救急一直線 特別ブログ Happy保存の法則 ーUnitedー for the Patient ー

HP「救急一直線〜Happy保存の法則〜」は,2002年に開始され,現在はブログとして継続されています。

Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2021 〜93の推奨ポイント〜〜

2021年10月01日 20時00分00秒 | 論文紹介 敗血症性ショック・重症敗血症

敗血症という病態を知ろう

概要 Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2021

欧州集中治療医学会/米国集中治療医学会の推奨する診療ガイドライン 〜 6グループ 93の推奨ポイント〜

 

名古屋大学大学院医学系研究科

救急・集中治療医学分野 教授 松田直之

 

はじめに

 敗血症(Sepsis:セプシス)は,感染症に罹患した際に進行する多臓器不全の病態です。日本においても,世界においても,近年,「敗血症」という病名が医療従事者の皆さん,患者さん,行政の皆さんなど,広く知っていただけるようになり,世界レベルで治療成績が改善してきています。2011年9月より開始されたWorld Sepsis Day(WSD)活動も実ってきているように思います。

 このような背景には,古くは2002年9月30日〜10月2日にバルセロナで開催された欧州集中治療医学会(ESICM)における「バルセロナ宣言」(文献1)が,大きな役割を担っています。この2002年のESICMは,Jean-Louis Vincent 先生より敗血症疫学に関するSepsis Occurrence in the Acutely ill Patient (SOAP) studyの結果が公表されたり,Arthur Slutsky先生から血管透過型性肺水腫ARDSの人工呼吸管理(PEEP管理)に関するthe Assessment of Low Tidal Volume and Elevated End-Expiratory Volume to Obviate Lung Injury (ALVEOLI)study が公表された年となります。

 2002年欧州集中治療医学会の「バルセロナ宣言」(文献1)は,敗血症の死亡率を25%低下させることを目標とし,Surviving Sepsis Campaign(SSC)を開始するというものでした。この行動プランとなるSurviving Sepsis six-point action plan(Awareness,Diagnosis,Treatment,Education,Counselling,Referral)の1つ,Referral(専門医などへの照会)として「世界標準のガイドラインの作成」が盛り込まれていました。これが,2004年4月にSurviving Sepsis Campaign guidelines 2004(SSCG 2004)(文献2)が,世界初めての敗血症診療ガイドラインとして誕生した背景です。その後,2008年,2012年,2016年とSSCGは3回の改訂が行われています。

 一方,日本集中治療医学会は,日本の敗血症の診療状況に照らした独自の「日本版敗血症診療ガイドライン」を作成することを目標とし,平澤博之先生(理事長)の指揮の下で2007年4月に日本集中治療医学会内に「敗血症レジストリー委員会」を立ち上げました。その結果が,日本の敗血症レジストリー結果などを基にして2012年に発表した,日本初の日本版敗血症診療ガイドライン(文献3)です。その後,4年後ごとに改訂され,現在は前向き臨床研究データ解析に基づく診療エビデンスベースのガイドラインとして,日本版敗血症診療ガイドライン2020(文献4)を提供できるようになりました。これは,SSCGと並ぶ,国際的敗血症診療ガイドラインとも評価される充実した内容です。

 この度,SSCGガイドライン(SSCG2021)(文献5)が, 2021年10月に欧州集中治療医学会と米国集中治療医学会より公表されました。今回は22カ国からSSCのためのパネラーが招聘され,このSSCパネラーが6つのグループに分けられました。グループは,1)スクリーニングと初期蘇生,2)感染,3)血行動態,4)呼吸管理,5)追加治療,6)ケアの目標と長期転帰の6つです。各グループには,低所得国または中所得国から少なくとも1人の代表者を含めるものとされ,6)のケアにおいては市民代表者なども含まれています。国際ガイドラインとしての特徴があります。しかし,欧州集中治療医学会と米国集中治療医学会のガイドラインに反対する学術グループも存在することは,敗血症領域の学術発展においても重要なことです。

 SSCG2021は,93項目の評価の設定と推奨となっています。トピックと質問の優先順位付けは,1)パネラーの評価スコア,2)臨床診療の変動性,3)旧バージョンにおけるトピックまたは質問を含めるものとして,まず6つの各グループで評価され,最終的には2名の議長とグループ長により決定されています。ガイドラインの質問は,PICO形式(① Patient:どのような患者に,② Intervention:どのような治療をしたら,③ Comparison:何と比較して,④ Outcome:どのような結果になるか)で構成され,推奨はGRADEアプローチです。この方法は,日本版敗血症診療ガイドライン2020の作成と変わりありません。SSCG2021を構成する93項目は,近日,UPさせていただきます。

 

引用:文献5

内容:図の右最下にように,敗血症の可能性があるけれども,ショックでない場合には,抗菌薬投与のタイミングを3時間までに許容しています。ショックのない敗血症では,発症から最初の数時間以内の死亡率の評価において,抗菌薬投与までの時間と関連が低いとする2つの観察研究からのものであり,非常に弱いエビデンスとしています。2つの観察研究として取り上げているものは,文献6と文献7です。文献6: Seymour先生たちによる2014年4月1日から2016年6月30日までニューヨーク州保健局に報告された敗血症および敗血症性ショックのデータ解析。文献7: 2010年から2013年の間に北カリフォルニアの21の救急科で治療された敗血症35,000例の後ろ向き研究。

初稿:2021年10月1日,適時修正・追記させていただきます(松田直之)

文 献

1. バルセロナ宣言. Slade E, Tamber PS, Vincent JL. The Surviving Sepsis Campaign: raising awareness to reduce mortality. Crit Care. 2003;7:1-2.

2. Surviving Sepsis Campaign guidelines 2004. Dellinger RP, Carlet JM, Masur H, Gerlach H, Calandra T, Cohen J, Gea-Banacloche J, Keh D, Marshall JC, Parker MM, Ramsay G, Zimmerman JL, Vincent JL, Levy MM. Surviving Sepsis Campaign guidelines for management of severe sepsis and septic shock. Intensive Care Med. 2004;30:536-55.

3. 日本版敗血症診療ガイドライン(初版). https://www.jsicm.org/pdf/20_124.pdf

4. 日本版敗血症診療ガイドライン2021. https://www.jsicm.org/pdf/jjsicm28Suppl.pdf

5. Surviving Sepsis Campaign guidelines 2021. https://link.springer.com/content/pdf/10.1007/s00134-021-06506-y.pdf?fbclid=IwAR0L7026gO6NV93aEXCQ14jO4DNVcWemDhWR3aris4EdXMGO24jE7inG3w8

6. Seymour CW, Gesten F, Prescott HC, et al. Time to treatment and mortality during mandated emergency care for sepsis. N Engl J Med. 2017;376:2235–2244

7. Liu VX, Fielding‐Singh V, Greene JD, et al. The timing of early antibiotics and hospital mortality in sepsis. Am J Respir Crit Care Med. 2017;196:856–863

参照:

PART2 Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2021 「敗血症のスクリーニングと早期発見」について

PART3 Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2021  推奨内容の整理「スクリーニングと初期蘇生,感染,血行動態の45項目」

PART4  Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2021       推奨内容の整理「呼吸管理,追加治療,ケアの目標と長期転帰の48項目」


この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« お知らせ 世界敗血症DAY 2021 | トップ | Surviving Sepsis Campaign G... »
最新の画像もっと見る

論文紹介 敗血症性ショック・重症敗血症」カテゴリの最新記事