利といえば有利ですね。

 いずれにせよ、出品・審査を意識した蔵は、出品用に斗瓶に取り分けた意味の『斗瓶取り』というラベルをつけて、特別仕様の限定酒と謳って市販することが多く、これはこれで、ファンにとっては貴重な逸品となります。 

 

 逆に、特別仕様のアイテムは増やさず常にレギュラー商品の品質安定にこだわる蔵、あるいは大吟・純大吟をタンク1~2本しか仕込まず、一滴も無駄にしないで売りたい、という蔵にとっては、この時期にピークを持ってこれる蔵の酒と同時期に審査されるのは若干の不利です。審査員にしてみても、「この酒は今は味も香りもイマイチだが、上手に貯蔵熟成させたら、半年後には素晴らしい酒になる」・・・と判っても、審査時にピークをあわせてちゃんと造ってくる蔵の酒をおしのけてまで評価する、というのは難しいんじゃないかしら。

 

 

 そもそも、鑑評会への出品自体をどうとらえるか、どちらの蔵の考え方がベターなのか・・・つきつめてみれば、それぞれの蔵の経営方針なんだろうな、と思います。鑑評会での高評価は、造り手のモチベーションを確実に高めてくれますし、ファンにとっても「特別仕様」の酒はワクワク感があるし、酒屋さんも話題性があって売りやすいでしょう。

 

 

 

 青島さんはつねづね、限定酒や特別仕様酒等のアイテムは極力減らし、レギュラーアイテム(普通酒・特別本醸造・特別純米・吟醸・純米吟醸・大吟醸・純米大吟醸)が、いつ、どこで飲まれても、つねに安定した品質で、「これぞ喜久醉の味!」とファンに安心して喜んでもらえる酒を造り続けて行く、と言っています。そのための、製造・販売面での課題に全力投球する蔵元であり、新酒鑑評会で賞を取ることは二の次なのでは・・・と私は見ています。

 ファンや取引先に、どう喜んでもらうか、の選択なんだと思う。メーカーにとっては永遠のテーマかもしれませんね。

 

 その意味でも、今回、青島さんが首位賞を受賞したというのは、とても感慨深いものがあります。

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 ・・・偶然ですが、前回、青島さんが首位賞を受賞した2008年は、吟醸王国しずおかの撮影で仕込み~搾りまで完全密着して撮影しました。搾りを撮るのはそれ以来の、今年2013年、見事に首位賞を取ってくれました。搾りたての酒に「いい酒になるぞー!」と思いを込めた私のささやかな念力が効いたのでは、と、独り、ほくそえんでいます。毎年搾りに撮影に行けば連続受賞してくれるかしら(笑)。

 

 

 

 さて、ここからが大事なお知らせ。恒例の静岡県清酒鑑評会一般公開(蔵元自慢の酒きき酒会)は3月25日(月)12時~14時、グランディエールトーカイ(JR静岡駅前葵タワー4階)。入場無料で、出品全種が試飲できます。県知事賞受賞酒は早く行かないと品切れになりますので要注意!

 

  そして、しずおか地酒研究会恒例の松崎晴雄さん(県鑑評会審査員・・・上記新聞写真の中央に写っていますね!)の新酒講話を聞く松崎サロンを、4月2日(火)19時から静岡県労政会館5階会議室にて開催予定です。詳細が決まりましたらお知らせしますので、ぜひお楽しみに!